希望の御子 Act-3
図書館に現れたのは三輪の宮蒼乃殿下だった?!
お忍びって・・・?
暴れん坊将軍か?!
夕日が差し込む館内で、ポツンと独り待っていた。
もう間も無く閉館時間になる。
壁時架けられた時計を見上げて、ため息を吐くミユキの影が長く伸びていた。
「マコト・・・何かあったのかしら。もう拝謁の時間をとっくに過ぎているのに」
昼頃から始められた宮中での式典の予定時間はとっくに過ぎていた。
マコトに待つように頼まれたミユキは、その場から離れる事も出来ずに待ち続けている。
「待たなきゃ、マコトはきっと来てくれる。
私との約束を必ず守ってくれる・・・」
座り込んだまま、夕日が沈んで行こうとする光景を詰めていた。
「間も無く閉館です、お忘れ物のなきよう・・・」
書司がベルを鳴らしながら過ぎ去っても、ミユキはその場から離れがたく。
「閉館したらどうしよう。門の前で待っていようかな」
戸締りを始めた図書館で、ミユキはこの後どうしようかと思い悩んでいた。
夕日が沈んだら・・・一人ぼっちで待つのは辛いなぁと、思いながら。
「「もう直ぐ・・・逢いに来られるよ・・・約束を果たす為に・・・」」
誰かの声が聞こえたような気がして、ミユキは顔をあげた。
「えっ?!今誰か話しかけて来た?」
少女の声が聞こえた気がした。
確か、どこかで聴いた事のあるような声が。
「そうか、この図書館で。
あの古文書に宿る女神さんの声だわ!」
マコトを教えた女神の声だと感じたミユキが、古文書が収納されてある書棚を観る。
夕日が届かない薄暗い書棚の方から、淡い光が見えたような気がした。
まるで声に導かれたかのように、ミユキは書棚に足を運ぶ。
「女神さん?そこに居るの?」
自分をマコトに引き合わせた女神。
運命を告げた月の女神と名乗った声に、こうしてもう一度声が聞けたのも縁だと思って。
「生きて帰れました。マコトと共に帰って来れました」
自分を許嫁に選んでくれたマコトの事を報告しよう言葉を返した。
だが、聞こえたのは一度きり。
再び声は聞こえては来ない。
薄青く光ったと観えたのだが、近寄れば書棚は薄暗いままだった。
「気の所為かしら?空耳だったのかな?」
何も聞こえず、何もない書棚。
そこに収められている古文書達の古びた書籍の臭いだけが、あの日に起きた奇跡を思い起こさせていた。
「ミ・・・ユ・・・キ・・・」
名を呼ばれた。
さっきとは違う女性の声で。
女神の声とは違う、懐かしき人の声が呼んでいた。
「ミユキ・・・コッチこっち!」
ー いつからそこに居られたんだろう・・・
夏だというのにマントを被った人影が手を招いて呼んでいる。
女性の声にミユキは涙が溢れて来るのを止めれなくなる。
「ミユキ、私よ?」
飛びつきたくなる感情を押し殺すのが精一杯。
頬を流れ落ちる涙が、呼ぶ人に観えていないのか。
「お忍びでここに来るのは大変だったんだから。
多分、大騒動になってるんじゃぁないかな?」
苦笑いを浮かべた女性が、被っていたベールを脱ぐ。
そこには端正な顔立ちをしたミユキと同い年位の娘が微笑みを浮かべている。
「蒼乃・・・蒼乃様・・・どうして図書館に?」
ミユキの質問に答えず、三輪の宮蒼乃殿下は顔を逸らして話しかける。
「ここに来ればあなたに逢えると思っていたから。
島田君に初めて逢った場所に来ればミユキに逢えると思ったから・・・
でも、本当は・・・私の頼みを島田君が聴いてくれたから・・・なの」
ふふふっと笑い、碧色の瞳を向けた蒼乃がかねてからの計画だった事を話した。
「島田君に頼んであったの。
ミユキが帰ってきたらこの図書館で待つように仕向けてと。
帰って来ても逢う事すら出来ないじゃない私達って・・・だから。
私の方から出向くからって、説得したのよ島田君に・・・ね!」
悪戯っぽく笑う蒼乃を観て、ミユキも可笑しくなって微笑んだ。
「もうっ、蒼乃ったら。
そうまでしなくても呼び出してくれたら参内するのに・・・」
マントの手を取るミユキに、蒼乃は悲し気に笑うと。
「駄目よミユキ。
あなたはもう神官巫女には戻れない身なのよ?
参内するにも術を使わなきゃいけなくなっちゃうのよ、闇祓いの魔術を」
「うん、そうだね。
でもね蒼乃。私はもう闇払いの術を使えなくなっちゃったんだ。
マコトから手渡された蒼き宝珠に、同化させちゃったんだ私の魔法石を。
今は持つべき魔法石を持っていないんだよ?」
ミユキの答えに蒼乃がポケットから何かを取り出す。
「ミユキ、島田君から返されたんだけど・・・」
差し出された手には、国宝の蒼き宝珠が載せられている。
「これはミユキの物になったのよ?返さなくていいんだから。
あなたにずっと持っていて欲しいの、だって同化したんだからミユキの魔法石なのよ?!」
手渡そうとする蒼乃。
載せられてある宝珠を見詰めるミユキ。
「待ってよ蒼乃。
いくら同化させたと云っても、その宝珠は国の宝物なんだよ?
私が持っていていい訳がないじゃない!」
一介の魔法使いでしかない自分が持てるような品物では無いと拒むのだが。
「あら。
いまミユキは国の宝って言ったわよねぇ。
だとすれば国の宝である魔砲の娘にこそ相応しい物でもあるわよね?
諸外国に日の本には魔女が居るって喧伝した魔法娘にこそ相応しい持ち物ではないのかしら?」
蒼乃の返事に驚くのは、国宝を自分が持つという事より、自分の戦績が蒼乃に伝わっている事。
魔法を使い、魔砲を放ち。
そして敵国を降伏へと導けた、事変を拡大せずに済ませれた事実と共に。
「蒼乃・・・もしかして全部あなたが仕組んだ事だったの?」
ミユキは今回の事変が蒼乃によって起きたのかと気に懸けたのだが。
「そんな大それた事が出来る訳ないじゃない。
人の命を奪い合わせるような悪魔だと思うの?
私が願ったのは平和。そして事変を起こした者達への懲罰。
敵国を造った者達への誡めを知らしめたかったのよ」
首を振って自分が何を望んでいたのかを告げて。
「ミユキを護りたかったのは本当。
だから女神が告げたように島田君を差し向けたのよ。
きっと蒼き宝珠が必要になると教えられて・・・ね」
蒼乃の口から女神の話が出て来た。
ミユキは自分も会った事のある女神を思い出して。
「蒼乃にも?理の女神が知らせに現れた?」
「そう、月から来たという女神に・・・って、アレ?
ミユキも出会った事があるって言ってたわよねぇ、この図書館で。
でもね、ミユキが教えてくれていた女神と同一じゃないような気がするけど?」
小首を傾げて二人が教え合う。
「え?違う女神に会っていたの?
蒼乃と会ったという女神ってどんな姿形をしていたの?
どんなお告げを話したというの?」
ミユキが女神について訊いた時の事だった。
それまで薄暗かった書棚から、蒼き小さな光が現れ出て来たのを二人は気付かなかった。
「「月の・・・月から来た女神。月の住人・・・」」
蒼き光は何かを知りたがっているような声を溢した・・・
蒼乃はどこか様子がおかしかった。
気付いたミユキに話しかけてくるのは・・・
次回 希望の御子 Act-4
君は一体?!その髪の色と瞳は?!まさかっ?




