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Fase.1-3 Atonement for Imaginal

2021.05.10. 東京



 俺は車の中から、真っ黒な景色を見つめていた。


 その視線を反対側に移すと、女の子が寝そべっている。

 手は拘束され、頭には半円形状の機械が取り付けられていた。


 俺は未だに信じられなかった。


 あの町が、あの人たちが、全員この女の子の空想の産物だったなんて。





「こいつの……想像物だと……!?」


 ユシロの発言に驚いた俺の声は、廃墟の家の中に響き渡った。


 青い光が完全に消えた時には、周囲は廃墟と化していた。


 いや、化していたのではない。元々、このような廃墟だったのだ。

 今まで見えていた綺麗な幻想が何故か、元に戻っただけの話なのだ。


 にわかには信じられない。


 これがイマジナルで出来ることなのか……!?


 イマジナルは、確かに空想のものを現実に生み出す力を持っている。

 俺だってその力を使って様々な残霊を狩ってきたし、空想の使い魔などを使っている仲間もいる。


 だが、イマジナルの能力をこんなに広範囲に使える奴は見たことがない。


 自身の想像したものを現実に現出できる、異能力の根源。


 ただ、現実に現出するためには、想像するだけでは無理だ。

 自身の頭の中の想像が“現実のものだ”と知覚しなくては、現出することができない。

 その自身の想像力への信頼の強さで、イマジナルの強度が変わる。まぁ例外も多々あるが……。

 そのため、自身の持てる想像力には限界があるし、一人で使えるイマジナルは多くて二種類だ。


 だが彼女は、街を、人を、想像して出現させていた。

 一つの世界を想像だけで形作っていたのだ。


 つまり、己の妄想を完全に信じることが出来ているということだ。

 自身の脳内で想像したすべてが、この世界の真実だと言っているかのように。


「ここまで出来るものなのか……イマジナルの力は」


「うーん……この広範囲を単独でできるのは見たことないわね……」


 通信機の奥から聴こえるユシロの声色も、神妙になっている。


「そもそも人を創造してる時点で信じられない……。学園も通っていない素人がそこまでできるとは思えないわ」


「そうだな……」

「やはりあの家族は全員、イマジナルの影響で出来ていたのか?」


「そうね。今調べてるけど、“牛鬼事件”で生き残った人は誰一人いないわ。だからさっき消えていった人は全員、死んでる人。逆にその子がどうやって生き残って、どうやって生きてきたのかが気になるわね……」


「食い物自体も想像物だったんだろうな。だが、どうやってあの事件から生き残ったのか……」


 突如牛の巨人が現れ、謎の発光現象と共に街自体も消え去った事件。


 屋内にいた人も、屋外にいた人も、地下にいた人でさえ死んだとされている。


 しかし現に彼女は生きていた。

 イマジナルで生き延びたのだろうか……?


「とりあえず、その子はこっちに連れてきて。上から指令が来たわ」


「まじかよ……。ていうか連れて行って大丈夫か? こいつ“人体創造”しちまってるが」


「まぁそれも上の判断次第でしょうね。なんてったって処罰対象の禁止事項だからね」


「はぁ……。まぁすぐに処刑、なんてことはないと思うが。とりあえず連れていくよ」


「うん。何かまた指令があったら連絡するわね」


「おう」


 俺はしぶしぶ寝転がっている女の子を抱きかかえ、車に運んだ。






 家族との幸せな生活は、いつまでも続くと思っていた。


 父と喧嘩し、母に甘え、弟を叱る。

 こんな他愛もない生活は、永遠に終わらないものだと思っていた。


 家族と過ごした何気ない朝。

 いつものように私は寝坊して、お母さんはカレーを作り、お父さんと弟は私を待ってくれていた。


 いつもと変わらない、桧葉家の日常。


 そして突然現れた、大きな牛の妖怪。

 その妖怪は強い風で屋根や家の壁を吹き飛ばし、街のみんなを野ざらしにした。


 私は、壊れた家の壁の隙間から、牛の妖怪を呆然と見上げていた。怖すぎて気が狂ってしまったのか、逃げる気さえ起きなかった。

 お父さんやお母さんは逃げようと、私と弟の手を引いている。


 そして牛の妖怪の目が、赤く光った。


 その刹那。


 お父さんやお母さんや弟は焼け焦げた。


 突然終わった、日常。


 突然奪われた、家族。


 残ったのは、3つの黒い死体。


 それに抱きかかえられた私は、焦げ臭いにおいを感じながら、意識が途絶えた。



「うわあぁぁぁあああああああぁぁあああ!!!!」



 悪夢から目が覚めたように、上半身が飛び起きる。


 とてつもなく悪い夢を見た気がするのだが、どんな内容だったか思い出せない。

 何か、悲しい夢だった気がするが……。


 飛び起きた上半身は大きな振動と共にもう一度床に倒れ込む。

 しかし床が不安定なのか、身体が一段階下に落ちそうになった。


「おっと」


 誰かに背中を支えられる。

 目を開けると、男が私の背中を片手で支えていた。


 どうやら車の中らしく、私はソファから一段階落ちそうになっていたらしい。


 車は移動中なのか、ずっと揺れている。


「ようやく目が覚めたか」


 よっこらせと。

 男は私の身体を起こし、座らせた。


「えっと……え……?」


 何が起こっている?

 車の中? 男がいる?

 これは誘拐?


 私は周りをきょろきょろと見渡すが、黒塗りのガラスと男しか見えず、未だ状況がつかめなかった。

 外の光は一切差し込んでおらず、周りを確認するのに頼りなのは、オレンジ色の電灯だけだった。


「……あれ?」


 ちょっとずつ意識が覚醒してきたのか、手に違和感がある。


 何かこそばゆいような……。


 手を見てみると、なぜか私の手に二つの銀の輪っかがついていた。

 見てわかる通りの、手錠である。


「え、えぇ……!?」


「あぁすまねぇな、ちょっと事情があって拘束させてもらってる」


 男が笑って答える。


「こ、拘束……?」


 何を笑っているのだろうか。私は捕まっているという事なのだろうか。

 何か犯罪を犯してしまったのだろうか……?


 不安になって冷汗をだくだくに流している私に、男は笑いかけた。


「はは、そこまで不安にならなくていい。今のところは罪には問われないと思うしね」


「今のところは……?」


「まぁ、それはおいおいね」

「君、名前は?」


「……桧葉、カノン」


 名乗ってほしいのなら先に自分から名乗ってほしいものだが、そうも言ってられないので答える。


「カノンね。俺はレイ・ウェーバー。レイさんって呼んでくれていいよ」


「は、はぁ……」


 外国人なのだろうか? 顔はいたって日本人っぽいが……。


「まぁ聞きたいことは山ほどあるんだけど。まず、君、今日まで何してたか覚えてる?」


「今日まで……」


 私は過去のことを思い返す。

 毎日家族で平和に過ごしていた日常。

 お父さんとお母さんと話して、弟と喧嘩した日常。


「……ずっと、家族で過ごしてましたけど……」


「ふぅん、家族でね……」


 何か意味ありげな目線で私を見てくる。

 変なことでも言っただろうか……?


 そもそもこのレイという男、どこかで見たことがある気がする……。


 ついさっき会ったような……。


「――あっ! さっきのウェイティングドレスの――」


 そこまで言いかけて、私は思い出してしまった。


 フラッシュバックする、残酷な光景。


 ウェイティングドレスの女の手に串刺しになっているお父さんとお母さんの姿。

 身体から見たこともないくらいの大量の血が流れている、変わり果てた姿。


 私が最後に見た光景。


「……ぁ……ぁあ……」


 身体がわなわなと震え始める。


 思い出したくもない。

 

 一旦止みかけた冷汗も、再びあふれ出て来た。


「お、おい、落ち着け……。さっきの事は思い出したようだな」


「お父さんとお母さんは!? あの後どうなったんでしょうか!?」


 私はレイさんの胸ぐらにつかみかかる。

 手錠で動かしづらいが、そんなことは言ってられなかった。


 今すぐ。


 今すぐお父さんとお母さんに会いたい。

 勿論弟にも。


 みんな生きてるって信じたい……!


 あれは夢だったって、生きてるって……。


 その瞬間。


 ギイイイィィィィィィン


 頭の中で気味の悪い金切り音が聞こえた。工事でドリルを使った音がもっと高くうるさくなったような音。

 その音と共に激しい痛みが襲ってくる。


「うぅ……!」


「おいおい、まず落ち着けって。それ以上深く考えるな」


 レイさんは心配そうに声をかけてくる。


 これが落ち着いていられるはずないだろう。

 そう言ってやりたいが、痛みのせいでうずくまってしまった。


「今ちょっと君の脳に仕掛けを施してる。一回深呼吸しな」


 仕掛け……?


 私はうずくまりながら、言われたとおりに深呼吸をする。

 すると少しずつ痛みは引いていき、金切り音も聞こえなくなった。


「な、治った……。今のは……?」


「んー、今説明してもわからないだろうからざっくり言うが、思考を制限する装置、とでも言おうかな」


「思考を制限……」


 私はそう呟きながら、後頭部を触る。

 後頭部には、何か半円のものが取り付けられていた。


 触った感覚だと、機械のようなものだろうか……?


 しかし重さはあまりなく、首が疲れることもない。


「おっと勘違いするな、別に洗脳とかをしてるわけじゃないからな。一部の感情と思考をさせないだけで、考えていることを読み取ったりはできないから安心しろ」


「……」


 そう言われても、どうも信用しきれない。

 そう考えてることも筒抜けになってたりするのだろうか……?


「とりあえずだ、まず大前提の話をするから、落ち着いて聞けよ」


「……な、なんでしょうか……?」


 もはや何が起こっているかわからない状況なのに、これ以上何か重大な話をされるようだ。


 私はおそるおそる、レイさんの話を聞く。


「お前の家族は、1年前に全員亡くなっている」


「え…………」


 何を言ってるんだ? この男は。


 家族が全員死んでいる……?


 ウェイティングドレスの女の時の話だろうか。

 串刺しになっていたお父さんとお母さんのあの姿は、そんな前の記憶なのか……?


「ちなみに、お前が見たウェイティングドレスの女の事件はついさっき、3時間前くらいのことだ」


「え……ちょっと待ってください……。確かにさっきのことだったとしても、私は今までずっと家族と生活してましたよ……?」


「あぁ、それは事実だろうな」


「……はい?」


 本当に何を言っているのか分からなかった。

 家族が1年前に死んでいて、今まで一緒に生活してきたことが事実?


 わけがわからなかった。


「まぁその話はあとにするとして、とりあえずお前の家族は、今はもういない」


「…………」


 何も信じられない。

 今朝まで一緒に暮らしていた家族がもういない……?


 もうお父さんやお母さんと話せないの……?


 弟とも喧嘩できないの……?


「おいバカレイ! 言い方ってものを考えなさいよちょっとは!!」


 どこからか小さい声が聴こえてきた。女の子の声のようだ。

 姿は見えないようだが。


「そう言われてもわかんねぇよ!」


 その声に対して、レイさんは声を荒げて言い返す。


「スピーカーモードにして」


「はぁ……わかったよ……」


 レイさんは耳に手を当てると、小さかった女の子の声が大きくなった。


「……えっと……」


「ごめんなさいね、レイの馬鹿が突然きついこと言って」


 どうやらレイさんの電話相手らしい。


「あなたは……」


「私は神崎結白(かんざきゆしろ)。このバカレイのパートナーみたいな感じね」


「誰が馬鹿だ誰が」


 レイさんが再び声を荒げて言い返す。

 結白さんはそんな声も気にせず、話を続けた。


「家族を失ったのは私も一緒。辛いのはとても分かるわ。でも、これから話すことは真剣に聞いて欲しいの。あなたのこれからの人生がどうなるかの重要な話だから」


「私の人生……」


「えぇ。じゃ、レイお願い」


「お前が話すんじゃねぇのかよ」


「今緊急で上から通知来てるから、あんたの説明を聞きながら対処するわ」


「ったくしょうがねぇな……」


 レイさんはポリポリと頭をかきながら、私の方を向く。


「んじゃあ今から説明するぞ、お前のことについて」


 ごくり。


 固唾を飲みながら、私は頷いた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


ひぇぇ……長いことお待たせしました……。

ちょっと色々と事情があって更新できませんでした。

バカなのでストックとか取ってないからこんな更新頻度になってしまいますね……。


そんでもって、今回まで続くと言っていた過去編は次回まで続きそうです。

本来はこの回でまとめてよかったんですけど、次回は重要な話になりますので、分けさせてもらいました。

もしかしたら、後々この回を削って併合するかもしれませんが、とりあえず分けます。


今度は近いうちに投稿すると思うのでお楽しみに!

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