記憶
投稿しくりました。すみません m(_ _)m
バーリントン侯爵家は由緒正しい家柄である。それもそのはず、バーリントン侯爵家は王家の分家に当たる家柄だからだ。元を辿ると、先々代の王の第二王子の家系。即ち、先王の王弟の家系であるため、王家に連なる貴族として名を馳せている。
また、その類い稀なる美貌によって名を知らしめていると言われているが、そう社交界で囁かれていることを本人達は知らない。
バーリントン侯爵当主イーサンは貴族社会では稀な恋愛結婚をしている。それも、円満と言っていい形でだ。相手の令嬢は伯爵令嬢で身分も釣り合い、誰もが歓迎とはいかなかったが、貴族の恋愛結婚の中では十分に円満だったと言えた。
そんな夫婦には4人の子供がいる。
まず、1番最初に生まれたのは、一卵性双生児の男児の双子だった。2人は父親のそっくりで、色合いまで同じだった。ダークグレーのストレートの髪に新緑を思わせる瞳。まさに、イーサンが3人になったかの様だと見た人は言う。
次に生まれたのは母親にそっくりな女児だった。その女の子は、母とお揃いのプラチナブランドの巻き髪に深い碧の瞳を持っていた。これまた、親子そっくりだと親戚一同笑ったという話は、会う度に聞かされる今や定番の話になっている。
そして、最後に生まれたのが、父親のダークグレーのストレートの髪に、母親の深い碧の瞳を持つ男児だった。
その子が生まれたのは娘が生まれてから10年経った後だった為、親のみならず兄妹にたいそう可愛がられたという。それは、目に入れても痛くない程に。
◇◇◇◇◇
今僕な目の前には、お父様を若返らせた様な見た目の少年が鏡写のように立ち、お母様を若返らせた様な少女が椅子に座っている。言わずもがな、兄2人と姉である。
3人とも僕の事を心配していたようで、知らせを聞いて慌ててやって来たと言う。
「「エール!気分はどうだい?」」
「エール、気分はどう?」
流石双子と言うべきか、2人で綺麗にハモっている。
3人とも急いで来てくれた様で、全員髪が少し乱れている。正直、本当に成人したのか分かったものではない。
「大丈夫ですよ。熱ももう下がりましたし、もう何ともありません」
元気だとアピールする様に明るめの声で言うと、3人は目を見開き驚いた表情をしていた。
「どうかしましたか?」
慌てて聞くと、長男のヴィン兄様は少し考え込んでから喋り始めた。
「…エール、お前、熱出す前の記憶はあるか?」
「…」
僕は咄嗟の事だったので返事出来ずにいた。
すると、それを見かねてか次男のケイト兄様が真剣な顔つきで医者を呼ぶ様手配した。
「エール、私が誰かは分かる?」
バーリントン侯爵家の子供で唯一の女の子であるローザ姉様が眉を下げて聞いてきた。
「はい、ローザ姉様です」
勿論、分かっているので至って普通に伝えると、兄2人はいっそう険しい表情をした。
「お兄様、僕何かしましたか?」
心配になって聞くと、お兄様たちは顔を見合わせ、目配せをしてどちらが言うか決めたのか、ヴィン兄様が話し始めた。
「いや、エールはそんなきちんとした敬語なんて使わないから記憶喪失になったのかと思ったんだけど、ローザのことが分かるってことは、一時的な部分の記憶がない可能性が高い。だけど、一時的な記憶が無いにしても性格が変わり過ぎだだ思ったんだよ」
僕は成る程と思った。正直、10年間当主としてやって来たから敬語が抜けない。たしかに、考えてみれば、本来この体くらいの歳のときはもっと砕けた敬語を使っていた。
だからと言って砕けた敬語に戻す必要も感じない為僕はこのまま敬語を使うことにした。
「そうですか。確かに僕は記憶が欠けてる所があるかも知れません」
そう言うと、双子はやっぱりかと言った表情で頷いた。
「ですが、僕は覚えたますよ。お父様がいて、お母様がいて、双子の兄と、姉がいる事。今まで、どんな事をして来たか思い出せません。だけど、それだけははっきりと覚えてます」
そう言うと、ローザ姉様は涙ぐみながら僕を抱きしめた。
ローザ姉様の温もりを感じながら僕は新たに決意した誓いを再度成し遂げればならないと強く思った。
そう考えているうちにケイト兄様が手配した医者がやってきて簡単なカウンセリングを受けることになった。
勿論僕にカウンセリングの必要なんてない。
いろいろな事を覚えていないのは、中身が10数年後のエールになったからだ。流石に10年以上前の事なんか覚えていない。
そんな僕の事情を知るわけもない医者は僕を高熱による記憶障害だと断定した。