予想外の再会
大変お待たせしました!
さっきまで他の人が入場する時拍手をしていたのに、何故か僕らが入場するや否や会場は水を打ったかの様に静かになった。そして、次の瞬間大きな歓声に包まれた。
周りから聞こえるのはお父様、お母様への称賛、憧れ、そして、嫉妬。
どうやら、お父様とお母様は社交界で大変人気があるらしい。らしいと言うのは、僕がお父様とお母様と社交界に出た事がなかったので、知らなかったと言う意味だが、確か、以前1人で参加したパーティで周りの人がお父様によく似た僕を見て残念だと言っていたのを思い出した。
この国の貴族階級は王族の下に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続くのは他国と同じなのだが、他の部分が他国とは異なり、公爵は前王の子供である王子様、要は今の王弟の家のみ。侯爵は更に一つ前の王の前々王の子供であり、前王の王弟の子供達がなる。そして、伯爵より下は他の貴族達がなる。貴族自体が元々王家から枝分かれの様に出来ているので、公爵や侯爵はとても少なくなっている。
そんな僕のお父様は前王の王弟であるお爺さまの息子なので、侯爵だ。このシステムは王家から離れていくにつれて階級が下がる。王家直属の家は功績があると侯爵で止まり、功績がなくても伯爵でとまり、それ以上下がることはない。
こんな話をしてしまったが、実際問題、僕は三男なので、あまり関係がない。前回は、1人残された僕が伯爵になったが、今回は兄様のどっちかがこの家を継ぐ際に功績があれば、侯爵のまま継げるし、功績がなければ伯爵となると言うことだけである。
お父様とお母様が挨拶回りをしている間、僕とリュヌは他に子供達がいるところで交流を深めておいでと言われたので、僕はリュヌを連れて子供用のケーキやお菓子、料理が並んだ先は向かった。
リュヌと一緒に、何を食べようかと議論していると、突然誰かが抱きついてきて、大きな衝撃に転倒しかけた。
「エ〜ル!手紙の伝えは本当だったのね…、私、貴方が倒れたって聞いて心配で心配で!ぐずっ、居ても立っても居られなかったから、この夜会に急遽出席することにしたのよ!」
そう言って僕に抱きついてきたのは、僕の婚約者であるニーアム・ポーレット公爵令嬢だ。彼女は僕の婚約者であり、再従兄弟。シャンデリアの光を反射するブロンドの髪は金の糸の様で、暗い紫の瞳はまるで夜明け前の暗い時間を思わせる。そんな、彼女は父親は王弟で、北の大地に大きな領を持ち、そこの領主として、国を支えている上、その北の領地は王都を除くと国1番の栄えている都市であり、彼女には僕という婚約者がいながらも、婚約の話が尽きないのだとか。
ぶつぶつと語ってしまったが、現在の僕には悠長に考え事をしている暇はなく、足はガクブルだ。
「ニア!急に抱きついたら危ないだろう?」
僕は抱きついてきたニアの衝撃に驚きながらも転倒を阻止する為必死に耐えた。ただし、こういう時は紳士として顔に出してはならないとお母様に常日頃から言われているので、足はプルプルしているが、至って何も無いといった顔でやっている。
「だって、だって、エール、お父様と同じ髪色が大好きだったのに、こうなってしまって、私、どうしたらいいか、グスッ、私はっ、エールの髪の色が変わっても、どんなになろうと大好きな気持ちは変わらないわ!そのこと、絶対に忘れないでいてね?」
ニアは僕の手をぎゅっと掴み、瞳を潤ませながら、縋る様に言った。その瞳に映る自分を見て再び二度とあんな目にには合わないと決意する。二度と、この婚約者を悲しませてはならないと。
前回の1番の心残りは彼女だ。前回もニアとは婚約者同士で、2人の仲は良好だった。勿論、今回もだ。だけど、前回は良好だった2人の関係はあの日変わってしまった。きっと、事件の後会った僕の目は淀み、何も映していなかったんだろう。時間が傷を癒すと言うが、それは癒すのではなく痛みに慣れ、忘れさせるのだと僕はその時初めて知った。前回、ニアは僕がどうなろうと一緒にいてくれた。あの時、僕が死ななければ、彼女とは後一年で夫婦になっていた。
前回の彼女の口癖は『私はいつでも貴方と一緒です。そのこと努努忘れないで下さいませ』だった。
家族が殺されてからの僕は見るも無惨なものだっただろう。だけど、彼女だけは僕を決して見捨てず、一緒にいてくれた。だから、彼女となら生きていけると思っていた。そんな矢先、僕は死んだんだ。だからこそ、僕は彼女を今度こそ絶対に幸せにする。
そんなことを考えながらふと顔を上げると、リュヌが困った様にこっちを見ていたことに気がついた。
「ああ、ニア、彼が僕の従者のリュヌ。リュヌ、こちらが僕の婚約者のニーアム・ポーレット公爵令嬢だよ」
リュヌはニアの存在は知っているものの、実際に会った事はなく、主人に抱きついていること女性は誰なのだと思ったに違いない。その想像は当たっていた様で、リュヌはおずおずとニアの前に出てきて自己紹介を始めた。
「リュヌ・オルレアンと申します。先日よりエール様の従者を務めさせてもらっております。長い付き合いになると思いますので、何卒宜しくお願いします」
そう言ってリュヌはニアに頭を下げた。
「私はニーアム・ポーレットと申します。こちらこそ宜しくお願いしますわ。長い付き合いになりそうね。これから宜しくリュヌ」
ニアの方は慣れた様に自己紹介をし、優雅に微笑んだ。
3人で談笑していると、さっきまでザワザワと挨拶回りをしていた貴族達が大人しく立ち止まり始めた。
「あ、そろそろ王族の入場が始まるみたいだよ」
僕がそう言うと同時に扉が開かれ、皆頭を垂れた。
『頭を上げよ』
陛下の低音の声が頭に響いた。
『今晩は遠路はるばる大儀であった。存分に楽しんで行ってくれ』
そう王が言うと、貴族達は待ってましたかと言わんばかりに王座の前に列を成し、王族への挨拶を始めた。
これは入場とは逆で爵位が上のものからと決まっている。なので、僕よりも爵位が上の父親を持つニアと別れ、リュヌとお父様とお母様の元へと向かった。
次回から事件になります。