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フェアリア皇国 Act-8

決断は下された。

マコトは人知を超えた術を執り行おうとしていた。


神でもない人に因って。

魂を機械に宿す禁断の術を・・・

一刻も早く治療せねばならないと判断された。


その傷を観れば、誰しもがそう思うだろう。

だが、その少女の傷は治療を受け付けなかった・・・・


「馬鹿な?!ユーリ王女の傷は治療を拒むというのか?」


医療を託された医師は、困惑を隠せず叫んでしまう。


「こんな傷がある訳ない!縫合を受け付けないだと?!」


斬られた場所を縫合しようとすれば、針が曲がる。

無理やり針を通し、縫い合わせようとすれば糸が切れる。


「有り得ん、こんな傷を観た事がない!」


医師の叫びに看護婦達も動揺する。


「ドクター!こちらの患者は?!」


もう一人の少女は、更に酷い状況だった。

切り傷は深くないというのに、処置が出来ずにいる。


「分かっているが、王女殿下の方が優先だ!」


ユーリに付きっ切りの医師が焦燥感を滾らせて叫んだ。




「教授!包帯です!」


キュリアがミユキと共に医務室へ来たマコトへ包帯を差し出す。


「ありがとうキュリアさん、私が巻くわ」


ミユキが受け取り早速、額の傷に宛がう。


「傷の具合は?縫った方が宜しいのでは?」


心配顔のキュリアが勧めるのだが。


「いや、この傷は治しようが無いのだよ。

 悪魔の呪いを受けてしまったのでね・・・呪いを打ち消すまでは塞がらないようだ」


出血が停めれないというマコトに、


「私、家まで帰って石を取ってきます」


いたたまれなくなったミユキが<如来の石>に縋ろうと取りに帰るというと。


「あ、あのっ。プロフェッサー島田、マダム島田。

 私が祓ってみても良いでしょうか?この石を使って・・・」


おずおずとキュリアが二人に訊ねてくる。

その手に持たれた魔法の石を差し出しながら。


差し出された手に載っているのは、まごう事なき<如来の石>だった。


「そ、それはっ?!あなたどうしてその石を?

 それは日の本の秘宝・・・私しか持っていないというのに?」


ミユキの眼には、自分が授けられた<如来の石>にしか見えなかった。


「いつの間に?私の石を持ち出したの?」


世界に一つだけだと思っていたミユキが声を荒げてしまったが。


「はい?これは我が家に代々伝わる魔法の石ですけど?

 マダム島田も同じ物をお持ちになられていたのですか?」


突然咎められたキュリアが驚いて、この石は自分の物だと答える。


「えっ?!それは本当なの?<如来の石>がこの世に二つもあったなんて・・・

 ごめんなさい、あまりにもそっくりだったから。気を悪くしないでね?」


自分の単なる思い込みだったと謝るミユキに首を振り、


「マダムもこの石と同じ物を持たれていたんですね。

 私も世界に一つだとばかり思ってましたから、驚きですね?」


謝罪を受け入れ、マコトの額に魔法石を翳す。


「私も実は魔法使いの端くれなのです。

 先祖はとある高貴な人をお救い申し上げた魔女だったらしいのです。

 これはその魔女が天から授かった魔法石。

 我が家に代々伝わる伝承の魔術・・・治癒魔法・・・」


マコトの額に手を翳し、呪文スペルを唱え始めるキュリアを観て。


「あなた・・・それは巫女の呪文?!

 もしや、あなたの御先祖は日の本人なの?」


詠唱を終えたキュリアが首を振り、


「いいえ、私の先祖はフェアリア人ですよマダム。

 唯、古来から伝えられた伝承では、東洋人の魔法使いに師事していたとか。

 フェアリアのリイン王女に仕えていたとも伝えられていますけどね?」


微笑んで伝えられた謂れを教えてくれた。


悪魔の力を討ち祓ったキュリアの魔法によって、マコトの傷はみるみる塞がって行った。

直ぐに出血が止まり、傷跡だけが残るまでに回復した。


「ありがとうキュリアさん、ありがとう!」


夫の傷が瞬く間に癒え、感謝の言葉を贈るミユキに、


「ミユキ、キュリアさんの魔法力は大したものなんだね。

 僕の事より、王女殿下の身が案じられるんだ。

 二人にも回復魔法を掛けて貰えないだろうか?」


マコトは二人の娘を心配する。


「そうね、あの子達にもきっと悪魔の呪いが掛けられているもの」


起き上がったマコトに頷いて、キュリアに手術室へと同道を願った。

キュリアの魔力によって呪いを打ち消そうと考えて。


「急ごう、彼女達を見捨てる事は出来ない」


マコトが二人の魔女へ促した。




救急室では。


「もう、手遅れだ。処置なしだ・・・」


医師が匙を投げた状態にまで陥っていた。


「脈も微かに採れるくらい・・・心臓も僅かに動くだけ。

 瞳孔も反応がない・・・危篤状態になってしまわれた・・・」


二人の少女を見下ろした医師が、手の施しようも無いと立ち竦んでいる。

ユーリ王女は傍で観れば傷も浅く、処置が可能だと思われるのに。


「手を尽くしたのだが、もはや助ける術もない」


どうしてそうなったのかが、信じられないと言いたげな医師が。


「マジカ嬢の方は、全く救いの手が回らなかった」


背中を切り裂かれたマジカ卿嬢の状態は、深手と言えたが。


「ドクター、何もされていないじゃないですか?!」


処置ベットに寝かされた少女の状態に、キュリアが驚きの声をあげる。


「何も出来ないのだよ!我々が処置を行えば行う程、悪化させてしまうのだ!」


医師が匙を投げざるを得ない理由がそれだった。


「救命活動を受け付けさせないのか・・・悪魔め!」


マコトの怒りの叫びが処置室に響く。


「キュリアさん、急いで二人に呪法を!」


我に返ったミユキがキュリアの魔法を求めた。


「はい!今直ぐ!」


先ずは王女に。

そして虫の息のマジカに・・・


「うそっ?!マジカ嬢には効き目が薄い?」


キュリアの魔力を以ってしても、マジカに懸けられた呪いは打ち消せれなかった。

ユーリに懸けられた呪いは確かに薄れたのだが。


「おおっ?!王女の身体から傷が癒されていくぞ?!

 おいっ、王女殿下を手術台にお載せしろ!直ぐに縫合するからな!」


医師はマジカを置いて、王女を優先する。

それはそうだろう。

相手は一国の王女、方やマジカは呪いも消えず虫の息で・・・貴族の娘だったから。


「何をしてるのよ!重症者の方を観なさいよ!」


自分の魔法で救わんとしたキュリアが医師達に喰って掛かる。


「キュリアさんっ、石を貸して!」


いたたまれなくなったミユキが自分の魔力でもう一度試そうと願う。


「は、はいっ!どうぞお使いくださいっ」


奪い取るようにキュリアから石を預かったミユキが回復呪文を唱えあげる。


「これでどう?!」


日の本唯一の力を誇るミユキの全力魔砲によって放たれた回復魔法。

<如来の石>に秘められた魔力によって・・・・


だが。


「効かない?!私の魔力でさえも効果がないというの?!」


一体どんな呪いを受けたというのか。

マジカの傷は良くなる事も無く、悪化が喰い止められた程度でしかなかった。


「そんな事が・・・一体どんな悪魔が呪いを懸けたというの?」


闇祓いの巫女であったミユキの魔法力でさえ、抗う事が出来ないのか。

もはやマジカは死に絶える他ないというのか。


「・・・マジカ・・・マジカ・・・マジカは何処?」


今迄意識を喪っていたユーリが目覚めた。


「王女殿下!宜しゅうございました。もう大丈夫ですよ」


縫合を終えた医師が呼びかけるのも気に懸けず、


「マジカは?私の大切なあのは?

 私を庇ってくれたマジカは何処?!」


まだ意識が混濁しているのか、しきりに友達の名を呼ぶユーリに。


「ユーリ様、一体何があったというのです?

 マジカ嬢に何があったと云われるのです?」


マコトがベットに寄り、訳を訊こうとする。

それを医師が停めようとするのを撥ねつけ、もう一度訊ね直した。


「あなたに悪魔が襲い掛かったのではないのですか?

 あの悪魔の目的は王女の方ではないのですか?

 悪魔の名前はわかりませんか?」


続けざまに聴くマコトが言わんとしていたのは。


「悪魔の名前が解れば、呪いの効力も損なわれます。

 間違えた相手に対する呪いも打ち破りやすくなるのです」


我が名を相手に知られてしまえば、悪魔の呪いは効力を損なう。

古から伝えられた事には、それなりの意味があるのだと。


「ああ、プロフェッサー島田。

 分からないの・・・でも、聴いたわ。

 あの影がこう言ってたもの・・・古からの呪いを遂げる為だって・・・」


王女の答えた事で解った事がある。

フェアリアに古くから存在したとされる悪魔の名が。


「ミユキ!そいつの名はルキフェルだ!」


マコトが教えた通りなら・・・


「分かったわ!もう一度呪法を唱えます!」


ミユキにもマコトの言わんとしている事が理解できた。

咄嗟に呪文を唱え直し、悪魔の呪いを祓おうと願った。


「くっ?!それでも祓えないの?」


確かに効力は認められた。

しかし、完全とまではいかなかった。


「それ程までに強力な呪いだというの?」


魔法力を全力で二回も放ったミユキが、肩で息を吐くのを観て。


「ミユキでも無理なら・・・手は残されていないという事になる」


室内に絶望感が過る。

悪魔の呪いに屈したかのように。


「マジカ?嫌よ、マジカを助けて!

 マジカは私の身代わりになったのよ?!そのマジカを助けられないなんて絶対に認めないっ。

 マジカには魔法があるの、魔法使いなんだから!魔法でなんとかしてよ!」


起き上がったユーリの叫びに、マコトの瞳が曇る。

助けられるのか・・・助けねばならないと考えつつ。


「ユーリ王女殿下、それは本当なのですか?

 マジカ嬢には魔法が使えたと・・・仰られるのですね?」


マコトが低い声で訊ねるのを、ミユキは聞いた。


「ま、まさか。あなた、あの機械を?」


マコトが何を考えて聞いたのかを一瞬で読み取った。


「ミユキ・・・それしか。

 魂だけでも救わねばいけないのだ。

 そうするより他、悪魔に魂を奪われるのを救う手立ては残されていない」


夫の決断に迷いは感じられなかった。


「闇の力を身体に受けた娘を救うには、魂の転移を行うより他に救う道はないんだよ?」


マコトの顔が陰を纏って観えた。


人体実験も行っていない・・・悪魔の機械を使うのだと。

決断を下したマコトの表情が、まるで悪魔に魅入られた者の様にも映ってしまった。


「あなた・・・あなたがそれを行うというのなら。 

 私も一緒に堕ちるから・・・神に逆らう者に・・・」


人類が手にしてはならない筈。

人が人の魂を操る事・・・それは悪魔にも等しい。

いや、神のみが行える人知を超えた禁断の術。




マジカを魔鋼機械に運んだマコトによって、機械が発動される。

周りを囲む研究者達の注目の中、人知を超えた試みが始まった。


電力が注ぎ込まれ、魔法の機械に火が入る。

碧く輝く魔法の水晶体が高速回転を始める。

それに伴い、徐々に寝かされたマジカの身体自体が碧く染められていく。


「ミユキ・・・僕は・・・許されるのだろうか?」


最後のスイッチに手をかけた時、マコトが一言だけ呟いた。


「許されないのなら、私も一緒よ?

 あなたと一緒に堕ちるだけ・・・いつまでも傍に居るから。

 いつまでも、どこまでも・・・」


微笑み返したミユキの手がマコトの手に被さる。


「すまない・・・ミユキ。ありがとう・・・」


二人の手がスイッチを引き下げた。



一瞬、光が実験室全体を覆い隠した。

異常な光の渦が機械から溢れ出し、何もかもを包み隠した。




「あなた?!マコト?」


光の渦の中、ミユキが手にしていた筈のマコトの手がない事に気付く。


「どこなのっ?!返事をしてっ!」


喪われる恐怖に叫んでしまう。


「あなたっ?!マコト?!お願いよ、返事をして!」


離ればなれになる恐怖。喪われてしまうかもしれない心細さ。

光の中だというのに寒気すら覚える悍ましさに。


「嫌、嫌よ!あなたの居ない世界なんて!

 マコトと離れるなんて絶対に嫌っ、死ぬのなら一緒に!」


此処が何処なのか。

今どうなっているのかも分からない。


もう既に死んでしまったのかもしれない。

だとしたら、そうだとすれば・・・離れたくなかった、愛する人と。


微かだが、何かが観えた。

光の中に漂う者の影が。


「マコト?!あなたなの?」


寄り添うべく必死に呼びかけ、手繰り寄せる。

確かにマコトだと分る。だが、マコトは固まったかのように動かない。

まるで蝋人形のように別の物体と化していた。


「嫌っ、嘘よ嘘!マコトを返して、私に還して!」


誰に願うのか、誰に救いを求めるのか。


「マコトを返してくれないのなら、私も連れて行きなさいよ!

 私もマコトと同じ世界に連れて行けばいいのよ!」


もし、この光が黄泉の国に繋がるというのなら、それでも構わないと言い放つ。

愛しいマコトと離れさせられるのを拒む心が闇をも受け入れてしまう。


「神がマコトを許さないというのなら、私も同罪なの。

 私もマコトと一緒に罰すればいいでしょ!

 私からマコトを奪わないで!それでも奪うというのなら神だろうが許さない!

 私からマコトを奪うのなら神だろうが認めない、喩え悪魔に身を貶めても!」


ミユキの身体から怒りの感情が沸き起こる。

奪われる恐怖が怒りに挿げ替えられる。


「これが闇の力だというのなら、甘んじて受け入れるわ!

 マコトを私に還しなさい!返さないというのなら私は闇に染まってでも奪い返す!」


ミユキの髪が吹き上がる。

黒く染まった闇の力に因って。

黒い双眸を天に向けて。


闇に染まったミユキの心を嘲笑うかのように、何者かが細く笑んだ。

そうなる事が初めから仕組まれていたかのように。


マジカに懸けられた呪いが解き放たれ、身替りになったミユキへ宿ったのだ。


「我が目論見・・・成就せり・・・」


闇に染められたミユキの魂に、何者かが呟いた。




光が消えた。

魔鋼機械が静かに動いている。


光が消えた跡には、二人居た筈の影が一つに重なり合っていた。


「ミユキ・・・すまない。ミユキ・・・」


抱き締められたミユキは意識を半ば喪って呟いている。

マコトに抱かれたまま、か細く呟く口元から零れだすのは。


「許さない・・・許すものか・・・奪い返してやる・・・絶対に」


恨みの言葉。

呪いの言葉を呟き続けるミユキを抱きしめ、マコトは己が行為を悔やんでいた。


「どうしてミユキが。ミユキを呪う?!どうして私では無いのだ!」


眼を閉じたまま、不気味に微笑むミユキ。

その表情には、あの優しさに溢れた微笑みはもう浮かんではいなかった・・・


挿絵(By みてみん)


抱き合う二人の横では、

魔鋼機械に備えられた碧き水晶が、命を与えられたかのように細かく脈動していた。


息絶えたかのように動かない、マジカが横たわる機械の中で・・・


罠だったのか?

悪魔はルキフェルではなかったのだろうか?


マコトは気付いていた。

妻の魂に邪なる者が宿ったことに・・・


もう自分にも魔砲力が残されていない。

邪なる者からミユキを救い出す方法が見つけられるのか?


次回!いよいよ<希望への譚詩曲ー受け継がれる光ー Act-1>

君は魂を喰われ続けても耐えるというのか?体を蝕まれても?!


ミユキ・・・闇に宿られてしまいました・・・いよいよ。

 最期の日が近付いています。そう、あの日が・・・

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