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事変勃発 Act4

事変勃発で喪われるのは身体だけでは無かった。

敵も味方にも・・・心があった。


戦争は人の心までも蝕むというのか?

闘い終えたミユキ中隊にも被害があった・・・

夜襲は成功裏に終えられた。


魔鋼戦車隊に初めての戦果が記録された。

但し、本来の目的である対戦車戦では無かったのだが・・・



後方から追及して来た佐伯挺身隊へ陣地を明け渡したミユキ中隊に。


「ご苦労さんだったなぁ、被害はないのか?」


魔鋼戦車隊指揮官である向田中佐が、損害報告を求めて来た。


「連隊長!幸いなことに損害は数える程で済みました。

 損害は軽微、然れども彼女達の中には心に傷を受けてしまった者がおります」


ミユキが部隊長である向田中佐に実情を申告した。

魔鋼の戦車兵は皆が皆、女子ばかりだった。

全員が魔法力を持つ戦車乗りであった。

但し皆が皆、ミユキのように強い心を持っていたとは限らない。


中隊9両が、激しい攻防戦の末に勝ち得たのは敵陣地。

戦闘に因る人的被害は表立っては誰一人として無かったのだが。


「中隊5号車の機銃手が・・・恐慌状態になりました。

 しばらくは前線から遠退ける方が良いかと思います」


戦闘の恐怖が心を壊したのか。

5号車の機銃手が心身喪失状態に陥ったと報告した。


「なに?3中隊9両の内1両でも欠けては作戦に齟齬をきたすぞ?!」


敵弾で倒れたのなら分かるが、心が疵付いただけで前線勤務から外すなどもっての外だと、

周りの上級幹部達が色めく。


「しかし、このまま戦車に乗せ続けても、百害あって一利なしですよ。

 5号車に補充員を寄越してくだされば良いだけじゃないですか?」


ミユキが反発するのも当然である。

運用できない戦車を引き連れて行動したいのなら、運用できるようにすれば善いだけ。

そうしなければ中隊のお荷物になるだけの話なのだから。

全ての部下を想うのなら、無理強いは禁物なのだと言いたかったのだが。


「なに?!女子だからと云って甘えた口を叩くな!」


突然他中隊の中隊長が問題の女子に掴みかかると。


「光野中尉が特別だからって、甘えた口を利くな!」


問答無用で殴り掛かって来た。


「何をするのですか?!彼女は心身喪失状態なのですよ?!」


気が付いたミユキが自中隊に駆け戻ったが、件の機銃手は叩かれ倒れていた。


「あなたっ!私の中隊員に何をするのですか!」


部下が他の中隊長に叩かれて憤りを感じてしまったミユキが、庇う様に立ち塞がる。


「光野中尉、今は戦争をしてるんですよ?一個人の心なんて関係のない話ですからね」


叩いた第2中隊長が、ミユキにお構いなしにもう一度掴みかかろうとするのを。


「辞めないというのなら。

 私の部下に手を出すというのなら・・・赦しませんよ?!」


ちょうど閲兵を受けていた事もあり、腰に帯刀していた。

宮様から頂いたという恩賜の剣を手にしたミユキが、


「これ以上私の部下を意味なく制裁するのであれば、

 この紅鞘べにさやの剣が鞘滑りしますよ?!」


挿絵(By みてみん)


剣巫女であった頃の、鋭い構えで威圧した。


宮使えをしていたミユキには、神官巫女であるのと同じく剣巫女としての修練が為されていた。

北面の剣巫女として、皇室を御守りできるだけの武術を習い終えていたのだ。


鋭い居合の構えを向けられた他隊の中尉がミユキに怯む。


「ちっ!」


同じ階級でもあるが、何より宮使えしていたミユキとはほまれが違う。

それにも増して、人としての人格が段違いにも思えた。


諦めた中尉が後退り引き上げると、ミユキは殴られた部下に寄り添う。


「大丈夫?!痛かったでしょう?」


5号車乗員達に囲まれた機銃手に慰めの声を掛けて。


「あなたの代わりが来るまで5号車は、前進させないからね」


前線勤務から外させることを約束した。


「待ってください!機銃手は我々がなんとかします。

 ですから中隊から外さないでください!」


車長の軍曹がミユキに頼んで来る。


「私達が必ず元に戻してみせますから。

 中隊から、のけ者にしないでください!」


「お願いします!」


操縦手や装填手も交々頼み込んで来る。


「あなた達・・・どうして?

 彼女は心に傷を負ってしまったのよ?そう容易く治せれる筈はないわ」


ミユキは戦いに因り受けた傷の痛手を想い計る。

心に傷を負うような戦場の、真の怖さを・・・


「分かっています、が。

 機銃手とは内地にいる時からずっと一緒に頑張って来た仲なのです。

 補充員に挿げ替えられるのなら、このまま何とか・・・」


無線手で、機銃手を兼ねる者に何があったというのか。

心を壊されてしまうなど、余程の事がなければ起こり得ない。

それは単に戦闘で受けた傷なのか。


ー まさか・・・魔法力を?!


ミユキは魔法の機械に因る事故だったのでは・・・そう考えた。


「車長、先の戦闘で魔鋼を使ったなんて事はないの?」


軍曹が禁じていた魔鋼力をつかってしまったのかと思って訊いたが。


「いいえ、命じられていた通り。使ってはおりませんが?」


対戦車戦以外では、決して敵に見せてはならないと向田中佐に釘を刺されていたから、

陣地戦では魔鋼機械を発動させてはいなかった。

命令通りに機械を使わなかったのなら、やはり彼女は心が弱かったのだろう。


踏みにじる側の恐怖。

それはミユキ達戦車乗りにしか解かり得ようもない懼れ。


心を壊されそうになっている彼女と、自分達の違いは何だったのだろう。


ミユキは虚ろな瞳を向けている機銃手を観て、

これは自分達にも起こりえる事なのだと想っていた。

決して特別な事では無いのだと・・・感じていた。





事変が勃発して早、一週間が立とうとしていた。

戦闘は各所で行われたが、目立って戦局が動いていた訳では無かった。

双方共に、決定的戦略目標を果たせた訳も無く。

唯、悪戯に時間だけが過ぎて行った。



「早期和平が、最も良い事なのではないのですか?」


参謀の一人は即断即決を求める。


「敵にも戦車はあるだろう。まともにぶつかっては絶対数で劣るわが軍には勝ち目はない!」


もう一人は、早期断行が齎す弊害を告げる。


「敵に援軍が到着する前に攻略せねば、悪戯に被害を増やすだけです」


「ならば。如何にして攻める?あの要塞には総数3万という人員が集められているのだぞ?」


司令部に集う各級の指揮官達が喧々諤々の会議を行っていた。

ミユキ達が属している佐伯挺身隊も、その中の一つの部隊であった。


会議中、指揮官は他の者が言い募る言葉に耳を貸していたのだという。

歩兵部隊はどんなに早くても2週間くらいは移動にかかるという。

補給隊も同じく日数がかかると言った。


徒歩で行軍するのには、それだけの日数が必要なのだと。


だったら、機動力のある部隊が特出すれば?

少数の精鋭部隊で電撃戦を断行すればどうなる?


敵の虚を突いた行動力で陣地が構築される前に叩けば?



向田戦車隊と、佐伯挺身支隊に命令が下されたのはそれから程ない時の事だった・・・

一応それなりの戦果を収められたミユキ達だったのだが。


作戦はまだ序盤を過ぎただけだった。

最終攻略目標まで、抜かねばならない陣地は数多くある。

攻撃を求められたミユキ達魔砲戦車隊は進撃するのだった・・・


次回は!此処まで来て、何か忘れて居る様な・・・と言う訳で。


次回 <でしゅ>なナオが・・・解説とか説明とかしてみるかい?


なんて閑話休題な付録を公開します。

参考挿絵あんど写真モリモリでお贈りします!期待しててね・・・でしゅ!


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