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追放

「カンタレラ、貴方にはこのパーティーから抜けて貰う。」


 そう言った救国の勇者と呼ばれた青年は、困惑と悲哀。そして何より憤怒しているかのように感じた。

 それは、戦友として死地を共にした信頼への裏切りによるものだろうか。

 それとも、俺カンタレラの何らかの行いが勇者ユリウスの逆鱗に触れてしまったのだろうか。

 急に二人だけで話がしたいなんて、真剣なトーンで声をかけられたものだからてっきり、恋の相談かと思ったがどうやらそれは違ったらしい。

 

「しかし、ユリウスさんよぉ。いきなりリストラだなんてあんまりじゃあないですか。

 全く、俺が何をしたって言うんですか。」


 勇者ユリウスはギリギリと怒りを噛み殺しながら、絞り出すように告げる。


「何をしたかだと?そんな事は貴方が一番理解しているだろう。

 この期に及んで忘れたとは言わせない。」


 あー、これはバレているな。どこから漏れた。誰が裏切った。

 取りあえず、探りをいれてみるか。


「いやいや、俺には全くもって心当たりがないんですよぉ。

 学の無い俺にも分かりやすいように懇切丁寧に何をしたのか教えてくれ頂けませんかねぇ?」


 惚ける俺に、勇者ユリウスは怒りに我を忘れ腰に下げている剣に手を伸ばすが、済んでのところで理性が勝ったらしい。

 そうだよなぁ、お前は俺のことを斬れないよなぁ。


「神在る世界で非道を隠しきれるとは思わないことだな、カンタレラ。」


 中央教会の奴らが売りやがったのか。いや、あいつらも一蓮托生だ。

 聖女マリアヌスをブースティングした件のパトロンだろうが。権威を大幅に手に入れたからって俺を切り捨てるか?

 権威を手に入れたから用済みになったと言うことか。俺が思案していると、


「女神アポロニアから神託があったのだ。

 カンタレラが道理に反することをしていると。

 信じたくはなかったが、女神アポロニアの御告げなのだ真実なのだろう。」


 最悪だ、やり過ぎたか。女神直々に御神託とはどうしようもねぇ。

 神在る世界なのだから、その影響力は絶大だ。

 そして勇者ユリウスに力を与えてるのも都市の女神アポロニアだ。

 そりゃあ大層な神様で、比較的悪くねぇ神だと言われている。

 だから、俺の行いを咎めたのだろうか。

 だがまだだ。まだ俺の敗北は確定していない。

 勇者ユリウスがどこまで聞いてるかによる。巻き返せる可能性はゼロではないか。


「女神アポロニアの御神託じゃあ仕方がないですねぇ。代行者たる勇者を欺けても神は出し抜けないということですかぁ。

それで、何をお聞きになられたので?」


「黒死病が南の都市国家郡で流行ったことがあったな。

 それを聖女マリアヌスの癒しの力で救済した。それ以来彼女を擁する中央教会の評価は鰻登りだ。

 偶々、我々が南の方に用事がなかったら死者は百万人程度じゃ済まなかったそうだ。

 もう少し日程が早ければそこまで広がるようなことはなかったのではないかと言われているな。

 多神教だった都市国家郡の人々がここまで中央教会を信仰することもなかったともな。

 しかしまぁ、何の因果か爆発的に流行し始めてからタイミング良く我々が通ったわけだ。」


 惜しいな、俺がバラ巻いたのは病気に感染した鼠から作ったハンバーガーを生焼けのまま貧困層に配給しただけだよ。

 支配階級まで先に全滅されたら改宗する時面倒だと頼まれたからな。

 たくさん死ぬまで待つのを計画したのも疫病を蔓延させたのも俺が主犯だがな。

 良くもあんな策略を思いついたものだ。俺は俺を称賛したいね。

 

「カンタレラ、何をニヤついているのだ。」


 おっと、俺としたことが顔に出ていたか。気を付けないとな。

 さぞお怒りになられているだろうと様子を伺う。

 しかし、勇者ユリウスは怒りが冷めたのか、それも上限突破したのか比較的落ち着いて、淡々と話していく。


「東の大帝国に侵攻されたこともあった。

 そうだ、あの時は要塞都市アッカが殆んど陥落した頃に我々が到着した。

 本当に紙一重だったが、あの頃から私は救国の勇者と呼ばれるようになった。

 あれだけの大軍勢で、押し寄せられ二週間以上の激しい防衛戦を繰り広げていた頃に、漸く私の元に早馬が辿り着くなんて不思議なこともあるものだ。

 アッカぐらいの規模があるなら優秀な早馬の十人や二十人は居そうなものだが、送り出した大半が自国領で落武者狩りに遭遇してしまうなんて不運な。

 兵士はたくさん死に、女子供は恥辱の限りを尽くされ本当に地獄のようだった。

 そこかしこに千切れた腕が転がり、うじが集った死体が放置されいる。

 見るに耐えなかった。これが戦争なのだと思い知らされた。覚悟が足りていなかった。

 そんな大損害を受けていると言うのに、それなのに王国は遅れて救援に駆けつけた我々を称賛した。気味が悪かった。」


 あぁ、お前の力を演出するために早馬は始末させた。実行した部隊は王国軍の特殊部隊だがな。

 もともとそう言う筋書きだった。それにアッカの領主は教会への寄進を渋っていたしな。天罰ってやつさ。

 そんな領主も勇者の威光には平伏すしかなかったようで、今じゃあ敬虔な信者になっちまった。


「もう良いだろう。全て分かっている

 黒死病をバラ撒いて聖女を持ち上げたのも、

 早馬を始末して救援を遅らせ救国の勇者として演出たのも、

 異民族ににサイケデリックを安値で流通させて薬漬けにしたことも、

 民衆の怒りを煽り、侵略の理由を作るためだけに罪無き自国の村を火の海にしたこも、全部分かっている。」


 あぁ、これは詰んでるなぁ。女神アポロニアも面倒なことをしくれる。

 勇者ユリウスの伝説はここからだってのによ。

 勇者ユリウスは懇願するかのように俺に問いかける。


「なぁ、カンタレラ。どうしてそこまで出来たんだ。

 それで貴方は何を得たのだ。

 なんで私を祭りあげたのだ。

 頼む、教えくれ友よ。」


「ユリウスさんよぉ。

 奇跡ってのは起こすものではなくて、見せるものなんすよ。

 勇者ってのは正義味方って訳ではなくて、都合の良いプロパガンダなんすよ。

 聖書って言うのは始祖の血で綴られているものではなくて、異教徒の血で描かれているものなんすよ。

 人間と言うのは正しさに殉ずるわけではなくて、見たいものを見たいように見るものなんすよ。

 そして、人間ってのはどんなことでも、それが悪逆非道なことでもやってみれば出来てしまうんすよ。」


 勇者ユリウスは、言いたいことはそれだけかと告げると、剣を抜き俺の首筋にピタリと当てた。

 やべー、マジで死ぬかも。


「いやいや、速まらない方がいいんじゃぁ無いですかい?

 勇者ユリウスが聖女マリアヌスに恋慕しているってのはまぁ有名な話ですが、カンタレラが聖女を誑かしているってのもまぁ、耳にすることもあるでしょう。」


「なにが言いたい。」


「俺をこのまま殺すですね?貴方はただ嫉妬に駆られて戦友を殺したイカれ野郎になりますぜ?

 せっかく、この俺が何百万の屍を築き上げて勇者ユリウスを作り上げたのにこんな下らない理由で潰されるなんて彼らの死はなんだったんだろうなぁって。」


「王国は事実を隠蔽するだろう。貴方が散々やってきたことだ。」


 あぁそうだろうな。勇者を手放すとはしないだろう。しかし


「聖女は?聖女マリアヌスは恋人である俺を殺したユリウスさんを許すんですかねぇ。

 勇者と聖女の仲違いなんて面白いことにならないといいのですがねぇ。

 彼女は自分で言うのも恥ずかしいんですけれど、私にゾッコン、と言うより依存してましてねぇ。さてどうなることやら。」


「それでも巨悪を見逃すことはできまい。」


 これは駄目だなぁ。どうしようもない。


「巨悪によって作られたユリウスさんが言うと面白いですねぇ。

 あぁ、そうだ。俺を殺したあと何とかしてマリアヌスを抱くとしたら覚悟しいた方がいいですよ?

 なんたってあの女パンツを脱がせたら部屋中に下水の方がマシなんかじゃないかって臭いを性器から――」


 俺は今の今まで勇者の顔を見ていたはずだが、なぜ天井が見えているだろうか。

 体からなにか大事なものが流れ出ている気もする。そして、ゴトリと床に叩きつけられて気が付いた。

 俺の首と胴体が泣き別れていることに。 そして、俺の命が灯火が消えかけていると言うことに。



たぶん続きません。

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