東洋の魔女 Act-1
魔鋼戦車隊に新たな指揮官が?!
その人は、何かを秘めているというのか?
誰かに命じられたのか?
ミユキ達の運命を握るのは・・・誰?
日の本軍とエギレス軍との戦闘は続けられていた。
植民地の拡大を目指すエギレスに対し、
日の本軍の目的は根拠地であるガポール要塞を攻略し、目論見を挫く事に在った。
・・・名目上は。
だが事変の拡大を目論み、作戦の推移次第で戦争に発展させようとする者が居たのも事実。
日の本に在って存在を誇示しようとする者。
それは・・・軍部と結託する軍事産業界の盟主達だった。
特に、新興勢力として陸軍に媚びる者達であった。
彼等の真の目的とは、己が権勢を掴む事。
その目的の為ならば、幾多の命が奪われようが気にも懸けない悪魔の様な者達。
日の本皇国にあって、その者達が暗躍している事を苦々しく思う人が居たのも事実。
その一人に、高貴なお方がいらっしゃった。
時の天皇陛下の御妹君である、三輪の宮蒼乃王殿下もその中の御一人であった。
宮様は心から平和を希求され、自分が最も信頼する女官を軍に下さる事とされた。
陸軍が日の本一の魔砲使いを求めたからもある。
最初は頑なにお断りになられておられたが、或る日突然にお考えを改められた。
その理由はなんびとにもお話にはなられなかったのだが。
侍女達から漏れ聞いた処に因れば、宮様の元に女神が遣わされてこられたのだと言う。
「この日の本に隠された<希望>を生む為。古代から引き継がれし力を蘇らせる為」
・・・そう蒼乃王殿下はお零しになられたのだと話したのだった。
ご自身も少なからず魔力を秘められていた宮様の覚え芽出度き女官は、
御命じになられた宮様との想いを断ち切るように、軍に下ったという。
当時日の本をあげて開発が進められていた魔法の機械。
女官は魔法の機械を専門に扱う部隊に組み入れられる事になる。
魔法力を持つ者は、大概若き乙女だと言われていた。
日の本国中から集められた魔法の乙女達。
陸軍魔鋼騎戦車隊と名付けられた部隊の中で、女官は中堅指揮官として配された。
日の本魔鋼戦車隊。
創設されたばかりの機甲部隊。
その中に在って彼女は並外れた魔砲力を持っていた。
彼女の名が知れ渡ったのは、エギレス王国軍との戦闘での武勲に因る。
彼女が副隊長として建てた、輝かしい戦果に因る。
敵をして<東洋のジブラルタール>と呼ばしめた無敵要塞を、陥落させる事にもなった戦車戦に勝利を納められたから。
日の本一の魔砲力を誇る娘。
彼女の名は世界に轟いた・・・隊長の名を冠して。
<<東洋の魔女>>と、呼ばしめて・・・島田戦車隊の名声と共に・・・
時に、明和15年。
祖国では桜の散る季節の事だった・・・
___________
<<東洋の魔女>>
向田戦車隊指揮官が後ろに控えていた。
副官や、佐伯支隊長達と共に。
「諸氏は、今後私の指揮下に入る事になった。
本官に与えられた命令は唯一つ。
畏くも三輪の宮様直々に下されたのは事変の早期解決。
エギレス王国が我が日の本との再交渉に応じるように、条件を整えねばならん。
それには頑固に拒み続ける王国軍をガポールより一掃せねばならんのだ」
一夜開けた翌朝、まだ日も登り切っていない時。
新たに指揮官を務める少佐が訓示を聞かせていた。
これより始められる進撃と、最終目的を教える為に。
「その為には、敵の備えを打ち破り防備の手薄な弱点を突かねばならん。
これは言うが易いが実行に当たってはそれ相応の覚悟が必要となる。
諸氏は今後、犠牲を顧みず職責を果たして貰いたい・・・以上だ」
マコトが訓示を終える。
「頭ぁー、中!」
先任搭乗士官として、ミユキが敬礼を送る。
全搭乗員が島田戦車隊長に敬礼すると、皆に応えてマコトが答礼した。
壇上から降りたマコトに、向田中佐が頷く。
自分が引き攣れてきた魔砲の戦車隊の指揮を、新参の少佐に引き渡す。
それが御上から受けた指令書に書かれてあった命令。
但し、魔鋼の戦車だけを指揮下に持たせるようにとだけ、注意書きされていたのだが。
「島田少佐、彼女達を頼んだぞ。
無為に死なせるような指揮だけは許さないからな?」
自分の娘とも思える程、向田中佐には思い入れが深いのだろう。
慈父の様に厳しく、時には同じ戦車乗りとして。
数か月の訓練期間で培われた想いは、部下達を慮る以上にも観えた。
「はい、一人として無為には死なせたりしませんから。
一刻も早く、事変を終了して部隊をお返ししたいと思っております」
その為・・・マコトは宮様に昇進させられ送り込まれた。
自分が一番頼れるものだとお考えになられた蒼乃王殿下に因って。
「うん、頼むぞ?それにしても殿下のお考えは解らんなぁ。
全車を君に渡すのなら分かるんだが、魔砲隊だけなんてなぁ?」
向田中佐は配下の全車両を手渡すものだとばかり思っていたが。
「2個中隊ぐらいが相応なのですよ。
光野中尉の処の6両と大貫中尉の6両、合わせて12両。
これだけの優秀な魔砲戦車隊はどこにも有りはしませんからね」
魔鋼戦車を集中運用する向田隊から抽出した12両の部隊。
それの指揮を執るマコトが、本来の隊長に向けて謝意を示す。
「向田中佐、残りの魔鋼戦車兵達にはくれぐれも機械の作動には注意するように言ってください」
魔鋼チハに着けられている初期型では、突然コントロールが効かなくなる事案があった。
それをどうやって払拭出来るのかは、まだ開発に時間がかかる。
実情を誰よりも知る者の一人としてマコトは頼んだのであった。
「了承した。あの子達には使わずに済めるように取り計らうよ」
中佐も快諾してくれ、一安心したのか。
「僕達が切り開きますから。後ろを頼みます」
上官に別れの敬礼を贈った。
「ふむ、先陣は任せる。思い切り闘って来い」
息子の様な少佐に向かって答礼する向田中佐の顔が引き締まった。
上官たる向田中佐が、先に手を降ろす。
「それでは・・・行って参ります!」
これから作戦の終了まで、会う事は叶わないだろう。
もしかすると今生の別れなのかもしれない。
しかしマコトにはそうは思えなかった。
きっと生きて、再び会うモノだと信じていたから。
ゆっくりと搭乗車両に向かう青年士官の後ろ姿を、慈父の如き中佐は見送っていた。
「光野中隊には魔鋼チハ改が2両もあるじゃないか!
なぜ私の中隊には廻してくれないんだ!」
マコトが配下になる二人の中尉に近付くと、何事かを揉めている者が居る。
「そんな事私に言われても・・・元々中隊車両だったから・・・」
困ったようなミユキの声が答えている。
「どっちでもいいから、私に渡せと言ってるんだ!
どちらにも1両を配せば良いだろうに!なぜそれが解らないんだ!」
確かに、中隊長車にはうってつけだろう。
無線も魔鋼チハより強力だから・・・主砲は二の次にしても。
「そうだな大貫中尉のいう事にも一理ある。
双方の連絡が取りやすい事は、作戦上にも大きな意味がある」
マコトが近寄りながら二人に話しかけると。
ミユキが直ぐに姿勢を正して敬礼を送ったのに対し、大貫中尉は・・・
「少佐殿、そうお考えならば直ちに車両交換を命じて。
前々から苦々しく思ってたのよ、この頓智気娘にだけ<改>を渡されていた事に」
自分に過剰な自信があるのか、上官に対しても口を改めようとしない。
陸軍にあって、上官に口答えする事は罰直に値する。
しかし、大貫中尉はお構いなしに言い張る。
「少佐が指揮官になられるのは、御上のご命令と聞きましたけど。
私は認めてはいませんからね、そっちの頓智気娘は素直に聴くのでしょうけどね?!」
ミユキの事を頓智気扱いされてカチンときたマコトだったが、当の本人は至ってお構いなしに。
「はい、私は少佐が御命じになられるのであれば、どんな無茶でも聞く所存ですから」
にっこりとマコトに向かって微笑み返してくる。
「ふ、ふんっ!わ、私だって!
島田少佐が御命じになられれば、敵陣に向かって突っ込むわよ!」
ミユキが向けた微笑みの視線に、大貫中尉は噛みついて来る。
「光野中尉にだけ、お頼りになられるのは間違いですっ!
私の部下達も全力で尽くさせて頂きますので!お忘れなきよう!!」
言い募る大貫中尉は、ミユキを睨みつけた後でマコトには何かを期待するような目で申告するのだった。
「うん、大貫中尉にも宜しくとお願いするから。
全員で勝って、全員で帰ろう。
懐かしき祖国へ、大切な人が待つ・・・日の本へ」
「はい!(×2)」
頼んだマコトに二人の声が重なった。
かくして、ミユキの中隊と、大貫中尉の6両が合さり。
島田中隊として特別編成を組んだ。
指揮官は島田 誠少佐。
副隊長として魔鋼チハ隊を率いるのはミユキ・・・まだ島田姓になる前の。
第2中隊を指揮する大貫中尉は不満だったらしいのだが。
マコトは車長を兼ねて魔鋼チハ改に乗り組み、ミユキは砲手専門になった。
他の車両より砲塔が大きい改で、漸く戦車に5人が搭乗する事になった。
初めてのケースでもあり、任務が専門化された事に因る効率の良さが、戦闘にどう影響するのか。
それはこの後の闘いで知らされる事になる。
島田少佐が率いた魔鋼の戦車隊が出逢う事になった、敵との闘いで・・・
遂にマコト少佐が指揮を執ることになった!
向かうは敵の保有する戦車隊の撃滅?!
敵の総力を結集させて、ソレを叩くというのか?
でも、どうやって?
次回 東洋の魔女 Act-2
君は指揮官の考え方に疑問はないのか?彼女はどう感じているのだろう?




