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希望の御子 Act-7

ミユキに宿った新しい命。

やがて月が満ち・・・



ミハル誕生!!


ミハル「へっ?!呼んだ?」


・・・・・・・Orz


挿絵(By みてみん)

明和16年、春の事だった。

月充ちるより僅かに早く・・・



「ほぎゃぁほぎゃぁ」


女の子が産まれた。

珠の様に愛くるしい女の子が。


挿絵(By みてみん)


周り中から祝福され、産まれてくれた子に感激した。


「春に産まれ、春の様に朗らかに。

 春の陽の様に温かく・・・そして皆が微笑む様な人となれますように」


名は春から採られ、美しい春と名付けられた。


島田しまだ 美春みはる

 そう!この子は美春。ミユキと僕の愛おしいミハル!」


抱き上げたマコトがミハルに呼びかける。


「きゃっきゃっ!」


幼子は父の手に掲げられ、笑い声をあげ喜んでいる様にも観れる。


「頑張ったねミユキ。ありがとう、本当にありがとう!」


我が子を手に出来た喜びからか、マコトは相好を崩して労った。


「あなた、ミハル・・・ミハルの事をこれからもお願いしますね?」


少しだけやつれた様なミユキが頼んで来る。

娘の名を選んだ夫にだけは、知られたくないかのように悲し気な顔をしていた。

二人の門出の日に現れた、月の住人の名と重なった事が気がかりだった。


「勿論さ!ミユキにだけ子育てを押し付けるなんてしないから」


臥したままのミユキに応えるマコトへ。


「お願い・・・あなた。この子を護ってくださいね」


どうしても・・・記憶が邪魔をする。

幸せなのに陰を差して来るのはあの日に告げられた運命。


「ミハルに闇を近付けさせないで。

 この子はきっと運命の子になるの・・・とっても重い宿命さだめを背負わさせられるの」


マコトに聞こえない位か細い声で呟くミユキ。


「・・・でも。ミハルはきっと世界を救ってくれる子になる。

 人々に希望ひかりを与えてくれる・・・あいの御子になるの」


自分が世界の終わりを招く鍵なら。

この子は世界を救う御子となってくれる。


そう信じているから。

信じたから授かれたと想った・・・ミハルを。





産まれ出た女の子、ミハルは二人の愛に恵まれ育つ。




初声をあげてからひと月があっという間に過ぎた。

育児に、家事に。

ミユキは慣れない生活にも負けず、必死に頑張っていた。



「島田さーん!島田さんのお宅ですよね?!」


誰かが呼びかけていたが、育児に疲れたミユキには誰の名字なのかを忘れてしまっていた。


「島田美雪さんは御在宅でしょうか?」


そう呼ばれてやっと自分の事なのだと分った位、頭の芯から疲れ果てていた。


「あっ、はいはい!今出ますから」


玄関先に立つ人影に向かって応え、ふらつく足で迎え出る。


「中隊長ぅ!ご無沙汰です!」


「光野・・・いや、島田中隊長!お久しぶりでしゅ!」


以前戦車隊に属していた折の部下、アキナとナオの二人が立っていた。


「まぁ!二人共どうして?」


約一年ぶりに会った元部下の顔を観たミユキが、びっくりしたように訳を訊くと。


「はい!二人揃って転属になりまして。

 近くに寄ったものですから・・・ご挨拶しようかと」


アキナの階級章が伍長となっているのに気付き。


「まぁ!昇進おめでとう。ナオも?」


身長の低めなナオが胸を張り、


「はいでしゅ!これでも先任搭乗員を務めてるのでしゅよ!」


無線手だったナオにも部下が出来たという事か。

二人の昇進を祝っていたミユキが。


「立ち話もなんだから。どうぞお上がりなさいな」


家の中に招く。


恐縮していた二人が宅内に上がると。

懐かしい顔を観れたミユキも心の疲れを見せず、嫌な顔一つ出さなかった。



「うっわぁーっ!本当に赤ちゃんだぁ!」


「ちゅっげぇーっ、可愛いでしゅねぇ!」


物怖じしないミハルを抱え上げたナオとアキナがきゃっきゃっと言いながら持て囃す。


「ありがとう、その子も喜んでいるわ」


褒められて喜ばない親もいないという事か。

唯・・・名を呼ばなかった事が気になったのか。


「あの、お名前は?私達は伺っておりませんので。」


ナオが赤ちゃんを手渡して訊ねると。

ミユキは少し躊躇ったかのように。


美春みはる・・・ミハルっていうのよ」


まるで触れてはいけないモノのように言葉少なに答えて来る。


「・・・美春ちゃんでしゅか!良いお名前でしゅね?!」


ミユキの気を察したナオが声も荒く、その名を呼ぶ。


「春の名の如し。優しい子になってね?」


アキナもミユキの表情がすぐれない事を気にする。


「そうよね?ミハルは人一倍優しい子に育てるわ」


挿絵(By みてみん)


椅子に腰かけたミユキの陰が気になるのか、二人は眼を配らせ合う。

きっとこの赤ちゃんには何かがあると睨んで。



一刻、歓談を交わした3人。

二人の部下が辞去するのを。


「また近くに寄ったら訪ねて来てね?」


ミユキが名残を惜しむ。


「はい!また。それでは・・・」


「ミユキ隊長もお元気で!」


敬礼を贈り去り行く部下を見送るミユキに、二人は違和感を覚えていた。

歩き始めたナオがアキナに言う。


「まるで産まれて来た事を悩んでおられるみたいでしゅ?」


「うん、何か悩まれておられるようだった。女の子の名をあまり話さなかったようだったが?」


二人は交々(こもごも)ミユキの異変を気にしていた。

まさか、ミユキの子に着けられた名によるとは思いもせずに。



ー 私・・・この子に可哀想な事ばかりしてる。

  幸せになって欲しいのに・・・

  マコトが着けてくれた愛しい名なのに呼んであげられていない・・・


抱きかかえたミハルを観ては悲し気に呟くミユキ。


ー 必ず護るって約束したのに。

  護るばかりじゃ幸せになれないのかもしれないのに・・・


運命の子だと、意識し続ける事が却ってこの子を不幸にするのではないのか。

子育てを一人でする事がこれ程悩む事なのかと、初めて戸惑う。

育て始めてまだひと月目のことだった。

只でさえ初産で育児のイロハも判らないミユキは、少々育児に疲れ、ノイローゼ気味に陥っていた。


「このままじゃ・・・私もミハルも。

 マコトまでも駄目になってしまう・・・」


眼の下に隈を作り、悩みを膨らませてしまう。


「ミユキ!どうしたんだ?」


帰って来たマコトの声にやっと我に返れた。


「あ、あなた。お帰りなさい」


疲れ果てていたミユキが空元気を作り、マコトに応えるが。


「ミユキっ、疲れただけじゃないんだろ?」


向けられた顔に浮かんだモノに気付いたのか、マコトが血相を変える。


「僕が悪かった!ミユキにそんな表情をさせてしまうなんて。

 休暇を取って僕がミハルを観るから、少しは身体を労わるんだよ?」


「あなた?どうして・・・」


帰って来るなりマコトが抱き寄せる。

何かを誰かから知らされたのか?

それとも自分の顔にそれほどの疲れが見えているのを心配したのかと。


「良いかいミユキ。

 子育ては二人でする約束だったじゃないか。

 どうしても辛いのなら、僕は君の傍に居るよ。

 例え軍を辞めたって良いんだ、ミユキが願うのならいつも傍に居てあげたい」


研究の為、軍に残った夫。

人に役立てられる技術を開発するのが夢だったマコトから奪える筈もなく。


「大丈夫だから。あなたは辞めてはいけないの。

 この子の為にも、あなたは頑張っていて欲しいから・・・」


感謝の代わりに涙が零れる。

抱かれたまま、ミユキは嬉し涙を零す。


「あなたがそう言ってくれただけで胸の痞えが取れたわ。

 私がもっとしっかりしなきゃ駄目なのに。

 夫にまで気を揉ませるなんて、駄目な妻でごめんなさい」


涙声で謝るミユキをしっかりと抱き。


「謝らなくていいんだよ?

 辛かったら頼ってくれたらいいんだよ?

 僕達は夫婦だろ?助け合って育てなきゃいけないんだから」


健気で献身的な妻を慰める。

ポロポロと涙を零すミユキが、


「ああっ、私っ!あなたの妻で良かった!

 あなたに愛されてるのがこんなに幸せなのを忘れていたの!」


感謝と信頼の叫びを張り上げる。


「私っ、間違っていたの!

 ミハルを巧く育てようと粋がって。

 なんとか巧く育てなきゃって意固地になって。

 あなたにまで心配をかけちゃって・・・ごめんなさい!」


マコトの胸に縋り付き、赦しを乞う。

そう、娘に対して。


「ミユキ、大丈夫だよ。

 ミハルはきっと解っているからね、君が誰よりも愛している事に。

 誰よりも大切に想っている事を・・・分かってくれているよ」


そっと耳元で呟いてから、視線を戸棚に巡らせる。

戸棚の中に納められた物の中から、淡い光が小さく瞬いて観えた。


「そうさ、ミユキばかりじゃない。この僕だって愛おしいんだから」


淡い光は瞬く。

・・・感謝を告げるかのように。

古びた本は喜びを表すかのように細かく震えていた。







______________





「ほぉぎゃーっ!ほんぎゃぁ!!」


赤ちゃんが元気に啼いている。


「元気一杯だね?」


「うん、誰かさんの時よりも・・・だよ?」


ミユキは微笑んでいた。

また、もう一つ。

希望が産まれた事に感謝して。


「誰に似たんだろうねぇ?」


産まれたての赤ちゃんを観る女の子が父に訊くと。


「ミハルに似てるよ?お母さんにもね?!」


マコトが教えるのを小首を傾げて聞いていた女の子が。


「じゃあ、赤ちゃんは大きくなったらお母さんみたいな美人さんになっちゃうの?」


びっくりしたように訊き返して来る。


「そうだねぇ、そうかもしれないよ?」


マコトの声に微笑むミユキが、


「ミハルもお姉ちゃんになったんだから、ちゃんと面倒見てね?」


鳴く赤ちゃんをあやして頼んだら。


「もっちろん!ミハルに任せて。マモルのことは!」


赤ちゃんの名を呼んで答えるミハルに。


「それじゃお姉ちゃん、しっかりね?」


微笑んだミユキが頼み直した。


「そうだよミハル。

 お姉ちゃんになったのに弟に護られ続けるなんて駄目なんだからね?」


マコトも1歳と半年、歳上の姉に言い含めるのだった。


「ふ~んだっ!マモルはいつまでも可愛い私の弟なのっ!」


ちっちゃな姉が幼い口調で言い返す。

やっとお話が出来るようになった1歳半の女の子が。



島田一家に新しい命が産まれた。



当時日の本皇国は列強の争いに巻き込まれる事も無く、平和を謳歌していた。


そう。


遠く離れた欧州では、いみじくも醜い勢力争いが始ろうとしていたのだが・・・


産まれた!生まれた!産まれちゃったよ!!


希望ひかりを宿した御子が。


女神を宿す御子がミユキから生まれたんだよ!

あ、弟マモルも生まれたよ!


そして・・・遂に舞台は<フェアリア>へと移って行くのです。


次回 フェアリア皇国 Act-1

その国は遠く離れた場所にあった・・・伝説を引き継ぐ者が居る場所!

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