終章は新たな話の序章に過ぎない
お待たせしました(^ ^)
廃城を火が覆ってから然程時間が経たないうちに救助がやってきた。と言っても、勿論来た大人たちは火を消すために来たものだから僕らを見て慌てて騎士団や消防、廃城の地主などに連絡を取り、医者や行方不明だった子供達の保護者を呼んだ。
火は元から僕が微力な魔力で出してる上、範囲を狭めて放ったため、そこまで火力がなくあっという間に鎮火された。そして、地下にいた奴らも呆気なく騎士団に捕まり、手錠をかけられ連れて行かれた。
誘拐された子供達はと言うと、みんなちゃんと自分の親に会えたらしく、親に会えて緊張が解けたのかみんな大泣きしている。斯くいう僕もその1人だ。流石に、他の子供達の様に泣いたりはしないが、僕がいない事に気づき、落としたボタンを見つけ、誘拐に気付いてくれた私兵が、速やかに報告してくれたお陰で、しっかりとお父様とお母様と再会することが出来た。
しかし、その子供の中に1人だけ親の迎えがなく、立ち尽くしている子供がいた。その子は、他の子供達を羨ましそうに遠目で見ていた。
僕はお父様とお母様に了承を得て、彼に近づいた。
「君だけ保護者が来ませんね。住んでた場所は分かりますか?」
先程まで怖い思いをしていたのに知らない大人に話しかけられたら萎縮してしまうのではないかと、騎士団の人達も通報より1人多い誘拐された子供に困り果てていた。なので、僕は同じ子供であってついさっきまで共闘していた、少しは知っている人間の方が話しやすいかと思い話しかけた。
彼の伏し目がちな菫色の瞳の上では髪の毛と同じアッシュグレーの長いまつ毛が揺れていた。何処か消えそうで儚い彼は、2人で闘った時とは真逆の人間の様に萎らしかった。
「お、俺は…、俺には家族はいない。…誘拐される少し前に、家族が乗ってた馬車が賊に襲われて。だから、俺に帰る場所はっ…ない」
彼の顔は歪み、今にも消えそうな、それでも絞り出す様に出した声は震えていた。何故彼が1人だけ生きているのかは僕には分からない。しかし、その強く握りしめた拳が、家族を失った悲哀、1人生き残ってしまった事への悔しさや寂しさを物語っていた。
ここで普通の人ならなんて言うだろうか。きっと、耳障りのいい言葉を並べて慰め、励ますんだろう。だけど、きっと彼には慰めの言葉も励ましの言葉も必要ない。
家族が殺された事のある僕になら分かる。慰められたって励まされたって気は晴れやしない。耳障りのいい言葉は返って自分に自分を責めさせてしまう材料になりかねない。だから、僕は彼を慰めないし、励まさない。
僕は一歩前へ出て、右手を彼に差し出した。
「僕の家に来ないかい?」
ただ一言、居場所を与える言葉を。君は生きていていいんだと分かる様な言葉を投げかける。
少年の菫色の瞳は大きく見開かれ、光を当てたアメジストの様に煌めいていた。
「…えっ、俺を家に置いてくれるの?」
そう僕に聞いてから、ハッとした様に彼は目を伏せた。きっと、自分の聞いた言葉が現実味を帯びないと思ったのだろう。
「ええ、君は僕の命の恩人です。早速、恩を返そうかと。ただし、使用人としてです。勿論、これから一生衣食住を提供してあげられる訳ではありませんからね。ですが、うちで働けば衣食住を保証しますし、給料もちゃんと出します。どうしますか?」
そう言って、僕はまた右手を差し出した。一方彼は、僕をチラチラ見ながら考えている様だった。きっと、僕が信用に値する人間なのか見極めているのだろう。しかし、3度目に考える様な仕草をした後、意を決した様に彼は僕の手を握った。
「君はきっと嘘をついていない。俺が止めたのに、他の子を自分が犠牲になるのを厭わずに助けた。その君の正義感を信じるよ」
僕の手を握った彼の目は、先程の何処か迷いのある儚いものではなく、決意を示した強い光を宿していた。
「今更だけど自己紹介を。僕の名前は、エール・バーリントン。バーリントン侯爵家の三男だ」
自己紹介をすると、彼は再び菫色の瞳を大きく見開いた。
「…いやっ、おっどろいた。まさか、あの有名なバーリントン侯爵家の三男だったのか。俺の名前はリュヌだ。リュヌ・オルレアン。父は領地なしの男爵だったから一応貴族令息だよ。領地がないから継承とかなかったし、貧乏だったから使用人とかもいないから、一文なしで途方に暮れてた時に誘拐されてんだ。これからよろしくお願いします。エール様」
そう言うと、リュヌは僕に頭を下げた。
「ええ、よろしくお願いしますね」
こうして僕らは月の下で出会うべくして出会ったのだった。
その後、僕を迎えに来た両親にリュヌを紹介し、僕の従者にする事にしたと宣言すると、2人は元から僕に従者を付けようと思ってたから都合がいいと、快くリュヌを家へ迎え入れた。
騎士団の人達に何があったのか聞かれたが、魔法を使えるのが知られるのは得策では無いと思い、よく分からないと白を切った。そのせいか、少年誘拐事件は少年趣味が子供を誘拐し、魔術士が魔術を暴走させバレてしまったという筋書きで幕を下ろした。
しかし、捕まった魔術士は自分はやっていないと証言をしたが、魔法主の事を話せないようになっていた為、魔術士が魔術を暴走させたという事にされてしまった。それ故に、釈然としない終わり方だったと当時の騎士団員は証言している。
ある日の昼下がり、僕とリュヌはお母様に呼ばれて、応接間にやって来た。それは、リュヌがうちに来て約1ヶ月経ち、やっと暮らしに慣れてきたと思っていた頃だった。
「エール、それにリュヌ、今度の社交期に王宮で夜会が開かれるの。2人には私とイーサンと一緒に出席してもらうわ。勿論、リュヌはエールの従者としてよ。でも、2人とも社交期は初めてでしょう?だから、今日からレッスンよ!」
そんな、お母様の発言が僕らをどう左右するか、この時の僕らは何も知らない。
両親がエールに従者を付けようと考えたのはその誘拐があったからなので、付けようと思った直後に従者が付いた形になります。