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光と陰   Act-2

視察に訪れる筈の高等官って?


なぜ前線になんか来るのだろう?

しかも魔鋼戦車隊になんて?

方面軍司令部から、視察隊車両が最前線に来るなど嘗てない事だった。


佐伯支隊長が迎え出て、司令部要員と挨拶を交わす。

数人の高級参謀達の中に、若い少佐が居た。

辺りを見回している少佐は南方には初めて来たのか、肌の色がまだ赤銅色にはなってはいない。

日焼けしていない顔を隠すように、夜だというのにサングラスを掛けている。


「梨本中佐、こちらが?」


司令部の顔なじみに聴く佐伯支隊長が少佐を指して訊いた。


「ああ、技本から出張されて来た、プロらしいんだが」


自分に比べて圧倒的に若い少佐を教えて、


「なんでも魔鋼チハの生みの親でもあるそうなんだが。

 魔法の専門家らしい、実戦を終えた機械の調子を見に来たそうなんだがな?」


サングラスを掛けた少佐の事を教えると。


「少佐、こちらが先遣支隊長の佐伯中佐だ。魔鋼戦車隊をも指揮下に入れておられる」


支隊長の佐伯中佐に対面させた。

上官だと教えられた少佐がサングラスを外して名乗り出る。


「私は呉の技本派遣隊に所属していた島田しまだまことといいます。

 何分なにぶん南方は初めてなので・・・願います」


敬礼を贈る少佐に、佐伯支隊長が答礼してから。


「ああ、君か。向田君から聴いていたよ」


訳あり顔でマコトに言う。


「?何を・・・で、ありますか。支隊長?」


マコトの茶色い瞳を見た佐伯中佐が。


「魔鋼戦車隊に手紙を書いただろう?そのことだよ」


内地からの手紙を受け取った訳と、内容を知る支隊長がはぐらかす様に言うと。


「ああ、あれですか。別におかしなことを書いたつもりはありませんが?」


マコトは真面目な顔で訊き返すのだった。


「そうかい?戦車隊に渡したら、にやにや笑っていたんだがなぁ?」


なにかを勘違いされていると思ったマコトが。


「笑われるようなことを書いたつもりもありませんが。

 なにかお笑いになられる訳があったのでしょうか?」


気真面目そうな眉を潜めて返した。


「いや、いいんだよその件は。

 向田君がそう思っているだけなのかもしれんしな。

 それで?今日の視察は、魔鋼機械を見に来ただけなのかい?」


まだ、支隊長は何かを勘ぐった話し方をする。


「ええ、勿論ですよ。他に何かあるとでも?」


真面目に答えるマコトに対し、他の参謀達にも目配せする中佐が。


「そうか、ならば。君の思うように観て来れば良い。

 案内は向田君に任せるからな」


戦車隊指揮官の向田中佐を招いて。


「魔鋼戦車隊の向田中佐だよ。彼に着いて行くと良い」


案内役を頼まれた向田中佐が、マコトを上から下まで眺めた後。


「わっはっはっ!いや、お似合いだと想うぞ!」


大笑いしてマコトの肩を叩き。


「着いて来給え。我が隊の優秀なる勇者を見せてあげよう!」


意味深な言葉を放ってマコトと連れ立つ。

技本から来たマコトと、一癖ある向田中佐が連れ立って行く後ろ姿を見送って、佐伯中佐は含み笑いを浮かべていた。




「島田君とか言ったな。君は魔鋼機械について詳しいのだったな?」


向田中佐が歩きながら、マコトの技能を訊ねてくる。


「はっ、そうであります。私は魔法で戦闘力の変動を司る機械を造った一人ですから」


大真面目に答える少佐に、


「そうかい?じゃあ、乗り込む娘にも興味があるのじゃないのかね?」


意味有り気に笑う中佐。


「はぁ?!どういう意味でありますか?」


小首を傾げるマコトに、足を停めた向田中佐が。


「君が贈った手紙なんだがな。つい今しがた渡した処なんだよ。

 戦闘が続いて、渡せるタイミングがなかったのだ。すまんなぁ?」


自分も手紙の内容を観た一人なのだとは言わずに。


「と、言う訳でだな。ここから先は君だけで視察に向かうが善い。

 この先に第3中隊が整列を終えているから、行ってみれば良い」


誰の中隊なのかを言わずにマコトを促す中佐が、悪戯坊主のように笑う。


「あの、中佐?行けば何か判るのですか?」


「うん?君は僕の部隊について何も聞いてはいないのかね?」


笑いを停めた中佐が聞き咎めると。


「はぁ?先程から何を言われているのかさっぱりです」


困ったようにマコトがサングラスを指で弄ぶ。

その前で向田中佐がポンと手を叩いて。


「なんだ、そういう事なのか。

 君は何処に所属しているともしれない光野中尉に送ったのかね?

 我が隊に居る光野中尉に直接手紙を出したというのかね?」


「えっ?!ミユキさんがここに居るのですか?!」


さっきから話がずれていると感じた向田中佐が、さもありなんと頷くと。


「そーなのだよぉ、少佐ぁ!知らぬが仏とはこのことだな!」


がははっと笑い、マコトを促す。


「そー言う事で。さっさと検分して来ればいい。

 彼女はずっと待っておるぞよ?!」


朗らかに笑う中佐が、マコトの背を押す。


「あ・・・はいっ!それでは!」


漸く話が飲み込めたのか、マコトは敬礼もそこそこに中隊目掛けて奔り出す。


若い二人を想って、向田中佐はもう一つ命令を下そうと考えた。

視察が終われば、全員で食事を摂ろうと・・・二人以外全員で・・・







サングラスを掛け、夏季防暑服を着た少佐が現れた。

おかしなことに、他の高級参謀達の姿は見えないのだが。



「気を付け!かしらなかっ!」


進み出て来た少佐に、ミユキが敬礼を贈る。


襟元の階級章には、赤線2本と星が一つ。

やや茶色い髪が長めの少佐は、色濃いサングラスで目元を隠している。


真っ直ぐに向けた顔で少佐は答礼して。


「君達が乗る魔鋼チハは、何か問題を起こしてはいないか?」


単刀直入に訊いてきた。


<えっ?!この声は・・・まさか?>


挿絵(By みてみん)


ドキンと心臓が高鳴る。


<まさか・・・マコト様?>


顔を半ばサングラスで隠した少佐の声に、愛しい人を重ねるミユキだったが。


「はっ?!いいえ、特には?」


指揮官のミユキが即答する、自分に起きた異変には触れずに。

後ろに控える魔鋼チハ改搭乗員達3人は、ミユキに起きた暴走直前の出来事を告げないミユキの姿にそっと目を向ける。


ミユキの前に居る少佐が目ざとく搭乗員の変化に気付き。


「うむ。そうか、ならば良いが。

 暴走とか、異変があったのなら申告したまえ。遠慮などせずにな」


ミユキ以外の中隊員に向けて、本当の事を隠さず話す様に促す。

しかし、指揮官であるミユキに遠慮しているのか、皆が口を開かず黙っていると。


「うむ、どうやら話しにくいのか。

 それでは中隊長へ聞き取りにかかるとする。皆は休んでいれば良い」


整列を解く様に勧めた。


「はっ!それでは。中隊を解散させて宜しいのですね?」


「そうしてくれ、光野中尉」


サングラスを掛けたマコトが、ミユキの名を呼ぶ。

途端に、ミユキの眼が見開いた。

まるで逢ってはならない者を観たような目で。


「あ・・・あの。はい・・・総員離れ・・・みんな、別名あるまで小休止」


ガクガクと足を震わせたミユキが消え入るような声で命令をくだす。

その間もマコトはじっとミユキを見詰めている。


「中尉、話があるんだ。こっちに来てくれないか?」


中隊員達がそれぞれ思い思いに離れて行く中、マコトはミユキを手招く。


「あ。あ・・・あのっ、少佐・・・」


マコトの名を呼ばずに、階級で答えるミユキに。


「ああ、手紙に書いてあった通りだよ?」


まさか読んでいないとは思わなかったのか、マコトは進級した訳を言わなかった。


「ご、ごめんなさい。まだ・・・読んでいません」


開く事が出来なかった。その訳も言えず、謝るだけのミユキ。

目の前に居る愛しき人に、震えながら顔を背けて謝るだけ・・・


「・・・何かあったんだね?教えてくれないか、ミユキさんに何がおきたのかを」


車体の陰に立ち。

・・・振り向いたマコトが、サングラスを外して訊いた。

正体はマコトだった?!

しかも、少佐に進級して。

心では喜んでいるが、想いは塵ジリになっていたミユキ。

マコトに話せるのか?判って貰えるだろうか?


ミユキは慕う人に縋れるのか?


次回 光と陰   Act-3

君は希望に縋りたくて・・・見えない手と心で、手繰り寄せたかった・・・

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