プロローグ
僕が一体何をしたと言う?これは何の罪によっての罰だ?
薄汚い牢の中、鎖に繋がれた足を見ながら何度目か分からない問いを己に言い聞かせた。勿論、答えなんて出るはずもなく。
この世界はいつでも残酷で、残虐で、幸せなんて一瞬で過ぎ去ってしまう。
そう、気づいた時にはもう幸せなんて何処かへ消え去り、僕を惨めにさせる。
思い出すのは家族みんなで過ごした幸せなひと時。
そして、残酷な世界。
人間、幸せな時の記憶より不幸な時の記憶の方が鮮明に残ると言うが、まさにその通りだ。
綺麗な屋敷、暖かいベッド、美味しい食事、家族の笑顔。これらの記憶は儚く脆く、繊細で、一瞬別の事を考えただけで吹き飛ばされそうで。その上、薄く、ひどく曖昧だ。
それなのに鮮明な記憶はどれも残酷で卑劣だ。
燃える屋敷を走る僕、血を流し生き絶える両親、廊下には沢山の使用人の死の跡。布の隙間から見える目、冷たくて暗い檻、其処ら中に散らばっている腕や足、肉が灼ける臭い、感じたことのない熱さ、耳を塞ぎたくなるような呻き声や叫び声。
僕の記憶はどこを取っても最悪で、忘れてしまいたいものばかりだ。
そして、何故僕はまたこんな場所に戻ってきてしまったのだろうか。
僕が一体何をしたって言う?これは何の罰だ?
こうして、また己に問いかける。終わりのない問いを。
僕はあの日からずっと不幸の連続だ。
そう、10年前のあの日から。
遠くからコツコツと音を鳴らす革靴は徐々に音を大きくし、音は僕の目の前で止まった。
そして、ギイと音を立てて錆びた牢の扉が開いた。
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