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【コミカライズ開始】白豚王子をプロデュース!~もしかして私、チョロインですか?  作者: ゆいレギナ


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19/30

ずいずいイケメン化計画『恋文編②』


「すごい! 本当に水羊羹だ!」

「きみ、結構食の趣味渋いよなぁ」

「同じ病室のお婆ちゃんがよくお裾分けしてくれてたの」


 些末な昔話をしながら、「なるほど」とショウがお茶を淹れてくれる。当たり前のように緑茶が出てきて、私はますます嬉しくなる。


「ありがとう! いただきますっ」

「召し上がれ」


 これまた雅な短い竹串で、みずみずしい小豆色の四角を刺す。プツッとした感触。それは濃厚な羊羹とは違い、水羊羹ならではだ。思わず口角を上げながら食す。あーもう言葉にならない。最高だ。和菓子万歳。


「美味いか?」

「言わずもがなです。幸せです」

「そりゃあ良かった」


 落ちそうな頬に手を当てると、ショウがクツクツと笑う。それがなんだか嬉しくて、私の口が思わず滑ってしまった。


「あー、本当に幸せ。ずっとこの時間が続けばいいのに」

「なんだそりゃ? そんなこと言ったら、王子様が拗ねちゃうんじゃないのか?」

「その王子なんだけどさぁ」


 まぁいっか。そんな気持ちで、私はエドからの猛烈なラブレターについて愚痴った。一枚一枚が重いこと。頻度が多すぎること。そして送料という名の無駄遣いが不安なこと。


 すると、ショウが大笑いしだす。


「送料? 御令嬢がチンケな心配してんなぁ」

「いや、でも大事でしょ? 日本みたいに切手貼ってポストにポイッじゃないだろうし。隣の国って、馬車で三日はかかるって聞いているよ?」

「きみ、この世界の郵送事情知ってる?」

「そこまで勉強してないです」


 日々少しずつ本を読んだり、家庭教師に教わっていたりするも、所々抜けがある。

 だって、向こうは私が異世界の住人だなんて知らないのだ。この世界における知識が赤子同然だなんて思わない。この世の常識は、当然知っていると思った上で授業が進められる。


「家庭教師ついているんだろう? どんなこと勉強しているんだ?」

「マナーとか、各地方についてとか、男の人の喜ばせ方とか……」

「最後、なんて言った?」


 聞くな! 頼むから聞き流して!

 どうにも淑女の嗜みの一貫とやらで、貴族令嬢御用達の学問となっているらしい。その内容、推して知るべし。


「と、とにかく! なんか知りたいことを思うように教えてもらえないから、私も困っているの! 下手に中身が異世界人だなんてバレたら大変だし……」

「わかったわかった。そんな赤くなんなって!」

「う、うるさいやいっ」


 ショウの肩を押すと、彼がまたケラケラと笑う。私は常に笑われているような……。私がむくれていると、ひとしきり笑い終えたショウが言った。


「主要都市に、神殿っていうのがあるんだよ」


 その説明は、とてもわかりやすかった。


「その名前の通り神様を祀ってたりするんだけど、同時に転送陣っていうのが設置されていてな。その陣がある所同士だと、特殊な魔法で空間転移ってのが出来るわけ。安全性の問題で人は転移できないらしいけど」

「よくある異世界転生のチート能力的な?」

「先人の『霊人』様にそんな魔法使える人がいたんじゃないか? 実際にそこまで万能じゃないが、俺の知り合いでも短距離の瞬間移動ができるやついるし」

「え? 他にも転生した人知っているの?」


 ショウは元盗賊だし、魔法が使える貴族の知り合いはいないだろう。

 そう思って訊くと、彼は「あー」とこめかみを掻いた。


「いや……あいつは普通にここの現地人ってやつだな。没落した貴族が盗賊まで身を落とす……なんて、いかにもファンタジー世界じゃないか」

「それはそうだけど……」

「まぁ、ともかく詳しい歴史まで俺は知らん。気になるなら、適当な理由つけて家庭教師にでも聞いてみな」


 ショウが言うことはごもっともだが、私はモグモグしながら口を尖らせる。


「その適当な理由付けがいつも難しいんだけどなぁ」

「まぁ、頑張れ」


 気のない応援のち、ショウもお茶を一口飲んで、


「首都ではその装置、一日三回起動されているらしい。それに毎回手紙を乗せているんだと思うぞ。城に定期連絡の書簡もあるだろうし、俺もたまにだけど、妹に手紙を出せるくらいの値段だ。王子としてもきみが思うほどの手間や負担じゃないんじゃないか?」


 しっかりと本筋に話を戻してくれる辺り、なんやかんや元はきちんとした大人だったんだぁ、なんて思ったりもして。そんな優しさに、私はいつも甘えてしまうのだけど……今、なんて言った?


「ショウさん、妹いるの?」

「おー。いるぜ。二個下のすっごく可愛い子」


 あ、なんかすっごく嬉しそう。これは間違いない、シスコンってやつだ。


「けどなぁ、かなり病弱で……でも本当にいい子なんだぞ! 辛いのは自分だろうに、いつも健気に俺を気遣ってなぁ。別に俺、盗賊のこととか何も言っていないんだぜ? ただ出稼ぎに出ているだけ。城で採用されたのも、料理の腕が見込まれてって伝えてあるのに……それでも未だに、体調の波を縫って、俺に負担かけないようにって内職もしているんだぜ」

「……治らない病気なの?」


 前世の自分を思い返して、私も最悪のケースを覚悟しながら聞くも、


「いんや。もうすぐ治る」


 と、それはアッサリ返ってきた。


「もうすぐな、特効薬が手に入るんだ。すごく希少で高価な代物なんだけど……もうすぐそれが手に入る」

「なーんだ」


 思わずそう答えると、ショウはふてくされてしまった。


「なんだとはなんだよ! ここまで来るのにすごく大変だったんだぞ⁉ 好きでもない盗賊なんかと手を組んで、チマチマと金を稼いで……仕送り分と合わせて、俺がどれだけ――――」

「あはは、ごめんごめん! そういうつもりじゃないんだけど」


 そう――決して馬鹿にするつもりなんてない。

 ただ、ちょっと羨ましいなと思っただけ。治って、こんなに優しいお兄ちゃんを喜ばせてあげられるその妹ちゃんに、嫉妬しただけ。


 私は、喜ばせてあげられなかったから。

 高い治療もたくさん受けさせてもらって。それでお父さんもお母さんも、いつも古い服ばかり着て。そんな苦労させても、私は最後に悲しませただけだったから。


 だけど、同時に安堵もした。私みたいな親不孝者は、どの世界でも私だけで十分だ。


 まぁそれを……わざわざショウさんに話して、同情してもらいたいわけじゃないからね。

 私は楽しく水羊羹を食べたいから、今の我ながらどうしょうもないお悩み相談を続けるよ。


「そんなことよりもエド王子よ! お財布問題は安心したけど、さすがに書きすぎじゃない?」

「まったく……でも、返事送らなくて大丈夫なのか? さすがの王子も拗ねるんじゃないのか?」

「毎回毎回『お返事ください』的なことは書いてある」

「一通くらい送ってやればいいじゃないか。字は書けるんだろう?」

「それは大丈夫そうだけどさ」


 懐かしい物を食べて。からかわれては拗ねて。愚痴を吐いて。


「でも内容が……あんな甘言になんて返したらいいのか……」

「それこそ『わたしもエドのことが大好きです♡』だけでも喜ぶと思うぜ」

「なっ、そんなこと⁉」


 自分から要求したラブレターの返事が、恥ずかしくて書けない。そんな相談、本当に面倒だと思うけど、


「なんでそこで赤くなる。朝っぱらから堂々と叫びまくっていたじゃないか」

「それはそれ。文字にすると尚の事恥ずかしいと言いますか……」


 いつも笑って、その大きな手で私の頭をポンポンと撫でてくれる。


「あーもう。水羊羹食べちゃいなって。俺の分もやるから」

「……うん」


 そんなショウさんとの時間が、私は好きだった。

 エドと過ごすのとは違う、穏やかな時間。もちろん、エドと過ごすのが嫌なわけじゃない。だけど、心臓に悪いから。喜んだり、恥ずかしかったり、悲しくなったり。


 もう抜け出せないのはわかっているけど、沼の中で一喜一憂し続けるのは大変だから。

 たまには質素に塩むすびを食べたくなるような、そんな感じ。


 暑くなってきたというのに、今日も小鳥がチュンチュンと囀っている。


 でも、ちょっと待てよ? 前々からショウはお兄ちゃんぽいなぁ、思っていたけど、本当にお兄ちゃんしているのか。うわぁ、すごいぞ私のお兄ちゃんセンサー。


 少女漫画によく出てきたお兄ちゃんズ。一人っ子の私は何度懸想を抱いたことか。今となりにいる人物は、まさに理想のお兄ちゃん。改めて、妹ちゃんが羨ましいぞ!


「そういえばさ、こないだやったスイートポテト大丈夫だった?」

「お土産でももらったやつ? どうして?」

「あのあと俺、腹を壊してさ」

「えっ⁉」


 余ったのを貰って帰り、夜食に一人で平らげたのは記憶に新しい。でも翌日も何も問題なかったので私は「大丈夫」と頷く。するとショウはまたケラケラと笑った。


「そうか! まぁ、馬鹿は腹も強いっていうしな!」

「それ違う! 色々と違う!」


 んん⁉ やっぱりこんなお兄ちゃんいたら大変なのか?

 いつか妹ちゃんに会える機会があったら聞いてみたいなぁ……そう考えながら食べる水羊羹は、私の喉をツルンと通っていく。






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― 新着の感想 ―
[一言] 王子もショウとの時間は邪魔しないんだねー。
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