戦車の闘い Act4
戦いは思わぬほうへ・・・
自分のミスリードが齎した悲劇。
ミユキは復讐戦に突入する?!
市街地まで残り300メートルにまで近づいた時。
放たれた発射焔が観えた。
建物の影から・・・
「目標視認!敵はやはり戦車ですっ!右舷2時方向!」
操縦手のアキナ上等兵がいち早く発見を報じる。
発見報告を受けたミユキが砲塔旋回ハンドルを廻し、敵の捕捉を試みる。
木造2階建ての家屋に、姿を消す戦車が観えた。
薄茶色い迷彩を施された車体の角が見て取れた。
「あ・・・あれは?」
敵戦車の情報を纏めてあった車体識別表を思いだし、敵の正体を見極めようとする。
「車長!奴は新式の歩兵戦車みたいでしゅーっ!」
いち早く思い出したのか、ナオが叫ぶ。
「装甲が75ミリもある重戦車!マチルダとかいう化け物戦車でしゅ!」
(作者注・マチルダⅡは、重量27トンの中戦車。
ナオが言ったのは日の本では20トン以上を重戦車と呼んだからです)
「マチルダ?あれが?!エギレスの最新鋭じゃないの?」
当時開発されたばかりだと、情報局が報じていた戦車が目の前に居る。
こちらも最新鋭。
敵も・・・また然り。
最新鋭戦車同士の闘いは、敵に先制攻撃を与えてしまう結果となったのだが。
「マチルダⅡといえば、40ミリ砲を装備しているだけだと聞いている。
こちらの47ミリより貫徹力が悪いとも・・・」
ヒロコがスリットを通して観測しつつ、付け加えてきた。
「でも、正面も砲塔全周も、75ミリの装甲で固めているんでしょ?
魔チハの砲じゃ貫通出来ないかもしれない?!」
ミユキの心配はそこにあった。
敵の装甲が抜けなければ、一方的に叩かれる事になる。
敵の弾に因って、一方的な戦闘になってしまわないかと。
「車長、無敵な戦車なんて存在しませんよ。
敵の装甲にだって、弱点は存在するのです。
それに・・・他のチハには抜けなくとも、我々だったら貫通く事が出来る筈ですよ?」
ヒロコが弾頭が碧く塗られた弾を抱えて言ってきた。
その手に光る蒼き弾に、自信を持つように。
「ヒロコ・・・その弾を?
分かったわ!最大出力まで高めてみせる!」
ミユキの答えにヒロコが頷く。
「装填は任せてください。アキナ、ナオっ魔鋼機械全力運転に入るぞ!」
ミユキと以心伝心の会話から、これからの闘い方を二人に教える。
「ひゃぁっ?!全力でしゅか?!」
「あわわっ?!こりゃマジですな?」
ミユキが右手に着けている蒼き宝珠を砲尾に翳す。
「時間がない!みんな衝撃に注意っ、いくわよ!」
命じたミユキの宝珠が輝く。
蒼き珠から魔法の機械へと光が流れ行き・・・
「魔砲の力よ、私に闘う術を!私は全力全開で闘うから!」
光が魔鋼機械にある水晶へ流れ込む。
普通の魔力では有り得ない強大なる力を。
ミユキが放った魔砲の力は、ミユキ自身をも変えていく。
翳された魔砲玉が輝く中、
ミユキの瞳が碧く染まる。
結ばれていた髪から紅いリボンが解け、靡く髪が薄青く染まっていった。
それは魔砲を放つ者の姿。
古から伝わる魔女の姿。
そして・・・ミユキの見た女神の姿にも酷似していた。
髪が染まり終え有られると、戦車兵服が一瞬の内に魔法衣へと変わる。
光の中で、闘う魔女の姿へと変えられる。
日の本に住んで居たとされる、古の巫女の姿へと。
古代日の本から脈々と続く、大君の守護を司って来た者の姿。
白い上着と薄い赤色の短い袴を履いた・・・闘う巫女の姿。
蒼髪と美しい碧の瞳。
現れた姿は何を意味するのか・・・
「車長、魔砲体制完了っ。これより敵戦車と撃ち合うぞ!」
ヒロコが現れた新しい弾を抱えて前の二人に命じる。
「ひっさびっさぁー!これこれっ!これじゃなきゃ―!駄目ですよぉ!」
アキナがとびっきりの笑顔で操縦桿を操作する。
「うひゃぁっ?!感度1万倍!これじゃあ日の本のラヂオまで聞き取れそうでしゅ!」
ヘッドフォンから耳を話したナオが、現れた未知の通信装置に手をかける。
ミユキの力で、車体が変わったのだ。
まるで魔法のように。
砲だけでなく、車体自体が変えられたのだ。
そう・・・これが魔砲。
そう・・・これがミユキの魔砲力。
日の本で女神に託された魔砲の力だった。
「みんな・・・闘いの時が来たの。
私の全力を放つ時が来たの・・・」
蒼き瞳が戦いを求めて輝いた。
蒼き髪を靡かせる魔女の姿がそこに在った。
今迄魔鋼チハ改であった車体は、ミユキの魔力で変えられていた。
短砲身だった75ミリ砲が、倍以上に伸びている。
車体から長く突き出された砲身は、貫徹力の強化を意味している。
元々チハよりも大きかった砲塔が、砲の長大化に併せるかのように大型化する。
そして、何よりも。
50ミリでしかなかった防盾が、倍の100ミリにまで増厚されていた。
エンジンも重量の増加に併せて強化されたのか、アキナが喜んだことからも伺い知れた。
「中隊各車から連絡。逐次側面の警戒に当たる。
存分に闘って・・・って、他人事のように言ってましゅよ?」
冗談めかせて、ナオがレシーバーからの声を伝えて来た。
「ええ・・・勿論そのつもりよ。
その為にこの姿へなったのだから・・・1両たりとも逃がすものですか」
闘う姿になったというのか。
ミユキの声にも表情にも、いつもの優しさは姿を消していた。
そこに居るのは、目の前に現れた敵を睨む神官巫女の姿と貌。
厳しく睨みつける、闘いの巫女となった姿だけがあった。
唯、味方を傷付けた敵へ憎悪を募らせている巫女の姿が・・・
魔法衣姿のミユキの碧き瞳の中に、紅く澱んだ光点が微かに潜んでいた。
魔砲の力はミユキを変えた。
瞳も髪色も・・・そして魔法衣を羽織って。
戦いのさなか、ミユキに異変が訪れる・・・・
次回 戦車の闘い Act5
君は魔砲の力に飲み込まれる・・・悪しき心に染められて・・・