暗闇の牢
過激ではないですが、暴力シーン入りますのでご注意ください。
僕は、男に抱き抱えられながら敷地を出た。一応怪しまれない程度に手足をバタつかせ抵抗する。
「チッ、暴れんじゃねぇ!痛くされたくなかったら大人しくしやがれ!」
男は僕が本気で助けを呼ぶ為に抵抗をしていると思っている様で、手足をバタつかせ逃げ出そうとする僕に怒鳴った。これ以上抵抗すれば本当に危害を加えられるかも知れないので、大人しく男の言葉に従い大人しくする。その一方で、僕は自分が上手いこと誘拐された子供達を演じれている事を確信し、密かにほくそ笑んだ。
「暴力はいけませんね。こんな美しい子に傷がついては価値が減ってしまう。扱いには気をつけ下さい」
魔術を使っていた方の男がそう言うと、僕を抱えている男は顔を顰め、再び歩き始めた。少し進むと、小さめの馬車が顔を出した。そして、僕は手足を拘束され、その馬車の荷物を入れるスペースに突っ込まれた。
直ぐに馬車は出発した様で、ガラガラと音を立て激しく揺れる。元から狭いスペースに入れられて変な体勢なのに、馬車が揺れるせいで腕や足、背中が壁に当たって痛い。痛さに顔を顰めていると、男達の会話が聞こえてきた。
「彼の扱いには注意して下さいね。美しく真っ白な肌に傷でも着いたらどう責任を取って頂けるんです?もう少し感情を抑えて下さい」
口調が丁寧だから今喋ったのは魔術士の方だろう。そんな事を思っていると、もう1人の男は魔術士の言葉を不快に思ったのか、僕が入っている収納スペースを蹴った。
「っざけんな!なんでテメェみたいな奴の言う事を聞かなきゃならないんだ。旦那に言われなかったらお前なんかとぜってぇ組まねぇ」
男は不機嫌そうに、ぶっきらぼうに言った。
どうやら2人は相当相性が悪いらしい。口の悪い賊の様な男と、丁寧な口調の魔術士。相性がいいわけがない。口が悪い賊の様な男が僕の入っているスペースの壁を蹴るたび、魔術士の男がそれを注意する。それが馬車が止まるまで延々と繰り返された。そのせいで、僕の背中はきっと真っ赤になってしまっただろうと思うくらい痛かった。
馬車が止まると、僕は手足を拘束されたまま男に担がれた。着いた場所は、石造の小さな廃城の様なところで、黒ずんだ足の壁のヒビから生える植物がいかにもな雰囲気を醸し出していた。
男達は僕を連れてその廃城の中をどんどん進んでいった。大きい部屋を抜け、廃城の中核にあるであろう中庭に出ると、そこには薔薇の木で出来た巨大迷路が顔を出した。男達は迷わず迷路の中を進んで行く。男達がやっと止まったと思うと、そこには薔薇の木で出来た壁。道を間違えたのかと思い様子を伺っていると、魔術士の男が何か呪文を唱え出した。呪文を唱え終わり、少し経つと地面が大きく揺れ、目の前に立ちはだかっていた薔薇の壁が生きているかの様に動き出し道を作り出した。
それからまた出来た道を黙々と進む。進んで行くと、古びたアトリエの様な建物が現れた。男達は躊躇いも無くそこに入ると、また魔術士の男が呪文を唱えた。すると、今度は床が裂け、階段が顔を出した。
コツコツと男達の足音だけが暗い階段に響いた。ようやく1番下まで来たと思うと、次は長い廊下があり、そこをまたコツコツと靴の音を響かせ進んで行く。
どんどん奥へ進み、廊下の向こうに光が見えてきた。どこかの部屋に繋がっているのかと思ったが、光があるその場所にはデカい地下牢が広がっていた。パッと手前を見ただけで、5、6人の子供が一つの牢屋に1人ずつ収容されていた。前回の人生で牢屋に閉じ込められた時のことがフラッシュバックし体が、手や足が震え出した。それに、呼吸がうまく出来なくて胸が痛い。『お前は何をしに来たんだ?ただ捕まって過去を思い出して恐怖のあまり動けなくならに来たわけじゃないよな?誘拐された子供達を助けに来たんじゃないのか?』そう心の中で、必死に自問自答する。
魔術士の男は、口が悪い方の男に僕を大切に扱えと注意すると、元来た廊下を戻っていった。魔術士の男がいなくなると、もう1人の男は僕の拘束を外し、空いてる牢屋にぶち込んだ。すると、男は自分の仕事は終わったと言わんばかりに酒を取り出しガバガバと飲み出した。少し経つと、男は酔いがまった様で、近くの牢屋に入っていた子供を牢屋から出し、殴り出した。やめろ!そう叫ぼうとすると、隣の牢屋に入れられていた子が僕を止めた。
「辞めた方がいいよ。今声を上げたら次の標的は君になる。あいつ、めちゃくちゃに俺らを殴ってくるけど、気絶すると辞めるから死ぬことはないから大丈夫。ここではあまり迂闊な行動を取らない方がいい。出来るだけ大人しくしてるんだ。そしたら、きっとここから出れるから」
隣の牢屋も薄暗く、僕を止めた子の様子は分からない。だけど、僕を止めたこの声が震えていたことだけは分かった。きっと、この子も必死に今まで恐怖と戦ってきたのだろう。そう思うと、胸が締め付けられる様なそんな苦しい気持ちになった。