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【コミカライズ開始】白豚王子をプロデュース!~もしかして私、チョロインですか?  作者: ゆいレギナ


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本番だイケメン化計画『パーティ編①』





 夜色のドレスが広がり、星がまたたく。

 とても素晴らしいドレスだと思っていた。こんなかわいい美少女が、こんな美しいドレスを着たら、誰もが振り向くくらいとびっきりのヒロインになるのだと思っていた。


 だけど、私の足は竦む。私なんて、大したことなかった。


 本当に花みたいに綺麗な人がゴロゴロといて。胸が大きい人。モデルみたいな人。人形のような人。芸能人みたいな人たちが、みんなこれでもかと着飾って。


 『リイナ=キャンベル』は可愛い。だけど綺羅びやかなパーティー会場に一歩入れば、烏合の衆。しかも他の人たちは、ただそこに立っているだけでも華があるのだ。姿勢のせいか。小さな所作が美しいのか。内面から溢れる気品か。そのどれもが、私には足りないもの。


「リイナ。あそこ」


 私に腕を貸していたお父様が、小さく指した先には人集りが出来ていた。


 そこには、会場内でもさらに目を引く美男美女が集まっていた。カクテルグラスを片手に、談笑をしているようだ。その中心にいた人物が、ふとこちらを見る。


 サッパリとした金髪だけに飽き足らず、その凛々しい瞳もキラキラと輝いていた。一見白いタキシードのようにも見える服には、ところどころ濃紺のライン。それにより彼の若々しさが引き立っているように見えた。


 爽やかで、男性なのに美しくて。そんな人が、私にとろけるような笑みを向けてくる。


「リイナ!」


 さり気なく彼の腕に触れていた美女の手を振り払って、彼はまっすぐ私へと歩を進めてきた。


 早鐘のように心臓がうるさい。頭の奥が熱くなる。それなのに指先が冷たい。


 動けずにいた私の背中を、お父様が優しく押してくれた。 

 そして正真正銘の王子様が、私に両手を広げる。


「リイナ! 驚いた。すごく綺麗だ!」

「あ、あの……エドワード様……」

「あぁ、もう本当にビックリしてしまった。天使が舞い降りたのかと思ったんだけど……白いドレスを選ばなくて良かったよ。そうだったら天に連れていかれる所だった」

「えっと、その……」


 王子に会ったら、なんて挨拶するべきか。

 令嬢としての最低限の礼儀として、一応勉強はしてきたつもりだったのだけど――――鼻息の荒い彼は、口を挟む暇さえくれない。


「ねぇ、リイナ。本当可愛い。この場の誰よりも可愛い。世界中で一番可愛い。ねぇ、もっと見ていい? 前も後ろも右も左も全部見ていい? あぁ、でもこれ以上他の人にリイナを見せたくないな。この際だから、このまま部屋に連れ帰ってもいいかな? 僕だけのリイナにしてもいい? しちゃってもいいよね?」

「エドワード殿下」


 大きめの咳払いが会場に響く。私の半歩後ろの立つお父様が、いつも以上に鋭い視線をエドに向けていた。


「私も歳ですかな。耳が急に遠くなってしまったようで……もう一度仰っていただいても宜しいですか? 仮にも父親の前で未成年のリイナをどうしたいと?」

「キャンベル殿にはまだまだ世話になりたいからね。老けるのはもう少し待ってもらいたいな」

「では、せめて私が席を外してから、健全に口説いていただけますか」

「はは、善処はしてみるよ」


 そう挨拶とも呼べないやり取りをしてから、私の腰にエドの腕が回される。


「では、お借りしても?」

「えぇ、リイナを宜しくお願いします。殿下」


 そこに、私の意思はない。お父様から視線で「頑張れ」とエールを送られつつ、私はエドに誘導されるがまま会場の中心へと移動させられる。


 その間も、いつも以上に興奮した様子のエドの声は大きかった。


「わざわざ僕のために来てくれてありがとうね、リイナ。本当に綺麗だ。僕はこのリイナを見るために生まれてきたんだね!」

「さっきから大袈裟です……」


 ほらぁ、こっち見て来る女の人たちの視線が痛いー。私なんかよりも綺麗な人なんて山程いるじゃんかー。それなのに、彼は私のことしか見ない。


「そんなことないよ! 僕の目はリイナを見るためだけに付いているんだから!」

「よくもまぁ、ペラペラと出てきますね」

「まだまだ褒め足りないんだけど、リイナは謙虚だなぁ」


 いや、謙虚とかって問題ですかこれ?

 それでも、ここまで絶賛されると、たとえ嘘でも嬉しくて。

 ここまで喜んでもらえると、来た甲斐があったなぁなんて思えて。


 思わずはにかんでいると、エドが言う。


「具合はどう? 体調を押しての参加、大変痛み入ります。僕のために来てくれてありがとう、リイナ」

「え?」


 私は、彼に具合が悪いだなんて言っていない。実際に身体はどこも悪くなかったし、城に行かない理由だって「会わせる顔がない」と伝えてもらっただけだ。


 ――もしかして、お父様が気を使って?


 私とエド王子の仲がこじれないように、お父様が嘘を吐いた可能性はある。もしそうだとしたら、お父様のお気遣いを無駄にするわけにもいかない。


 でも、その嘘でエド王子に心配かけるのも忍びなくて。


 ――あああああ、お父様ごめんなさい!


 色々と葛藤した後、「そんなことない」と王子に告げようとした時だった。会場の優美な音楽が、一際大きくなる。気がつけば、ここはホールのど真ん中。そこで、エドワード王子が私の手に軽く触れたまま、跪いた。


「僕の女神よ、一曲だけで構わない。僕と踊ってくれませんか?」


 その真摯な目が、私だけを見上げている。私が思わずキョロキョロすれば、痛いくらいに周りの注目が集まっていた。それでも、エドに手を握られた痛みに視線を戻せば、彼は慈しむように微笑む。


 その優しすぎる笑みと、有無を言わさない手の痛みに、嫌でも察する。

 君は頷くだけでいい――――そう告げられているのだ、と。


「も、もちろんですわ」

「ありがとうリイナ。愛している」


 そのあっさりと付け加えられた一言に赤面しているうちに、エドは立ち上がっていた。流れるように腰に手を回してくる。


「無理しないで。僕についてくるだけでいいからね」と


 小さく耳打ちされると同時に、音楽に合わせてゆっくりと動き出した。


 それは、何度も何度もお花畑で練習したステップ。

 引きこもっていた一週間も、これだけは忘れないようにと何度も練習した足取り。それでも広いホールで踊るのと、周りに人がいるのとでは、色々と勝手が違うようだ。どうしても足がもたれてしまう。


「あ、すみま――――」


 エドの足を踏んでしまい、体勢を崩しかける。だけど、エドはしっかりと私を支えてくれた。そして最後まで謝罪の言葉を告げるよりも早く「大丈夫」とまた優雅に笑って。


 なぜか、周りからは感嘆の声が上がっていた。エドが完璧にエスコートしてくれているとはいえ、足を引っ張るだけの私のダンスが、上手いはずはない。


 それでもエドは曲が終わるまで、終始笑みを崩さなくて。

 優雅に私と踊る姿は、まさに素敵な王子様で。


 ようやく踊り慣れてきた頃は、曲ももう終盤。それでも気がつけば、私は彼の顔に見惚れてしまっていた。それに気が付いたエドが、嬉しそうに笑みを強める。それが嬉しくて、私も照れながら微笑み返した時、曲は止まってしまっていた。


 エドが私の手を離し、一礼してくる。私も慌ててお辞儀を返すと、周囲からは拍手が湧き上がった。


「素敵なダンスでしたわ」

「さすがはエドワード王子。不調なリイナ様のフォローもお見事でした」


 わらわらと集まってくるのは、先程エドを取り巻いていた令嬢たち。きっと彼女たちも権威高い令嬢なのだろう。エドも無碍には出来ないのか、チラチラと私の方を見ながらも「そんなことないよ」と相手をしているようである。


 それに小さくため息吐いた時、「キャンベル嬢」と声を掛けられた。振り向けば、知らない男の人が片膝付いている。


「その噂に違わぬ美しさ! もし宜しければ、私とも一曲お願い出来ないでしょうか?」

「え、私?」

「もちろんでございます。出来ればその後、聡明であらせるキャンベル嬢とぜひお話しする時間をいただけないでしょうか。聖女である貴女様に、ぜひとも市政について色々とご意見を伺いたいことがございます」

「市政ですか……」


 どうしよう……一応マナー的には、最初の一曲を決まった相手と踊ったあとは、色々な相手とダンスを楽しむものらしい。一週間で読み漁ったマナー本には書いてあった。基本的に、ダンスに誘われたら断ってはならないと。


 だからエドワード王子の婚約者として、聖女と呼ばれるに相応しいキャンベル家の令嬢として、私の返答は決まっている。その後のお喋りも……市政って政治のことだよね? 正直まだ全然わからないのだけど、相手の話しぶりからして『リイナ=キャンベル』なら食いつくような話題らしいし、女は度胸だ。


「私なんかで宜しけれ――――」

「ダメだよ。リイナ」


 伸ばしかけた手を、横からバッと掴まれる。振り向けば、エドが険しい顔をしていた。


「ダメ。絶対にダメ」

「エド、でも――――」


 マナーが――――そう続けるよりも早く、エドが私を誘ってきた男性に向かって苦笑を向けた。


「すまないね。先程のダンスを見てもらってわかるように、リイナは具合が良くないみたいで。申し訳ないけど、このまま下がってもらおうと思っていたんだ」


 そう言うな否や「では失礼するよ」と再び私の手を引き、有無を言わさず会場を後にしてしまう。


 連れて行かれながら、


「僕は怒っているんだからね」


 見目麗しい王子から小さく告げられた言葉に、私は俯くことしか出来なかった。

 

 

 

 

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[一言] 独占欲も半端無いな(笑)
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