第3話
「なぁアキタカ!この木の枝が使えそうじゃないか?」
「いいね!持ち手にちょうど良さそう!」
「おいアキタカ!あそこにすっっげぇでっけぇマクロぼっくりが沢山あったぞ!何かに使えねぇか?」
「ううん分からない!でもおいといて!」
光指す森の中、誰が言い出したのかアキタカ達は杖の材料集めに精を出していた。
器用なアキタカはアイドニ達が集めた木を削り組み立て、複雑な黄金の杖を再現していく。
素材は木なので色も黄金…という訳にはいかないが…
「出来た!1本目!」
アキタカが完成した黄金の杖のレプリカを掲げる。
「まずアイドニね!」
「ははは、ありがとう…お前本当に器用だな…」
あまりにもレプリカの再現度が高いため受け取ったアイドニは少し引き気味に笑う。
杖を眺めながらアイドニは、もしアキタカに魔力があったのなら間違いなく優秀な魔法使いに成ったであろうと考えてしまう。
そう、何故かアキタカには魔法に使える魔力が存在しないのだ。
正確に言うと、この世界の住人であり魔力の倉庫でもある大脳を持つ人間ならば、必ずしも大脳に蓄積されるべき魔力が小動物よりも…恐らく其処らの虫けらよりも少ないのだ。
魔法の才覚に長けたアイドニからすれば、アキタカの身体を魔力が蓄積されずに通りすぎていく様はまるで呪いのようであった。
無いものを求めてもしょうがないが、人よりもうんと器用なアキタカを見るとどうしても勿体ない…もどかしい変な気持ちになっていた。
「どうしたの?アイドニすごく変な顔してるよ?」
「…お前という奴は人の気もしらないで…こうしてやる!うらっ!うらうらうら!」
「ちょっ!ちょっと!今くすぐられたら!あはははは!手元が狂うから!やめ!ひぃぃい!」
そうじゃれあっていると何かが近付いてくる気配をアイドニが察知した。
「おい、誰か近づいてくる」
「?村の人達かな、ちょっと見てくる!」
「ダメだ!」
アキタカが様子を見に行こうとするとアイドニが首根っこを掴み止めた。
「もし村の人間なら…気配を殺す理由がない…」
「あっ…」
アイドニがレプリカを腰のベルトに引っ掻けるように仕舞うと本来のアイドニの杖を取り出し身構える。
「みんな、俺から離れるな」
相手によっては庇いきれないかもしれない…と小声で付け加える、それが聞こえたアイドニとアキタカ以外の2人が身を寄せて辺りをキョロキョロし始める。
「ねぇ、アイドニ実は…」
「ほう、俺達に気付くとは中々出来るガキみてぇだな」
アキタカが何か言おうとしていたが同じタイミングで木の裏から武装した大柄の男達が子供達を囲うように5人出てくる。
風呂に入っていないのか独特の臭いが風上に居る奴から漂ってきた。
どうみても堅気ではない。
「動くな、何者だ」
「いやなに、俺達は冒険者でなぁこの森で魔獣が出たらしいからお前らの親から村に連れて帰ってくるように頼まれたんだ」
「なら冒険者タグを見せろ、冒険者なら持ち歩いてるはずだ」
アイドニは構えを解かずに男達に聞く、冒険者を名乗っているが男達は誰一人として冒険者タグを身に付けていなかったのだ。
「…賢いガキは高く売れるが…めんどくせぇな…おい、お前らやるぞ」
「『木々の悪戯!』『風の息吹!』」
「ぐわっ!?」「なんだぁ!?」
人拐いの男の合図とほぼ同時にアイドニが魔法を発動する。予め魔力を張り巡らせていた為直ぐに相手の身動きを取れなくする事が出来た。
木に生えていた蔓を操り男達を縛り上げるついでに剣が抜けない様に絡ませているが、男達も伊達に鍛えていないようで力業で引きちぎられつつあった。
「長くは持たないな…ハザール!脚の速いお前がブルブルを引っ張って走れ!アキタカも逃げろ!大人達に知らせるぞ!」
ハザールとブルブルと呼ばれた2人は頷くと全力で走り出して行った。
しかしアイドニが走り出さないのを見たアキタカは立ち止まる。
「アイドニは!?一緒に逃げよう!」
「ここでもう少し足止めする!『小さき雷よ!彼の者を拘束せよ!』」
アイドニがそう唱えながら円を描くように杖を振るうと男達の手足に雷が走った。
「イデデデッ!?だぁぁっクソッ!鬱陶しいわ!!」
しかし男達のリーダーらしき者には通用せずアイドニの方へ近づきながら威嚇するかのように剣を大きく振るわれ、アイドニには当たらなかったが剣先が杖に当たってしまう。
木製の杖は意図も簡単に斬られてしまった。
「杖が…っ!」
「アイドニ!レプリカを…ウッ!?」
「アキタカ!この野郎!離せ!」
アキタカが6人目の男に後ろから殴られ捕まる。それに気を取られたアイドニも捕まってしまい、二人仲良く馬車に積み込まれた。
無情にも二人を乗せた馬車は村とは反対方向に走り出した。