第一話『喜劇の始まり』
「これは由々しき事態じゃ!さっそく会議を始めねばならん!!」
すべては長い顎髭の爺から始まった。
ええ、もう、地上に存在しているだけで不幸と悪意と吐き気。ついでに腐った卵のような体臭を撒き散らすだけの爺だ。正確に言うなら俺のせいだが落ち度はないはずだ。ないのである。あるはずがない。あってたまるか!よって爺のせいなのだ。
爺は早速、年齢を感じさせない動きで四方八方に電話をかけていく。まるで数日ぶりに餌を見つけたライオンのようである。
俺はその姿を呆然と見守ることしかできない。天見雅樹十六歳。普通・・・・・・とはちょっと言い難い私立高校に通うちょっと変わった高校生だ。ちなみに成績優秀、眉目秀麗。でも、それは置いておこう(ちらりと、ここではないどこかへ睨み、脅す)。
「雅樹くん!君、大丈夫かね!どこにも異常はないかね!?改造手術を受けたりはしていないかねっ!?」
ちょうど電話をかけ終わったのか、爺が俺の方に来て異様に心配する。爺は大柄なので首もとが俺の鼻のあたりにある。加齢臭がするので離れてもらいたいものだ。汚らわしい唾も飛んでくるし・・・・・・。でも俺は世間では真面目な優等生なはずなので、そんな本当のことは断じて言わない。あぁ、俺ってなんて慈悲深いのだろう。時代が時代なら、斬首ものである。
「はい、大丈夫です。俺は正常です」
そのはずだ。この俺がショッ○ー程度にやられるものか。だが―
「君は正常ではない!!」
「・・・・・・」
こいつ、言い切りやがった・・・・・・。断言するなら最初から言うなとも思うが、それは言わない約束だ。誰との約束かは忘れたが。
「君は重い・・・・・・重い病に冒されているのだ!でなければあんな身の毛もよだつような世にも恐ろしい事を言い出すはずがないだろうっ!?」
ないだろうって・・・・・・。俺はそれには同意しかねます。三百六十度、どっから見ても、赤外線を使っても、俺は正常だ。異常があるのはお前の頭とこんな奴を生み出してしまった世界だろう。ちっ、世界の愚か者めっ!
今から俺がどうしてこんなに心配されているのかを説明してやろう。誰にかは知らないが、せいぜい地面に頭を擦りつけんばかりに下げて感謝しろ。
「あれはわしが二十歳の頃じゃった。それはそれは運命的な出会いで・・・・・・」
爺は黙ってろ!
では、気を取り直して・・・・・・。
「あれはわしが二十一の頃じゃった。駅のホームで初めて見かけた彼女は―」
もういいって! てか一年前の運命的な出会いはどうしちゃったの!?こいつ地味に黒いよっ!
ふぅ、爺を相手にすると疲れる・・・・・。やっぱり話しをするなら、綺麗な女性に限るな。
あれは―
「二度あることは三度ある!!」
爺が突然叫び出す。
「何がですかっ!」
「いや、天からそう言うように聞こえてきた気が・・・・・」
重い病に冒されてんの絶対あんたの方だろっ!
爺が「ばあさんやわしはまだ死ぬわけにはいかん!離してくれー!」とかもう逝っちゃう寸前のような事を叫ぶ。ばあさんは死神か何かなのだろうか。ばあさんっ!頑張れっ!!とっととそのグズを焼却炉(火葬場)にぶち込んでやってくれっ!!まぁ、何にしても今がチャンスだ。そう、あれは一時間くらい前の事だった。
「あっ、おはようございます、天見さん」
そう爽やか(?)に声をかけてきたのは二十代前半くらいで、茶髪のロンゲに鼻ピアスという、いかにも『不良』です!と言わんばかりの格好をした蟹塚さんだ。この人と俺の関係は―おいおい説明するから待ってろ。
とにかく蟹塚さんに声をかけられた。
それが俺に落ちてきた一つ目の不運だ。ぶっちゃけ俺は彼が嫌いだ。不運の理由はそれだけ。なんか生理的に嫌。まぁ、人間ってそんなもんじゃね?
「そういえば今日は報告日でしたね。今から会長室ですか?」
「はい、そうです」
「ご苦労様です、会長への報告は一苦労ですからね。雅樹くんは会長と直接会うのは初めてですよね?」
「そうですね・・・・・・。ちょっと不安です」
俺はとりあえず笑っておく。お前に会ったせいで気分も体調も最悪だよ。俺が蟹塚を嫌っている理由は強いて言うならば、あるにはある。とりあえず不良っぽい見た目なのにやたらと丁寧で爽やかなのが嫌。ギャップを狙ってるのか知らないが、俺は嫌いだ、そういうの、なんか人を騙しているみたいじゃないか(自分のことは棚上げ)。俺の個人的評価だから気にしないでくれ。でも、死ねっ!
「あ、そうそう、聞きました?」
ん?なんだ?まだ話しがあるのか?とっとと言え。
「今日の報告で調査員への指令が決まるらしいですよ」
「あれ、そうだったんですか?」
そんなの全然知らなかった。たまには役に立つじゃないか蟹塚。「たまには」だが。無能な先輩を持つと、困るものだ。
そのまま数分の間、立ち話(嫌々ながら)をして俺は蟹塚を別れた。・・・・・・蟹塚、空気読め。
俺の真っ正面にあるのは巨大なビル。いつ見ても無駄にでかい。その玄関口にはこの施設の名称が記してある。
『青少年教育委員会』。名前は立派だが騙されてはいけない。この施設は悪魔の施設なのだ。教育委員会とは名ばかりの自分達の趣味を純粋な子供達に押しつけようとしているのである。
なにしろ、設立理由だって最悪だ。イかれているとしか思えない。あまりの情けなさに涙が出て来そうだ・・・・・・。
ある一人の変態がいました。でもその変態は誰にも家族さえにも理解もされず、見向きもされず嘆き悲しみ絶望していました。その扱いはゴミを扱うよりも粗雑だったとか・・・・・・。
その時、変態は考えつきました。みんなが僕と同じ趣味だったらいいんだ。そうなったらみんなが僕を理解し、賛同してくれると。幸い実家が金持ちだったその変態は、ボケの始まった父親を最初の犠牲者とし、洗脳。そにによって手に入れたコネと資金力を元に、ある田舎に『青少年教育委員会』を設立しました。国もその資金力の前に屈したとか・・・・・・。やがて一人で変態が設立した『青少年教育委員会』に全国の同じ心の痛みを抱える変態が集まってきました。そして一人の変態は多くの変態となったのです。めでたし、めでたし・・・・・。
こんな訳だ。つまり「赤信号、みんなで渡れば恐くない」と同じ考え方である。これだから金持ちってのは恐い。やることなすこと無茶苦茶だ。
また、俺がこの委員会に入ることになったのも悲劇的な理由がある。
回想、二回目開始。
あれは優しく、面倒見の良い俺が泣いている迷子の小学生くらいの女の子の母親を一緒に探してあげている時のことだった。本当はめっっっちゃくちゃ面倒だったが、優等生で通っている俺は無視できるはずもない。迷子になるのが悪いよな。うん。
俺が女の子と手を繋いで探し回って歩いていると、急に肩を叩かれた。最初は母親かとも思ったが、振り返ってみると、俺の肩を叩いたのは、太った中年のおっさんだった。俺は触れられた肩を今すぐ払って、服を洗濯し、風呂で洗いたい気持ちでいっぱいだったが、なんとか我慢する。顔を見てみると、何故かおっさんは涙を流していた。すっげぇ、気持ち悪い顔だった・・・・・・。
「分かるっ!分かるぞっ!君の気持ち!」
何故かおっさんは、握り拳を作って語り始めるあまりに突然のことに、さすがの俺も呆気にとられてしまう。
「はい?」
「だ・か・ら!こんな可愛い女の子なら誘拐して、あんな事やこんな事をしたくなる気持ちだよ!同士よ!私には痛いほど分かるのだっ!!」
そんな事を言う。あの時、俺は背筋が震えるのを感じたのを鮮明に覚えている。今にして思えば、あれは恐怖と呼べる感情だったのかもしれない。誘拐だのなんだのとアホな事を口走っていたが、その言葉には魂が込められていた。
「誘拐っ!?俺はそんなこと!」
「しかしっ!しかし、それはこの荒みきった現代では犯罪とされてしまうのだっ!!どうかその熱く煮えたぎった体と心を静めて思いとどまるんだっ!!君はこんな所で捕まっていい男ではないっ!!」
「はっ?あんた何言って」
むしろ現代が荒みきっているのはお前みたなのがいるからだろうという言葉を俺は必死で飲み込む。落ち着け!俺は優等生なんだ!優等生らしく、冷静に対処するんだ・・・・・。
「目を見れば分かる。君は私の同士だ!」
・・・・・・人の話しを聞けっ!こういう輩の悪い所は、人の話を聞かない所だ。たとえ聞いたとしても、事実をねじ曲げ、勝手に自分の都合のいいように解釈してしまう。こいつらにはネガティブさが足らんな・・・・・・。某漫画の絶○先生を見習って欲しいくらいだ。絶望しろっ!
そんな事を考えている間に、周りからヒソヒソ話が聞こえ始める。「やだっ!?誘拐ですって!」「あんないたいけな少女を!?」「・・・・・鬼畜」「警察呼ぶ?」どうか待ってくれ俺は無罪なんだ。警察は呼ばないでっ!
俺は焦る。焦って当然だ、優等生だって焦るんだっ!その間にも、目の前に存在する変態野郎は口を閉じようとはしない。
「同士じゃない!俺はノーマルだ!」
「誰でも特殊な趣味、性癖というものは認めたくないものだ」
「違ーう!!」
俺は叫ぶ。はっ、と自分の仮面が剥がれ掛かっていることに気づく。俺は自己を無理矢理仮面で縛り付けた。しかし、世間は俺の都合などお構いなしである。あろうことか、さっきの考えを、俺は口に出してしまっていたらしい。周囲がさらにざわめきだす。
「いきなり叫びだしたぞ!」「もしかして、そんなことまで!?」「縛るなんて・・・・・」「どれだけサディストなんだ!」「ぽっ!」
誤解だ。とんでもない墓穴を掘ってしまったらしい。このままでは明日の新聞の一面を飾ってしまうこと間違いなしだ。
『高校生が小学生を誘拐未遂。 道で騒いでいたところを近所の住民に通報される。 誘拐を止めた中年男性お手柄』
「あんなにいい奴だったのに・・・・・」「これが天見の本性だったとは・・・・・」「私達の前ではいつも真面目な優等生でした」「・・・・・・憧れてたのにっ!」クラスメイトの声。
こんなことになりかねない。てゆうかなんでこの変態おっさんがお手柄なんだよ!?なんか世の中間違ってる・・・・・。
俺はとりあえず、この場を離れることにする。逃げるみたいで嫌だが、犯罪者になるのはもっと嫌だ。いくら俺のような、純粋潔白の好青年であろうと、法の下では無力。世間で変態と認知され、憐れに死んでしまう・・・・・・。
近隣住民の「逃げたぞ!」「少女が!?」の声を無視して、俺は移動する。さっきまで笑っていた女の子は・・・・・・、やっぱり笑っていた。お前のせいだというのに・・・・・。やはり、この時の俺は少なからず動揺していたのだろう。少女を置いて行くという一番安全で適当な選択肢を失念してしまったいた。
なんとか近隣住民は振り切ったが、最大の敵は俺達についてきていた。まったく忌々しい。
「今ならまだ間に合う!早くその子を解放するんだ!」
「俺は迷子になったこの子の親を捜しているだけだ!」
「言い訳はいい!」
「どうして言い訳って分かるんだ!?」
思わず俺は怒鳴ってしまった。幸い近くに人の姿はない。
「それは・・・・・・―」
「それは?」
良い所を突いたと思って、俺はニヤリとする。
「私も同じ言い訳をしたことがあるからだ!」
「威張って言うな!てゆうか誘拐したことあるのかよ!」
「無論だ!」
「だからいばるな!」
さすがは変態。とんでもない解答ありがとう。言い争いのせいで俺の息はハァ、ハァと乱れる。
「そんなに興奮して・・・・・、もう我慢できないのか?でもやっぱり妄想と二次元でなんとか耐えるべきだ・・・・・」
おっさんは悲しそうに言う。
「あんたは何が何でも俺は誘拐犯にしたいのか!」
「ああ、その通りだ!」
変態に迷いはないのである。
「どうしてだよ!」
「仲間は一人でも多い方がいいだろう!それがウチの方針だっ!」
「俺は仲間じゃねぇ!」
もう優等生もへったくれもない。
「私達の所へ来れば、そんな考えもすぐ変わる」
「お前達の・・・・・所?」
「『青少年教育委員会』だ」
「聞いたことねぇよっ!どんな委員だよっ!そんないかがわしい名前つけやがってっ!」
「極秘の存在だからな。国は言いくるめられたが、さすがに公にしられたりしたらまずい。名前は意外とまともだが、やってることがやばい。民衆にばれたら良くて解体、悪くて刑務所行きだ」
「悪いことって分かってるならやめろよっ!」
「馬鹿を言うな!幼女の観察は私の生き甲斐、存在理由だ!それを禁じることなど万死に値する!確かに誘拐はやりすぎだが、幼女を見て何が悪い!目つきがいやらしいだなんだと言うが、それはどんな目つきだ!科学的に証明してみせろよっ!?」
無茶苦茶で子供だ。だがそれが変態である。
「という訳で君も『青少年教育委員会』に入れ!」
「どういう訳だよっ!」
「国民の義務だ」
「明らかに不要な教育だろうがっ!」
「そんなに照れなくても大丈夫だ、私が責任を持って幼女のノウハウを君に教えよう」
「照れてないし、そんなノウハウはいらないっ!」
不毛な会話を続けることおよそ三時間。そんなこんながあって結局、疲れ果てた俺は強引に『青少年教育委員会』に入会させれられた訳だ。変態の体力、侮りが足し・・・・・・。あの中年め、いつかぶっ殺す!
ちなみに、少女は変態と口論している間に、欠伸をしながら「飽きた」と言いながら帰ったそうだ
俺は憂鬱な気分で玄関を見つめる。
これから会長に会わないといけない。はっきり言って気分だけで死ねそうだ。『青少年教育委員会』の会長はそれくらいぶとんでいる。実際に会ったことはないが、そうに決まっている。変態達を束ねる王、キングオブヘンタイだ。それも当然だろう。
いつまでもこうしている訳にもいかず、俺は観念して玄関をくぐる。
相変わらず無駄に金をかけている。床に轢かれた絨毯も、掛けられている絵も、どれもこれもが高級そうだ。前に一度見た時にも思ったが、あの絵、作者がモネとかなってるが、まさか本物か?いや、まさかな・・・・・。絵から目を逸らせながらも、背筋を伝う一筋の汗。
俺はエレベータに乗り、最上階のボタンを押す。最上階は三十階。高所恐怖症な俺としては最悪だ。しかもエレベーターから下を見下ろせる作りになっているから目も開けてられない。エレベーターにまで高級志向する必要はないと思うのは俺だけか?所詮、上がったり下がったりするだけの物体だというのに。
小さな音をたてて、エレベーターが止まる。足下は、それはそれは、素晴らしい眺めになっていることだろう(ちなみにマジックミラー)。
ドアが開くとそこは別世界。悪い意味で。変なアニメのポスターやら同人誌やらで埋め尽くされている。元は豪華絢爛な会長室だったらしいが、これではただのオタクの部屋である。現実問題、オタクの部屋なのだろうが、曲がりなりにも会長なのだから、威厳とか尊厳とか大丈夫なのだろうか。
「おお、やっと来たかね、待ちわびたよ天見くん」
・・・・・・俺は会いたくなかったけどな。
そう言ったのは髭の爺。目はこっちには向いていない、部屋にある大型テレビに夢中だ。見ていたのはフラ○ダースの犬。明らかに生命力に溢れていたはずの犬が、主の死と同時に謎の死を遂げるアニメだ。
「パ、パト○ッシュ!逝かないでおくれぇ〜!」
はんかちを噛みながら、画面に手を伸ばす会長。一体何歳なんだろう、この爺・・・・・。しかも○ロは無視らしい。
数分後。きちんとエンディングまで見終わってから、やっとこっちを向く。待ちわびたってのは完全に嘘に違いない。嬉しいが・・・・・・。
「待たせたな、最後まで見ないのはアニメに対する冒涜じゃからな」
「・・・・・そうですか」
「さて、報告してもらおうかの」
「・・・・・はい」
俺はこの『青少年教育委員会』において少年を視点とした意見を述べる役割を与えられている。青少年の視点から、今の青少年についての意見を言うのである。一件まともそうだが、そうではないのは理解してくれるだろう。もし、理解できないのであれば、そいつは変態に違いない。
だが俺の場合、意見しようにも―
「・・・・・特にありません」
なにもないのである。
「・・・・・」
重苦しい沈黙。
「君はいつもそれだそうだね・・・・・。中島くんに聞いているよ。君は素直にならないと」
爺の悲しみにくれるような声。どうやら失望しているらしい。
「・・・・・すみません」
それ以外どう言えばいいんだよ・・・・・。下手な事を言うと、また変な事に巻き込まれかねないしな・・・・・・。
「中島くんの推薦というから君には期待していたのだが・・・・・」
最近知ったが、中島というのは、俺を巻き込んだあの忌々しい中年のおっさんのことだ。
「君はここに入ってどのくらいだ?」
「え〜と、半年ですね」
「・・・・・半年か、それくらいすれば普通は嬉々として報告に来るものだが・・・・・」
こねぇよ!中島の死亡報告なら別だが・・・・・・。
「君はまだ一度もちゃんとした報告をしていないね?」
「・・・・・」
「ふぅ・・・・・」
爺は溜息を吐く。本当に溜息を吐きたいのは俺だ。
「君とは一度、腹を割って話そうと思っていたのだよ」
「はっ?」
俺は話すことなんてないんだけど。
爺は唐突に言う。
「君は幼女好きと聞いたが?」
「違います!」
「中島くんからはそう聞いているのだが、違うのかね?」
「はい!」
俺は全力で否定する。中島め!今なら殺意だけで人を殺せる気がした。不気味な音を立てながら、禍々しいオーラが具現化しそうだ。
「・・・・・むぅ、じゃあ何がクルのかね?」
爺は唸りながら問う。それは予想外の質問だった。
「猫耳、メイド、幼女、巫女、ツンデレ、妹、幼馴染みジャンルは多種多様にあるが」
「・・・・・」
「黙ってちゃ分からんよ」
黙っているしか方法はない。何か言えば、また過大解釈されてしまうだろうから。
「やっぱり幼女かね?」
「違います!」
さっきの繰り返しである。もう白状するしかない。そう―真実を!!
「・・・・・どれも好きじゃありません」
「ん?」
「どれも好きじゃありません!」
とうとう言った。俺は言えたんだ!これでやっとここから解放されるかもしれん。俺は開放感に酔いしれる。
「○×☆△あがが#$」
爺は口を大きく開いたまま、意味不明の言葉を発している。変態にしか聞き取れないものなのかもしれない。
「な、なんということだ!?」
爺がやっと俺の聞き取れる言葉を発したのは、それから十分くらい経った後だった。無視して帰ろうかと思ったが、俺がやっと口にした決意の言葉を年寄りの必殺技『忘却』を使用されては敵わないので残っていた。
「な、な、な、なんということなのだ!?」
もうそれいいから・・・・・。
「君は正気か!?」
お前が正気か?そう問いたかったが我慢する。爺の目はどっかにイっちゃっていた。妖のそれだ。
「もちろん、正気ですが?」
爺は虚ろな目をしていたが、なんとか自分を取り戻す。
「え〜と、君は・・・・・頭や下半身に・・・・・その・・・・・も、問題があるのかな?」
「っ!?」
なんて失礼な爺だ。もちろん現役バリバリ―じゃなくて、なんて事を聞きやがる!もしそれが本当だったらどうする気だ!自殺してしまうくらいのダメージを男に負わせる言葉だぞ!頭だって極めて正常だ。さっきから、中島と爺の殺害方法を百程考えているんだからな。ふっふっふ。
「ま、まさか」
「・・・・・大丈夫です」
爺が言い終える前に、なんとかそれだけを言う。声音は低くなっているが、当然だ。怒りが込み上げてくる。
その言葉を聞いて、爺があからさまにホッとする。
「それは良かった。さすがにその年でそれはないか・・・・・・」
一息入れて、
「じゃあなんの病気なのかね?」
「障害や病気から離れろ!・・・・・離れてください!」
危ない、危ない。危うく怒鳴り散らす所だった。俺は優等生・・・・・・優等生なのだ・・・・・・。
「萌えない・・・・・、だけど病気じゃない・・・・・、だとすると・・・・・あ、あっちの趣味か!さすがにそれは私の管轄外だ!」
何を想像したのかは大体想像がつく。こら、尻を隠すな!後ずさるな!
「誤解しないでください。それも違います」
「じゃあ、なんだと言うのだ・・・・・」
呆れたような表情をされる。俺はもう呆れを遙か彼方に通り越して、最早苦笑さえでてこない。
「だから俺はノーマルなんです」
「・・・・・なんだって?」
「ノーマルなんです!」
「・・・・・」
あれだんだん雰囲気が暗くなってきたぞ・・・・・?俺なんか変なこと言ったか?言ったのか?
「そ、」
「そ?」
「そ、そ、そ、そんな馬鹿な〜〜〜〜〜!!!!!」
今日、一番の絶叫。
そして爺は急に怒り出す。
「なんというヘタレな少年だ!ノーマルだと!?日本男児がそんなものでどうする!もっと犯罪を犯すくらいの気概を持たねばいかん!」
「は、犯罪って・・・・・」
「我々の属性の前ですべての犯罪行為は正当化される!」
「そんな訳ないでしょう!」
爺はそこで表情一変、満面の笑みになる。
「君は少し疲れているだけなんだよ、そう、さっき見ていた○ロとパト○ッシュのように!」
「ああ、もう、どうしたらいいんだ・・・・・」
俺はどこかへどんどん堕ちていくような気がした。