『青少年の憂鬱』
以上、回想終了。
今、俺がいるのは会長室の下にある、大会議室。その会議室の百近くある席は俺を取り囲むように設置され、すべて人で埋まっている。皆一様に真剣な面持ちで俺を見つめている。まるで面接か裁判みたいだ。
俺の後ろにいた爺が囁く。
「これだけの人が雅樹くんのことを心配して駆けつけてくれたんだよ、良かったね」
良くねぇよ。むしろ俺はここに集まった人のことを本気で心配しているくらいだ。えっと、大丈夫?
「さぁ、始めようか」
爺が一際大きな席に座り、重苦しく言う。
それだけでざわついていた場が静まる。こういう連帯感だけは凄いんだな・・・・・・。
「みんなには雅樹くんの事を事前に話したと思うが、何か質問はあるかな?」
爺の言葉で一人の男が手を挙げる。爺が促すとその男は立ち上がった。
「お、俺にはノーマルな男がいるなんて信じられません!ツンデレで萌えないはずがないでしょう!証明してみせてください。俺は、俺は・・・・・・」
男はぎゅっと拳を握り、涙を流す。男の発言に場にいる者、誰もが頷く。どっかに納得する部分なんてあったか・・・・・・?
「その質問はもっともじゃ。私も俄には信じられん。では試してみようではないか」
俺にも信じられない・・・・・・、こいつらの存在が・・・・・・。今までオタクとか気持ち悪いものと考えていたが、それは大きな誤りだ。この瞬間オタクとは俺の中で恐怖の代名詞となった。
爺がパンパンと手を叩く。
会議室のドアが乱暴に開けられ、誰かが入ってきた。その途端に「おお、雅ちゃん!」「今日も可愛いヨ!」なんて声が聞こえてくる。
爺が俺を見ながら少女を紹介する。
「彼女は雅ちゃんじゃ。『青少年教育委員会』お抱えのツンデレ少女じゃ」
お抱えって・・・・・、アイドル事務所じゃないんだから・・・・・。どこかで拉致してきたのかもしれない。
「では雅ちゃん、頼む」
爺が頭を下げると、雅への声援が止む。
雅はもじもじと、顔を赤く染めて、
「べっ、別に貴方のために来てあげた訳じゃないのよ?!勘違いしないでよね!」
と、言った。
俺の感想。何がなんだか分からない。ぶっちゃけ、どうでもいいし。とりあえず愛想笑いを忘れずに。
しかし、そう思ったのは俺だけだったらしく「くぅぅ、今日も雅ちゃんに萌え〜!」「顔を赤くする君が好きだ!」らしい。
「・・・・・」
「す、素晴らしい!素晴らしすぎるよ!感動で涙が出てくるよ!どうだい雅樹くん、今のは目の覚めるような萌えだっただろう!?」
「・・・・・」
俺に続くように、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙。
そこで誰かが呟いた。
「・・・・・馬鹿な」「無反応だなんて・・・・・!?」「・・・・・恐ろしい子」「まさかあのくらいじゃ温いのかも!?」「それだ!」しかし、その後、猫耳、メイド、妹系と何が出てきても俺の反応は変わらない。
「重傷だ・・・・・」
爺が呟く。
席の一番前に座っている人が手を挙げた。会議室で唯一の女性だ。しかもけっこう美人だった。妙齢の美女って感じだ。
「あ、あの人は!?」「最高幹部が一人、明神さん!」「明神さんなら、あの子に引導をっ!」会議室が一斉にざわつく。
どうやらすごい人らしい。最高幹部って初めて聞いたぞ・・・・・。その女性は唐突に手を組んで膝を着く。
「神よ!この子にどうか救いの手をっ!」
高々に叫ぶ。聖母のような笑みで。それに呼応するかのように会議室に活気が満ちはじめる。ある人は明神さんに続いて、祈り出す。ある人は「シスター明神、萌え〜」ある人は、賛美歌を歌い出す。・・・・・・カオスだ。
さらには、
「おおおおおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!!」
それらが一致団結してしまった。
やっぱりあの女性もダメだった。いわゆる腐女子というやつである。せっかく美人なのに非常にもったいない・・・・・。
「さっそく救う方法を考えましょう。こうなった以上、なんとしてでも雅樹くんには立派に男として成長してもらいます。そのためには多少荒っぽく、非人道的な方法でもしかたないでしょう」
「しかたなくねぇっ!・・・・・・ってスルーですかっ!?」
俺の声は当然のように無視された。
もう俺の意志の存在は無視らしい。
そして着々と俺の脱・ノーマル化計画が進められていく。
俺って世界一不幸なんじゃないだろうか・・・・・。
自分の無力さを痛感しながら、俺はそう思った。
どんどん加速していってます(笑
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