『メイドさんと俺』
事件とはふいに訪れるものだ。
俺の都合なんてまったく考慮してくれない。
で、何があったかというと―
昼休みのことだ。俺はいつも通り、遙と一緒に学食に行こうと思っていた。
ピーンポーンパーンポーン。
間抜けなチャイムの音が、校内中に響き渡る。
『二年A組の天見雅樹くん、至急学園長室までお越しください。繰り返します・・・・・』
スピーカーからはそんな声が聞こえてきた。
俺か?呼び出される理由なんてないんだけどな・・・・・・。
「雅樹ちゃん、行かなくていいの?」
遙が俺を見上げる。
「・・・・・何の用だろう」
「何かしたの?」
「・・・・・いや、記憶にない」
まったくもってない。間違いなくない。
「でも早く行った方がいいよ?」
「あ、ああ」
でも、この不安はなんだろう。つい最近、てか昨日にも感じた不安だ。正直言って、かなり行きたくない。
「じ、じゃあ行ってくるわ」
真面目な優等生である俺が行かない訳にはいかない。そんな訳で俺は一歩進んで二歩下がるって感じで歩き出した。実際は後退してるけど、気にしないでくれ。
そしてついに辿り着いた学園長室。ちなみに俺は学園長と面識はない。やたらと豪華で無駄にでかい扉だ。つまり学園の偉い人である。つまりお金持ちである。ということは、金持ち=変態、の方程式が組み上がる訳でして・・・・・。
「・・・・・入りたくねぇ・・・・・」
怪しい匂いがぷんぷんしてくるようだ。
そして俺が扉に手をかけ、開けようとした次の瞬間―
パーン、パーン。
部屋の中からクラッカーを鳴らす音が聞こえてきた。
俺まだ入ってないんですけど・・・・・・。てか何故クラッカー?俺の嫌な予感はもうマッハを越えて暴走しまくりだ。
俺は微妙に入りにくさを感じながらも、扉を開けて入る。
「おお、やっと来たか!」
「ようこそいらっしゃいませ」
そこにはゴツイ体育会系のオッサンと・・・・・。
「・・・・・」
俺はポカンとしてしまう。
だって部屋の中にメイドさんがいたら誰でも驚くだろ。学園内だし・・・・・。
そう。流暢な日本語で、銀髪の綺麗なメイドさんが俺に向かって丁寧に頭を下げていたのだ。
「・・・・・あ、いらっしゃいました」
呆然とした俺はそんな馬鹿な答えを返すことしかできない。
「ほうほう、雅樹くんは天然属性・・・・・」
そう言いながら、ゴツイおっさんがメモを取っている。
「あ、あの・・・・・?」
とりあえず俺が天然属性だと認識されたのはもうどうでもいい。一刻も早くこの場から逃げたいという思いが俺を支配していた。
この人(おっさんの方)からは匂いがするのだ。変態の匂いが・・・・・!あと加齢臭も。
「おお、すまんな!今日雅樹くんを呼んだのは他でもない。『青少年教育委員会』についてだよ」
「・・・・・やっぱり」
ここまでくると諦めの境地だ。
「是非とも私も雅樹くんを祝福しなくてはと思ってね!」
「祝福・・・・・ですか?」
思いも寄らぬ言葉に俺はポカンとする。
「そうとも!めでたいではないか!雅樹くんは将来、最高幹部入り確実と言われているそうじゃないか!」
「え!?」
「会長が言っていたよ、雅樹くんには変態になる才能があると!百年に一人の逸材だとね!」
そんなのいらないから・・・・・。平穏に暮らしたい・・・・・。てか百年に一人って・・・・・・いつの間にかスケールがでかくなってるよ・・・・・・。
俺はなんだか泣きそうになった。
「・・・・・僕に才能なんてありませんよ。僕はノーマルですから!」
そう、俺はノーマルなのだ!そこを強調して言った。
「私の尊敬する初代会長も仰ったていた、ノーマルと変態は紙一重だとね!」
それは違うと思います。てか誰だ!こんなアホを学園長にしたのは!やっぱり世の中金なのか!?金があれば何でも許されるのか!?
「さぁ、さぁ、諦めるんだ。そして生まれ変わりなさい、きっとすばらしい快楽をえられるだろう」
完全にイっちゃった目をしている。ぱちぱちぱち・・・・・・・って、メイドさんも拍手いらないから!
「さぁ、って言われても・・・・・」
「・・・・・情けない」
「情けないです」
メイドさんに言われたのが傷ついた。
「・・・・・」
「ところで雅樹くん」
悲しそうに伏せていた瞳にまた光が戻る。
「はい?」
「このステファニーを見てどう思うかね?」
ステファニーというのが、メイドさんの事を指しているのだということは分かった。長い銀髪と碧眼の、美人というよりは可愛らしい感じの女性だ。年齢はよく分からないが、恐らく二十代前半より上ということはないだろう。
「いや・・・・・、可愛らしい人だなと」
俺は素直に答える。
メイドさんは「まぁ」と頬を赤くする。
「可愛らしいというと、このメイド服のことかね?それともステファニー自身のことかね?」
「どちらもですけど・・・・・」
質問の意図がよく分からない
「ふむぅ・・・・・」
学園長は腕を組んで、何事かを考える。
「つまり雅樹くんはメイド服フェチで銀髪の外国人が好みという訳じゃな?」
「・・・・・違います!」
どうしてそうなるんだ・・・・・。どうにも変態は何でもかんでも、フェチや属性にもっていきたがるらしい。
「・・・・・どうやら本当のようじゃな」
「へっ?何がです?」
「昨日、会長から話を聞いたときは半信半疑だったのだが・・・・・、信じぬ訳にもいかないようだ・・・・・」
そう言って、学園長は俺を未知の生命体を見るような目で見る。非常に心外である。
つまり、学園長も昨日の忌々しいゴタゴタを耳にしたということだろう。揃いも揃って同じような反応をしやがる。
「で、じゃ。実は私が会長から指令を預かっていてね」
「し、指令ですか・・・・・」
確かそんなことを言っていたような気がする。いつくるかと戦々恐々していたが、ここでくるとは想像していなかった。ここは学校ですよ!あんたは聖職者ですよ!勉強するところですよ!もちろんアレな勉強じゃないですよ!
俺の心の声はもちろん聞こえない。
こうなればアイコンタクトを・・・・・・。
ニコッ!
「がばっ!?」
撃沈。ステファニーさん、強すぎです・・・・・・。
「では発表するぞ!」
とうとう来た。
「ごくり」
俺の喉が鳴る。
「ミッション1、メイドさんと遊ぼう」
し〜ん。
部屋が静まりかえる。これはイタイ・・・・・・。
「・・・・・は、はい?」
意味が分からない。まるっきる分からない。
「初日だからお試しだそうだ。もちろん、メイドはここにいるステファニーだ!」
学園長がステファニーを指す。紙吹雪が舞っていた。もちろんステファニーさん特製のものだ。
「よろしくお願いいたします、ご主人様」
今まであまり表情を変えなかったステファニーさんがニコリと笑う。反則的に可愛かった。さっきよりも気持ちが込もってる感じだ。メイド服もいいななんて思ってしまいそうだ。これも作戦なんだろう。
「こ、こちらこそよ、よろしく」
俺もとりあえずそう返す。ここで拒否しても無駄だというのは昨日の経験からも分かり切っている。
「今からこの携帯電話で私が指示を出すから、今日はそれに従うのだ」
そう言って、俺はステファニーさんと廊下に放り出されたのだった。
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