心のままに
ちょっとショタコンのキモいシーンみたいなのが出てきます。自衛して下さい。
確かに、僕を止めた隣の牢屋にいる子の言う通り、男が子供を殴っているのを見て見ぬふりをした方実害はない。だけど、それでは僕がわざわざあのマヌケな男に捕まってやった意味がない。
僕は何のためにこんな所まで来た?隣の牢屋にいる子や男に殴られているあの子の様に、恐怖で震え、怯え、苦しんでいる子を助けに来たんじゃないのか?
そうだ。こんな所で傍観するために僕は捕まった訳じゃない。お前の力を持ったすればあんな奴どうにかなる筈だ。動け!動け!
そう、震える手を震えない様強く握りしめながら自問自答し、己を奮い立たせる。
「やめろ!その子を殴るな!」
自分の発した鋭い声がこの地下にこだました。隣の牢屋の子は何しているんだと抵議の声を上げたが、その声が男に聞こえない様にさらに大きな声で叫ぶ。
「お前は、子供みたいな弱い存在しか相手できないのか!子供に手をあげるなんて弱い奴がする事だとは思わないのか!」
男は、挑発する様な言葉を立て続け言われたのことに腹を立てた様で、殴っていた子を牢に放ると苛立つことを隠さずドスドスと大きい音を響かせながらこちらに歩いてきた。僕の牢屋の前まで来ると、牢屋の扉を思いっきり蹴り付け、怒鳴り散らした。
「うるせぇ!ヒクッ、俺はなぁ、あんな魔法野郎なんかよりずっと強い!ヒクッ、テメェになんか言われる筋合いわねぇ!」
怒鳴り散らしてもまだ苛立ちは晴れなかった様で、俺の牢屋の鍵を開け、牢屋の中に入ってきた。男は酒のせいで酔っているのが分かるほどアルコールの匂いをさせ、ヒクッヒクッとしゃっくりを繰り返していた。そのせいか少しふらついている足取りで、牢屋の中にいる僕の元までやってきた。
僕は震える足をどうにか動かし男から離れようとするが、狭い牢の中。直ぐに壁まで来てしまい、もう後ずさることが出来ない。
男は僕の目の前まで来ると、僕の腕を掴み強いたからで壁に打ちつけた。
ヒュッと喉が鳴った。心臓の音が凄い聞こえる。必死に男を睨むが、手を離されることはなく、手は震えるばかりだ。
「俺を罵ったのお前か?ヒクッ、悪い子にはお仕置きをしなきゃなぁ?」
男はニヤリと口角を上げ、笑うと、拳を上に上げた。そして、拳を僕に向かって振り下ろした。
殴られる!そう思った。しかし、殴られる衝撃は一向に来ず、恐る恐る目を開けると、男は拳を1番上に上げたところより少し下げた位置に上げたまま動かなくなっていた。何が起こったのかと目を白黒させていると、牢の外から声が聞こえた。
「子供たちに手を上げるなんて、ダメじゃないですか。それに、その子は旦那様のお気に入りになる予定の子供ですよ?何をしているんです?」
声は、僕を誘拐した時にいた魔術士のものだった。
おそらく、男が僕を殴ろうとしたのを魔術士が止めたというところだろう。僕がそう考察していると、男は魔術士に回収され、このフロアにある1番端の大きめの牢屋に放り込まれた。
僕は、一旦窮地を脱したことに気が抜け、腰に力が入らずへにゃりと地面に座ってしまった。
「旦那様、こちらの少年が例の者です」
急に聞こえてきた魔術士の旦那様という言葉に反応して顔を上げた。そこには、全身黒の服を纏った中年の男が立っていた。
まずいと思った時には思う遅く、僕の体は魔術士の魔術によって壁に貼り付けられた様に動かすことが出来ない。
勿論、あの魔術士より僕の方が魔力が大きいので、意図も簡単に体を動かせる様にする事は出来る。しかし、それでは何故僕が誘拐されたかも、何故子供たちを誘拐しているのか分からない。それよりも、今ここで僕がこの魔術士よりも魔力が大きい事を悟られるのが1番困る。切り札は最後まで取っておきたい。
「くっ、動かない!」
わざと魔術士の魔法によって動かないフリをする。すると、魔術士は満更でもなさそうに笑顔を浮かべ、"旦那様"と呼ばれる人を僕のいる牢の中に導いた。
その"旦那様"は僕の真前まで来ると、僕と目線が合う様にしゃがみ込んだ。そして、僕の顎に手を添え、クイッと僕の顔を上げさせ、僕の顔を覗き込んできた。
「あぁ、何という美しさだ。絹の様に柔らかく艶やかな髪、毛穴ひとつ見えない肌。そして、海の様に澄んだ瞳。これまで見た中でも1番美しい!」
"旦那様"と呼ばれる男は狂った様にそう言うと、僕な頬や脚を撫で始めた。
「あぁ、美しい!美しい!」
気持ち悪い。ただそれしか考えられなかった。全身鳥肌が立ったち、吐き気がする。僕は顔を下げ、下唇を噛み必死に耐えた。身震いがして、身体が拒否反応を示しているのがよく分かった。
「さ、触るな!」
男を睨みつけながら震える声で、やっとの思いで発した。しかし、男は気にした素振りもなく、逆に嬉しそうに目を輝かせた。
「な、なんと!声までも美しい!魔術士よ、いい仕事をした!」
男はそう言いながら僕に再び触ろうとしたが、それが叶う事はなかった。ボスッという音と共に男は地べたに倒れたのだ。
何があったのかと慌てて顔を上げると、そこには不快感を露わにした魔術士が鈍器を片手に立っていた。
「ふふ、ダメじゃないですか旦那様そんな汚い手でその子に触れないでください。美しいものが穢れてしまいますよ。折角いい雇い主だと思っていましたのに、もう、気が合うことは有りそうにないですね」
そう魔術士は言い、僕から男を遠ざけた。