黄昏の時代に Act8
気付いたミユキが語る。
自分がなぜマコトと出逢う事になったか。
なぜ・・・マコトを慕うのかを・・・
(作者・注 フェアリア最期までお読み下された方にはOKなイラストアリマス)
周りから隠蔽された整備場の中で・・・
車内から漏れ出ていた蒼き光が消えた。
それは実験の終了を意味していた・・・
「それでは、上層部には成功したと報告しますよ、乙訓中佐」
海軍中佐の島田が席を発ち、工廠に向かった。
指揮官たる乙訓中佐も立ち上がり実機の方に一瞥を投げると、車内に居る二人を想う。
「マコトよ、これで魔鋼機械は生産に入る事になる。
それで良かったのだな?まだまだ問題点はあるだろうに・・・」
乙訓中佐は信頼を置く部下に対して零すのだった。
戦機が迫る中、国を賭した実験に携わる者として。
戦争の道具になる魔法という物が、味方にも敵にも与える影響力を慮る。
それよりも、使役する者に安定した性能を引き出させる事が可能なのか。
陸軍技術中佐は、即断に過ぎる事だと嘆かざるを得なかった。
光が消えた車内では・・・
「ミユキさん!眼を開けて!」
必死の叫びが魔法を放った娘へと掛け続けられていた。
揺さぶられる身体からは力が消え、険しかった表情も消え・・・
マコトの呼びかけに何も応じては来なかった。
「ミユキさんっ!君を喪う位なら実験なんてするべきじゃなかった事になる!
犠牲を払うだけの価値なんてなかったんだ、最初から!」
人類の為になるのだと信じて学んで来た筈の学業なのに。
軍隊に入ってからも、そう信じて努力して来た事なのに。
大切な人を奪い去るような事になるのなら、自分の行った研究自体が過ち。
マコトは抱きしめたミユキの生還を祈り、自らの行為が誤りでない事を祈る。
「君が眼を開けてくれないのなら、僕も責任を執らなきゃいけない。
研究して来た事を闇に葬らなきゃいけない事になる!」
魔法を戦争に使う事を停めるしか、報える方法が思いつかなくなる。
「僕に因り造られなくても、誰かが造るだろう。
それでも、僕はミユキさんに報いなければ気が済まない。
人の魂を奪い去るような、悪魔の手先になんてなりたくはないから!」
心からそう思っていた。
国を想えば人の想いなんて、見過ごされる時代にありながら。
「・・・マ・・・マコト様ぁ・・・恥ずかしいれしゅぅ/////(真っ赤)」
抱きしめているミユキの小声が耳を打つ。
「ミユキさんっ?!気が付いたの?」
抱きしめていた娘の声を聞いた瞬間に、想いが爆発する。
もっと強く、もっと近くに感じたいと思って。
「むぎゅぅ・・・マコト様ぁ・・・苦しいれしゅぅ////(真っ赤っ赤)」
力一杯抱き寄せたミユキが眼を廻していた。
「あ・・・ごっごめん!」
抱きしめていたミユキから力を抜く。
「大丈夫なのかい?身体の方も?」
心配そうに訊くマコトを見上げたミユキが、
「はい、今の処。大丈夫ですわ」
頬を染めたまま、微笑んで来る娘。
乱れた髪を気にしたように、手串で直そうとした時。
「あ・・・リボンが・・・」
結い上げていたリボンが無い事を知ったミユキが辺りを探すと。
マコトの方が先に見つけて手渡した。
「これだろ?大事な物なのかい?」
手渡された紅いリボンを受け取ると、小さく頷き。
「はい、女神様に頂いた物ですから」
胸に押し抱いて答えて来た。
「女神様にだって?」
ミユキの返してきた答えに、どんな意味があるのかと問い返したのだが。
「あ、っと。それはですね・・・私の守護神様に・・・ってことです」
何か歯切れの悪い云い様で、困った顔で応える。
「ミユキさんの守護神って誰の事なの?神様が実際に物を与えてくれる訳がないよね?」
ミユキに問い直すと、増々困った顔になり。
「でも、本当なのです。現れた女神様から贈られたのです。
私を護っている証だからと。
そう言われたのです、理の女神様が」
本当なのだと、嘘では無いのだと答え直して来る。
マコトは黙ってミユキを見詰めていた。
信じられない話なのだが、ミユキの眼は嘘を言っているようには感じられない。
「私、魔法使いなのだと知ったのは女神様に会ったからなのです。
確かに古から受け継いだ力の存在は解ってはいたのですけど、
魔法使いだなんて思ってもいませんでしたから・・・
でも、マコト様にお逢いできたのも女神様に因ってなのです。
理を司るという女神様に教えて頂いたからなのです」
信じて貰えないとでも思ったのか、ミユキが訳を話しだした。
女神から教えられた魔法と出逢い。
一体どんな訳があって女神に告げられたというのか。
「私・・・神官巫女になる前に一度。
そして再び同じ理の女神と出逢ったのです・・・」
ミユキは自分の過去を語り始めた。
どうして女神に逢う事になったのかを。
「マコト様に出逢える2年ほど前の事でした。
神職にあった父母に宮廷からのお達しが下されて、闇を祓う娘を差し出す様に命じられたのです。
それが所謂皇室を御守りする神官巫女、北面の剣巫女。
魔から皇室を御守りするべく集められた、
神職にある娘達を指しているのだと告げられました。
それが女神と出逢った最初。
再び出逢ったのは宮廷に仕えるようになって二年が経った、或る日の事でした。
覚えておられますか、あの都立の図書館を。
宮使いの私は、書籍を持参するように命じられ図書館に参りました。
すると、誰も居ない筈の古書の棚から女の子の声が呼びかけて来たのです。
私に向かって、懐かしそうに・・・」
懐かしそうに・・・そういったミユキが小声で何かを呟いたが、善くは聞き取れなかった。
「女の子の声が言うのです。私は理の女神なのだと。
永劫に彷徨える女神なのだとも・・・意味は分かりませんが。
声が言うには私は選ばれし者なのだとか。
とある殿方に召されて・・・やがて御子を授かるのだとか・・・////(真っ赤)」
最期は照れてか細い声になったミユキだった。
「女神がそう教えたっていうんだね?」
「そうなのです・・・マコト様・・・」
疑う訳ではないが、俄かには信じがたい話だと思えた。
「で?その女神が言う殿方って?もしかして・・・」
「//////(ぼっ)」
訊かれたミユキの顔が真っ赤を通り過ぎて赤熱した。
「僕・・・なんだね?」
「//////(コクンコクン)」
俯いて顔を隠したまま、ミユキが頷いた。
「理の女神が教えるのです、マコト様こそが御子の父であると。
私に教えてくるのです、運命の男なのだって・・・/////(真っ赤)」
ミユキがマコトの事を様扱いしている訳が判った。
特別なる男なのだと、女神に教えられたから。
運命の男なのだと告げられたから。
「あ・・・はは。そうなんだ?」
苦笑いを浮かべるマコトに、
「そうなのです・・・よ?マコト様・・・」
互いに意識が高まってしまったのか、余所余所しい言葉になってしまう。
どんな女神だったのだろう。
ミユキをここまで信用させたとは、余程の事があったのではないのか。
「ミユキさん、その女神って姿が見えてたの?」
「はい、姿形は。でも、お顔は髪で善くは観えませんでしたが」
女神の姿が見えたというミユキ。
思わずどんな・・・と、聞き足そうとしたら。
「魔法使いみたいに蒼髪で。いいえ、もっと色濃く。
それに蒼き瞳だったような・・・不思議な魔法の衣装に身を包んで。
それに・・・これをサイドポニーに結い上げておられたのです」
自分の髪を結った紅いリボンを指して、観たままの姿を教えて来た。
想像に任せるしかないが、ミユキの語る女神の印象は・・・
「私と同い年位・・・いいえ、もう少し幼くも見えるくらいでした。
はっきりとお顔を観れた訳ではなかったのですけど。印象ではそう思いました」
女神が神々しい者と云うよりも、どこか親近感の湧く娘であったという事なのか。
「でも、可笑しいのですよ。女神と初めて会った筈なのに。
懐かしそうな声で呟かれたのです、おかあさんって・・・変ですよね?」
小首を傾げて教えたミユキが、
「だって私、女神様を産むなんて事がある訳がないんですもの。
マコト様に・・・召されるのなら・・・人の子を授かる筈ですもの・・・って?!
ああああああああっ?!私っなんてハシタナイことをぉっ?!」
赤面したミユキが慌てて言い繕う・・・が。
「ミユキさん・・・面白い子だねぇ?」
空笑いをあげて聞かなかった事にしてあげた。
「そうか、じゃあミユキさんは女神から?」
リボンを指して話を切り替える。
「は・・・い。そうなのです・・・頂いたのです。
魔法の力が通っているリボンだそうですから・・・」
ミユキのリボンにこんな訳があったとは。
守護神たる女神の力が通っているのだと教えられた。
「じゃあ、ミユキさんの魔力は一体どれ位あるんだろう?」
魔法の力を調べるなんて技術がある訳では無かった。
だから、強い魔力がどんな物かも分かり様がなかった。
「さぁ?それは私にも・・・分かり様がございませんの」
ミユキを救う為に破壊した魔鋼機械から、内蔵されていた水晶が見て取れた。
薄青かった筈の水晶が、いつの間にか蒼さを深めている事にマコトは気付かなかった。
まるで、魔力が蓄積されているかのように。
ミユキの魔法力に負けた水晶が、放つ事が出来なかった魔力を残して・・・
・・・・ミユキに見えたのは女神だったのだろう。
魔鋼機械の初期には、故障や事故が多かったようです。
まぁ、なんにでも開発初期には故障や不具合が出るものです。
やっと目処がついた頃。
海外に目を向ければ、なにやらキナ臭い出来事が・・・
いよいよ、魔鋼騎の初陣が迫っているようです。
次回 黄昏の時代に Act9
君は時代の流れに飲み込まれるのか?戦場の匂いが感じられるのか?