表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/55

フェアリア皇国 Act-1

日の本皇国に賓客が訪れた。


気品ある少年は、何を秘めてやってきたのか?!


いよいよ、<フェアリア皇国>に向かう日が・・・?!

船旅は早、20日を超えていた。


故郷を離れ、遥々(はるばる)数千里・・・


陸地の影が見え始めていた。

日の本から長旅の末に観えて来たのは、長く突き出た半島の国。


そう・・・この国も皇国。

日の本と同盟を結んでいる・・・<フェアリア皇国>・・・



「ねぇ、お父さんお母さん!やっと辿り着いたんだね?」


デッキで手擦りにしがみ付いた少女が訊いて来る。


「なんだか寒そうな国だねぇ、お姉ちゃん」


少女のスカートを掴んで離さない、幼い弟が姉に訊く。


「そんな事ないよ?きっとあの国でも温かいお家があるんだよ?」


弟の手を掴んで、陸地を指差した少女が。


「そうだよね?お母さん」


後ろに立つ両親に訊ね返した。


「そうね、ミハル。きっと・・・」


か細い声で答えた母に、小首を傾げた少女ミハルが父に訊き直す。


「お父さんのお仕事で来ただけなんだもんね、また日の本に帰る日が来るんだよね?」


「そうさ、ミハルの言う通り。お仕事が終われば必ず故郷日の本に帰れるさ」


父の答えに納得したミハルが、弟の手を掴んで笑い掛ける。


「だって・・・マモル。しばらくしたら、また船に乗って帰らなきゃいけないんだよ?」


ミハルは父の仕事がどんな物かも知らずに燥いでいた。

家族の中で唯一人、母のミユキだけが心配気な表情で、近づく国を眺めていた。


北欧の国フェアリアへ来る事になった経緯を思い出しながら・・・


挿絵(By みてみん)



______________





明和26年の春・・・


街行く人達は、物珍しそうに数台の大型車が行き過ぎるのを眺めていた。

警官達の護衛の下、観た事もない国旗を着けた大型車に乗り込んだ少年達を見かけて。



この春、新たに友好国となった北欧の皇国があった。


青地に双頭の獅子を描いた国旗を掲げる大型車が皇居に滑り込んで来た。

表玄関に停まった車両から降りて来たのは数人の武官と閣僚。

そして・・・


「ふむ・・・此処が皇帝がおわす宮殿か。

 城というより杜の屋代と言った所だな・・・」


銀髪を靡かせた少年が降り立った。

迎え出て来た日の本の官僚が恭しく少年に傅く。


「フェアリア皇国の大公御嫡男、カスター殿下。

 どうぞこちらへ、三輪の宮蒼乃殿下がお待ちでございます」


うん、と頷いた少年が官僚に促されて宮中へと足を運ぶ。

付き従うは護衛の武官達であったが、


「お前達はこの場で待っていろ。此処よりは僕だけで行く」


日の本の官僚に案内させる少年が、数人の身辺警護官を突き放すと。


「良いのですか?我々は陛下から片時も離れるなと・・・」


「君達、僕がこの国へ来た理由を解っているのか?

 友好国とはいえ、無理なお願いに参上したのに。

 身辺警護官を付き従えて行けると思っているのか!」


銀髪の少年は利発そうな瞳を怒らせて、武官達を睨みつける。


「それでは・・・この場にてお待ち致します」


睥睨された武官達は渋々了承したようだが。


「僕に何かあるとすれば、お願いを聴き遂げられなかった時だ。

 リーンを救う手立てが無くなった時なのだぞ!」


まだ成人にも程遠い年頃なのに、少年からは貴族たる威圧感が滲み出ていた。


畏まった武官達を置き去りにして、少年カスターは謁見の間に入る。

待っていたのは陛下の御妹、蒼乃殿下だった。


「初めて伺候致します。

 僕はフェアリア第2皇子嫡男、カスター・フェアリアル・ランバート侯爵。

 友好の印として只今まかり通りました」


御簾が降りた謁見の間で、首を深く垂れ挨拶を言上する少年侯爵に。


「良くぞ参られました。私は陛下の妹、三輪の宮蒼乃と申します。

 本日は失礼ながら陛下のご状態が麗しくなく、私めが代理を務めさせて頂いております」


欧州風に腰を屈めて挨拶を交わす蒼乃に、


「それでは殿下が受けてくださるのですね、我が国が求めたい願いの成否を」


「それは条件に因ります。我が日の本に何を願われるのでしょう?」


カスターは挨拶もそこそこに本題に触れた。

その表情は何かを秘めたもののように真剣で深刻に観えた。


接待をするつもりだった蒼乃は着物を羽織り、髪を結い上げている。

親善大使として到着した公達の少年から、挨拶もそこそこに切り出されたのは。


「条件も何もありません。我がフェアリアの王女をお助け願いたいのです!」


真剣な表情で告げられたのは、国王の娘を助けて欲しいとの願望。

そこにどんな意味があるというのか、なぜ他国に救助を求めるのか。


「フェアリア皇国では救う事が出来ないというのですか?

 我が国に救援を求められる訳をお知らせ願いたいのです」


蒼乃が少年の切迫した表情に深刻な訳があると踏んだのだが。


「我々の研究では。我が国の技術や医術では・・・無理でした。

 どうしても眠りから覚ます事が出来なかったのです。

 王女リーンはもう数か月も眠り込んだまま・・・」


医術では目覚めさせられなかったという。


「リーンに懸けられた呪いを解く事は出来なかった。

 どんな医者にも、どんな魔法使いにも。

 我が国の全知識を総合しても、助けられなかったのです!」


だから・・・願い出たという。


「この日の本には、古来から力ある魔法が延々と伝えられていると聴き及びました。

 どうかお力をお貸しください、どうかリーンをお助け下さい!」


少年は乞う。

王女を呪いから救って欲しいのだと。


「お待ちなさいませ。

 我等日の本には確かに魔法技術という物がありますが。

 どのような呪いにも訊くと言う訳ではございません。

 まして御国の総力を結集した技術でも駄目だったのならば、我が国の技術でも・・・」


一国の総技術を結集して成し遂げられなかった事が、

日の本だから出来るとは簡単に思わないよう促そうとしたのだが。


「いいえ、僕は知っています。

 日の本には魔法の力を機械に与えられる技術を持たれている事を。

 先のエギレス、数年前のロッソア。二つの紛争に出現した魔法の機械。

 勇名を馳せた戦車隊の事を・・・知っていますから」


蒼乃は少年が何を意味して言ったのか、そして何が欲しいのかを言い当てる。


「あなた方は戦争に使う技術を欲するというのですか?

 自国に魔鋼の戦車を造らせたいと願っているのですか?」


日の本で開発された魔法の機械。

使う者の力を増幅し、使う兵器の力を増す。

それは世界にとって危険を伴う魔砲の機械。

蒼乃はこの時、自国の中で開発が行われつつある、とある兵器の事を知りはしなかったのだが。


「違います。僕は少なくてもそんな物が必要とは考えていないのです。

 僕が救って欲しいのは、妹の様なリーンなのです。

 どんな事をしてでも、リーンを眠りから解放したいだけなのです!」


言い切ったカスターの言葉に、どこか引っ掛かりはしたが。


「そうですか、君は妹を助けたいとだけ考えたのですね?

 私がお兄様を救いたいように・・・」


自分の兄の身体が不治の病に冒されているのを重ね合わせた蒼乃が、


「では、フェアリア皇国が欲するのは?

 治癒能力のある魔法使いだと?魔法の技術者だというのですね?」


医療では救えなかった呪い。

それを打ち破れるのは高度の魔法使い、そして。


「そうです。かの新ガポール要塞を陥落せしめた魔女。

 その魔法使いを所望致します。我が国へお譲りくださいませんか?」


人を売り買いする訳ではないが、一人の人間の意志を無視したような言葉に、さしもの蒼乃も。


「譲るとは・・・ものの言い様にご注意ください。

 本人の意向も聞かずに決めるのは出来ません。

 出向させるのは出来るにせよ、帰る事が前提条件。

 それが訊き遂げられなければ、これ以上のお話は無かったことにします」


強く蒼乃が申し渡す。

フェアリアとの友好状態が悪化してでも、ミユキを国外に放擲するような馬鹿な真似は赦さなかった。


「国と国との仲が悪くなってでも?

 それが一国を纏める国主の執るべき行為だとお考えですか、宮様は?」


一方の国が譲渡を願い出ているのを無碍に断るのかと。

唯の一人の事で、国情を揺るがすのかと。


「独り。でも一人。

 独りの生きる道を奪う事が、国の執るべき執政とは思えません。

 本人が納得しなければ、このお話は無かったことになりますが。

 そうまでして彼女を思召される本当の訳を賜りたい!」


辛辣な質問に、心を乱された蒼乃が言い放った。


「本当の訳・・・ですか?

 いいでしょう、お話ししましょう。

 我が国に纏わる陰惨なる物語と共に・・・」


銀髪の少年はこの事態を想定していたのか、懐から紙片を掴みだし語り始めた。


フェアリアに纏わる悪魔との闘いを。

フェアリアに伝えられる悪魔ルキフェルと、女王リインに纏わる伝説を。


そこに登場した東の果てからやって来た魔女の逸話を。

カスターの話す物語は、日の本に伝わる伝承にも重なる。

古代日の本に居た魔女・巫女とそれを総べる神。

世界各国に赴かせ、何かを調べさせていたという。


古代日の本から皇室があった。

王家を護る為に北面の武士たる者が存在し、その中に剣巫女たる魔女が居たという。

特に魔力の強い魔女は、神官巫女として世界の情報を求めて旅に出ていたともいう。

彼女達が何を求め、何を探していたのかは、もう解り様も無かったが。


カスターの教えるのはそれだけでは無かった。

現代の時代に、悪魔たる者が復活せんと目論んでいるのだと。

王女リーンはとある者の身代わりとなって呪われたのだと。


そして、少年カスターはとんでもない事を話し始める。


「この世界は遷ろう物。

 悪魔の機械が蘇り、全てを殲滅し尽くす。

 それを願う者、機械を奉じる者達が暗躍しているのがフェアリア。

 そして、悪魔から世界を救う者が棲むとされているのが日の本。

 希望ひかりの国と呼ばれる日の本のどこかにメシアはいるのです」


目を輝かせた少年が最期に言った。


「蒼乃殿下はご存じなのでしょう?

 この国に居る魔法使いの中で、もっとも相応しい者の名を。

 救世主たる者を呼び覚ませる・・・リーンを呼び覚ませる人の名を!」


挿絵(By みてみん)


少年の言葉は、昔聞いた事のあるお告げに重なった。

そう・・・ミユキの前で話した・・・あの。


「月の住人・・・月の女神・・・ミハル」


記憶は呼び覚まされた・・・・


特使としてやってきた若きカスター。


彼の国が求めるのは?!


幸せな日々は遠く霞むというのか?


次回 フェアリア皇国 Act-2

君は拒む権利を失った・・・最早抗う術も残されていないのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ