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東洋の魔女 Act-8

立ち塞がる魔鋼チハ改!


敵弾を弾き返し砲撃する姿は、まるで不死身の魔女にも見える・・・

大貫中尉の第2中隊が廻り込んでいくのが視界の端で捉えられた。


エギレスの重戦車隊は廻り込んだ魔鋼チハの砲を観測し、手強い敵だとは思っていないのか。

自分達の装甲を破る事が出来ないと踏んだのか。


一両を撃破した2両の魔鋼チハ改こそが、自分達が闘うべき強敵と睨んだのか。

5両全ての砲塔がミユキの車両に向けられた。


「5両全ての砲を以って、一撃でケリをつける気なんだな?」


キューポラのレンズ越しに観測したマコトがミユキに話しかける。


「そうでしょうね。

 敵はこの魔鋼チハ改以外の車両を危険視していないのでしょう。

 最初に強敵を全力で叩いて、後は各個に戦おうと考えたのでしょうね?」


ミユキの答えは、マコトの作戦が図に嵌った事を教えている。


「だったら、やる事は一つだな。

 敵を出来るだけ長く惹き付けておけば、他の皆には手を出せない。

 敵の攻撃を一手に引受けておけば、他の車両が攻撃しやすくなる」


自らを囮と化すと告げるマコト。

敵の集中攻撃にどれだけ耐えれるのか、射弾を回避し続けられるのか?

魔鋼の力がどれだけ通じると考えているのか・・・


「少佐、それもありますが。こちらも撃ち返さなくてはいけませんよ?

 敵を惹きつけるには、どうしても先に倒さねばならないと思い込ませなきゃいけませんから」


照準器を通して敵を見詰めるミユキが教えて来る。


「そうだな・・・走行間射撃が出来るかい?」


走りながら射撃する、走行間射撃。

スタビライザーが装備されていない時代、

揺れる砲身からの射撃で命中させるには、並外れた射撃術が要求される。


「ええ、出来ますとも。

 ピンポイント射撃は無理でも、あれだけ大きな的なのですから」


照準レンズを観たままのミユキが、少し笑ったような声で答えて来る。


「そうか、じゃあ射撃はミユキに任せるよ。

 敵に痛撃を与えられ無くても、注意を惹きつけておければ良いからね」


魔鋼状態となった魔鋼チハ改は中隊から抜け出し、1両だけ突貫し始める。


「良いか皆、ミユキの防御魔法でどれだけ防ぐ事が出来るか判らない。

 敵弾が貫通する事も考慮しなければならない。

 もし、僕やミユキにもしもの事があれば、構わずに脱出するんだぞ!

 何があっても最期の瞬間まで決して生きる事を諦めるんじゃないぞ!」


敵の砲身が定まったのを捉えて、マコトが覚悟を仄めかす。


「いやいや。中尉の魔法力なら大丈夫でしょう?」


ヒロコは最高位である魔砲の巫女に絶対の信頼を寄せているようだ。


「その前に、避けてみせますよって!」


操縦手が走行レバーを操りながら、自分の運転に自信をみせる。


「そうでしゅ!中尉の射撃術でぜぇーんぶ、やってけちゃいまちょぉー!」


強力な無線機に仲間からの励ましの声が入ってきて、ナオがお気楽に叫んだ。


「あははっ、そういう事らしい。

 ミユキに全てを託しても良いかい?」


肩を竦めたマコトが笑う。


「はい!お任せアレ!」


はにかんだようなミユキの答えが、自信の程を伺わせる。


「よしっ!それじゃあ、攻撃再開!」


砲塔天蓋、車長席に陣取ったマコトの命令に因り、走行間射撃が始った。







「おいおいっ、光野車両だけで撃ち合う気なのかよ?!」


M3軽戦車と撃ち合っていた大貫中尉が、たった1両で突っ込み始めたチハ改に気付く。


「あのとっぽい少佐が?自らを犠牲にする気なのか?!」


指揮官である島田少佐が、敵の射撃を一手に引き付ける策を執ったと思い込んだ大貫中尉が。


「あの男・・・意外とい男かも・・・

 光野中尉なんかには勿体ないかも・・・少々男前だったし・・・」


ミユキにはライバル心剥き出しの大貫サチコであったが、マコトには惹かれるモノがあったのか?


「光野中尉は死んだって構わないけど、島田指揮官だけは死なせたくない気がしてきた。

 何故だか島田少佐の事が気になってしょうがない・・・な」


自分の中隊が未だ軽戦車部隊とやり合っているのに、なぜだか応援に向かいたくなってしまう。

照準器に映る戦場には、指揮下の中隊5両と残敵である4両が見て取れた。

足の速い敵に攪乱されてはいるが、どうみてもこちらの方が優勢なのは一目瞭然だった。

魔鋼状態となったチハの前面装甲をM3の37ミリ砲では、余程近づかねば貫通出来ない。


敵に側面を取られない限りは、先ずは一方的に闘う事が出来ると踏んだサチコが。


「うん、よしっ決めた!私だけでも救援に向かおう。

 指揮は第2小隊長に任せておいても大丈夫でしょうからね。

 あの巨大重戦車の横っ腹を蹴りに行こうじゃないの!」


勝手に命令を下そうとしたのだが。

危ぶんだ操縦手達が一斉に反意を唱えだした。


「中尉っ、独断専行にも程がありますよ!」


「中隊長としての務めを放棄するつもりなのですか?!」


「車長としての判断だというのなら反対です。

 目の前に居る敵から一両だけで離れれば、敵は群れ集って襲い掛かりますよ?」


3人が一斉に反意を促してきた。


「うっ・・・それを言われたら・・・その通りね。

 だったら、どうすれば少佐を救えるのよ?!」


部下でもあり、戦友でもある同乗者に言い募られたサチコが訊き返す。


「そんな事決まってるじゃないですか!

 M3を駆逐してから全車でTOGⅡを叩くのです。最初に命令された通りに!」


操縦手が振り返って笑い掛けてくる。


「大貫中尉は全力を放っていませんよね?私達だってそうですもの!」


装填手が腕を廻して言い放つ。


「私達だって魔砲の力があるのですから!」


無線手が被っていた戦車帽を脱いで促して来る。


そうだった・・・思い出させてくれた。

この魔鋼戦車隊員は、全員が魔法使いなのだった・・・サチコは言われて初めて思い出した。


「ふっ!言われるまでもない!

 みんなで力を併せるのが戦車乗りだものね!

 それじゃあ、中隊各車に命じるわ。全員の力で敵を倒してみせようってね!」


刺々しいサチコからいつになく優し気な命令が下される。

気付かせてくれた仲間と共に闘うのだと。

窮地に飛び込む味方を救うのは、皆の力を併せれればこそなのだと知って。


「了解!全車に最大魔法力で闘えと命じます!」


無線手がマイクを片手に頷いた。

大貫中隊6両は、M3軽戦車4両に牙を剥く。

魔鋼の力を結集して。


ただ・・・この時代。

まだ魔鋼機械の黎明期であった。

マコトやミユキが危惧していた不安定な機械が、

全ての魔砲力を正常に受け止められるかは誰にも分かり様が無かった。



「皆!魔法石に力を!

 魔法の姿になって戦おうっ!」


右手に持つ蒼き石を翳したサチコが叫んだ。

魔力を放つ魔砲の娘が、属性の魔法衣姿に替わる。

紅き戦いの衣装を纏う大貫サチコがキューポラから命じるのは・・・


「島田戦車隊に我あり!大貫中隊ここにあり!」


残敵M3軽戦車4両目掛けて必殺の47ミリ戦車砲が火を噴いた。






炎と煙が立ち上って行くのが観えた。


超重戦車隊の側方から、擱座車両が燃え上がる炎と煙が立ち上って行くのが。



「どうやら大貫中隊も奮戦しているみたいだな」


ポツリと溢したマコトは、ミユキが放った穿甲榴弾の戦果に。


「こっちも無傷に済めば良いのだけど。

 そうもいかなくなりそうだな・・・ミユキ」


行進射撃は敵にダメージを与えられたが、致命傷とまではいかないようだった。

弾き返されはしていないが、命中箇所に因っては動きを停める事も無く反撃の砲火を放って来る。


「そうね・・・敵の17ポンド砲は確かに強力だわ。

 下手をすれば味方に損害が出ちゃう・・・惹き付けておかないといけないわ」


5両からの反撃に因り、1発の弾が当てられてしまった。

向けていた砲塔正面の防盾に・・・


「もしもミユキじゃなかったのなら。

 魔砲の力が無かったのなら・・・一発で撃破されたかもしれないな・・・」


被弾した瞬間を思い出して、マコトは魔砲の力に感謝していた。

高位の魔法使いでもあるミユキに授けられた蒼き宝珠がなかったのなら、

今こうして話し合っていられたのかどうか・・・そう感じて。


「マコト・・・少佐。

 絶対に傷付けたりはさせないから、この車両は。

 護って・・・護り抜いてみせるから、マコトを」


命中弾を受けた時、ミユキは自分の身体に弾を受けたかと思う位のダメージを感じていた。

防盾に突き当たった17ポンド徹甲弾は、普通のチハ改ならば貫通していただろう。

チハ改最大防御装甲である防盾であった事が幸いしたともいえる。


もしも他の箇所だったのなら、最悪の場合車内に飛び込んできて破壊と殺戮を巻き起こしたかもしれない。


「ミユキ、あまり無理するなよ?

 苦しくなったら早めに言うんだよ?」


マコトの気遣いはミユキには無用にも取れた。

戦闘中の砲手が力を出せないなら、それは則ち敵に倒されるという事にも繋がる。


「いいえ、構わないで。

 苦しくても辛くても・・・私は護り抜きたいから。

 みんなを、あなたを。そして果たしたいの約束を・・・」


汗を滾らせるミユキは、砲撃を続ける。

その姿に声を呑んだマコトが、第1中隊の各車に眼を停める。

5両のチハ達が重戦車隊の側面に取り付こうとしていた。


「ああ、ミユキ。

 もう直ぐだよ、後少しの辛抱だ!」


その直ぐが、どれ程長く感じられた事か。

重戦車5両の砲身が、自分独りに向けられているのを見続けるミユキには。


「敵の砲撃が来る前に・・・ミユキに言っておきたい事があるんだ」


車長席から飛び降りたマコトは、ミユキの肩に手を置く。


((バチッ))


スパークが碧く光る。


「マコトっ?!いけないっ今の私に触れちゃ駄目ぇ!」


魔砲力を放つ自分に触れる事は、魔力に直接触れるのと同じ事だと教えた筈なのに。

叫んだミユキがマコトを突き離そうとした時。


「大丈夫・・・ミユキの魔砲力に少しだけ力を貸したくなったんだ」


苦し気な声ではない。

むしろ優し気に、そして力強く。


「今迄ずっと黙っていたけど。蒼乃宮様だけはご存知だったんだけど。

 僕・・・島田誠という男にも、あるんだよ?

 魔砲と呼ばれた魔法の力が・・・」


髪が風もないのに靡いている。

鳶色だった瞳が薄青く染められている。

まるでミユキに力を授けるように、力強く微笑んでいるマコトの姿が。


「マ・・・マコト・・・様も?

 嘘っ、マコトは殿方なのに?!何故?どうしてなのっ?!」


魔法使いはすべからく女性だけなのだと思われて来た。

初めて女神に教わり見詰めていたあの日から、

マコトというひとが不思議に心惹かれたのは確か。


「でもっ、でもっ!マコトが魔法使いだったなんて思わなかった。

 それならどうして一言教えてくれなかったの?!」


戸惑うミユキに笑い掛けるマコトが、


「ごめん、言いそびれちゃって。

 それに僕の中に魔力が潜んでいた事を教えてくれたのは女神なんだ。

 宮様から授かった<如来の石>に、触ってからなんだよ?!」


自分に魔力があるのが解ったのはつい先日なのだと答えて来る。


「そのことを蒼乃様がご存じだったというの?」


「そうかもしれないし、偶々なのかもしれない。

 はっきりと訊いた訳じゃないんだけど、二つの魔法石をくだされた訳を考えたらね?」


苦笑いするマコトに、ミユキも笑ってしまう。


「その件は帰ってから聞いてみようと思うんだ。

 帰れれば殿下の元へ返しに伺おうと思うんだ、この石を」


ミユキに見せる<如来の石>が、碧く光続けている。

それは持ち主が魔砲力を放っている証でもあった。


「はい!私もこの宝珠を返しに伺わないといけませんから。

 その時は、ご一緒させてくださいませ・・・あなたと」


挿絵(By みてみん)


はにかんだミユキの微笑みが、マコトの心を癒した。


「ああ、その為には。

 この闘いを終わらせなきゃいけないね、ミユキ」


肩に手を置いたまま、魔法力をミユキに与え続ける・・・当然のように。


「さぁ!もう一息だよミユキ。

 みんなが力を併せられれば、敵に勝つ事が出来るんだって見せてあげないと。

 敵だけじゃなく、味方にも。

 ・・・そうさ、魔鋼の力を放てる魔女が進み征く姿をね!」


超重戦車に立ち向かうのは、自分達だけではない事をミユキに教える。


正面に立ち塞がった1両の魔鋼チハ改。

闘う仲間達の戦車が、総力を結集させて重戦車に挑みかかる姿。


それは後の世で、<東洋の魔女>と呼ばれる戦車隊の勇姿!


いよいよ戦車戦は最終局面へ!


島田戦車隊は往く。

超重戦車に痛撃を与えん為に!


次回 東洋の魔女 Act-9

君は敵に怖れられる・・・そう<魔女>と呼ばれて


次回で<東洋の魔女>は終了です。いよいよ彼女の産まれる秘話が?!


ええ、<希望の御子>が・・・誕生するのです。

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