#002
僕は考えていた、どうやって王都に入ろうか、と。もちろん関所から入ればいい話なのだが、そんなに簡単なことではなかったりする。
まず、通行税の話からしよう。
この大陸にはいくつもの街や町があって、出入りするのに税率がかかってくる。通行税はどこも高めに設定されていて、その街や町のランクによって変わってくる。王都のような街には格式高い人間が、反対に下町には庶民が集まる。頻繁に出入りできないため過疎化や過密化も防ぎ、人の質や量を管理・選別する合理的な政策かもしれないが、僕らにとってはたまったもんじゃない。
そうそう、スラムについても話さなきゃいけないね。
大陸の南端、通行税もかからない未開の土地をスラムといい、何もかもを失った人間の最期の砦であり、僕の故郷だ。スラムには住所というものがない。そのため定職につけない住人たちは、なんとかまともな仕事をみつけて食いつないでいるのが現状だ。
ん?説明ばかりで結局何が言いたいのかわかんないって?
................つまり、僕には通行税は払えないってことだ。
もちろん、ノープランできたわけではない。
夜中にこっそり通ればいいと思っていた。でも、王都は貧民のチンケな想像なんかとは比べものにならないくらい華やかで、関所はそれに相応しいといえる警備だった。
「それでも僕は、#王都__ここ__#を通る。」
熱気と難題に困憊した虚ろな瞳に再び気力を灯した時、少し離れた草陰から雌トラが顔を出した。鋭い顔立ちが美しいトラだった。湿った長いまつ毛が覆うガラス玉は、ゆらりとこちらに向けられる。
トラは白かった。
「グルル.................」
と、目を細めて優しく唸ると、トラは関所の前へ躍り出た。
「と、虎!?!?」
「白虎が出たぞ!」
「討伐隊をよこせ!!」
混沌とした関所をさっと駆け抜ける。大きな咆哮で後ろを振り返ると、赤く染まった彼女の身体が目に入った。それでも歩みは止めなかった、僕を見つめ返した彼女の淡い瞳のせいにして。
こうして念願の王都へ足を踏み入れたわけだったが、リアルな命の踏み心地がどうしても感動の足を引っ張る。でもきっと、こう思うべきじゃないはずだと顔を上げ、湖上の古城へと歩き始めた。
後日、白虎を捕らえたとの一報に僕は一人、黙祷した。