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事変勃発 Act1

挿絵(By みてみん)


遂に。

ミユキ達、魔砲の戦車兵が初陣へと旅立った。


願うのは無事の帰還・・・唯、それのみ。

海軍艦艇に護衛された輸送船隊がカムーラン湾へ到達した。

商船からは兵達が、連隊ごとに降り立ち、

デリックで降ろされる車両には、軽戦車やトラック等の重量が比較的軽い部類の物。

または、重火器などの兵站物資が次々に港へと陸揚げされていく。


主力部隊が港へと陸揚げされていく中、少し離れた場所に不思議な船が岸壁に係留されていた。

船尾を岸壁に着けているその船は、見た所普通のタンカーにも観えたのだが。

船尾に着けられた観音開きの扉から、埠頭に降ろされていくのは・・・


「全車早急に陸揚げ!急ぎ倉庫内へ入れ!」


叱責が辺りに響く。

声を嗄らして命令を下す上陸指揮官に急かされる様に、車両が埠頭の倉庫へと入って行く。

上部を幌で囲い、外観を隠した車両。

ディーゼル排気を高らかに噴き出して進む姿は、見る者によっては兵員輸送車にも思えるだろう。

だが、知る者はその車両が戦闘車両であるのが直ぐに判るであろう。


ディーゼルエンジンと無限軌道キャタピラ・・・

それが意味するのは。


「隠したってスパイになら戦車だと分る筈なのにねぇ?」


キューポラに半身を出している中隊長へ愚痴交じりに言って来る装填手。


「命令なのだから、仕方がないでしょ?」


紅いリボンでポニーテールに結い上げられた黒髪が風に舞う。


「光野中尉、どうして特殊上陸船を使わなきゃいけなかったのですか?」


今出て来たばかりの船を振り返り、装填手が訳を訊ねる。


「それはね、私達の戦車がデリックで持ち上げられないからよ。

 普通のデリックでは15トンが精々。

 この魔鋼チハの重量は20トンもあるんだから」


積み込めない重さ、そして持ち上げられない車体。

重量オーバーの車体を運輸する方法が確立できていない海上輸送。

それならば、船自体を併せるしかない。

デリックを巨大化すれば船自体をも大きくしなければならない。

陸軍が考え付いたのは、船の構造を変えれば良いという結論であった。


特別に造られた輸送船、それが特殊上陸船である。

この他にも、強襲上陸戦に対応した大型発動艇だいはつを積み下ろし出来るタイプもあった。

全て、戦争の為に造られた陸軍の発案による物。

海外に戦線を拡張する事への対応ともいえる。


特殊船2隻から降ろされた車両は全部で16両・・・2個中隊の規模でしかなかった。





今迄に装備されて来た八九式戦車と比べて、重量も車体長も格段に大きい車両。


幌に隠された砲塔に備えられる一0(ひとまる)式47ミリ狙撃砲も、

今迄装備されて来た57ミリ榴弾砲に比べて、砲身長が倍以上に長く砲塔から突き出ている。


なによりも、近代化された車体ホルムが引き立っていた。

軽く傾斜した前面装甲板、操縦手席が僅かにカーブして前のめりに張り出し、

左舷(作者・注 戦車では船と同じように右舷みぎうげん、左舷ひだりさげんと呼んだ)の機銃・無線手との

連携が取りやすく設計されていた。


砲塔と呼ばれる箱状の防御盾が胴体の上に付き、そこから主砲が突き出ていた。


主砲の47ミリ狙撃砲は、それまで主流となっていた榴弾砲から貫徹力を向上させた長砲身の物に替えられ、

57ミリから47ミリへと退化しているように思えるが、抜群の低伸性と、貫通性能を誇る物へと進化していた。

砲身を支える砲塔も、今迄は小銃弾を防げる程度しかなかった装甲厚を小口径砲弾の直撃にも耐えられる計算に因って、

前面50ミリ側面35ミリという時代の先端を行くものとなっていた。


当時はまだ戦車戦が確立されていない現状だったので、対戦車砲と呼ばれる物も存在していなかった。

中口径の榴弾にならば、直撃さえ受けなければ生存が可能とされ、

小口径の狙撃砲にならば、前面装甲に直撃を受けても貫通を免れ得るとされていた。


但し、魔チハが普通の戦車ならば・・・の話。

実戦で闘う事になる魔チハには、そとからは解らない秘密の装備が備わっていたのだ。



この世界には魔法が存在していた・・・

魔法力を機械に融合させれる技術が発見されたのは、偶然からの物だったとされている。

だが、偶然でもなんにせよ、見つけられた技術を戦争につかおうとするのは必然である。

それが世界に先駆けてなら、尚の事・・・


魔チハと略称される戦車には、魔法の機械が備えられていた。

乗員の中に魔法使いが居れば、持てる魔法の力を発動させる事に因り、

機械から車体へと魔法が放たれ、戦闘能力を飛躍的に高める事が可能になる。

一部の高位魔法使いが力を放てば、魔鋼まこうと呼ばれる力に因り、砲身がより強力な貫徹力を持つ物となる。

それに伴い砲弾も強力な破壊力を持つ鋼芯徹甲弾(APCR)に変化する。

魔鋼弾まこうだんを受けて無事に済む装甲を誇れる車両は、この時点では開発されてはいなかった。



各個に闘う戦車戦ならば、先ず勝利は掴めよう。

しかし機動戦が始まれば、集団での戦いへと移る。

相手が戦車だけとは限らない戦場で生き残れるかは、神のみが知る・・・

敵弾が命中して破滅を撒き散らす時、生き残れるかは運のみぞが知る。


喩え、どれ程生きる道を望んだとしても・・・



魔鋼戦車を集中運用する部隊を創設したのは日の本が最初。

機甲部隊さえも造る事が叶わない、小国だというのに。

戦力として未知数の魔砲部隊、世界に先駆けて造られた戦車に因り造られた部隊。



故郷から遠く離れた異国の地で、初陣を飾る事が出来るのか。

果たして魔砲戦車は乗員達の期待に応える事が出来るのだろうか。


戦場は魔砲少女達に何をみせるというのか?

闘いは彼女達に何を知らせるというのか?


運命の歯車は・・・今、魔砲と共に放たれ始める・・・・・・









神官巫女で宮仕いの少女が、陸軍戦車隊へと入隊させられた。


軍部からの強き希望があったとされる。


時のみかどに、一人の宮様がおられた。

おん妹君いもうときみであらせられる宮様は、軍部からの申し出を拒んだのだが、

世界の情勢と国家安寧の為、泣く泣く許可されたと聴く。

皇室北面を守護奉る神官巫女の中に、一人の神職の娘がいた。

元服を迎える前に召しだされた少女は、魔力を持つ家系の末裔。

いにしえから脈々と伝わる神職にして、魔法を放つ者。

魔法の属性から剣巫女けんなぎと銘された娘。


彼女は志願した訳ではなかった。

望んで宮使えになった訳でもない。

時流に翻弄された独りの魔法少女だっただけ・・・


唯・・・希望が無かった訳でも、望みがなかった訳ではない。


縋るのは神の啓示。

自分の中にある魔法力と、さだめに託すのは。


「私は・・・約束したの。

 あの人と・・・必ず還ると・・・固く。

 女神に聴かされたのだから・・・信じる力と諦めない強さを。

 だから・・・生きて。生き残って、再び逢う事を果たすの」


陸軍魔砲化戦車隊中隊長、光野ひかりの 美雪みゆき中尉は紅鞘あかさやの剣を振り抜く。

明陽あさひに剣を翳して・・・ 


戦闘の前。

鋼鉄の嵐が起きる直前・・・


覇権を争う帝国主義は、関係のない人々を巻き込んで闘いを起こす。

嵐を前に、ミユキ達は己の信じる道を歩もうとした・・・


次回 事変勃発 Act2

君の進む先にあるのは地獄なのか?!戦車は敵陣へと奔る!!

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