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トドメだイケメン化計画『ロマン編②』





 たとえ異世界転生特有のチート能力がなかろうと、それはそれ。これはこれ。


『お前の見た目が嫌だ』なんて理由で、エドには色々と頑張ってもらっているのだ。

 否応がなくそれを毎日見続けてきた以上……私だって、出来ることがあるなら手伝いたい。


「ようは、バレなきゃいいんだよね」


 それで目を付けたのは、兵士さんたちの甲冑だった。

 鎧で体格も誤魔化せ、兜で顔も隠せる。そして堂々と一緒に剣術を学んでもおかしくない属性。

ショウの助言通り、下手な小姓とかをチョイスして隠し通せるようなチート変装テクニックはないからね。外出したとしても、基本家と病院の往復しか出来なかった前世では、化粧すらまともにする機会なかったしね。下手な鉄砲は撃たない方がいいに決まってる。


 ――ということで、フルメットの完全装備を決め込むべく、兵士さんたちの休憩室にこっそり忍び込んでみたというわけだ。


「く、臭い……」


 木製質素な長テーブルと、長椅子と、端にいくつも置かれている木箱がロッカー代わりだろうか。漫画で見かける運動部の部室をファンタジーにアレンジしたような部屋には、何とも言えない異臭が充満していた。


 うん、なんだろうね。この臭い。汗臭いというかイカ臭いというか。盗賊たちの洞窟に似た臭いがする。不快です。


 だけど「我慢、我慢」と言い聞かせて、木箱を開けようとした時だった。


「何をしている⁉」

「え?」


 突如背後から掛けられた男の声に萎縮し、どうしようと振り向かずにいると、肩をガシッと掴まれる。


「このコソドロめ!」


 どこをどうされたかわからない。だけどただ腕が痛くて、悲鳴を上げかけると、


「リイナあああああああああ!」


 そこからは、もっと訳がわからなかった。

 エドに呼ばれる声が聞こえた――そう思った時には、もう痛くも何ともなくて。ようやく振り返れば、大男が王子に投げ飛ばされている瞬間だった。一本背負い。実際にそうだとわかって見たのは漫画のみ。だけど素人目から見ても、それは綺麗な技だった。


「リリリリ、リイナ! 大丈夫?」


 背中を床に打ち付けられた大男――格好からして兵士さんの一人だろう。彼が目を白黒させていることなんか厭わず、白い子白豚みたいな王子が私に詰め寄ってくる。


「怪我は? 大丈夫? どこも痛い所ない?」


 近い近い。木箱があってこれ以上下がれないんだから、転んじゃうってば。


「医務官呼ぶ? 動悸は? 目眩はする? 熱とか出てない?」

「ええええええエド? 落ち着いて? 私大丈夫――――」

「君のことを襲おうとするなんて……安心して。もうこの男は二度と明るい所を歩けないようにきちんと処罰を下して――――」

「待って待って待って! 本当に待って‼」


 ひとりヒートアップするエドの服を掴んで揺さぶると、彼が異様に優しい笑みを浮かべながら、私の手に手を重ねてきた。


「大丈夫だよ。君に傷を付ける僕以外の男なんて、きちんとこの世から抹消するからね」

「だから本当に待ってください全部私が悪いんですううううううう!」


 微妙なニュアンスの違和感を気にする暇もなく、私が泣き叫ぶこと、体感十分。

 それは、エドに事情を説明し、納得してもらうまでにかかった時間だ。





「そういうことなら……すまなかった。僕も早計だった」


 溜飲を下げたエドが振り返ると、その間ずっと座り込んでいた兵士さんが目をキラキラさせていた。


「と、とんでもございません! むしろありがとうございました! みんなに自慢できます!」


 え? なんで? なんか話の展開おかしくない?


「そんな大袈裟な」

「いえいえ! エドワード王子に手合わせしていただいたと思えば……今日のことは一生忘れません!」


 いやいやいや。仮にも王子とはいえ、勘違いで投げ飛ばされて一生の思い出とか、どれだけ子白豚のファンなのよ。Mか? それとも超白豚好きか? 白豚マニアか?


「……ねぇ、リイナ。なんかすんごい顔しているけど、どうしたの?」

「理解しない方がいい性癖を覗いてしまった気がして」


 エドが明らかに疑問符を顔に浮かべると、説明し始めたのは兵士さんの方だった。


「リイナ様はご存知ないのですか? 王子は武芸の達人なんですよ⁉」


 その眼差しには興奮の色がありありと浮かんでいる。それはエドが「ちょっと」と制止させようとしても、止まらない。


「噂では、剣術を学んでいた幼少期の王子に想い人が、『武器なんて人殺しの道具だ』と言ったことがキッカケだとか。国内外問わず体術の師範を呼び、鍛錬に鍛錬を重ね……今ではあらゆる武芸家たちに一目置かれるようになったんですよ! リイナ様も安心ですね! 王子のそばにいれば、身の安全は保証されたと――――」

「――今度、ゆっくりと手合わせしてあげるから」


 コホンと咳払いして。エドが少し声を張って告げると、兵士はさらに目を輝かせた。


「ほ、本当ですか⁉」

「うん。だからとりあえず、この場はお暇させてもらえるかな。そして、今のことは決して他言しないこと。それが手合わせの条件でどう?」

「はい、わかりました! この命に懸けて、ここで見たことは二度と口にしません!」

「うん、宜しく」


 そしてエドは「それじゃあ、行こうか」と当たり前のように私の手を掴む。ズンズンと進みだした歩幅は、いつもより大きく。朝の散歩の時の、私の隣を歩くゆっくりすぎるペースとは大違いで。


 すれ違うメイドさんたちにエドが「ご苦労」と声を掛けると、「ありがとうございます」と私たちに返ってくる。その視線が異様に温かい。


 だけど、人気のない通路で立ち止まったエドの笑みはいつもと違って見えた。


「さっきの話ね……今も昔も、僕の想い人はリイナのことだから」


 口調も、言葉も、いつも通り優しかったけれど。


「だから、君の心変わりには驚いちゃったけど……これからは剣も練習するから、少し待っててくれる?」


 笑顔で離された手に残ったのは、痛みだけ。

 その笑みに、いつもみたいな温かさを感じることが出来なくて。


「私の方こそ……早計な行動をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「別に気にしていないよ。僕のために色々してくれようとしたんでしょ? ありがとう。その気持ちがすごく嬉しいよ」


 私が昔からの『リイナ』でないとバレたのなら、彼はどう思うのだろうか。

 怒るのだろうか。悲しむのだろうか。嘆くのだろうか。


 それでも、誰も通らない薄暗い通路の隅っこで、


「僕は、頑張って君の好みの『いけめん』になるから……これからもよろしくね」


 キラキラ輝く金糸の髪。色白の肌にも大きなトラブルもない。痩躯とは言えないけれど、だいぶ引き締まってきた長身の王子が跪いて。


 その瞳は前髪に隠れて見えないけれど、私がひっそりと擦っていた手を取って。

 その甲に口づけして。


「僕のリイナ」


 と、私に向かって微笑むエドワード王子に、私の胸はドクンと高鳴る。


 それがときめきなのか、罪悪感なのか。私には判断することが出来なかった。





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[一言] 武術の達人がどうして白豚に!?(笑)
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