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戦車の闘い Act1

挿絵(By みてみん)


作戦は遂行される事になった。

戦車だけで強襲する今までになかった作戦が・・・

命令を受けた佐伯支隊長が発令したのは、電撃戦とでも云える機動力を生かした作戦だった。


挺身隊の偵察車両を先立て、直ぐ後ろに戦車を配置する。

補給を考えなくても良いように、半軌道車で追従する。

歩兵部隊は後方に残すという、機甲部隊独自の戦法を編み出した。

当時の考え方にはない攻略スピードを優先した電撃戦とも云える作戦であった。


尤も、戦車を集中運用出来るかどうかは誰にも解りはしなかったのだが。





「中隊長ぉ、1中隊2号車故障ぉっ。これで5両目でしゅぅ!」


無線から聞こえて来た僚車の叫びに、ナオが大声をあげる。


「脱落した車両は、味方の力作車に任せておきなさい!」


キューポラで前方を睨むミユキにも路肩に停車している味方中戦車が解った。

強行軍する部隊に在って、敵と闘う前に5両もの脱落が如何に痛いか。

向田中佐指揮する魔鋼戦車隊だけでも3両が擱座してしまった。


「佐伯挺身隊のTK(偵察軽装甲車)が2両、通常のチハが2両に魔鋼チハが1両・・・か」


通り過ぎる際、立ち往生する仲間に励ます意味で手を振るミユキが呟いた。


当時の戦車は、機関エンジンやサスペンションに信頼性が乏しく、

且つ又、少しの負荷に因って簡単に壊れてしまう程、繊細な機械でもあった。

特に黎明期の魔鋼機械を載せた魔鋼の戦車に於いては、何をかいわんや。


佐伯支隊は脱落した車両を後続する修理部隊に任せ、一路敵陣地へと向かう。

整地された道路上を進むのは、佐伯挺身隊の傘下に入った魔鋼戦車隊の24両。

元々保有していた27両の内、3両が故障し脱落。

尤も魔法使いが乗り組む魔鋼チハは残り15両だった。

向田隊全車中、第1中隊の車両は通常の榴弾砲を装備した中戦車だった。


佐伯支隊の傘下に入った戦車部隊は行軍を続け、偵察隊の後方200メートルを維持していた。

前方を進む佐伯隊の九四式・九七式混成偵察隊(軽装甲車・豆戦車)の9両も、今は7両にまで減っていたのが気になったが。



部隊はそれ以上の脱落を出さずに目的地まで辿り着けるのか。

戦闘を控えるミユキは、故障車が5両も戦闘を行う前に脱落してしまった事に気持ちが滅入ってしまった。




支隊の攻撃目標はスリム川手前に陣を構えるエギレス・植民地兵軍。

川に掛かる鉄橋を無傷で手に入れさえすれば、後発の歩兵部隊の進出を確保可能ともくされていた。

逆に鉄橋を破壊されてしまえば、強硬渡河せねばならず、その時点で作戦の長期化は避けられなくなる。


作戦の成功如何によっては事変の長期化、そして終結までもが困難と化す。


重要な作戦であり、強硬された訳も判る・・・だが。




「敵が橋を爆破してしまえば、どのみち渡河しなきゃいけないのに」


敵が黙って橋を渡す筈もないと思ったヒロコが愚痴の様にミユキに言い募る。


「そうだろうけど、万が一にでも爆破が間に合わなかったら・・・とは思わない?」


キューポラで先発している偵察隊を観測しながらミユキが答える。


「でもぉ車長ぉー、万が一ってぇーどれ位の確立なのでちょぉーかぁ?」


無線手のナオが車内から訊いてきた。


「そんな事中尉にだって分かるもんか。

 お前は黙って無線機に齧りついてろ!」


停車中の操縦手のアキナが、暇を持て余す様に横の機銃手を叱りつける。


「へぃへいぃー、でしゅ」


被った戦車帽に着けられているイヤホンに手を置いて、ナオは退屈そうにダイヤルを弄り出した。


停車した車両の中には、修理が必要な物もあった。

各車に乗り込む搭乗員達は、自車両の状態を確認し直ちに戦闘が行えるように整え終えようと必死だったのだが。


「良かったですね車長。我々3中隊は全車異状なしで済んで」


ヒロコが車外に出ている者が居ない自分の中隊所属車を見回してほっとしたように言う。


「まぁ、車体だけはね。心配なのは・・・」


そう言って中隊5号車を観る。

その車両には問題の無線手が乗っていた。

戦闘で精神を冒されてしまった彼女が乗り込んでいると。


「ああ、件の無線手ですか。

 心配ありませんよ、戦闘ともなれば小隊の2両が支える事になっていますから」


ヒロコも5号車を観て、中隊長であるミユキに答えた。


「うん、何事も無ければ良いんだけど・・・」


まだ、気になるのかミユキの表情は優れない。

車長の顔色を伺っていたヒロコが話題を逸らそうと。


「そう言えば、光野中尉には許嫁が居られたのでしたね?

 彼とはお話しておられるのですか?どんな方なのですか島田さんって?」


突然ヒロコに許嫁と云われたミユキが狼狽すると。


「いっ、許嫁ぇっ?!どこからそんな噂が?!」


飛び上がらんばかりに驚きの声をあげる。


「噂も何も。いつも寝言で・・・マコト様ぁ~っ・・・って。

 身悶えながら呟いておられますからねぇ?」


・・・身悶えながらって・・・?


固まるミユキに。


「そうそう!光野中尉は萌え女子でしゅんで。

 彼と夢の中で何をしておられる事やらでしゅぅ?」


聞いていたのか、ナオが退屈しのぎにミユキをからかう。


「なっ?!なぜっ?私ったら・・・ハシタナさ過ぎるぅっ?!」


愕然と顔を赤らめるミユキに、ヒロコが想う。


<残念過ぎますよ、中尉。嘘に決まってるじゃないですか・・・>


ジト目で観られているとも知らず、ミユキは紅くなった顔を隠して身悶えていた。


<まぁ、これで車長の気も紛れた事だろう>


装填手ハッチで空を見上げたヒロコが、大きなため息を吐いたのは自分の気も休まったからだろう。



一時停止していた戦車隊が動き始めたのは全車の点検が終えられた後だった。

前方へ偵察に出ていたテケからの報告では、鉄橋を護る部隊は僅かしか居ないという。

しかし、目撃できた事が全てでは無いと分るのは、攻撃が始まった後だった。


陣地防御の要が、時を同じくして到着しているのを見つけられてはいなかったのだ。




佐伯支隊が前進を再開した頃。


「我々が来たからにはヤポン人の好きにはさせん。

 数は敵の方が多いかもしれんが、性能で圧倒出来る。

 安心したまえ、歩兵の諸君!」


鋼の車体がキラリと光る。

橋を渡り切った車体の数は、以前に光野中隊が攻撃した時と同じく9両。

敗走した陣地からの報告を受けた敵が、同数の車両を送り込んで来たのだ。


「戦車が来たのなら、教えてやろう。

 歴史の違いって奴を。我々より劣っているんだと、解らせてやるだけだ!」


車両の指揮官が嘲るように吠えた。

友軍の歩兵達には、仲間にも戦車がある事を再確認して心強く想っただろう。

敵が攻め寄せても、この9両が居る限り大丈夫だと思っただろう。


歩兵が見上げる車体には強固な砲塔が備えられている。

そこから突き出た砲身に、心強く想っていただろう。

陸の戦艦にも思えただろう・・・


「歩兵戦車といっても、マークⅡは伊達じゃないぞ!」


突き出た砲は徹甲弾を主に放つ。

その頃の戦車を相手にするには十分な破壊力を持っていた。


「そうだ!敵は皆この2ポンド砲で叩き潰してやる!」


指揮官が嘯いたのは決して嘘では無かった。

直撃を与えれば、どんな車両でも破壊出来ると信じていたから。


歩兵達は陸の戦艦とも云える中戦車を誇らしげに観ていた・・・




ミユキ達の部隊が攻撃位置に付いたのは、敵車両が配置に就いた丁度同じ時刻だった。

現れる影。

鋼の嵐が吹き荒れようとしている。

第3中隊を率いるミユキには、その影の正体を知る由もなかった・・・


次回 戦車の闘い Act2

君達の前に立ち塞がるのは悪魔なのか?!

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