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黄昏の時代に Act7

マコトにより実機の試験が行われる。

自ら試験台になる事を志願したミユキ。


魔鋼機械は二人の前で正常に動くのか?!

研究室ラボから取り出された機械が、隠蔽された整備場に据え付けられた。


特別な装備が施された八九式戦車に、各種のコードが伸びている。

各々が実験データを採る為と、電力供給の為に繋げられていた。


「指揮官、只今より実験ならびに作動検査を執り行います」


申告するのは実験担当の指揮を執る島田中尉であり、直属上官でもある乙訓中佐に許可を願い出た。


「うん、マコト。慎重にやれよ?」


乙訓中佐は、傍らに立つ戦車兵の中尉にも眼を配らせて、いつもの人懐っこい顔を引き締めて許可を与えた。


「はい、実験を開始します!」


敬礼を贈り、申告を終えたマコトが傍らに立つ少女に目を向ける。


<間違っても失敗なんてするものか。ミユキさんは誰が何と言おうが護ってみせる>


見詰めていた魔法使いのミユキの顔が、自分に微笑みを返して来る。


<心配いらないよミユキさん。僕が護るから・・・>


信頼されているからこその、微笑みだと解っている。

だからこそ、この微笑みを護らねばと思い詰めた。


「島田中尉殿、準備が整いました。実機に搭乗されたし、です!」


実機担当の整備員が小旗を振って合図して来る。


「了解!只今より試験機に搭乗、今回は実機での試験になる。

 当担当官も実機に搭乗、見聞する事にした!何か問題はあるか?!」


最初からそのつもりだった。

ミユキが乗り込まなくても・・・他の搭乗員だったとしても。

自分が設計し製造を許可した試験機で、誰かが犠牲になるのであれば。

自分も運命を共にしようと考えていた。

マコトは人として正直過ぎる程に、実直な研究者であった。


「マコト様、全体の指揮を執らなくても良いのですか?

 私の身を案じての事なら、ご心配はございませんのよ?」


ミユキが心配そうに訊ねてくると、


「いや、砲塔内でなければ判らない事もある。

 それに万が一の場合、即座に処置が可能なのは実機の中が一番なんだ」


確かに離れた場所からでは処置が間に合わない時もある。

試験機に繋がれたコードが寸断されるような事態もあるかも知れない。


「ミユキさんだからって訳じゃない。誰が乗ってもそうしようと思ってたんだ」


答えたマコトに、魔法少女はにっこりと頷き、


「それでしたら・・・私にお停めする事など出来ませんわね?」


固い決意を表明したマコトに賛同の意を表す。


「ミユキさん、じゃあ行こうか」


「はいっ、よろしくお願いします!」


二人は当時制式であった八六式と呼ばれる戦車に乗り込む。

狭い砲塔内に上部ハッチから入ると。


「ミユキさんは搭乗するのは初めてなの?」


女の子ばかりの部隊がどんな訓練をして来たのか知らないマコトが訊いてみた。


「いいえ、このタイプではありませんが。

 元々が機械化部隊の様なものですので、ホッチキスや、ビッカーズには乗ってました。

 それにここへ来る前にはチニにも・・・内密に・・・ですけど」


(作者・注)チニとは、中戦車2号計画の意。試作車両の形式名を指す。


なる程と、思った。

まだ戦車などが後方の部隊には浸透していないのに、ミユキが物怖じ一つ見せなかった訳が判った。

彼女は機械化部隊に属し、小型の戦車に搭乗した事があるという。

ましてや、今試作途中の新式戦車にも乗り込んでいたという。

と、すれば。

彼女の部隊はやはり・・・


「ミユキさんの隊は、いずれ実機が完成した時に。

 魔鋼機械が備えられた実機を受領すれば、戦闘に駆り出される事になる」


マコトは、この試験結果次第で進むであろう軍備に因っては、ミユキたちの出撃も決まるだろうと思った。

ミユキが戦争に駆り出される・・・

こんな女の子達が?

戦車乗りとなって、敵と闘うなど・・・考えたくも無かった。

しかし、自分が行わなくても、世界のどこかの国が最初に発明したらどうなる?

敵に魔鋼の戦車が現れてしまえば、味方はどうなる?

女の子達だけでは無く、戦線が内地にまで及んでしまえばどうなる?

家族が敵の戦車に踏みにじられ、喪わなくてもよい命が奪われてしまう。


だとすれば、自分に出来る事とは?


「敵に負けない・・・完璧な魔法戦車を造らねばならない」


ポツリと溢す。

その声にミユキが振り向き、


「マコト様になら、いつか必ず出来ますわ。

 まだ始まりの時を迎えたばかりなのですから、これから始まるのですから」


マコトの想いを受け取って繰り返した。





砲塔内にある、砲手が座る砲座にミユキが腰かけ、砲尾にはマコトが立っている。

マコトは通信用のマイクと受話器を着けて、車体外との連絡を執りつつ。


「ミユキさん、用意はいいですか?始めますからね」


準備の整えられた状況を伝えた。


「はい、いつでも。命じてくださいませ」


車外を観れるのは観測用の照準器と、側面の観測穴のみ。

上部にはキューポラと呼ばれる車長用のハッチが一つ空いているだけだった。

入って来る灯りと云えば、それらぐらいからだけの薄暗さ。


「よし、発動する。魔法石を翳して、魔力を放つんだ」


砲尾に備えられた発動用の紅いボタンを捻じ込んだマコトの命に従い、ミユキが手にした蒼い珠を翳す。


「よぉーいっ!てぇっ!!」


マコトの発動命令で魔鋼の機械が動き始めた。


砲尾に備えられている機械の中には、薄青く光る水晶の珠があった。

発動ボタンを押し込まれた機械に電流が流れ、モーターに因り両軸が回転を始める。

薄青く光る水晶に回転圧力が加えられ、バキュームの様に吸い込む圧力を高めだした。


「魔法を放つんだミユキさん!」


魔法を放つ・・・一体どんな?

自らが魔法使いだと自認していたミユキ。

果たして魔法とはどんな力を持つのか?

どうやって放つというのか・・・


「はいっ、受け継いできた力を放ちます!」


ミユキが手に持つ蒼き珠。

それが突然輝き始めた、蒼き光を放って。

瞬間にミユキの髪が黒色から青みの刺した白髪へと変わる。

黒き澄んだ瞳が青みを帯びて、姿さえもが変えられていった。


「こ・・・れが?!魔法使い・・・なのか?」


マコトは初めて目の当たりにした。

今迄観て来た魔法使いとは、別次元の少女。

魔法を放つ瞬間に見せた変身というものに、眼を見開くのみだった。


放たれたミユキの魔力を吸い込んだ機械が、蒼き光を放ち始める。

薄青かった水晶の珠が、吸い込んだ魔力を解き放つように蒼く輝く。

輝き出した水晶は姿を消し、それ自体が魔法の珠となる。

魔法の光は砲尾から溢れ出し、周りまでも蒼く染め始める。


先ず砲尾が変わり、砲身までもが変わって行く。

備えられていた短砲身57ミリ榴弾砲が瞬く間に砲身長を伸ばし、

砲尾が砲弾に併せるかのように、長大化していった。


「こ・・・これが、魔砲ってやつなのか?」


魔法で砲力が高められる。

魔法の力で敵に打ち勝つ力を高めた砲・・・つまり魔砲まほう


ミユキの魔力がどれ程なのか、誰を基準に考えれば良いのか。

そんな話は二の次、世界に先駆けて造られた魔鋼の機械は産声をあげたのだ。

島田中尉と光野中尉に因って。


指揮官たる乙訓中佐や、海軍の島田中佐にも実験が成功裏に終えられたと感じられた。

これで日の本は、魔法の戦力を手にする事が叶ったのだと・・・


しかし・・・実験には不測の事態が付き物でもあった。


順調に魔力を放ち続けていたミユキの心が乱れ始めると、突如機械が暴れ始める。


蒼き髪を靡かせていたミユキの表情が、急に険しくなり始めた。

同様に機械も回転を急激に高め、不安定に軋み音をあげ始めた。


「ミユキさんっ?!」


苦痛でもあるのか、険しい表情になったミユキが何事かを呟いている。


「今機械を停めるから、魔力を放たないで!」


マコトが緊急停止させる為にもう一度ボタンを叩き込んだのだが。

魔法を抽出する機械は作動を停めない。

それどころか、回転を速めてミユキの魔力を吸い尽そうとしているかにも思えた。


「くそっ?!暴走か!」


機械がこちらの意図通りに動かなくなることを暴走と呼んだ。

ミユキの魔力に因って作動した機械は停まる事なく作動している。


「このままでは・・・ミユキさんも意識を奪われてしまう!」


咄嗟の判断だった。

実験はこれ以上無意味だとの判断・・・その結論はマコトを行動に移させた。


手に取ったハンマーで砲尾にある機械を打ち壊したのだ。

破壊音が車内に響いた時、蒼き光も消え去っていた。

静けさが車内に満ちた・・・何事も無かったかのように。


「ミユキさんっ!しっかりするんだ!」


砲座に駆け寄ったマコトの前で、ミユキの身体が座席から崩れ落ちた。

その姿は、以前見せられた実験で気絶した少女と同じ。

魔法の暴走に因って奪われた魂の抜け殻のようにも思えてしまった・・・


魔法力を受けた機械はあらぬ動きを始めた。

それは以前にも観たことのある暴走・・・


ミユキは機械に飲み込まれるのか?!

だが、ミユキには守護神が憑いていた?!


あ・・・まさかっ?!<あやつ>が?!

フェアリアふぁんの皆様、おまたせです。


次回 黄昏の時代に Act8

垣間見えたのはそんな娘?!そん・・・な?女神登場!

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