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【コミカライズ開始】白豚王子をプロデュース!~もしかして私、チョロインですか?  作者: ゆいレギナ


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20/30

急展開だよイケメン化計画『再会編』





 長いようで、短い。そんな一ヶ月。


『明日から帰路につきます。早くリイナに会いたい』


 そんな手紙を最後に、エド王子からのラブレターは途絶えた。さすがに机をいつまでも山にしておくわけにもいかないので、アルバムに一つ一つしまって。図鑑のような分厚い本が完成して、無駄な達成感があった。それはきちんと、机の本棚に入れてある。


 結局一度も返事を返せなかった私は、せめてものお詫びにと、彼を出迎えたいとお父様に申し出た。

 そしてお父様の言い回しの結果、彼の私室に通されるな否や――――


「リイナ!」


 一足早く帰ってきていたエドワード王子に、開口一番抱きしめられていた。


 髪の毛がくすぐったいです、エドワード様。

 以前ほどじゃないけど少しだけ汗臭いです、エドワード様。

 くんかくんか私の臭いを嗅がないでください、エドワード様。


 どれを言おうか悩んでいる間にも、彼は「リイナ、会いたかったよ。リイナ」と何度も何度も私の名前を呼んで。


「あの……恥ずかしいです……」


 私がなんとか言葉をひねり出すと、


「大丈夫。僕は全然恥ずかしくないから」


 なんてことを言い返された。いや、その返答おかしくないかい? 私を案内してくれたメイドさんの方が「では、ごゆっくり」と苦笑しながら扉を締めてくれたくらいだ。ありがとう、メイドさん。お願いだからこのことはご内密にしてね。もう諦めてはいるけれど。


 エドの部屋はあまり広くなく、とてもシンプルだった。元はあのデブ白豚だったのだから、部屋も散らかっているのかと思えば、ベッドと執務用であろう机と本棚と。簡単にお茶が飲めそうなテーブルと椅子くらいしかない。本や書類もきちんと整理整頓されており、調度品は一つすらなかった。もちろん最低限の家具はどれも一級品ぽい雰囲気ではあるけれど、それでも不摂生をしていた王子の部屋あるまじき簡潔さ。


 そんな部屋で、エドは私を抱きしめたまま、踊るように回り出す。


「ねぇ、リイナ。もっと僕にリイナを見せて。結局一回もリイナの夢を見れなかったから、もうリイナ欠乏症で辛くて辛くて。思い出のリイナだけじゃ全然足りなくて、もう何度公務すっぽかして帰ってこようかと――――」

「こ、こんな至近距離だから、み、見れないのでは⁉」


 永遠に続きそうなエドの愚痴にかろうじて割って入ると、彼が「それもそうだね」と苦笑して、ようやく私を離してくれた。


 だけど、私はすぐにそれを後悔する。

 ジッと上から下まで、熱い視線を向けられて。まさに穴が空くほどじっくり見られ。居ても立っても居られない。


 一応……あくまで一応久々に会うからと、私の気合いを入れてきたのだ。そうと言っても、いつもメイドさん任せだった洋服を自分で選んで、ちょっとだけいつもより長くお風呂に入ってきて。いつもしてもらう化粧に、少しだけ口出ししてみて。前にエドと植えた花を髪に刺してみて。


「ど、どうですか……?」


 おずおずと尋ねると、王子は「ふふふ」と笑う。


「すごく可愛い。恋い焦がれていたリイナよりもっとずっと可愛い。その花、僕と一緒に植えたやつ?」

「そうです。昨日一輪だけ取ってきたんですけど……よく気づきましたね」

「当たり前でしょ? 僕はリイナのこと何でもわかるんだよ?」


 また一歩間違えたらストーカー発言を……なんて内心呆れていると、エドの笑みが深まる。


「だから隠さずに教えて欲しいんだけどさ」


 私が何気なく首を傾げると、エドは言った。


「君は、あの見習いシェフのことが好きなの?」

「はい?」


 聞き返しながら、気がついてしまう。いつもの優しい星のような眼差しが、ひどく冷たいことに。


「ふふ。その顔は誰のことか検討がついているみたいだね」

「えーと……ショウさんのことですよね?」

「ふーん。さん付けなんだ?」


 今は同世代みたいだけど、前世では圧倒的年上みたいだからね――なんて言えるわけもなく。私が黙っていると、エドは笑みを崩さないまま話した。


「僕のいない間、内緒で君に護衛をつけてあってさ。彼からの報告によれば、頻繁に会っていたそうじゃないか。どういうことか、説明してもらえる?」


 護衛といえば聞き覚えはいいが、それって監視なんじゃ……。


 だけど、揚げ足取るようなことを言える雰囲気ではなく。震える拳を握りしめ、私は口を動かす。


「どういうこともなにも……普通におやつを食べながら、お喋りしていただけです」

「彼の作る料理、とても気に入っているみたいだよね。胃袋掴まれちゃった?」

「……その言い方、悪意を含んでいませんか?」

「まさか! 僕がリイナを傷付けるようなこと、今まで言ったことあった?」


 大袈裟に手を広げるエドに、私は首を横に振る。いつも私を思いやるような優しい言葉しか、私はかけられたことがないから。


 それでも……だからこそ、今彼が怒っていることが一目瞭然なのだ。


「エド。聞いて下さい。ショウさんとは何も――――」


 だけど、彼の勘違いを言うよりも前に、私の唇は彼の人差し指で押さえられてしまう。 


「今は僕が聞いているの。ねぇ、リイナ。本当のことを言ってくれていいんだよ? リイナと彼は同類なんだから、息が合うことも多いと思うんだ。同じ境遇だから苦労も分かち合えるだろうし。悩みを共有するたびに、リイナが勘違いしちゃうこともあるかもしれないけど……」


 フニフニと、彼の指差しが私の唇を弄ぶ。その恥ずかしさと彼から出てきた言葉が、私の頭を混乱させた。


 同類? 同じ境遇?


 その単語に「まさか」と思い当たることを、私は口にすることが出来なかった。


 私が霊人……異世界転生者だとバレてしまったのなら。

 私が『リイナ=キャンベル』ではないとバレてしまったのなら。


 彼からもう、愛情を受けることが出来なくなってしまうから。


「でもね、リイナ。忘れちゃいけないよ」


 私の震える唇を、エドがそっと親指で撫でた。


「君は僕の婚約者。その髪の先から足の先まで、君の全ては僕のモノなんだ」


 エドが笑みを浮かべたまま、私をトンッと軽く押す。後ろにはちょうどベッドがあって。ぽすんッと尻もちを付くと同時に、私はエドに押し倒されてしまっていた。


「それなのに、僕へ手紙一つ返さず、他の男に気安く頭とか触らせるんだもの……僕、もう我慢出来なくなっちゃった」


 彼の顔がゆっくり近づく。嫌悪感なんて一つもない。私が育てた、理想を超えた王子様とのキスを、拒否る理由なんて一つもない。


「ねぇ、リイナ。『いけめん』も閨事はキスから始めればいいの?」


 彼の顔がゆっくり近づく。嫌悪感なんて一つもない。私が育てた、理想を超えた王子様とのキスを、拒否る理由なんて一つもない。彼の吐息がかかり、私の目を閉じて、いよいよという時、


「やめて」


 私は思わず、顔を背けていた。

 なんだか怖くて。いつものエドじゃなくて。私の罪悪感がそんな彼を拒んで。


 とっさに出た否定に「しまった」と気付くよりも前に、エドは離れてしまっていた。


「そっか……そうなんだね」


 はははっ、と彼が乾いた笑い声を発する。


「わかった。もういいよ、リイナ」

「エド、聞いて! 私は本当にエドのことが――――」


 私は立ち上がり、彼の左手を掴む。その上から彼の右手が優しく触れたと思いきや、


「ごめんね、リイナ。もう帰っていいよ」

「私が悪いの! 今はちょっとビックリしただけで、私は――――」

「王子の僕が帰れって言っているんだ。その意味、わかるよね?」


 真顔で発せられた言葉と、剥がされた私の手。


 ――あ、ダメだ。


 思い知らされる。何を言っても、私の言葉は届かない。


 ――あ、違う。


 だけど、すぐに思い直す。始めから、私は彼に想われる資格がなかったのだ。


 私は器だけ『リイナ=キャンベル』の、住む世界もまるで違う赤の他人なのだから。

 こんな素敵な人に恋をして。優しくしてもらえただけ、死んだ後の素敵な夢物語だったのだ。


「わかり……ました……」


 本当は「夢を見させてくれてありがとう」と感謝と述べなければならない。

 本当は「今まで騙してごめんなさい」と謝罪をしなければならない。


 でも私が『リイナ=キャンベル』じゃないと認めた時、本当にこの夢は終わってしまうから。まだその覚悟が全然足りていないから。


 ズルい私は俯いて、彼の横を通り過ぎる。

 せめてこの場で泣かないように。彼の好きな『リイナ=キャンベル』の流す涙で、彼が罪悪

感に苛まれないように。


 私は歯を食いしばって、優しい大好きな彼の部屋から立ち去った。






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― 新着の感想 ―
[一言] 突然の手のひらクルー(´Д⊂
[一言] おお!確かに急展開!
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