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黄昏の時代に Act9

ミユキ達がいる世界では、未だに帝国主義の最中。

戦争により覇権を争う醜い時代。


それは人々の希望さえも失いかねない闇へと向かう時代でもあった・・・

呉の工廠では急ピッチで製造が執り行われていた。


陸海軍共同の作業で、装備を進めていた。

海軍では艦砲と魚雷発射管、そして砲撃指揮装置へと。

陸軍では機動戦力たる機甲部隊の装備車両へと。


その当時、まだ魔法と機械を融合させる技術が確立された訳ではなかった。

造られた魔鋼機械は小型の砲には適さず、

最低でも37ミリ以上の砲でなければ取り付ける事が出来なかった。


それは魔鋼時代の黎明期。

戦争に魔法が使われ出す初期の話であった。





「砲塔までも替えられたんだね?」


訓練を開始した途端に、問題が発生した。

まだ十分に数が揃えられない機甲部隊に在って、一両の中戦車が目立っていた。


「びっくりぃ~っ!ホント替わるモノなのでしゅねぇ」


機銃席ハッチから顔を出した上等兵がキューポラに居る車長に応えた。

訓練で乗り込んだ車両の魔鋼機械が放った作用により、砲身だけに留まらず。


「ホントよねぇ、まさか砲塔までもが替わっちゃうなんて・・・ねぇ?」


装填手の伍長が相槌を打つ。

訓練用に装備されていたのは、国内からはまだ進出した事がない車両。

後に九六式中戦車チニと呼ばれる事になる試作車両であった。

装甲とも言えない程の、僅かに14ミリしかない鋼板で造られている。

小銃弾ぐらいしか防ぎようがない装甲板と、敵車両と撃ち合う事も出来ない短砲身の37ミリ砲。

何を想って造られたのか疑いたくなる車両でもあったのだが。


「でもさぁ、砲塔が大きくなって砲も威力を増したのはいいけど。

 重量オーバーで動けないとは情けない話じゃないの!」


操縦手の上等兵が二人の後ろから言い募る。

全くだ・・・と、ミユキ中尉も思っていた。

折角魔法で砲が良くなっても、これでは移動できないし、装甲も頼りにはならないし。


「動けないのなら戦車の意味がないわね・・・」


チニの欠点の一つ、サスペンションに負荷がかかり過ぎると、たちまちに動けなくなる。


「それならいっそ魔鋼機械を動かさない方が良いのかも・・・」


折角着けられた機械なのに、本体の不備により使えないとは。


「宝の持ち腐れって奴でしゅよねぇ・・・」


機銃手の上等兵が愚痴を溢すのもさもありなん。


「どうにかならないのかしらね?」


ミユキも深いため息を吐くより他なかった。





訓練が開始されて解って来た事があった。

魔法使いにはやはり、力の差があるという事。

魔力に応じて装備が変わり、一様なる変化とはいかないようであった。


とある魔法使いに因れば、砲身が伸びるだけのモノ。

またある者に因れば、砲身のみならず口径までもが長大化するモノ迄あった。


つまり魔力に因り、同じ車両を装備してても部隊として戦闘を行うには問題があるという事。

ばらばらの威力の戦車をどう使うか、指揮官の度量が戦果を決める・・・


「難しい問題ですね。

 これならば、魔鋼の機械を使わない方が部隊としては成り立ちやすいような気がしますね?」


中隊を任されたミユキが意見を述べる。


「うむ。光野中尉の言う通りかもしれん・・・が。

 我々の車両では機甲部隊を備える敵に対しては無力に近い。

 装備された砲では敵の装甲など、貫く事など出来はしないのだからな」


普通状態の37ミリ砲では、貫通力が甚だ劣っていた。

軽戦車ぐらいならば撃ち抜く事も出来ようが、

敵の中型以上の戦車の装甲には歯が立たないと思われていた。


「では?やはり各個に射撃せねばなりませんね・・・」


集団で闘う事により戦力になるのだが、このままでは昔の一騎打ちでしか戦えない。

それは近代戦には全く向かない戦法でもあるのだが。


「それしかあるまい。それでなくとも戦車が足らないというのに。

 我々に出来る事は唯、命じられた事をこなすだけなのだ・・・」


部隊長にそうまで言われては、中隊長としては引き下がるより他なかった。


ミユキは重い足取りで派遣隊指揮所から出て、駐屯地にまで歩く。


「このままでは部下のみんなを死地へと送り込む事になってしまう」


考えれば考える程、先の見通しが立たなくなる。

戦地に送り込まれるまでに、なんとか糸口位は見つけたいと思いながら。


気が付けば、いつの間にかマコトの居るであろう研究所まで来ていた。


「マコト様・・・私はどうすれば善いのでしょう?」


縋る気持ちで口走ってしまう。


「どうするもこうするもないじゃないのかい?」


掛けられたマコトの声に振り向くと。


「ミユキさん達の部隊には、もっと強い戦車を装備して貰えれば良いだけの事だよ?」


朗らかに・・・そう。

まるで解決方法を知っているかのように、話しかけてくる。


「マコト様・・・強い戦車なんて。

 今の日の本には・・・」


造られてはいない・・・そう答えようとしたミユキに。


「おいで。見せたい物があるんだ」


手招きして歩き始めるマコトに追い縋ると。


「見せたい物・・・って、なんでしょうか?」


ミユキの質問に答えず、研究棟の一角にある倉庫まで足を運ばせた。


「ミユキさん達には見せた事がなかったね・・・」


暗がりに入ると、電源のスイッチを入れた。


「こいつなんだけど、魔鋼機械を初めから装備する為に造られたんだ」


灯りが燈ると、目の前に鋼の獅子が現れた。

与えられた新式チニよりも一回りも大きな車体。

中型戦車の枠内に在るのかどうかも判らない。

見上げる砲塔は一回りも大きく、突き出た砲身も長く太かった。


「こ、これは?マコト様?」


驚いたミユキの前でマコトが車体によじ登ると。


「こいつはねぇ、魔法の中戦車。別名でチハって呼ばれているんだ。

 砲は47ミリの長砲身、装甲は最大で50ミリ。尤も薄い部分は25ミリしかないけどね」


教えながらミユキを車体上へと招き上げた。


「こいつなら、ミユキさんの魔鋼力を受けたって動けなくなるような事にならないよ。

 それに少々魔力が劣る子だって戦えるし、何より部隊として運用できると思うんだけど?」


マコトの言った通り、マチハならば。

この戦車なら部隊として闘えると思った。

敵の中戦車と互角に戦えるような気がした。


「マコト様、でも・・・試作車両なのでしょう?

 数が揃わなかったら部隊として運用する事も・・・」


少しだけ目の前が明るくなった気がしたのだが、実情を考えれば無理な事だと思ったのか。

ミユキが言葉少な気に聞き返すのを。


「そうさ、こいつはまだ試作の段階を抜けては居ない。

 でも、数はそれなりに揃ってるんだよ?」


朗らかに教えてくるマコトが車体に書き込まれた製造数を表す形式板を指す。


「えっ?!七十七・・・番?!」


マコトとミユキが乗った車体番号は77を示している。

この車体は77番目の車体・・・既に77台以上が造られているという事。


「軍機だから・・・知らなくて当然だよ。

 ここ呉の港まで運ばれて来たのは今日なんだから。

 もう直ぐ全車両をこいつ達に挿げ替えられる筈だよ?」


微笑む男の眼を見詰めて、心からの感謝を捧げたくなる。


「マ、マコト様ぁ、嬉しいですっ!」


「いやいや、僕の力じゃないんだよ?

 ミユキさん達魔法使いを一番に気遣って下さる方のおかげ・・・かな?」


照れたように話すマコトに小首を傾げて。


「気遣って下さるお方・・・ですか?」


誰の事なのだろうと考えて、思いついたのは・・・


「ま、まさかっ?!御上が?!」


宮使えしていた自分達、魔法使いの女の子たちの事を一番に気遣ってくだされた。

軍隊へと無理からに編入させようとした軍部に、最期まで反対されていた・・・


「そう。宮様だよ・・・陛下の妹君いもうときみ!」


「ああああっ、勿体ないっ!」


時代がそうさせるのか、ミユキは畏れ多くも陛下のおん妹君いもうときみに首を垂れる。


「と、言う訳さ。善かったねミユキさん」


闘う事に良いも悪いも無いのだが。

少なくても劣った兵器で闘うよりはいい話だとはいえる。


「はいっ、マコト様。嬉しく想います!」


憂いが晴れたのか、ミユキの顔に微笑みが戻った。

ミユキ達の部隊に新型車両が補充されて来たのは、それより程ない夏の日の事だった。








_____________







ミユキ達の部隊が整備を終えた頃のことだった・・・


南方遥か。

インドア方面に展開していたエギレス王国の軍団が、大挙してジョホーレル水道を占拠した。

更には現地邦人の財産を没収し、ビャンマーまでも手中に収めるという暴挙に出た。


ここに至っては見過ごす事も叶わず、侵略行為を停めるように政府は申し入れたのだが。


「このままでは皇国の命脈も絶たれる事になる。

 干戈かんかを交えずんば、亡国となり得る。

 闘うも、闘わざるも

 同じく滅ぶなれば闘わざる志は真の亡国なり・・・」


もしもエギレスとの全面戦争になれば、国力で数十倍とも称された強国との戦争の結末は判りえた。

だからこそ、和平の道を探っていたのだが。


「ここに至りて、何をかいわんや。

 唯、軍人は命に服すのみ・・・」


海軍の長官は全権に全てを託して命を待つという。


「独り十殺の気迫を以って、事に当たるべし」


陸軍の参謀長は大和魂に訴える。


現代戦では気迫や思想など全くの無用。

在るのは・・・唯。




「諸氏の健闘に期待する、懸かって御稜威に添い奉らん事を」


抜刀した指揮官が捧げる。

答えるのは士官始め部隊員達。


「誓って期待に添い奉らん!」


答礼する指揮官に答える部隊長が敬礼する。

その横で、部隊の指揮権を担うミユキの姿があった。


そう、もはや戦機は熟していた。


もう、戦争を停める術は残されてはいなかったのだ・・・・


戦機が熟す。

覇権を狙う強国の狙いは、植民地からの利益。

帝国主義が蔓延る時代の中、後から船出した日の本という島国は?


自国の利益が衝突するのは他国の領土内。

原住者が如何に酷い目に曝されていたのか・・・

時代は事変を巻き起こす。

闘う当事国の所為で・・・不必要な犠牲を招くのであった・・・


次回 事変勃発 Act1

君の運命は誰が握るのか?闘う者に誰が救いの手を差し出してくれるのか?!


挿絵(By みてみん)

遂にミユキが戦争に向います。魔砲の使い手に何が待ち受けているのでしょう?

魔鋼騎戦記・・・始まります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミハル時を越えて両親を結びつけたのね。初々しいわ、お二人。 そしてここでマチハが。 国を民を守るためとはいえ、戦車を開発して戦う以外の道はないのが辛いところですね。
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