フェアリア皇国 Act-4
遥々・・・
日の本からやってきた家族。
フェアリアとはどんな場所だというのか?!
タラップを降りた先に迎えが来ていた。
閑散とした港に、一両の大型車が停められている。
黒服を着た数人の男達に囲まれた、一人の男が進み出る。
「ミスター島田。ようこそ我がフェアリアへ」
マコトに流暢な日の本語で話しかけて来たのは、黒縁の眼鏡をかけた男だった。
つま先から髪の先まで眺め、ニヤリと笑い手を差し出す。
「あなたは?確かに私が島田ですが?」
家族を後ろに控えさせたマコトが、ついっと前に出て訊ねる。
「これは失礼を。私はフェアリア皇国参謀部から罷り通したヘスラー大佐と申します。
ミスター島田を迎えに来たのです、どうぞ同道願います」
言葉使いは慇懃だが、東洋人を足気に見るような尊大な態度を執っていた。
差し出された手を軽く握ったマコトの眉が跳ね上がる。
「良いでしょう、ご案内ください」
素早く手を離したマコトが促すと、気分を悪くしたのか周りの者にも尊大に顎をしゃくって指図した。
命じられた黒服の男達が、大型車へと導くように道を作る。
まるで護送されるかのように、大型車の後部座席に家族で乗り込むと。
「持ち物は後刻、手配の御宅に配送させますので」
一人の黒服が荷物の手配を教えて来る。
つまり体一つで車上の人となれと言ったのだ。
「荷物の中に研究資材は入っていませんよ。手荷物検査は無駄だと言っておきますから」
迎えに出て来た者の態度から、マコトは既に何かを感じ取っていたのか。
黒服の男に荷物の中身を荒らされるのを拒んでいた。
ヘスラーと名乗った私服軍人の眼を観たミユキも、直ぐにマコトの心構えを感じ取った。
ー この国は私達を利用しようとしている。
それに、東洋人を蔑んでいる・・・
二人の子を護るように抱え、車に乗り込んだミユキにも心配の芽が生み出された。
大型車の後部に4人が乗り込むと、静かに港を後にした。
いつの間にか別の車両に囲まれ、粛々とどこかに向けて走る。
二人の子供には周りの景色の方が気になるのか、窓辺から観える異国の風景を飽きずに眺めていたが。
「ねぇ、あれが西洋のお城なの?すっごいね、まるで山の上に建ってるみたい!」
ミハルが指さしたのは、フェアリア皇国のシンボルでもある王宮だった。
車はそこへ向けて進んでいる。
ミハルが眺める城を観たミユキには、それが如何なる場所なのかが解っていた。
ー フェアリアの宮殿。そこには悪魔が棲んでいる・・・
これから自分達に降りかかる出来事を想像して、身の引き締まる思いだった。
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ヘスラーに案内されたミユキ達が控えの間に辿り着いたのは、車から降ろされて数分も歩いた後。
西洋の古城らしく、タペストリーが通路にまで飾ってあり、シャンデリアが眩く照らしている。
控えの間とはいえ、そこそこの空間がある室内には、ヘスラー以外誰も付き添ってはいなかった。
「いきなり、王宮に連れて来るとは。この国では当たり前なのですか?」
マコトが着替えも差せずに宮殿に招いた非礼を咎めるのだが。
「君達は公使でもない、公の使節でもない。
それに内密に事を進めねばならないのだからな、宮殿に入れただけでも感謝して貰いたいものだ」
嫌味と感じたのか、ヘスラーの声が怒気を孕んでいた。
確かに公の使節ならば控えの間などではなく、謁見の間にでも通されるだろう。
来訪が他の者に知らされるのを拒んでいる節が観えている。
それが、マコトの警戒心を煽る事になったとしても・・・だ。
「私は日の本でカスター卿と会見した折に、依頼されたのです。
王女殿下を目覚めさせて欲しいのだと。
友好国の特使にも相当する筈ですが、貴国には特使を公の者とは扱われない風習があるのですか」
尊大な態度を執る大佐に、真っ向からマコトが言い返した。
東洋人を劣った民族と蔑んでいるヘスラーは、マコトを睨み返し言い返そうとした。
「貴君の仰られる通りですわ!ヘスラー非礼をお詫びしなさい」
「そうよ!ここはあなたの様な軍属が罷り通れる場所ではないのよ!」
二人の金髪を靡かせた少女が現れるや否や、ヘスラーを咎め立てる。
「これはユーリ殿下、マジカ卿嬢。お二人共、御機嫌麗しゅうございます」
慇懃に首を垂れたヘスラーが二人の乙女に挨拶を言上する。
「大佐!私の言ったのが聞こえなかったの!一等貴族であるマジカの言葉に従えないというの?!」
金髪の少女が指し示しながら尊大な態度の非礼を詫びるように命じる。
「・・・失礼を。これで宜しいですかな?」
ヘスラーは僅かに頭を下げ、踵を返して退出しようとする。
「お待ちなさいヘスラー参謀。このユーリに何か言いたい事があったんじゃなくて?」
マジカとは違い静かな口調だが、そこには確かに王女たる威厳が伺われた。
「いえ、今は。失礼いたします」
後も観ず、ヘスラーは早々に引き上げて行った。
マコトは現れた少女達の振る舞いに感服していたのだが。
「貴殿が?カスターが知らせて来た日の本の魔法使いなのですか?」
「ねぇ、日の本で一番の魔法使いなのでしょう?あの子を救えるのね?」
一度に二人から聞かれたマコトが頬を緩める。
早口でフェアリア語をかけられたから、内容が良くは掴めなかったが。
マコトは王族に拝謁しているのだと理解し、片膝を着いて畏まった。
「私は日の本皇国陸軍技術士官である島田 誠。
只今、貴国の招聘に応じ参上致しました。
これに控えるのは我が家族にして魔砲の使い手でもあるミユキにございます」
夫が平伏すのに併せて、子供達と一緒に傅いたミユキ。
名を告げられて一頻頭を下げると。
「殿下、私めが夫シマダ・マコトの妻にございます、島田美雪。
夫の招聘に併せ、付き添いましてございます」
自己紹介を進上する。
「うん、聞いていたわ。あなたがエギレスの要塞を打ち負かした魔女さんね?」
ユーリ王女の横でマジカ卿嬢が頷いて笑い掛ける。
「さぞや恐ろしい女かと思っていたら、人形のように美しいじゃない!」
ついと足を進めてマコトの傍を過ぎ去り、物珍しそうにミユキの元まで来ると。
「あら?!何よコレは?チンチンチクリンが二人居るわ!」
ミユキの後ろに隠れたミハルとマモルを見つけて指を差す。
「いい加減にしなさいマジカ!失礼でしょ、謝って!」
とても仲が良いのか、王女に咎められたマジカ嬢がバツの悪そうな顔に替わると。
「し、失礼したわ!ごめんなさい!」
スカートの端を持ち上げる貴族としての謝罪を、ミユキに示した。
「いいえ、とんでもございません」
目を丸くしているミハルとマモルの代わりに、マコトが謝意を受ける。
「ともかく・・・貴殿達にはフェアリアの王女を救って頂きたいの。
一刻も早く、出来るだけ身体を傷めないように。
リーンが目覚められるように、執りかかって貰いたいのです」
王女ユーリが託して来たのは、カスター卿子息が願ったのと同じ。
「そう!幼馴染の妹を助けて欲しいの。
その為ならなんでもするわ。なんだって与えてあげる!」
そう答えたマジカの手が打ち鳴らされると。
「先ずはこの国の事を知って頂くのが先決。
その為には家族と共に住まれる場所に慣れて貰わねばなりません。
私共でご用意いたしました家に落ち着かれるのが寛容かと・・・」
侍女たちを呼びつけ、用意されていた物の手配を申し付ける。
「何か物入りな時は遠慮なく言い付けられてください。
ミスターアンドマダム島田、あなた方は我が国の命運を握られているのですから。
頼れるのはあなた方お二人なのですから」
ユーリ王女はマジカ嬢を伴って島田家族に願った。
王女の何気ない一言に含まれていた、命運という意味が気になったが。
侍女達に案内された家族は、王宮近くの皇都内に居を構える事になった。
北欧に良くある戸建てマンション。
端から見ても立派で広く、快適な設備が整えられていた。
そこで始まる新たな生活が、決して想像していた辛苦ばかりでは無いのだと思いたかった。
ミユキには、二人の少女達の真摯な瞳が救いにも思えていたから・・・
来ましたね、とうとう。
島田家がフェアリアへと。
いよいよ物語も後半戦に突入。
ここよりは闇の国へと物語が入って行きます。
さて、フェアリアをお読み下された方には馴染があると思いますが・・・
今回登場はあのユーリ(後のフェアリア女王)とマジカ(後女性初の首相)。
幼き日の2人はこの後・・・・
伏線回収はこんな処で?!
次回 フェアリア皇国 Act-5
君は異国の地に馴染めるのか?家族で生き抜けるのかい?




