東洋の魔女 Act-6
闘いは重戦車の登場で油断を赦さなくなった。
ミユキに求めるのは古から引き継いだ魔砲の魔力。
そう、発動の時が訪れたのだ!
M3軽戦車部隊が森に逃げ込んだ時、大貫中尉は追撃を中断した。
軽戦車が逃げ込んだ先に観えた巨大な戦車に気が付いたから。
「なんだあれは・・・あれが戦車だというのか?」
魔鋼チハの数倍は有ろうかという長大な車体が、森の奥から出て来ようとしていた。
木々をなぎ倒し、ゆっくりと動いている重戦車。
車体上部に備えられた砲塔が、こちらへ向けて旋回を始めているのに気が付くと。
「各車急速離脱!重戦車の砲身に注意するんだ、撃ってくるぞっ!」
率いている第2中隊各車に注意を勧告した大貫中尉が、敵からの攻撃を避ける為に反転180度を命じようとした。
「中尉!指揮官から命令ですっ、急いで敵の右側面に廻り込むように・・・と、言って来ました!」
無線手の叫びに、大貫中尉は疑問符を浮かべる。
「なに?右側面を盗れって言うのか?どういう意味があるんだ?!」
自分の中隊を囮に使うつもりなのかと、不審に思った大貫中尉に続けて命じられて来たのは。
「中尉!指揮官よりの情報ですっ。
敵は巨大なれど装甲は並み・・・チハの備砲でも射貫が可能と言ってます。
勿論、側面か後方からなら、らしいですけど?!」
「そうか!それで側面を盗れと言って来たのだな!」
不信感を一笑の内に消した大貫中尉が、即座に中隊各車に命じる。
「それならば、私達の執る戦法は命じられた通りだ!
全車敵部隊の右側面に廻り込むんだっ、続けっ!」
車長用キューポラから半身を出して、中隊各車に手を振り指示を下す。
大貫中隊は命に従い、直ちに行動に移った。
森の前で方向転換を開始した第2中隊各車を観て。
「素直に聴いたじゃないか、大貫さんは・・・」
キューポラで観測していたマコトが、第2中隊の行動を観て笑うと。
「ミユキ、射線が開けられたぞ。
ここからが君の力の見せ所なんだ。
敵の正面装甲を破る事が出来るのかどうかが、戦闘の勝敗を決める事になる。
君の腕に全てがかかっているんだぞ!」
車内の砲手席に座るミユキに向けて託すように話しかけた。
「敵の砲塔正面は射貫けはしませんから、車体を狙います。
砲撃準備よし、発砲の許可を願います・・・」
照準器を睨んだまま、ミユキが命令を求めて来る。
「うん、第1射は正面中央から出て来た車両を狙え。
距離800、敵の速度は14キロ。動標的に突き2目盛り前方を狙うんだ。
射撃用意、攻撃始め!撃ち方始めっ!!」
マコトが射撃の許可を与える。
それに準じてミユキも中隊各車に命じた。
「砲撃始め!小田切軍曹と私で目標車に発砲する。
中隊各車は目標をM3型に絞って!
・・・撃ち方始めっ、撃っ!」
照準器の中心線に巨大な車体を捕捉して、ミユキが攻撃命令を下す。
敵正面装甲をこの距離から貫通させられるのは、中隊の中で2両だけ。
それも、穿甲榴弾を備えたミユキの魔鋼チハ改と小田切軍曹の75ミリ砲だけだった。
攻撃命令を下したミユキの眼が、捕らえ続ける車体を睨み。
「撃っ!」
射撃ペダルを踏み込んだ。
低い砲撃音が車内を轟かせ、弾が飛び出した事を告げる。
空薬莢が砲尾の尾栓から勢いよく飛び出し、硝煙の臭いが鼻を突く。
キューポラから砲弾の弾道を観ていたマコトが、命中を確信して手ごたえがあるのかを待つ。
紅い曳光弾が緩い放物線を描き、TOGⅡに突き当たった。
穿甲榴弾は、命中した瞬間に高温のガスを霧状に先端から噴き出し、
熱で装甲を焼き切りながら内部へと侵入していく。
命中した箇所に穿かれた穴が観えた。
弾き飛ばされる事なく、砲弾が貫通した証でもある穴が。
「よしっ!命中っ。
しかし、敵はまだ動きを停めていない!」
攻撃の続行を命じるマコトが、次弾を同じ車両に向けさせる。
「完全に撃破するまで射撃を継続するんだ!
奴等もこっちに気付いた筈だ、敵が射撃して来るまでに少しでも数を減らすんだ!」
砲塔をこちらへと旋回させ始めた6両の超重戦車に、2両は砲撃を繰り返す。
ミユキの第2射が命中し、第1射は外した小田切車の次弾が同じ車両に命中する。
3発の穿甲榴弾を喰らった敵の生き残った乗員が、堪らず脱出するのが観える。
「先ずは1両でしゅ!敵はワラシ達に気付いたようでしゅ!」
無線を傍受していたナオが、敵が動揺している事を報告する。
「そうか、それじゃあいよいよだな。
各車に突撃命令と、魔鋼状態への移行を命じる!」
隠れている事の意味がなくなった今、敵に姿を晒し近付く戦法に切り替える。
「装填手、直ちにボタンを押せ!
魔鋼機械発動っ、全力で超重戦車を叩く!」
第2中隊の魔鋼戦車が真価を問われる時が来た。
チハは47ミリ砲の砲身を増大させ、小田切軍曹のチハ改は75ミリ砲の砲身を伸ばす。
「中隊各車即時魔鋼状態になりますっ!
光野中尉っ、用意宜しい?」
ヒロコが答えを待ってボタンに手をかける。
「ええ!ヒロコっ、発動ッ!」
ミユキが右手を砲身に掲げて答える。
填められた宝珠を蒼く輝かせて。
「ミユキ、全力を見せてくれないか?
魔砲の力がどんな物かという姿を・・・君の引き継いできた魔砲の姿を!」
キューポラから降りたマコトに熱望され、ミユキが頷く。
(作者注・手抜きですみませぬ・・・鉛筆画が無性に載せたくなりましたので)
「蒼き宝珠の力を引き出してみせますから。
私と蒼乃様の力を併せた魔砲の力を、今からご覧になってください!」
蒼き瞳となったミユキが振り返って告げた。
「・・・ああ、そのつもりだよ」
紅いリボンが解け、髪が薄青く染まり始める。
「光の神官巫女ミユキが求めます!
蒼き宝珠よ!私と伴に打ち破る力を示して!」
ミユキの身体が蒼きオーラに包まれ、戦闘服が掻き消える。
一瞬でオーラは消え、光が消えた跡には・・・
「そうか。この姿が・・・神託の巫女。
あの娘が言っていた力の顕れ・・・」
マコトが観た神官巫女たるミユキの姿は、
「これが、古から伝えられた魔砲の巫女。
神の力を宿す娘が羽織る巫女の姿というものなのか・・・」
誰かに教えられていたのか、マコトは初めて見たミユキの姿にも動ぜず。
「これからが本当の闘いだぞ!
接近して一気に叩くんだ。叩いた後は目的地まで一気に攻め寄せるからな!」
遂に。
マコトは決断を下した。
超重戦車を破った後は、事変の終結を目指すと。
敵の要塞目掛けて突入を図るのだと・・・
5両になった超重戦車を全滅させ、戦車戦にピリオドを打てるのか?
戦闘は未だ勝者を決めかねるというのに・・・
一両を撃破したミユキ中隊。
それが敵を惹き付けるのだと分かっていながら。
戦場は未だ決着はつけられてはいなかった・・・
次回 東洋の魔女 Act-7
君は魔砲を放ち敵を惹き付ける。仲間を助ける為に・・・




