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戦車の闘い Act7

なんだか重い話だったので・・・

関係者に登場して頂きました。

なぜだか・・・裸背広姿ですが・・・


さーびすさーびす!


挿絵(By みてみん)

残りの4両に対し、集中射撃を加える日の本軍戦車隊。


向田中佐が直卒する第1中隊の通常チハが、榴弾をキャタピラ目掛けて撃ち込む。

1両に3両で射撃し、転輪やキャタピラを壊して動けなくする。


救援に駆けつけた第2中隊の魔鋼チハが、停止したマチルダの弱点でもある後部へと射撃した。

一撃では機関部を壊せないが、数両が一度に射撃すると貫通した弾が忽ちの内に火災を起こさせる。


同じ光景が3回続いた。

残るマチルダは一両だけ・・・




「悔しかったでしょう?残念だったでしょうに・・・」


ミユキは燃える味方車両に向かって弔いの声をあげる。

5号車は爆発炎上し、乗り組んでいた4名と運命を共にした。


5号車を撃破炎上させた敵車両も後方から友軍に襲われ、直ぐに後を追っていった。

仇を討つつもりだったが、仲間が果たしてくれた。


ミユキ達は何も出来ずに、唯・・・燃え上がる数両の敵味方車両を見詰めるだけだった。


闘いは残った一両のマチルダが降伏した事で終わりを迎えた・・・



味方車両の内、擱座したもののまだ修理すれば使える物もある。

乗員も軽い怪我で済んだ車両もあった。

被害に比べて、得られた物は大きかった。

市街地には残された敵の姿も無く、

双方の砲撃で崩れ去った瓦礫の山が、そこら中に残されているだけだった。

日の本軍が目指した橋梁奪取も、ものの見事に成功した。


まさか、こんなに早く戦車隊が壊滅するとは考えもしていなかったのか。

それとも、戦車隊が攻撃を防ぎきれると思っていたのか。


9両もいた戦車が全滅した光景が、敵軍の士気を挫いてしまった。

歩兵達、植民地兵は味方の戦車隊が潰え征く姿に絶望し、先を争って橋を渡って逃げた。


日の本戦車隊は逃げ行く敵を追う事はせずに、橋梁を確保するだけに留めた。

橋を爆破されないよう、両岸に戦車を配して。


ここに至り、向田魔鋼戦車隊指揮官は全車に攻撃の中断を下した。

これ以上前進したくとも、肝心の燃料弾薬が枯渇している現状を観て。


部隊を整理、掌握する為に、各級士官が指揮官の元に集った。


向田中佐はまだまだ意気軒高としていたが、

闘い終えたミユキは立っている事も辛く思える程、身体が重怠かった。

それは魔砲の力を使ったからだけではなさそうだった。



「各中隊の被害は?」


部隊副官の中島中尉が損害報告を纏めようと、聴取を始めた。


「第1中隊擱座1両、進出途中で故障車2両。都合3両を失いました」


中隊長の林田大尉が報じる。


「魔鋼隊第2中隊は、損害無し。然れども、整備が必要な車両が多々見受けられます!」


5号車の機銃員を殴った、大貫おおぬき中尉がどんなもんだとミユキに横目を向ける。


「整備が必要なのはどの中隊でも同じだよ」


林田大尉が大貫中尉に嗜めるように返した。

2つの中隊では、損害も少なく死傷者が出ていないようだった。


それに比べて自分の中隊では被害も負傷者も出てしまった。

自分の責任だ・・・どう謝っても済むような事ではない・・・そう考えこんでしまう。


「どうした光野中尉、第3中隊の報告をしないか」


先任中隊長でもある林田大尉に促されて、やっと気が重い報告を始める。


「第3中隊・・・損害は3両です。内一両は炎上し、消失。

 乗員も全員戦死を遂げました・・・」


うな垂れたまま申告するミユキに、林田大尉は何も言わず。

第2中隊長大貫中尉は、それ見た事かといわんばかりに顎を引く。


「光野中尉、損害は3両だと言ったな。残りの2両は修復可能なのか?」


副官中島中尉が、戦死報告を書きこんでから、何事も聞かなかったかのように問い質す。


「えっ?!・・・はい、多分・・・」


副官の態度に戸惑ったミユキがしどろもどろに不確かな返事を返してしまうと。


「だーから、士官学校も出ていない者を中隊長なんかにするからですよ。

 光野中尉って言ったって、ほんの数か月前まで宮務めの女中だったんですからねぇ」


大貫中尉がミユキの申告を聞いて、辛辣な言葉を吐く。


「いい加減にしないか、大貫。

 お前だって魔法使いじゃなければ中尉になんて成れてはいないだろうに!」


第1中隊長で先任中隊長の林田大尉が、いかつい身体を揺すって女性士官に注意を促す。


「お言葉ですが大尉殿。

 私は列記とした幼年学校出ですから。序列も前から数えた方が早い席順でしたからね。

 ぽっと出の小娘なんかと同列で観ないで貰いたいんですけど」


自分が陸軍で、エリートコースの人間なのだと言い返す。


「なんだと、貴様っ!上官に向かってその口の利き方はなんだ!」


林田大尉が激情すると、中に割って入る中島副官が。


「まぁまぁ、どちらもここは押さえて。

 間も無く隊長もみえられますから・・・」


林田大尉を押さえて、仲を取り持とうとした。


「林田大尉、大貫中尉の言われた通りです。

 私なんかが中隊長で良い訳がなかっただけなのです・・・」


俯いたミユキが小さな声で謝る。

微かに震えながら・・・大貫中尉の言葉が心に棘を刺したから。



「何を呑気に話し合っているんだお前達?!」


ミユキの後ろから大股で近寄って来た部隊長向田中佐が。


「損害は闘いの常だぞ?いちいちくよくよしていてはいかんぞぉ?」


いつも豪胆で快活な向田中佐が近寄ると。


「今日はこの辺りで野営するからな。全車整備を終えておくように」


大きな声で進撃は明日以降だと命じる。

中島副官に何かを手渡した中佐がミユキに振り向くと。


「いいかね光野中尉。戦死者を手厚く弔うのは、事変が終了した後にする。

 まだまだ進撃は続くのだ、この後も犠牲者が現れるかもしれん。

 部下の掌握に務めろ、君にはこれからも中隊を引っ張って行って貰わねばならんのだからな」


指揮官としての務めを果たせと命じて来る。

そして中島副官に解散を命じた後で。


「光野、ちょっとこちらに来なさい」


階級抜きで名を呼ばれたミユキが顔をあげると、向田中佐が手招きする。


「なんでありましょう?」


向田中佐がニヤリと笑いながら、手招きしながら少し歩いて。


「ミユキぃー、お前ん処に命令書が着いてたんだ。

 悪いが内容を確認してしまったんだ、ちょっとした出来心だったんだよ。

 赦せよぉ、内地からの命令書だと思っていたんだがなぁ・・・」


何か訳ありな声色で、人懐っこい笑みを漏らして来る中佐に。


「はぁ?命令書なら当然の事だと思いますが?」


何の事やら皆目見当がつかないミユキが、困ったように小首を傾げると。


「い、いやなに。まさか君に直接渡せば良かったのかもと思ってなぁ、これを」


ポケットから命令書とは思えない手紙を取り出して。


「光野美雪様ってな。君を追いかけるように内地から届けられたようなのだが」


軍帽の上から頭を掻いて、中佐が悪戯坊主のように笑う。


「あ・・・その手紙・・・」


差し出された手紙にある差出人を観たミユキの眼が釘付けになる。


「本部務めの方からなんだろう?

 呉の派遣隊で何度かお会いした気がするのだがねぇ?」


ニヤニヤ笑う中佐が、ミユキの前で手紙を見せびらかす。


「好い人なんだろぅ?君にとっても、島田少佐にとっても」


手紙をなかなかミユキに手渡さない中佐の言葉が引っ掛かった。


「え?!島田・・・少佐?マコト様は中尉ですけど?」


「ほぉーらぁっ!引っ掛かったなぁっ!」


ミユキの質問に、大げさな声で笑い飛ばすと。


「島田君はね、特別に2階級特進したんだそうだよ。

 なんでも魔鋼の開発に尽力したからって、大御心が動かれたようだな?!」


ガハハと笑い飛ばした中佐が、やっとの事で手紙をミユキに渡すと。


「読んでみなさい。きっと君も喜べる筈だから。

 君を想ってくれている彼の心が、救ってくれるとワシは思うんだよ?」


今の今迄悪戯坊主のように燥いでいた向田中佐が、手紙を指差して教えてくれた。

その顔には、心から部下を想う慈父の如き笑みが零れていた。


「中佐殿・・・」


笑顔を向けていた向田中佐が、手を軽く上げて足早に去って行く。

ミユキは後ろ姿に感謝の敬礼を贈り、手紙の温もりを感じていた。


「マコト・・・マコト様・・・」


懐かしい顔が脳裏を過ぎる。

手紙の筆跡に、心が弾んだ・・・


今回で<戦車の闘い>のお話は終了です。

次回からは<光と陰>がスタートです。


シリアスから一転!

ミユキボーナスモード?

ミユキのボーナス?いえいえ、ミユキにボーナスですよ?

にゅふふなミユキにご期待あれ!


次回 光と陰   Act-1

君の瞳は希望を求める・・・確かな光を。暗き陰の中から・・・

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