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85話 やる気スイッチの押し方

少々遅れました、申し訳ありません。

「ようするに、普通の学校で言うところの、運動会に文化祭だよね。ん〜青春って感じだねぇ」


 キリのいいとこまで話した所で、エリスが感想を述べる。


「エリスさんは学園行事は、何が思い入れありますか?」


 食事を終えた蒼月さんが、何気ない感じでそう尋ねた……けど、エリスにその質問はちょっとよろしくない。


「うーみゅ。あたしはその辺りの記憶曖昧だからさぁ。なんていうか、いいなー羨ましいなーって思うよ。あはは」

「……そっか。やっぱり曖昧なんだね」


 少し寂しそうな声でそう呟くエリス。


「あ……そう、でしたわね。エリスさんとのお付き合いも長いので、学園生の頃にはエリスさんもいらっしゃった気がしていました。その、申し訳ありません」

「あー、いいよいいよ気にしないでー。優輝さんも気にしないでよね? あたしは、あたしの取った選択を、全然後悔してないんだから!」


 ぷらぷらと手を振り、この話題はおしまい!と言いたげに明るく振る舞うエリス……けどやっぱり気まずさは抜けないのか、苦笑い気味だ。


 まあ、エリスがそう言うのだから、この話題はここまでにするけど……うーん、曖昧、か。


「……やっぱり、日記みたいに、文書として残すのは必要かな……」

「うにゅ? どゆ意味?」

「え? あー、気にしないで、独り言みたいなものだから」

「そうなんですか?」

「それより話の続きしよ? えっと次は……」


 独り言を聞かれてなんとなく気恥ずかしくなり、日記をペラペラめくり話題を探す……んー。


「……始業式の後は、武闘祭まで特に盛り上がりそうな話題はない、かな。うーん……武闘祭までどう過ごしてたかとか聞いても、面白くはないよね」

「あたしは聞きたいなー」

「私はどちらでも」

「んー……まあ、もう夜の10時近いし。武闘祭とかの盛り上がる話は明日に回して、今日はその手前辺りまで話そうか」

「異議なし!」

「はい、私も構いません」


 ということになった。


 さて……僕も日記を眺めながらでないとだいぶ記憶が曖昧な期間だけど……





       ――――――――――





 そんなこんなで、二学期が始まった。来月に武闘祭が控えているとはいえ、特に一学期と授業内容が大きく変わったりはしていない。

 いや、正確に言えば。訓練の授業内容は少しだけ変わった部分がある。ほぼ全員が精霊剣と契約したので、いつもの+精霊剣から力を引き出す訓練が追加された。

 けどまあ、コツとしては精霊術の行使に似ているのでそれ程難しくはないし、何より、入学前にすでに精霊剣契約済みの僕としては、毎日やっている事を授業でもやり出した、くらいな感覚なので、自分としてはやっぱり大きくは変わっていない。


 武闘祭に向けて特別な特訓があったりとかしないのか、と思う人もいるかもだけど。そもそも武闘祭は、普段の積み重ねをより多くの人に見られるというだけだ。上位4名に勝ち残れれば、それは確かに栄誉な事だけど、映像記録が残されたり賞状やメダルが授与されるわけでもない。せいぜいが他の学年生や先生方に注目されるようになるくらいだし、二学期頭の今からそこまで張り切る理由はあんまりない。のだけど。


「この武闘祭で、学年一番にあたしはなるっ!」

「ん、頑張ってね。まあ、当たったとしても手は抜かないけど」

「うむ」

「上等!」


 お祭り騒ぎが大好きなアキは、すでに張り切りまくっていた。今からこのテンションで、武闘祭当日に燃え尽きてたりしないだろうか。


 ちなみに、アキに寧花祭の料理部の出し物や役割分担について話したところ、


「モチオッケーだよん!」


二つ返事で了承くれた。可愛い。





 さて。そんな訳で、訓練の授業をいつも通り頑張ったり朝鍛錬をいつも通り頑張ったり、僕個人の鍛錬に関しては、一学期と概ね変わらない日々を過ごしていた。


 ただ、環境は少しばかり変わった部分がある。


「うおおおおっマジ反復横跳びいいいいっ!!」

「せいっ! はっ!」


 朝鍛錬に、アキヒロが加わるようになった。


「もっと、もっとだ! もっと速く!! うおおおお風になれ光になれええええ!!」

「ははははっアキのテンション最高潮だな! 俺も負けてられないぜ!」


 そしてアキのテンションがとどまるところを知らず日々高まっていた。元気可愛い……若干ウザく感じたりもするけど。例えばこんな感じに。


「アキ、あまり砂埃を立てないでちょうだい」

「あんまり気にするなっ! 細かいこと気にしてたら強くなれんぞぉ!!」

「いやいや、気になるから。土の上じゃなくコンクリの上でやれば、そこまで埃たたないから。少し気を使ってくれると嬉しいな」

「気にするなぁっ!」


 イラッ☆


「アキちゃんっ優輝さんの笑顔が少し怖くなった! このプレッシャーは……アキちゃんだけお昼のオカズ一品減らすとか言われかねないよ!」

「わかった気にする!!」


 ヒロの警告の声にビタッと止まり、素直にコンクリの所で左右運動を再開するアキ。


 うーん。元気可愛いのは大いに結構だけど。若干イラっとさせられたりするのは困りものだ。それに……このテンションの維持、当日まで続かない気しかしない。


 まあ、鍛錬に関してはこんな感じ。それと並行して部活では、軽食を作ってつまみながら、寧花祭の内容を少しずつ煮詰めていっていた。





 そうして、大きく変わりはないけどそれなりに充実した日々を過ごし、武闘祭3日前の朝。

 今朝の朝鍛錬に、アキと雅は来なかった。ヒロに聞いても、


「あー、うん。なんていうか……え、えへへ」


何故か照れ臭そうに笑うだけで、教えてはくれなかった。


 でまあ。2人とは、朝食時に食堂で会えたのだけど。


「おはよー……ござーまーすー……」

「うわあ」


 予想通り、アキは燃え尽きていた。いや、予想より数日早かったけれど。


「ちょっと雅、アキ大丈夫? 変な物でも食べた?」


 多分お腹がどうとかじゃないだろうけど、一応聞いてみる。ていうか、なんで雅も元気無いんだろ、目の下にちょっと隈出来てるし。


「いやぁ……むしろ昨夜は元気過ぎるくらいだったぜ……」

「え? ……あっ」


 一瞬意味がわからなかったけど、アキとは違う感じにやつれてる雅を見て、察する。

 ようするに、ゆうべはおたのしみだったようだ。ヒロが照れる訳だ。


 まあなんにしても。昨晩お盛んだったのに今元気がないのは、積もり積もった精神疲労的なものだろう。


「色々とはしゃぎ過ぎて、いわゆる燃え尽き症候群の一種になっちゃった感じかな」

「だろうな。まあアキの事だ、放って置いても一週間もすれば普段通りにはなるだろう」


 まあそうだろうけど。でもそれじゃあ武闘祭期間、アキは腑抜けた状態ということになる。


「んー……食欲は、あるよーん……もくもく」

「体は元気だけど、心が追いついてない感じかしら……難儀な性格ね」

「アキちゃん昔から、たまにこんな感じになることがあるんですよ。大きなイベント前の半月前くらいからいつも以上に元気になって、数日前に火が消えたみたいにいきなり元気がなくなるんです。まぁ瑞希さんの予想通り、長くても一週間で元通りになりますけど」

「武闘祭初日には間に合うかな」

「うーん、どうでしょう」


 んー。ヒロの反応からして、五分五分かな……


「ここかな〜。つんつ〜ん」

「んー。もくもく」


 パフィンさんが、黙々と食事を続けるアキのつむじをツンツンし出した。


「……パフィは何してるのよ」

「ん〜。アッキーのぉ、やる気スイッチ探し〜」

「そこじゃあないかなー……もくもく」


 体の色々な場所をツンツンされても、変わらずアキの反応は薄い。うーん……なんとなく、重症な気がしてきた。どうしたものかな。


 ちなみに、9月にも遠足はあったのだけど。今回は運が良いのか悪いのか、僕らが言った日には魔獣は発生しなかった。ここで魔獣が大量発生していたら、アキのやる気はもっと早く尽きていただろう。


「……やる気、スイッチ……」


 パフィンさんの行動を見て、月影ちゃんが自分の額や頬を指でぷにぷにしだした。自分のを探しているのだろうか。可愛い。


「私のやる気スイッチは、月影が可愛い衣装を着ている姿を観察する事ですわ!」

「お前のスイッチは聞いていない。だがまあ、言いたいことは大いに理解できる」

「さすが瑞希さん!」


 この2人のやり取りはスルーする……いや。


「アキのやる気スイッチ、か」


 そう呟き、ニヤリとする。いい事思いついた。


「……優輝さん?」

「ちょっと、今晩アキヒロの部屋にお邪魔したいんだけど。いいかな?」

「へ?」


 せっかくの武闘祭なのにアキが腑抜けていたら、それはとてもとてもつまらない。


「何がなんでもアキのやる気スイッチを押さないと、だからね」

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