第8話
「もう数百年も前になる…奴が…いや、オリアクスがメイジレコードの内部で大規模な魔法実験を行い、失敗した」
「大規模な魔法…」
それを聞いたアキタカは朝見た新聞記事を思い出した、強力な魔法程失敗した時のリスクは大きい。
ましてや伝説の魔法使いの失敗だ、アキタカの予想を遥かに越える被害だろう。
「その爆発は全てを吹き飛ばし時空すらも歪め、私を含む殆どの写本がその中へと吸い込まれた」
「もしかして…他の写本達も…?」
「そうだ、私と同様にこの世界に点在しているであろう。私は散らばった写本の回収と…必要であれば破壊を目的に旅をしていた…その道中でアキタカ、お前を拾った」
アストラルはそこまで話すと己の主がやらかした事というのもあり申し訳無い気持ちになったのか俯く。
「そっかー、ぼくは運が良かったんだね」
しかしアキタカは全く気にしていない様子だ。
「写本って他にはどんなのが居るの?」
「そこも話してやりたいが…」
アストラルがチラリと時計を見ると日付が替わりかけていた。
「また、明日にでも話そう」
「んー…わかった!おやすみなさい」
その日の夜からと言うもののアキタカはアストラルが家にいる間はべったりとくっつき質問と考察を繰り返すようになっていた。
アイドニ達の所へ遊びに行く事もなく、ひたすらに知識欲のままに勉強していた。
「この村の本を全読破する前の状態と似てるな…」
アストラルはしみじみとそう思った。
アキタカは手の届く場所に自分の知らない知識があれば躊躇無く全てを吸収しようとする子であった。
初めて本を見たときは村に読めるものが無くなるまで毎日読書ばかりしていた程に。
アキタカのその知識欲は計り知れない。
「そうだ!ねぇアストラル!」
アキタカが何かを思い付いたようでノートを閉じてアストラルに声をかける。
「どうした?」
「アストラルはぼくがある程度大きくなったらまた旅に行っちゃうんだよね?」
その通り、アストラルはアキタカが安全に暮らせる土地と村を探してやっと見つけたのがこの村であり、いつかアキタカが馴染んで問題なく暮らせるようになれば、また旅を再開しようと目論んでいた。
しかしアキタカにはそれをまだ教えていない筈、時々妙な所で察しの良さを発揮するな…とアストラルは不思議に思う。
「ああ…そうだ」
「ぼくも連れていってよ!」
「それは出来ない、危険な旅になる」
アストラルの答えは決まっていた。
連れていく方が安全だろうが村の外で魔力の持たないアキタカに対してどんな弊害があるか…差別されて辛い思いをする可能性すらあった。
「そうかぁ…しょうがないね」
「あ、ああ…すまない」
「ぼく一人で旅に出るよ!」
「それはもっとダメだ」
最初は聞き分けのよさに拍子抜けしていたアストラルだったが、直ぐに飛んできたアキタカのとんでもない発想に慌てて止める。
「どっちにしても、ぼくはアストラルが居なくなった後からでも村を出ていくつもりだったよ!自由飛行の実現には…このままだと知識が足りないんだ!」
「うむ…しかしだな…」
アストラルはアキタカの説得に簡単に頭を抱えた。
一人で旅をさせる位なら自分の旅に同行させた方がやはり安全なのでは…?と思い始める。
「………」
「アストラル?」
「いや…しかし、やはり危険が…」
「ねぇ、アストラル」
「私が同行すれば安全か…?いや…それならば…」
考え込んでしまったアストラルに痺れを切らしたアキタカは最終手段に出た。
「いいよって言ってくれるまで今晩から歯磨きしないしお腹を出して寝るし夜中におやつも食べるよ!」
最終手段というのはアキタカからアストラルに出来る最大限の脅しだった。
世界基準で見ても恐らく最強の部類に入るであろうアストラルに対して脅すにはこれしかないと踏んだが…。
「それは…それだけはダメだ、やめてくれ!」
珍しく声を荒げるアストラル。
アキタカが思っていたより効果は絶大だった。