光と陰 Act-4
婚約した2人。
戦場という場所で交わされた愛。
そして・・・マコトが差し出すのは?!
二人は誰も覗いているとは思っていないのか。
夜闇が二人の姿を隠してくれているとでも思っているのか・・・
「コイのハナを咲かすにしても場所を選んで貰いたいのでしゅ・・・」
「お前が言っても説得力ないから」
ナオとアキナがしっかり観てた。
「賭けは私の勝ちだったな。それじゃあ遠慮なく戴くぞ!」
コッペパンを口へと運ぶヒロコが二人に言い放つ。
「まさか、本当に少佐が許嫁だったなんて・・・しくじったでしゅーっ!」
とっておきのパンを分捕られたナオが嘆く。
「聞いてた話と違うじゃないですか、光野中尉~っ!」
戦場に来る迄の間にミユキから聞いていた話とは違うとごねるアキナ。
「私は女の勘で解ったんだぞ?中尉が少佐を真っ直ぐ観れていなかったからな。
暗い表情をされていたから、てっきり別れられるのではと思っていたんだが。
これはこれで良かったじゃないか!」
二人が抱負し合うのを、一番喜んだのはこの3人だったのかもしれない。
「そんなら、どーして婚約しゅるなんて賭けたんでしゅか?
アキナしゃんに賭けを持ちかけたのでしゅか?」
むぅっと顔を顰めたナオが訊くと。
「決まってるだろーが、こいつをせしめる為さ!」
ぱっくりとパンを口に入れて、悪びれも無く言い切ったヒロコに。
「こりゃーしてやられましゅた!」
怒りもせず、ナオもアキナも・・・当のヒロコさえもが、ミユキの幸せを祝福して笑い合った。
星明りが見詰める人を、ほのかに彩る。
上気した頬には赤みが差し、潤んだ瞳で見返している。
「ミユキ、今の内に渡したい物があるんだよ?」
マコトがミユキを離して、内ポケットから何かを取り出す。
「手紙には書いておいたんだけど、読んでいないのなら。
きっと何の事なのか解らないだろうね?」
取り出した何かを、手の中に掴んだまま。
「賜ってきたんだよ、宮様から。
古から伝わる魔法石・・・勾玉で出来た宝珠。
ミユキさんに手渡す様に申し付けられたんだ、三輪の宮様に」
手を開くと、そこには蒼き宝珠が光を放っていた。
「そ、それは!宮様が肌身離さずお持ちになられていた?」
嘗ての主人であり、陛下の妹宮が持っていた伝来の魔法石だと分る。
「そうみたいだね。
これをミユキに渡して貰いたいと仰られて。
君が持つ魔法石と同化させるようにと、宮様が御申しつけになられたんだよ?」
ミユキの手に宝珠を手渡すと。
「同化っていうのがどうやれば良いのかは、剣巫女が知っているからと申されてね。
僕にはお話になられなかったんだ、三輪の宮様は」
ミユキの手に乗せられた宝珠は、
大きな珠が一つあり、周りに合計7つの小さめな珠が着く数珠。
大小合わせて8つの碧き珠が光る、数珠状の宝珠。
一番大きな珠には、薄っすらとだが紋章らしきものが浮き上がって見えた。
「マコト・・・様、私も先祖から引き継いだ珠があるのです。
光の・・・光の珠というモノが。それがこれです」
自分の胸元から取り出した蒼き珠を指し示し、
「私に母が手渡したのは、光神社に伝わる石。
これがそうです、この蒼き珠が導いてくれると・・・」
右手に宮様の宝珠、左手に伝わる石。
「二つの石とも魔法を持つ石なのかい?どうやれば同化出来るの?」
興味深げにミユキに訊ねるマコトへ。
「それは・・・こうするのです」
両手を合わし、宝珠と魔法石を触れさせたミユキが。
「宮様の宝珠が私の魔法石を取り込めば良いのです」
力の強き石は、自分を更に高めようと魔力を喰らう。
まるで世界の常のように・・・自らを強化するかのように。
ミユキの合わせた手の中から、蒼き光が沸き起こる。
二つの光が現れたのだが、やがて左の光が消えて行くと・・・
「どうやら宮様の魔法石が取り込んだようです。
私の石はもう、そこら辺の石と同じになってしまいました」
ミユキの手が開かれると、そこには輝きを増した宝珠と色を失ってしまった唯の石ころがあった。
「ミユキの石は魔力を失ったという事だね?」
マコトの質問に頷いたミユキが、蒼き宝珠を差し出して。
「宮様に賜ったというのは本当でしょうか?
この宝珠は隠された3種の神器とも呼ばれる秘宝なのですよ?
私に持つ事を御許しになられるなんて・・・訳が分かりません」
差し出した宝珠を返そうとしたミユキだったが、その手を押し留めるマコトが、
「さっきも言った通り、賜ったんだから。
この宝珠はミユキのモノとなったんだよ?宮様がミユキの為におさげ下されたのだから」
「で、でも・・・これは国の宝なのですから・・・」
躊躇うミユキが、受け取り難く想って辞退しようとするのを強引に押し返す。
「ミユキの魔法石は力を失ったんだろ?
それじゃあこれからは魔法力無しで闘う気なのかい?
魔鋼の力を発揮出来ないのじゃあ、あの戦車に乗る意味もなくなるけど?」
魔鋼戦車隊第3中隊長として乗り組んでいる魔鋼チハに乗る意味がなくなる。
唯の戦車乗りとして闘う気なのかと問い詰めた。
「ミユキの力が無くなれば、
今迄中隊長として信頼してくれた部下達にも、申し訳が立たないのじゃないのかい?」
マコトは魔砲力を発揮出来なくなったと知った部下達が執るであろう行為を話す。
「敵に強力な戦車が現れたとしたら、誰かがミユキを庇おうとするんじゃないのかい?」
魔鋼チハ改とは言っても、魔砲を放てなければ普通の戦車に過ぎない。
装甲も、砲撃力も・・・当てにはならない。
魔鋼戦車中隊にあって、指揮を執るべき者が足を引っ張る事にもなる。
戦闘を控えたミユキに肝心の魔法石がなければ、中隊を率いる事さえ部下に負担を与えるのだと。
「分かるねミユキ。
君には蒼き宝珠が必要なんだよ、少なくても事変が終わる時までは」
宮様へは闘いが終わった後に還せば良いと。
「宮様はミユキの事をいたく心痛されておられたんだよ?
どうして宝珠を賜ったか判るかい?
それはね・・・ミユキを喪いたくないから。
ミユキに生きて帰って来て欲しいからなんだよ」
この一言で、マコトという男が。
女神に知らされた運命の男という意味も。
そして、宝珠を下された宮様の御心も判った・・・
<私は生きたい、生き続けていたい・・・マコト様と一緒に。
いつまでも、どこまででも・・・伴にありたい>
だから・・・と、想う。
戦場で逢えた喜びに感謝。
愛を告げられた幸せに感謝。
生きる勇気を与えてくれた男に捧げる。
<私・・・あなたに全てを捧げます。
一生を賭けて・・・あなたと伴に在り続けます>
手にした宝珠を右手に填める。
蒼き光が身体を駆け抜けるような気がした。
ー この石が私を認めた?
古の魔法が私に力を与えてくれているの?
ううん、違う。これはきっと女神様の導きなんだわ・・・
守護していると言った女神。
彼女が導いたのだと感じた。
蒼髪の少女。
蒼き瞳の女神。
「マコト・・・様。
これからも、ずっとこの宝珠を着けていたいと思います」
皇室に古から伝わる魔法の碧き珠。
ミユキが宮仕えをしていた頃に、古文書を読んだことがある。
マコトと出逢った図書館に所蔵されていた、宮様が所望した古文書に。
「蒼き珠は闇を祓う。蒼き宝珠は遥か遠い国をも救った・・・
その手に付けた魔女に因り、闇の者達を葬った・・・」
古文書に記されていた宝珠についての一文を呟く。
「ミユキ、君も読んだんだね?
蒼き宝珠について記されてあった古文書を。
そこに記されてある、日の本が世界中に魔女を送っていたという伝承も」
そう・・・出逢った場所に偶々あった。
魔砲を調べていたマコト。
宮廷から出向いていたミユキ。
二人が出会うきっかけが、図書館に所蔵されていた古文書だった。
そこに記されてあったのは、遠い昔にあったとされる魔砲の話。
世界中に魔女を送出し、何かを探していたのだという。
誰が、何の目的で?
そこまでは記されてはいないようだったが、一つだけ興味を惹かれる言葉が記されていた。
「永遠に切る事のない絆というモノが存在するならば、必ずいつかは辿り着けるだろう・・・」
ポツリとマコトが口に出す。
「永遠の時を彷徨うとも、やがて巡り合える。希望は潰えはしないのだから・・・」
繋がる言葉を続けたミユキ。
それがどんな意味を持っているのか、持っていたというのか。
「僕とミユキが出逢えたきっかけが、あの古文書だとしたら・・・」
「私はマコト様との絆を感じずにはおられません。
マコト様が下された<希望>に、感謝の想いしかございません」
蒼き宝珠を着けたミユキが、心からの感謝を告げる。
見詰めた目と顔には、微笑みが浮かんでいた。
「蒼き宝珠が似合ってるね?」
マコトが心持ち声色を変えたのに気付いたミユキが、
「どうかされましたの?マコト・・・様」
小首を傾げて見詰めると。
マコトは懐からもう一つ何かを取り出して、身体を固くする。
「まだ何かを、お下げになられたのですか宮様が?」
頑なったマコトに持たれている物が、一体なんだろうと訊ねると。
還す言葉を失ったのか、唯首を振って表す。
「ほんとうに?どうされたのですマコト・・・様」
名前だけで呼ぶのが恥ずかしいのか、<様>をどうしても付けるミユキに。
「ミユキ、マコトって呼べるおまじない・・・欲しくない?」
言葉を選んだのか、それとも単なる思い付きか?
ミユキを見詰めるマコトの手が差し出されて。
「おまじない・・・ですか?」
拳を握り締めているマコトに聞き返す。
「そう。ミユキが僕を様を付けずに呼ぶことの出来る魔法。
これには僕の魔法が籠っているんだ・・・貰ってくれるかい?」
おまじないと言ったり、魔法と言ったり。
マコトがなんだかおかしく思えたミユキが、小首を傾げて手を見つめ続けていると。
「ミユキ、これでも僕の事を様付けで呼べるかい?
夫となる者を様付けで呼んだら可笑しいだろう?」
手が開かれ、載せられていた小箱が観えた。
「えっ?!」
見開かれる瞳。
その瞳に映るのは、ゆっくりと開かれる小箱。
星明りにキラリと輝く、透き通る石が美しいリング・・・
「えっ?!えっ・・・えっえっえっ?!」
手を出しかねているミユキの手を取り、リングを填めるマコト。
「良かった、サイズもちょうどいい具合だね?」
どうして分かっていたのだろう?
なぜ指輪のサイズが解ったのだろう?
まったく当て外れな事を想うミユキには、自分が誰で何が起きているのかも分からなくなる。
付けられたエンゲージリングを、呆然と見つめていた。
「婚約したんだから、当然だろミユキ。
宮様がミユキの心配を為されるのなら、僕は直接ミユキを護る。
心配なんてしなくても良いように、僕自身が護っているから」
はにかんだマコトらしい言葉が、ミユキの涙腺を破壊する。
(( ブ ワ ッ !! ))
涙が零れる・・・なんて生易しいモノではなかった。
ミユキの涙は滝のよう。
産まれてから今迄経験もした事のない号泣。
「うえええぇ~んっ!」
声を嗄らして泣き叫ぶとは、このことなのか。
星明りの元。
ここが戦場だとも思えない位。
辺りが静けさに包まれているというのに。
ミユキの幸せの号泣だけが、辺りの者の耳に聞こえていた・・・
そう。ため息を吐く3人にも。
ミユキはパニックになる。
そう、嬉しさのあまり・・・
そして再び戦場は動きを見せ始める。
新たな編成を命じられた魔鋼戦車隊。
向かうは敵の本陣か?!
次回 光と陰 Act-5
君は闘う人に何を希望するのか?闘う事に何を想うのか?!




