Fase.1-5 Atonement for Imaginal
大変お久しぶりです。
一ヶ月以上Fase.1のクライマックスを引っ張っておりました……。
大変お待たせいたしました。
Fase.1最終回です。
時は現代。現代のレイ先生と対峙したところから物語は再開します。
2030.6.21. 東京
「先生を、殺します」
古い書斎の中。
私が放った一言以降、静寂が訪れていた。
外の音は何も聞こえない。いや、私たちの緊張が張り詰めていて、聞こえていないだけなのかもしれない。
レイ先生はずっとこちらを睨んだまま、黙って立っている。
やはりか、というような。
何故なんだ、というような。
複雑そうな表情をしている。
怒りなのか悲しみなのか、私からは読み取れない。
でも、もう読み取る必要はない。
私は、先生を殺さなければならないのだから。
私は足に力を集中させる。その意思に合わせて、体中に纏わりついている透明な“何か”が足に向かって触手を伸ばしている。
「お前はもう……」
静寂を打ち破って、レイ先生が何かを呟こうとした。
その時にはもう、私の足は一歩を強く踏み出してしまった。
ダンッ!
一瞬、部屋の中の宙を浮く。
さっき踏み込んだ一歩で、大きく跳躍しているのだ。
離動式兵装を既に展開している私の身体能力は、平常時の10倍に跳ね上がっている。
私の仲間のイマジナルが生み出した、任務遂行専用の兵器だ。
レイ先生は跳躍して近づく私から、大きく後ろに下がって距離をとる。
そしてそのまま後ろを振り向いた。
と、同時に目の前に先生の右足が現れる。
赤い火花が散っている、右足。
回し蹴りか――!
咄嗟に右腕でガードする。
しかし。
「っ……!」
彼の蹴りによって、私は5メートルほど先の本棚にまで吹き飛ばされた。
本棚にぶつかった衝撃で、本棚はへし折れ、上から大量の本が落下してくる。蹴りのダメージと本棚に激突したダメージで降り注ぐ本たちを防げず、身体の上に本が煩雑に積み重なっていく。
右腕がジンジンと痛む。
通常の人間じゃあり得ない威力。
10年前に初めて見た、先生の力。
本の中に埋もれながら、私は動揺していた。
なぜ……?
先生の力は、今はもう使えないはず……。
「お前、今の俺はイマジナルを使えないと思ってるだろ」
身体の上に積もった大量の本をかき分けながら、立ちあがる。
古書だったのか埃がひどく、せき込む。
「げほっ……。先生のその力は、結白さんのイマジナルで付与された力のはず……」
そう、レイ先生のこの超人的なパワーは、先生個人のイマジナル“ではない”。
先生のパートナーである神崎結白さんのイマジナルによって付与された力なのだ。結白さんが“レイ先生は強い”と強くイメージすることによって付与できる、“伝統型”のイマジナル。
先生は結白さんと常に行動を共にしながら、EVANAの任務をこなしていた。
だが、先生自身のイマジナルは、未だ見たことがなかった。いや、明かしてくれなかったのだ。
何度も質問したことがあるが、笑ってごまかされるだけだった。
「あぁ、その通りだ。この強力な力はユシロのイマジナルで使っている」
「だが五年前の“血の謝肉祭”以降、ユシロは行方不明になった。それなのに何故か、彼女の力が使えるんだ」
「……」
「なぁ、何か知ってるんじゃないか?」
先生の語気が強まる。
少し遠目で分かりづらいが、腕がわなわなと震えているようにも見える。
「……」
「なぁ……お前が殺したんじゃないか?」
語気が徐々に荒々しくなる。
「……違う」
「あ?」
「結白さんは――」
ダンッ!
私はその続きが言いたくなくて、もう一度大きな一歩を踏み出し、先生の元まで跳躍する。
大丈夫。先生に何か力が残ったままだとしても、私の離動式兵装の方がパワーは上なはず。今まで素の力では一度も先生に勝ったことはない。だが、今日は勝たないといけない。
私はレイ先生に近づきながら、渾身の蹴りを繰り出す。
「カノン……。お前は何でこんなことをしてるんだ?」
レイ先生はそう呟きながら、片手で私の足を止める。
「っ!」
私は臆さず、身体をひねらせながらもう片方の足を先生の顔にぶつける。
常人離れした動きに当惑したのか、隙だらけだった顔面に強くヒットした。
「ぐっ……!」
少しよろめいた先生から、もう一度距離をとる。
大丈夫。私は先生を殺せる。
先生を、殺せ……。
「お前……今まで何人殺してきた」
よろめきながらもなお倒れない先生は、右頬についた血を拭いながら私に問いかけてくる。
「……」
「ずっと、そんな顔をして殺してきたんだろ!?」
レイ先生は声を荒げた。
そんな顔……?
私は手で自身の顔に触れる。
ふと、手に冷たい感触が走る。
あぁ……。
私は泣いているのか……。
「……話してみろ。相談くらい乗ってやる」
「……」
「あの事件以降……青い空が消えて以降、俺たちはバラバラになっちまった。他の先生や生徒たちも、今は連絡がつかないんだ」
「……」
「そんな中でお前の記事を見つけた時、驚いたよ。まさかお前が犯罪組織のリーダーになって、俺たちを殺して回ってるなんてな」
「……。ねぇ先生……」
私は先生の言う事には答えず話しかける。
「……? なんだ?」
「先生は、今の世界をどう思いますか?」
「……。狂ってると思うよ、こんな世界」
「“血の謝肉祭”以降、EVANAの崩壊、そしてアメス教の独裁世界になった。莫大に膨れ上がったアメス教徒のイマジナルのせいで、この東京もスラム街みたいになっちまった」
「……」
「お前がやりたいことはわかってる。記事を読んで、お前がアメス教の教会や施設を潰して回っていることも知ってる。この世界を元に戻したいと思ってることもわかってる」
「だが、何で俺たちを殺すんだ? 俺たちをもう一度集めて、あいつらを倒すこともできたはずだ」
「……できません……」
「何だと?」
「それはできないんです!!」
私はもう一度先生に攻撃を仕掛ける。
先生は苦しそうな顔をして、もう一度臨戦態勢に戻った。
「何かブーストをかけてるみたいだが、そんなことで俺には勝てないぞ! イマジナル制御装置ももうないんだろ? なぜイマジナルを使わない!」
そう、私の頭についていた制御装置は、もうない。
学園で正しい使い方を学び、力をつけ、己の意志で制御できるようになったからだ。
でも、もう使うことはできない。
レイ先生には様々なことを教わった。
イマジナルことも、この世界のことも、人間関係のことも……。先生はもう、家族のような存在になっていた。学園に入る前の言葉に、嘘はなかったのだ。
『これから増やしていこうぜ。お前の居場所。俺も、お前の居場所だ』
先生のくれた居場所も、もうなくなってしまった。
そして先生自身も今から……。
私は声を荒げながら、涙を気にしないようにして先生に殴りかかる。
先生の顔をめがけて繰り出した拳は、冷静に処理される。足でフェイントをかけても通用しなかった。
私は色んな攻撃を仕掛けるが、レイ先生はそれを一つ一つ冷静に対処していた。最初の蹴り以外、何一つ通用していなかった。
しかし、先生は私に反撃しない。
いや、正確には攻撃はしているが、私を倒そうというほどの威力じゃない。
――だったら。
私は、先生が繰り出した強い蹴りを、わざとガードせず受けた。
「なにっ!?」
先生の蹴りは、私の懐に綺麗に入る。
しかし、その蹴りは私の身体には到達しなかった。先生の足は、私の腰から数センチのところで止まっている。
戸惑った彼に、一瞬の隙が生まれる。
「“離動式兵装 威力流用 展開”」
私がそう呟いた瞬間、私の背後に存在していた透明な“何か”が、私の手に薄透明の銃口を作った。
「すみません、先生……」
その銃口を、先生の胸に向け、レーザー光線を発射した。
静かな書斎。
聴こえるのは息を切らした吐息と、今にも死んでしまいそうな、苦しそうな声。
レイ先生は、私が最初に倒れた本棚に横たわっていた。
胸には大きな穴が空いており、血が溢れ出している。
“威力流用”。
離動式兵装の能力の一つ。受けた攻撃の威力を自由な形で発射できる。
レイ先生はずっと本気で攻撃していなかったが、私がガードを出来る前提の時だけ、本気を出していた。その威力をレーザーの一点に絞って、彼の胸を貫いた。
レイ先生は辛そうに呼吸しながらも困惑しているようだった。
「なん……でだ……。最後、俺のイマジナルを使って自分を守ったはずなんだが……」
そう、先生はレーザー光線を受ける直前、イマジナルを発動しようとする動作が見られた。しかし、何もできずレーザーは先生の心臓を貫いた。
「……発動しないはずです」
「……?」
「だって、私は先生のイマジナルが何か、知らないから……」
その瞬間。
彼の足が光り始めた。
いつもの戦闘時の赤い光ではない。
青い光。
その光の玉と共に、先生の足が消えていく。
その光景を見た瞬間、レイ先生の顔は柔らかくなった。
「なるほどな……。そう、いうことだった、か……」
「すみません……」
「“血の謝肉祭”の事件の時、EVANAのみんなは死んでしまいました。生き残ったのは、私だけ……」
「その、時に、使ったんだな……?」
「……はい」
「じゃあ、ユシロも……?」
「結白さんは実際に会ったことがなかったので、想創できませんでした」
「でも、俺は……」
力が使えたのに、という目線で私を見つめてくる。
「私があの事件で先生を想創した時、結白さんは事件の影響で死んだんだと思います」
「あなたにイマジナルを付与したまま……」
「なる、ほどな……」
青い玉の光は、レイ先生の腰まで浸食していた。
下半身はもうすでに消失している。
レイ先生は、私の家族が消えるとき、こんな光景を目にしていたのだろう。
「先生、さっきは一緒に戦おうと言ってくれましたよね」
「……でも、できないんです」
レイ先生は静かに私の話を聞いてくれている。
「あの事件の後、私が想創した人たちがどんな末路を辿るのかを知りました。みんな、最初は元気でも、段々と狂っていった……」
「私は、けじめをつけないといけなかったんです。人を想創するという大罪を、償わないといけなかったんです」
「そう、か……」
先生の身体はもう、首から上しか残っていなかった。
そんな状態でも、先生は私の話を静かに聞いてくれている。
「それは、辛かったな……」
「カノン……。もし……困ったことが、あったら……BFC902の本を読め……」
「BFC902……?」
「大、丈夫……お前は、まだ0じゃない……」
そう言い残して、レイ先生は青い玉の光になって消えていった。
もう、目の前には先生の跡形もない。
「……」
この光景を何度も見てきた。
消えていく仲間たち。
最初は辛かったが、もう慣れた。
でもなぜなのだろうか。
涙だけは、ずっと止まらないのだ。
「……っ!」
私はしばらく、彼のいた場所に佇んだままだった。
「ガガッ」
「終わったか」
しばらく経った後に、通信機から仲間のレギの声が聴こえてきた。
いつもの賑やかな雰囲気ではなく、すこし神妙な声色だった。
毎回任務が終わるたび、彼はこのトーンになって任務完了を確認する。彼なりに気遣ってくれているのだろう。
「えぇ。終わったわ」
「まだ終わってないっしょ?」
「!?」
静かな書斎の奥から、甲高い女性の声が聴こえた。
誰も居るはずのない場所から、聞いたことのない声。
私はすぐさま臨戦態勢に入る。
「どうした?」
何か異常を察して問いかけてくるレギに、冷静に返答する。
「敵襲みたい」
「ふぅん、あんたが桧葉カノンかぁ……」
書斎の奥の暗闇から、一人の少女が姿を現した。
メイド服を着た、派手な少女だった。きらびやかに光る金髪に、血のように鮮やかな赤が基調のメイド服。そして右手にはキャンディを彷彿とさせる鮮やかな色のスティックを持っていた。
まるでコスプレのような見た目。
彼女は普通じゃなかった。
見た目もそうだが、この書斎に現れ、私の名前を知っている時点で、普通の人間ではない。
「邪魔しちゃってごめんねぇ、せっかく恩師を殺してご満悦になっている時に」
「……ご満悦……?」
何を言ってるんだこの女は……?
今私は何を経験したと思ってる……?
「あららこわ、怒っちゃって。ほんとはこっちが怒りたいくらいなんだけどね」
「……?」
「レイ・ウェーバーを利用しようとしたのに、殺しちゃってくれてねーー」
「利用……?」
何を言っているのかさっぱりわからなかった。
先生を利用する?
「無機物から有機物まで何でも使役できるっつー最強のイマジナルを持つ彼を、捕まえて利用したかったんだけどねぇ」
「何……?」
使役できるイマジナル……?
最強……?
レイ先生が……?
初めて知る事実に、その場で当惑してしまう。
今まで先生の口からも、誰からも聞いたことのない、先生の力。
「あれれれれ、もしかして知らなかったの? 恩師なのに? 能力も知らなかったの? 滑稽!」
赤いメイド女は、私を嘲笑うかのようにけたけたと気味悪い笑い声をあげている。
「……」
いつの間にか、私の身体は震えていた。
全身に強い力が入る。
早く、あいつの顔をぶん殴りたいと、身体が叫んでいる。
こんなに怒りが湧き出たのはいつぶりだろうか。
「あらら、余計怒っちゃった。無知な自分が許せなくなっちゃった? まぁ恩師を殺しちゃうくらいなんだから、知らなくて当然かぁ」
「レイ・ウェーバーもかわいそうね、そんな生徒に殺されちゃって」
「……うるさぃ……」
「いや、そんな生徒に育てたレイ・ウェーバーが無能だったのかな?」
「うるさい!!!!!!」
ダンッ!
いつの間にか、私の身体は勝手に動いていた。
イマジナルもわからない初見の敵に向かっていくのは無謀。無策。
初見殺しのような力に、初見で挑むのはナンセンスだ、と先生には何度も教わった。
でも、じっと立ったままではいられなかった。
「おーこわ。そんなにレイさんのことを知らない自分が憎い?」
「違う!」
私はメイド女に近づきながら、足に力を集中させる。
「先生の力を、お前から知ったのが憎いんだよ!!!!」
メイド女の足首を掴んで持ち上げ、もう一度地面を踏み込みながら彼女の顔面を蹴る。
しかし、その刹那、彼女の姿が目の前から消えていた。
掴んだ足が抜けた感触もない。
ただその場から瞬時に消えた。
「あぶなーーーーい。あんな蹴り食らったら死んじゃうねぇ」
顔面に蹴りを入れたはずのメイド女は、いつの間にか私から5メートルほど離れた場所に移動していた。
何もなかったかのようにピンピンとしている。
瞬間移動……?
何が起こったのかわからなかった。
「お前、アメス教の人間か?」
離れた場所でけたけたと笑っているメイド女に、強気に言い放つ。
先生の力、イマジナルの力を利用しようとしている奴なんて、アメス教しかいない。
「アメス教? あぁ、世間ではそんな名前で呼ばれてるわねぇ。そうよ、アメス教アメス教」
「世間では……?」
メイド女は私の問いを無視して独り言をつぶやく。
「今回はあんたに殺される前にレイ・ウェーバーを捕まえる予定だったんだけど、タイミング超最悪だったわねぇ。今日は引くとしますかぁ」
「先生で何をするつもりだったの」
「教えなーーーい」
彼女はけたけたと笑いながら、書斎の暗がりにまで引き下がっていく。
「待て!」
「あははは、またな――――い」
「いや、待つんだよ!!」
ドォオオオン!!
彼女が完全に見えなくなりそうになったその瞬間、天井から大きな物体が落ちてきた。
天井の木材が各所に飛び散る。
あまりの衝撃のため、吹き飛ばされそうになった。
「なになにーーーーー??」
メイド女は相変わらずけたけたと笑っている。
こんな異常事態でも平気そうだった。
落ちてきた大きな何かは、ずんぐりと起き上がって、私の方を向く。
「レギ!」
「敵襲ときいて駆けつけてきてやったぜ」
レギ・フォーミュラ。
熊よりも大きいんじゃないかというほどの巨大な男。
お似合いのスキンヘッドと、左右の手に取り付けられている鉄の銃器が特徴だ。いや、取り付けられているというよりは、生えているといったほうが正しいのかもしれないが。
「あらら、また敵さんが増えちゃったーーー」
メイド女はさぞ余裕かのように笑っている。
「カノンが言ってた敵ってのはこいつか。可愛い顔してんのにキモイ喋り方だなぁ」
「きゃきゃっ、失礼なおっさんねーーー」
「処理しちゃおうかな」
けたけたと笑っていたメイド女の顔が、突然神妙な顔になる。
声も突然、低いトーンに変わった。
メイド女はそのまま右手に持つスティックで、レギに触れようとする。
なんだ、この禍々しい雰囲気は……。
だめだ、このスティックに触れたらろくなことにならない。
そう私の直感が叫んでいた。
「レギ! こっちに掴まれ!」
何かいやな予感がした私は、レギに手を差し伸べる。
禍々しい雰囲気をレギも感じたのか、必死で私の手を掴んだ。
私は瞬時にEVANAビル跡の屋上を思い浮かべる。
東京の夜景。強い風。どす黒い曇った空。
意識がほんの一瞬、弾けとんだ。
ごぉっと風の轟音が耳をかすめる。
目を開けると、EVANAビルの屋上にいた。
何とか、逃げ切れたようだった。
突然吹き始める風で、髪がかき上げられるが、そんな風に構っている場合ではなかった。
「大丈夫か、レギ」
隣で地面にへたっているレギに声をかける。
「あぁ、ありがとなカノン。この瞬間移動はマジで便利だな」
「この感覚は慣れねぇがなぁ」
「私のイマジナルに文句言わないで」
私が“想創型”のイマジナルを持っているという事は、今は誰にも明かしていない。
仲間たちには瞬間移動のイマジナルと伝えている。
今私が唯一使えるイマジナルの力。
先生に教えてもらった、ただ一つの実践的なイマジナル。
「がはは、冗談だよ。お前も冗談通じねぇなぁ」
やっと立ち上がったレギは、自分の尻を手ではたきながら、私に話しかける。
「それで、大丈夫かよ、お前の方は」
「えぇ。平気」
「かぁ~~! まぁた元に戻っちまったかぁ」
「?」
元に戻る? この男は何を言ってるのだろうか。
「もういつものクールなリーダーかよ」
「さっきまでは色んな感情を出してたのによぉ」
「……!」
「通信でずっと聴こえてたんだが、あんなに怒ってるカノンは初めてだなぁ」
「……忘れて」
完全なミスを犯してしまった。
メイド女に気を取られて、通信を切り忘れていたのだ。
別に、感情をむき出しにしたことは構わないのだが、なぜか仲間に見られているのは恥ずかしい。
「恥ずかしがるこたねぇよ。あの女もヤバい言い方だったしな。ありゃあブチギレてもおかしくねぇ」
レギのその言葉で、あの金髪の赤いメイド女を思い出す。
未だ脳裏にこびりつく、けたけたと笑う声。
「あれは誰だったのかな」
「俺も知らねぇなぁ。アメス教の人間であることは間違いねぇだろうけど」
「……」
アメス教。
5年前に“血の謝肉祭”事件を起こし、EVANAを崩壊させ、世界をイマジナルで支配した宗教団体。私はあの事件以降、アメス教の宗教施設や教会を破壊して回っていた。
しかし相対する教徒たちはイマジナルを覚えたてのような一般人ばかりで、あんなにイマジナルを使いこなしている教徒と会敵するのは初めてだった。
今までなりを潜めていたのか……?
そして気になる発言もしている。
『アメス教? あぁ、世間ではそんな名前で呼ばれてるわねぇ』
アメス教とは本当の名前ではないのか?
まだ彼らについて調べるべきことは多そうだ。
「ま、今日の任務はご苦労だったな。ゆっくり休め」
「って、俺の方が立場は下なんだけどな! がははは!」
「うん。ありがとう」
レギは豪快に笑った後、きょとんとした顔になる。
「お、おぉ」
私はそのままビルのへりにまで歩き、東京の夜景を見ながらレイ先生との最後を思い出す。
『お前は、まだ0じゃない』
家族を失った時の私にも、先生はそう声をかけてくれた。
家族を失ったからって0になったわけじゃない、まだ俺たちがいる、と。
でも、そんな先生もいなくなってしまった。
いや、先生は5年前からいないのだ。
あの先生は私が作り出したもの。生きてはいない“まがい物”なんだ。
でも、そんな“まがい物”が消えたことに、私は涙した。
レイ先生だけじゃない、今まで殺してきた先生や仲間たちの時もそうだった。
私は間違っているのだろうか。
彼たちを苦しませずに、生かせる道もあったのだろうか。
『お前のせいだ……お前が俺を壊したんだ……』
私が殺した、一人目の仲間の声。
想創したせいで、記憶や感情に異常をきたし、自ら命を絶った仲間。
今思えば、彼の憎しみに満ちた顔が、今の私の行動に繋がっているのかもしれない。
でも、もう今更元には戻れない。
私が生み出した想創物たちは、殺してでしか消すことが出来ないのだ。
この罪は、私が償わないといけない。
まだ六人、残っている。
まだ、清算しないといけない過去がある。
「帰ろう、レギ」
私は一歩ビルの外に一歩足を踏み出し、飛び降りた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
私生活が忙しすぎて、頂いていた感想を読むこともできておりませんでした……。
ただまぁこれからはもう少し、せめて二週間は空けないように更新していければなぁと思います。
さて遂にFase.1が完結しました。
次回からFase.2へと進んでいきます。構成は1と同じく、現在→過去→現在という形になります。
さて、カノンはどんな仲間と再会し、どんな過去を回想し、どんな経験をしていくのでしょうか。
ご期待ください!!




