黄昏の時代に Act1
魔砲少女ミハル
世界を破滅より救った女神・・・
彼女が生まれたのは、東の果てにある島国だった。
一人の人間として生まれた彼女がどうして女神となり世界を救ったのか。
物語の始まりが、今・・・紐解かれていく
今とは違う時代・・・
此処とは違う場所で・・・
我々の歴史とは違う時を駆けて・・・
Ballad to Hope<希望への譚詩曲>
東の果てにある島国から遥か遠路・・・彼の国から来た家族があった。
言葉も習慣も全く違う、異国の地へと。
移り住む家族は父母姉弟、合わせて4人。
黒髪、そして澄んだ黒き瞳。
家族は東洋の島国から船旅で辿り着いた・・・欧州より北、半島の皇国へと。
その地に何が待っているのかも知らずに・・・・・
小さな姉弟は近付く陸を眺め、父は二人の後ろから妻の肩を抱いて二人を見詰める。
長い髪をポニーテールに結った母は、夫に身を任せながら二人の子を見詰める。
姉弟を見詰める母の右手に着けられた宝珠が陽の光を受けて光を放った。
家族の行く手に何が待っているというのか・・・
唯、蒼き宝珠だけが希望に満ちて光り輝いていた・・・
蒼き宝珠・・・蒼き御珠。
この世界に伝わる神話にも登場する、古から伝わる秘宝石。
彼女がなぜ右手に填めているのか。
なぜ彼女が持つ事になったというのか?
今より十年程前に話は遡る。
家族が東の果てにある<日の本皇国>から、この地へ来る前の話を紐解かねばなるまい。
島国であった日の本が新たな時代の波に翻弄されながらも、
漸くの事、一等国となりえたのは数十年間の内戦を経た後の事だった。
隣国に強大な帝国が存在し、その脅威を武力で跳ね除けた後の事。
武力で撥ねつけた・・・幾多の犠牲を伴う<対外戦争>があったという事である。
大陸の隣国は、文明開化を遂げた小国を侮った。
国力比で10対1とも言われた戦争に因って、島国を攻め滅ぼす気だったという。
だが、大陸から攻め寄せる事も及ばず、強国は小国に敗北を喫した。
当時、大陸の強国は欧州からの援助を貰う代わりに、内政にまで干渉させる事を飲ませていた。
それが後々に、強国を瓦解させようなどとは思いもしていなかったのだろう。
日の本は第1の難関を突破した。
戦争に因って手に入れた賠償金を元に、更なる軍備を整え。
一方で終戦協議に口を挟んで来た他国との次なる戦争を準備して・・・
四方を海で囲まれた<日の本皇国>。
著しく発展させたのは海軍であった。
強大なる艦隊を整備する為、臥薪嘗胆を志とするように国民に要求した。
確かに隣国は打ち破ったのだが、主敵たる隣国よりも<帝国主義>を掲げる欧州各国が迫っていた。
欧州から覇権を唱えて進出して来た<エギレス>王国。
遥か遠く、欧州から内南洋までも進出しようと目論む彼の国は、
次々と植民地を増やし、日の本の対外進出と真っ向からぶつかり合う事になっていた。
欧州やインドア・アフレカ大陸方面との貿易に欠かせない通商路である、
ジョホーレル海峡を押さえられた日の本皇国は数次の通商会談の末、打開策を見いだせなくなった。
国内の強硬派は、戦争もやむなしと息巻く次第。
穏便波は臥薪嘗胆を繰り返し、エギレスの妥協案を呑まざるを得ないと声高に言う。
国論の乱れは内閣をして、総辞職へと導いた。
新たに組閣された内閣によって、最終決断が天皇陛下へと奏上される事になった。
・・・時に、明和15年・・・冬の日の事であった。
冬の日差しが零れ込む図書館で、独りの青年が本を片手に勉強していた。
何かに急かされでもしているというのだろうか。
彼は必死にページを繰り、ペンをノートに奔らせていた。
零れ日が傾いていっても、彼は一心不乱に何かを調べ、何かを記し続けている。
図書館に居る他の者達が帰ってしまっても。
閉館時間が迫った時、漸く彼は腰を伸ばして一息入れた。
カクカクと肩を廻し、疲れたのだろう眼を瞬いて天井を見上げた。
その時、彼を見詰めている人影に気付いた。
長い髪を紅いリボンでポニーテールに結った、巫女姿の少女に。
ここが図書館である事を疑う。
いいや、彼女が巫女服を着ている方が場違いなのだが。
そっと見詰めている少女に彼が気が付いた・・・
彼の視線に気が付いた巫女姿の少女が、慌てて駆け去ろうとする。
「君っ!待って。いつも物陰から僕を見てたのは君だろう?」
図書館にはもう誰も残っては居ないから、少々大きな声を出しても迷惑にはならない。
そう思ったのかどうかは解らないが、彼は大きめの声で呼び止めた。
彼の声に驚いたように足を停めた巫女装束の娘に。
「君、この間から僕を見てたんだろう?
どうして話しかけて来なかったの?僕が気難しい男だと思ってたの?」
彼の声は、年相応よりも大分若く聞こえる。
どこかの大学生なのか、凡庸な姿にはそぐわない程の張りのある若い声だった。
話しかけられた巫女装束の娘が恥じらう様に下を向いて頭を下げる。
「す、すみません。つい・・・一心不乱に学業をされている姿に見とれてしまって」
真っ赤に頬を染めた娘が、首を垂れながら訳を告げた。
髪に結われた紅いリボンがファサっと揺れる。
可憐な少女に謝られた彼が、にっこりと笑い掛けて。
「謝る事なんてないさ。気になったのなら話しかけてくれれば善かったのに」
そう言うと巫女姿の少女に歩み寄る。
近寄る彼にびっくりしたのか、少女は後退りその場を去ろうとするのを。
「待って、もう少し話がしたいんだ。
君は何処の神社の子なんだい?どうして巫女姿のままで図書館なんかに?」
場違いな衣装の少女に問いかける。
立ち止まった少女は、自分の姿に少しだけ眼を落とすと。
「あ、あのっ。私・・・神官巫女なのです。
この衣装は宮中に務めているからで、所要があって罷り通してきたのです」
神官巫女と教えられた彼が、まだ不思議そうに見つめているのに気付いた少女が。
「あ・・・可笑しいでしょうか?この姿で図書館に来るなんて?」
世間ずれした少女の返事に、彼はそっと微笑みながら首を振り。
「いいや、可笑しいなんて思っちゃいないさ。
良く似合ってるなぁって思っただけだよ?」
微笑まれた少女が増々頬を染める。
可憐な少女は彼の近寄るのに任せ、立ち竦んだように見返すと。
「あの・・・どういえば良いのか解らないのですが・・・ありがとうございます」
微笑む彼に、微笑みで返してきた。
「あのっ、あなた様はどのようなお勉強をされておられましたの?
大学ではどのような研究をされておられるのでしょう?」
あれ程必死に読書しているのはどうしてなのかと聞きたいみたいだったので、
「ああ、僕は陸士なんだよ、こう見えても。
大学上がりじゃないんだけど、陸軍士官として召し抱えられてるんだ。
もうじき、否応も無しに技本・・・技術本部に出頭を命じられちゃうんだ」
頭を掻きながら巫女姿の少女へ答えると。
「あなたの様なお若い方が?
陸軍士官で、技術本部付なのですか・・・驚きました」
普段着姿の彼に眼を見開いて見詰める少女の瞳の色は、黒味のかかった中に蒼き光が見て取れる。
「君・・・君の眼。君の瞳の色を観ていると、なんだか吸い込まれてしまいそうだ」
美しい色合いで輝く瞳。
黒い中になぜだか青みを感じてしまう。
「あ、お気づきになられましたか?
私、神官巫女を申し付けられた魔法使いの端くれなのです。
私も神職の中から選ばれて宮廷に召し抱えられた一人なのです」
彼にまじまじと見つめられた巫女装束の娘が、恥じらう様に両手で顔を隠す。
「宮廷って、皇居なんだろ?
凄いじゃないか、女官の中でも特別扱いされる人なんだね?」
彼が知ってるだけの情報を元に、娘を褒めたつもりなのだが。
「特別・・・そうですよね。
私なんかが宮廷務めを命じられるなんて・・・場違いですよね?」
なにか気に障るような事でも言ってしまったのだろうか。
急に娘の態度が暗くなったように感じた彼が。
「ご、ごめん。何か悪い事を言ってしまったようだね、謝るよ」
ぎこちなくなった娘に気付いて彼が話を変えるように、
「あ、僕は陸軍技術士官の島田 誠・・・中尉というんだ。
近衛師団に属しているんだけど・・・君の名前は?」
自己紹介を兼ねて、名前を訊ねた。
突然名前を告げられた巫女装束の娘が、少し考えてから思い切ったように。
「あ・・・あのっ、私。
私は・・・光野 美雪。
皇室北面の剣巫女・・・神官巫女ミユキ・・・って、いいます・・・」
最初は大き目な声で。名を告げる時には恥ずかし気に。
白い肌と黒髪が印象的で、可憐であり凛々しくにも観えた。
「ミユキ・・・さん、って呼べば善い?」
苗字では無く、名で呼ばれる事に慣れていないのか。
マコトにそう呼びかけられたミユキは、顔だけじゃなく、首筋までも真っ赤に染めて恥ずかしがった。
「あ、ああああっ、あのっ!そ、そう御呼び下されるのは嬉しいのですが。
私っ、殿方に名を御呼びいただくのには慣れておりませんので、その・・・」
戸惑う様に顔を赤らめたミユキに、
「そう?じゃあ、僕が初めてなの?」
「はっ、はいいぃっ。そうでしゅぅ・・・・」
ミユキは恥ずかしさのあまり、呂律までもおかしくなるほど動揺する。
「あははっ、神官巫女ミユキさんって、初々(ういうい)しいんだね?」
「///////(真っ赤)」
返事も返せなくなったのか、ミユキが下を向いて焦っていると。
「もしもーし!もう閉館しましからね。お帰りください!」
司書が呼びかけて来た。
「あ、すみません。もうすこし・・・」
司書に返事したマコトが、ミユキに振り返った時には。
「あ。ミユキさん?!」
目の前に居た筈の神官巫女の姿は掻き消えていた。
「ミユキさん?何処に行ったの?」
「あ・・・あのっ、また・・・お逢い出来ますでしょうか?」
声だけが聞こえてくる。
上ずったような、少女の声が。
「ああ、そうだね。
また逢えるさ、この図書館で・・・時間が合う時には」
少しだけ・・・心残りだとマコトは思ってしまった。
「はいっ、また・・・お逢いできるのを心待ちにしております」
ミユキの声が弾んで返って来る。
彼女には悪い事を言ったかもしれないとマコトは思っていた。
なぜ・・・本当の事を言えなかったのだろう・・・と。
「ごめんよミユキさん。守秘義務があるんだ・・・軍隊には。
僕は今日でこの地からお別れしなければいけなかったから・・・
明日には出頭して、どこかの工廠に派遣されてしまうんだよ」
呟くような声で詫びるマコトが、消えてしまった彼女の微笑みを思い浮かべると。
「もしかしたら、もう二度と逢えないかもしれない。
さよなら・・・ミユキさん・・・お幸せに」
別れの言葉を呟きながら、司書に急かされて図書館を後にした・・・
出会いは突然に。
暗雲棚引く世界情勢の中、男女は出会った。
マコトとミユキの物語はこうして始まりを向えたのです。
世界を救うこととなる娘が、如何にして2人から生まれたのか?
君は運命の出会いに狂喜する?!
次回 黄昏の時代に Act2
君は戦争の奔流に飲み込まれてしまうのか?!生き残れるのは強き者のみ!