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95話 ただ今準備中!

 静海にお茶とお茶菓子の追加を頼みつつ、話を続ける。


「そんな感じで、学園祭の話し合いをして打ち上げが終わった感じだね。ちなみに次の日のアキは予想通り別人レベルでテンション低かったよ。ふふふっ」

「……なんか優輝さん、武闘祭の話をしてる時よりイキイキしてない?」

「優輝の趣味を存分に活かせた行事の話だからな、日記を見ずとも記憶に強く残っているのだろう」

「まあね」

「私も、寧花祭準備期間中、とても楽しかったと記憶してますわ」

「蒼月さんも、趣味を全開で活かせただろうしね」


 ということで。


「次は、寧花祭の準備期間と当日の話で良いよね」

「うむ」「オッケ!」「是非お願い致します」





       ―――――





 武闘祭から数日後。武闘祭打ち上げの時の話をさらに煮詰め、計画書にして部長さんに提出した。


「……なんというか……気合の入りようが凄いね」


 部長さんの第一声がそれだった。


「大好きな料理に関することですから」


 武闘祭ではあまり全力を出す機会がなかったからか、発散し切らなかった僕のやる気・意気込みは、すべて寧花祭へとまわっていた。


「それで……どうでしょうか」

「うーん、予算的にギリギリだね……というか、よくもまぁここまでギリギリ限界まで攻められたものだと感心する」


 ネイ先生に聞いた話では、生徒のストレスフリーのために、部費は一般の学校よりも潤沢に与えられているらしく、さらに寧花祭費用も別途給付されるらしい。


 そんな部費の、上限ギリギリ……となると、許可は厳しいかな。


「ここまでギリギリだと、本来なら不許可なのだけど……実は、近年は部員不足もあって、部活動は不活発気味でね」

「つまり?」

「不活発だったから、少しばかりヘソクリ的なものがある。それを解放するから、思い切りやると良い」

「ありがとうございます!」


 どうやら、希望通りに出来そうだった。


「後決まっていないのは、名前くらいかな。なんにしても、全力で楽しもう」

「はい!」





「というわけで、通ったよー」

「「イェイ!」」


 放課後、夕食前の寮の自室にて。集まった部友メンバーに報告すると、アキとヒロが両手を打ち合わせて喜ぶ。可愛い。


「いったぁい!? んぎゅ……ヒロさらに腕力上がってない?」

「あっアキちゃんごめーん☆」

「ワザとだなコイツゥ☆」


 そのままノリでキャッキャとイチャつくアキとヒロ。可愛い。


「……名前」

「うん、部長さんにも言われたけど。どうしよっか」


 月影ちゃんの呟きにそう返す。


 何の名前かと言われれば、寧花祭での出店名だ。流石に、「料理部のお店」とだけ書いて提出したのでは味気ないし、何か小洒落た店名が欲しい。


「だから、ミューで良いじゃないか」


 一応、姉さんからこんな案が出ていたのだけれど。僕と姉さんのイニシャルから取ったらしい。アルファベットでMyuとのこと。


「僕ら二人で回す訳じゃないから却下だってば」

「んじゃ全員の頭文字使って…………ダメだ良いの思いつかないわ」

「もうちょっとわかりやすく、美味しそうな名前が良いです!」

「あま〜い予感がする名前が良んじゃな〜い?」

「うーん」


 どの案もピンと来ない。というか具合的な名前としての案が姉さんの以外上がっていない。


「やっぱり、店名にも「華」は欲しいよね」

「…………」


 しばしの沈黙……と思ったら、月影ちゃんが静かに小さく手を挙げていた。


「月影ちゃん、何か良い案が?」

「……優輝さんの……守護者を目指す、理由、と……学園祭に力を入れる、理由……教えていただければ、と……」

「え? 唐突だね」


 僕の問いかけに、予想外の返答をされた。


(守護者を目指す理由、寧花祭へのリキの入れよう……一見、関係性がなさそうな二つの質問だけど)


 ぼーっとしているように見えて、月影ちゃんはかなり頭の回転が早いと思う。つまりはこの質問も意味のある、出店名に関することなのだろう。


「うーんと……まず、守護者を目指す理由だけど。やっぱり、咲さんに憧れたからかなあ」


 今現在活動する事が出来ている、唯一の守護者の咲さん。幼い頃から間近で目の当たりにしてきた、彼女の圧倒的強さ。それに憧れた。


 けれど、それだけじゃない。


「後は……咲さんはとても強いけど、魔神が復活した時、1人で全部は守れないんじゃないかなって」

「ふみゅ……」

「確かに、魔神は2人いますしね」

「魔獣もめっちゃ出るだろしね〜」

「それに咲さんは、魔神への対抗手段構築のために、世界中を飛び回って色々準備してる。だから運が悪いと、最悪魔神復活の瞬間に近場にいない、て事もありえるんじゃないかなって。封印が解けるのも、約10年後っていう少し曖昧なものだしね。だから僕は、そういう状況になったとしても、魔神のどちらか1人を足止め出来るくらいの実力は、付けておきたいと思ったんだ」

「…………」


 魔神と十全に渡り合える超越者、出来れば守護者を生み出したい、というのは精霊国の、世界各国の方針であり、そのための栄陽学園なのだけど。今までに精霊神剣と契約出来た人はまだ1人も確認されておらず、復活予定の10年後までに現れるかもわからない……けれど。守護者にまで至れなくとも、鍛え抜けば戦力にはなれるはず。

 ……今質問してきた月影ちゃんが、守護者最有力候補なのだけれど。月影ちゃんの性質的にあの精霊神剣との親和性が高そうだし、契約出来ると思う。


 まあそれはそれとして。僕ももちろん守護者になりたいし、アテもなくはないけれど……確実性のある話ではないから。


「もし、今言った最悪の事態になった時に……後悔だけは、したくないから」

「ふぇー……優輝色んな事考えて鍛えてたのねぇ」

「優輝は誰より優しいからな」

「ほとんどの人は、「安定した収入を手に入れるため」くらいな理由ですよねー。私はそこに「食いはぐれないように」、が付きますけど」

「それな〜」

「ふふっ。まあ細かい言い方したけれど、本音を要約すれば「今の平穏な日常をずっと維持したい」ってとこだし。僕のもみんなと似たようなものだよ」

「……ん」


 僕の答えに、考え込むように目を伏せる月影ちゃん。


「……」


 数秒して顔を上げ、再びこちらに視線を送る月影ちゃん。もう1つの方の回答待ちかな。


「寧花祭にリキを入れる理由は単純。僕は、誰かに料理を振る舞って、それを食べて喜んでくれるのを見るのが大好きだから。要するに趣味だね」


 守護者を目指すのが第一だけど、それだけじゃモチベーションの維持はなかなか出来ない。趣味の時間は精神衛生上重要なのだ。


「その趣味を活かせる機会が来るんだし、それはもう全力出さなきゃ損でしょ」

「うむ、趣味なくして人生は華やがないからな」

「まあ、そんな感じ」

「……ん。………………」


 もう1つを聞き、再び考え込むように目を伏せる……さっきより長い。


 さて。月影ちゃんの質問の意図は果たして。


「……アルストロメリア……花言葉……持続・未来への憧れ・幸い・気配り・友情……など……」


 約十秒後、月影ちゃんが口を開いて述べたのは、花の名前と花言葉だった。


「「「「……??」」」」


 ちょっと意味がわからない。いや……店名にも華を、で、花の名前から取ろうって考えなのはわかる。


「ふむ、花も花言葉も興味はなかったが……うむ、実に優輝に相応しい花だな」

「……うん?」


 姉さんだけ、なるほどそういう事ね完全に理解した、的な感じで頷く……先に姉さんが月影ちゃんの発言の意図に気付いたのが、なんとなく悔しい。


(姉さんが気付けたなら、僕も気付けるはず)


 えーと……んー……花、花言葉、僕に相応しい……


「……ああ、なるほど。今僕が言った理由と、アルストロメリアの花言葉が合致してるのか」


 一応、僕が主体となって動いているし、月影ちゃんの案は個人的には結構アリだ。少し気恥ずかしさはあるけど、そこに目をつむれば、みんなが賛同してくれれば即採用したいレベルだ。


「あーなるなるっ! その花いいね!」

「確かに、優輝さんを表しているかのような花言葉ですね」

「ん〜……まぁなんてゆ〜か、メリア? エモくていんじゃな〜い?」


 僕のセリフを聞いてからややあって、アキヒロが納得したようにそう言う。パフィンさんはまだよくわかってないようだけど、名前の響きは気に入ったようだ。


 ということで。


『出店名は、ライブキッチン・アルストロメリア!』

「……ん(こくり)」


 満場一致で決まった。





 さて、そんなこんなでやる事が全て決まり、寧花祭までの放課後は料理の練習期間。まあ主に、普段料理しないパフィンさんが担当する、クレープ焼きの特訓だ。


 ちなみに、クレープ焼きセットはアキの所持品だ。アキは基本手軽に手早く出来る料理しかしたがらないので、すぐに生地が焼き上がるクレープはアキが作る数少ないスイーツの一種だったりする。製菓作業手間かかるからね、仕方ないね。


「「あははははは! た〜のし〜!」」


 パフィンさんがクレープ用のホットプレートで生地を焼いて生クリームとジャムをのせて巻いて、パフィンさんとヒロが食べて――を延々と繰り返す。

 最初こそ厚過ぎちゃったり薄過ぎちゃったり焼き過ぎちゃったり破いちゃったりしたけど、半月もすれば安定して生地を焼けるようになった。継続は力なり……というかやっぱり、継続はモチベーションの維持にあり、かな。


 当初の予定では、練習で作ったヤツは全部パフィンさんが独り占めして良い事になっていたけど。彼女は別に大食いではないので、限界まで食べて気持ち悪くなり生地焼きの手が止まるというトラブル(知ってた)があったので、試作クレープは主にヒロパフィンが食べる事になった。


 2人がクレープざんまいしている中、メイン料理組の僕らも何度か試作している。アキの腕は心配してないけど、まあ念のためね。ぶっつけ本番ダメ、絶対。


「ほーい、ステーキ焼けたよーん! 味見おねがーい!」

「はーい……て何これ」


 アキが差し出したお皿には、クレープに包まれた何かが乗っていた。まあステーキを包んだのだろうけど。


「甘いクレープばっかじゃ流石のヒロもちょい飽きると思って。味変的な?」

「味変換ってレベルじゃないような……まあ良いか」

「ありゃ意外な反応、拒否られると思ったのん」

「ん……ステーキのクレープ包み、という料理……実在する、ので……」

「えっそなのん?」

「知らないで包んだんだ……」


 まあ、好奇心が新しい料理を生むこともあるし、良いけどね。アキならゲテモノは作らないって安心感もあるし。


「甘いとしょっぱいを交互に取る事で無限の食欲が発生しますモグモグ」

「うむ、悪くはない……が、野菜が欲しいな」


 ちなみに、ステーキクレープ包みはみんなに好評だった。手間かかるから本番ではやらないけど。



 さて後は、みんなのメイド……制服についてだけど。


「フフフ……捗リマス捗リマス捗リマス捗リマス捗リマス捗リマス、捗リマス捗リマス――」

「怖っ」


 ……月影ちゃん曰く、精神崩壊寸前(最高にハイ)で、進捗状況は順調らしい。楽しそうで何より……で良いのかなー?





 まあそんな感じで、準備は全て滞りなく進み。いよいよ栄陽学園の学園祭、寧花祭当日。


「みんな、やれることは全部やれたよね」

「モチ!」

「です!」

「オケマル〜」

「……んっ(こくり)」

「うむ」


 さて、みんなの意気込みを確認した事だし。


「というわけで」

「ということで?」

「桜部長、開始の掛け声お願いします」


 部長さんにそう頼む。


「え、僕がかい?」


 何故か不思議そうにそう言われた。というか、


『え?』


みんなにも不思議そうな反応をされた。あれ?


「いやいや、ここは優輝が音頭取るとこでしょ」

「優輝さんが主体でしたしね!」

「それな〜」

「まあ、そうだけども……」


 普通は部長さん、もしくは副部長さんがやるんじゃないかな。


「今回の出し物のきっかけもリーダーも、優輝だろう? なら優輝がやった方が、皆のモチベーションも上がるというものだ」

「えー」


 うーん、言いたい事はわかるけど……むう、結局僕がまたまとめ役かあ。


「頑張れ、次期部長」

「……ん、了解」


 姉さんに励まされ、頷く。さて、何を言おうか。


(んー……まあ、シンプルにいこう)


 数秒考えて決め、みんなに輪になって手を重ねてもらう。


「みんな、全力で楽しもう!」

『おーー!!』

「……お、おー……」


 掛け声が終わるとほぼ同時、校内放送が聞こえてきた。


『只今より、寧花祭を開催します!』


 ヨシ、本番開始! まずは……呼び込みからかな。

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