#003
城下に連なる市を抜けると、湖に浮かぶ古城がみえる。ファトゥーセ城の"飼育係"として雇われた僕は、入場許可証を片手に橋を渡り始めた。今回は通行税を払わなくても(まあ、僕は払ってないんだけどね..........)、この許可証をみせるだけで入城できる。
本来なら王都でさえ入ることは難しく、ましてや王城なんかは上流階級の人間しか入れないような場所、そこにただのスラムの孤児が宿付きで雇われたのだ。臓器売買か人体実験か、はたまた強制労働か............とはいえ、一人の人間として最期に訪れた場所がファトゥーセ城っていうのは、身に余る幸せだ。
「おい坊主、小汚いなりでどーこに入ろうってんだ、あぁん?」
「こんにちは、門番さん。はい、許可証です。」
「門番じゃあねぇ、"門番兵"だ!...............これ、ほんとに本物か?」
「本物ですよ?」
「ほーんとに本物かぁ?」
「本物です!!!」
「そう怒んなよ、悪かったって..............ほいよ。」
とサインはしつつも、じっとりとした疑いの目が僕をじろじろと見ている。
「ありがとう、門番兵さん。」
「.................おーう。」
みんなは酷い対応だと思うかもしれないけど、こんなのいい方だ。無視なんかはざらにあるし、酷いと暴力行為や恐喝される時もあるくらいだ。当たり前のことが出来なかった人間に、当たり前の態度がとられないのは当たり前のことなのだから。
庭園の中を歩いていくスラムのガキから目が離せなかった。
「………………なんでだろうなぁ。」
「せんぱ~い?門、閉めちゃいますよぉ~?」
「ん?あ、ああ。」
スラムのガキはもう、見えなくなっていた。
「だいたいよぉ、若けぇやつぁ語尾をいちいち伸ばしてんじゃねぇよ。」
「いやぁ~、これは~………ほら!先輩の真似っすよ!先輩は俺の憧れっすから☆」
「そっかそっか、それじゃあしょうがねえなぁ……………ってなると思ったか、あぁん?」
俺はすぐさま後輩を羽交い締めにした。
「いだだだだ、ぐびばだべっず!!!(いたたたた、首はダメっす!!!)」
「まあ、そんな細けぇこったぁどーでもいいんだけどな!」
「けほっ……なら絞めなくてもよかったじゃないすか。」
「何か言ったかぁー?」
「……なんもないっす~。」
こいつはほんと生意気だし、先輩の俺に対しての言葉遣いも態度もまるでなってないクソ野郎だが、それでも可愛い俺の後輩だ。特に酔った時はな。
「てか、今回はどうします?」
「おいおい、またやんのかぁ?」
後輩はギャンブル好きで、なぜか頻繁に雇われてはすぐに辞めていく"飼育係"とやらが、何日もつかを賭けるのが最近の俺らの流行りだ。
「今回は一週間で!」
「短けぇなぁ。」
「むしろ長いくらいっす!そういう先輩はどうするんすか~?」
俺はニヤリと笑った。
「一ヶ月。」
「はい?」
「一ヶ月に月末の飲み代をレイズだ。」
「本気でいってんすか!?」
「おう!」
「だってあんな……………」
「おい後輩、よーく聞け?ギャンブルってのは儲けるためにやるんじゃねぇ、金でスリルを買うもんだ。」
「……………そうっすね、先輩の言う通りっす。月末の『ちゃんねー』代をレイズで!」
「いいねぇ、久々の高額ベットは!」
「あ、前みたいにしらばっくれないでくださいよ?
「おいおい、あんときゃ後でちゃんと払ったじゃねぇか!!」
「それは会計のちゃんねーに#漢__おとこ__#みせたかったからっすよね!!!」
たしかに、あんときの会計の姉ちゃんは可愛かった。
「さあ、仕事に戻るぞー。」
「…………うぃ~す。」
今思えば、俺らの#人生選択__ギャンブル__#はもう始まっていたのかもしれない。