83話 美味しいは幸せ
お待たせしました。今回はお食事回です。
その日の学食のランチは、精霊剣との契約という記念すべき日だったということで、一年生のみ限定でちょっと豪華な内容らしい。ので、今日は友達みんなで学食でいただくことになった。まあ、元々今日は学食日だったのだけど。
そんな本日のメニューは、夏野菜盛りだくさんのサラダ、そら豆の冷製スープ。メインは魚か肉料理から選ぶことができ、魚はスズキかマゴチのアクアパッツァ、肉は牛かラムのステーキ。ドリンクは自由。デザートは、ストロベリー、ブルーベリー、ゴールデンベリーを使用したミックスベリームースケーキ……ゴールデンベリーってなんだっけ?
それら全てセットで、なんと1000円。記念日特別価格とはいえ、安すぎる。頂かない手はない。どの料理にもトマトが使われてるしね、ふふふ。
美味しい料理と気の置けない仲間が揃えば、会話も弾む。今日のホットな話題は当然、みんなが契約した精霊剣についてだ。
「名は体を表すって言うわよね。みんなの精霊剣の名前となんとなく感じる性格は、一致しているのかしら?」
「んみゅ、そだねぇ。『熱烈』って名前の通り、触れてるとなんてゆーか、かーって熱くなる感じするよん!」
「私の『羨望』さんは、うーん。なんていうか、甘えんぼな感じがしますねーもぐもぐもぐもぐ」
「『努努』って名前の意味はよく分からないんだけどよ。なんか、堅苦しい先生を前にしてる気分になるんだよな。でも、不思議と嫌な感じはしないんだよなー」
「あ、『明敏』も似た感じね。ただあの子は、規則に厳しい風紀委員って印象だけどね。契約済み組は?」
「『緩怠』は〜、名前のまんま、ユル〜い感じ〜」
「僕の『遠雷』は、そうだね……血の気が多いというか、戦闘狂というか。早く相手を斬らせろーって感じがするね」
「……なんか、優輝さんとは相性悪そうな気がしますわね」
「まあ、最初は僕もそう感じたけど、今ではもう慣れたよ。戦闘以外の時は静かなものだしね」
「ふむ。『浅海』は、事務的と言えば良いか。とにかくいつも淡々とした気配だ」
「……私の、『堅固』は…………好々爺、と言った雰囲気、です……」
「そういえば、低級剣の精神は、あくまで気配程度ですよね。もし上級になるまで育ったら、もしかしたら感じていた性格とは違う言動をしたりするかもしれませんわね」
「まあ、低級を上級に育てるなんて現実的じゃないけどね」
「なんにしても、私だけまだ未契約なので。みなさんとても嬉しそうで、少し羨ましいですわ」
「そういえば、蒼月のはいつ頃届くのん? てゆーか、オーダーメイドって事は、名前とか属性とか自由に決められるんだっけ?」
「属性は決められますが、名前は少し難しいそうです。なんでも、使う神霊石や鍛治士の腕だけでなく、鍛治士の性格やその日の気候変動でも変わってしまう場合があるとか。逆に上級の剣なら、人に近い精神持ちでこちらの言葉を正確に理解して下さるらしいので、話し合いで決められる可能性があるらしいです」
「ふーむゅ。ペットみたいにはいかないのねぇ」
「あれ、でも確か、名前は決定したみたいなこと、言ってなかったっけ?」
「はい、『存在』に決まったようです。第6級の長弓型水属性で、今月末に来る予定ですわ」
「わぁ、第6級ですか! 凄いです!」
「第5級を目指していただいたのですが、お頼みした鍛治士様ではそこが限界だったようです」
「まあ、中級以上は難しいらしいね。それこそ、一流の素材と人、それに運も絡むらしいから」
かく言う僕の『遠雷』も、実は中級剣を目指したオーダーメイドだったりするのだけど。希望通りになったのは武器の形状と属性だけで、等級も名前も性格も、希望したものとかなり違っちゃったし。まあ、精霊剣も精霊石も、まだ未知の部分があるし。上手くいかなくても仕方がない。
「もぐもぐごくんっ。んでさぁ、契約済み組に聞きたいんだけど。なんかコツってあるのん?」
「んー……具体的に言って?」
「えっとえっと。精霊剣との上手い付き合い方、とか?」
「そうだね……」
どう答えるか考えながら、契約済み組に視線を向ける。
「んふ〜、ラム肉初めてだけどぉ、マジウマ〜」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
「……ふ(ドヤ)」
「…………」
パフィンさんは、初めてのラム肉を味わうのに集中していて聞いていなかったらしい。
ヒロも同じく。まあヒロは、契約してひと月も経っていないから、聞きたい方かな。
姉さんは、何故かドヤ顔で質問したアキを見ている。
月影ちゃんは……どう答えるか悩んでいるって感じなので、すぐには答えられいかな?
ということで。
「あくまで僕の経験からの感想だけど、いいかな?」
「んみゅ、オッケー!」
「私も同意するわ。一番上手く説明してくれそうだし」
「だな!」
「ですわね」
「……(こくり)」
「むう、あんまりハードル上げないでよ、もう」
苦笑いしつつ、アキの質問に答える。
「精霊剣は精神を、心を持っているから、当然ただの武器とは違う使い方をしないといけない……と思われがちだけど。彼らは、自分が人間に使われる武器であると認識している節があるんだよ。だから戦闘中は、自分の扱い安いように好き勝手扱って構わないよ」
「ふみゅ、なるなる」
「戦闘中は、ね」
さすがサチさん、鋭い。
「そう、それは戦闘中のこと。精神を持っているってことは、人間と同じく趣味嗜好を持っているし、大切に扱われる事を望んでいる。だから普段のお手入れは、普通の武器以上に念入りに、丁寧に、優しくしないと、だよ。そうして精霊剣との絆を深めれば、より剣から力を引き出し易くなるから。放置・放任は、絶対ダメだからね?」
『はーい』
みんな揃って、良い返事をしてくれる。
さて。後は、何を伝えるべきかな……
そうしてしばらく精霊剣談義をしていたけど。メインディッシュを食べ終えてデザートをいただく頃には、別の話題に移っていた。
「そういやさ。この学園にも一応生徒会あるし、生徒会選挙という名の学園アイドル総選挙があるらしいけど……結局生徒会ってなんなんだろ?」
「んー、どういうこと?」
「学園が頑張って運営してくれてるから、あたし達かなり良い環境で学園生活送れてるじゃん? 他の学校はどうか知らないけど、うちの学園のみたいに色々整ってたら、生徒会いらなくない?」
「えっと……ネイ先生に聞いた話だけど。学園や先生がどれだけ環境を良くしようと頑張っても、生徒にしか分からない不満とかはあるものだから、生徒の意見を代表して伝えるグループとしての生徒会は必要不可欠なんだって」
「ふみゅ、そんなもんなのねぇ」
「でもまあ、あくまで学園の方針としては、生徒には鍛錬に集中して欲しいから、他の学校に比べれば、仕事量はかなり少ないらしいよ。正直、半分くらいお飾りだってネイ先生が言ってた」
「それでも、生徒人気がある人がただ単に選ばれるんじゃなくて、品行方正な人が選ばれるのよね。なら、ただのお飾りではないんじゃないかしら」
「それこそ、学園の華として、アイドル活動のような事をさせられるのかもしれませんわね」
「まあなんにしても……ネイ先生も言ってたけど、僕らにはあまり関係のないことだよね。人気がある訳でも、目立った活躍した訳でもないし」
『………………』
「ムースケーキんま〜はむはむ」
「美味しいですよね〜はぐはぐ」
「……あれ? どうしたのみんな」
……何故か、スイーツに夢中なヒロとパフィンさん以外のみんなから、生暖かな目で見られた。妙な視線を送ってくるだけで、特に何か言っては来ないけど……なんだろ?
昼食後。しばらく他のイベントとかの雑談をしてから解散となった。
アキと雅はそのまま、連れ立って街に遊びに出かけて行った。まあ、デートだね。
2人以外のみんなは、それぞれの部活に行った。アキ以外の僕ら料理部は、月影ちゃんと一緒に図書室でまったり読書をして時間を潰し、おやつ時に部室へと向かった。
ちなみに月影ちゃんも一緒に来た。というか、
「ん……少し、緊張します……」
「いつも通りやれば、月影ちゃんなら大丈夫だよ」
「うむ、普通に作れば良い」
「大丈夫です! 失敗したとしても、私が残さず食べちゃいますから!」
「あんま〜、気張んないほが良いよ〜。ユルくいこ〜」
試験に挑む月影ちゃんに、それぞれが励ましの言葉をかける。まあ要するに。
「普通に食べられる物を作れるかどうかの確認だからね。すでに料理を振る舞ったことがあるようだし、みんなの言う通りにやれば問題ないさ」
「……(こくり)」
料理部の、入部試験だ。お昼は食堂でいただいたので、小腹が空き始める時間におやつがわりの軽食を作ろう、と言うことになっていたので、この時間に部室に来たのだ。
「さて、早速作ってもらう訳だけど。見られながらでは作れないようなら、一時退席するけれど」
「……(ふるふる)」
部長さんの問いかけに、問題ないと言うように小さく首を振り、そのまま調理開始する。
まず、鶏肉をフライパンで焼き、しっかり焼き目が付いたら酒、みりん、醤油で作った調味液をかけ、焦がさないようにじっくり照り焼きにする。
焼き上がったら皿に移し、トマトをスライス、レタスは手で食べやすいサイズにちぎる。
食パンに、七味唐辛子を少し混ぜたマヨネーズを塗り、鶏照りを乗せ、七味マヨを塗り、トマトを乗せ、レタスを乗せ、パンではさみ、上から押して具材を馴染ませ、半分に切って皿に盛り付け完成。
というわけで。月影ちゃんが作ったのは、レタスとトマトの照り焼きチキンサンドでした。
「うん、実に手際が良いね。おかしな調理もしていないし、食べるまでもなく合格で良いだろう」
「まぁ、問題ないでありますな。漬物に合いそうなのも実に良いであります」
「ん……お粗末様、です……」
「とはいえ、料理の感想は食べてこそです」
「まぁそうだね。では早速」
僕のセリフに同意し、部長さんが照り焼きチキンサンドを手に取り、頬張る。
「……うん、これは美味い。七味が良いアクセントになっているね。さっきも言ったけれど、文句無しに合格だ」
そう判定を告げて、残りを笑顔で実に美味しそうに頬張る。美味しそう……
「ジュルリ」
ヒロの唾を飲み込む音で我に帰る。美味しそう食べたい云々よりまず。
「おめでとう、月影ちゃん。ようこそ料理部へ!」
「ん……(ぺこり)」
頬を赤らめて、小さく頷く月影ちゃん。とても可愛い。
「せっかく、なので……みなさん、どうぞ……」
注目される気恥ずかしさを誤魔化すかのように、月影ちゃんが照りチキサンドの乗った皿を持ち、こちらに差し出してくれる。
「ふふ、じゃあ遠慮なく。ありがとね」
「……(こくり)」
小さく頷き、他のみんなにもサンドイッチを配りに行き……全員に行き渡ったところで、
「それじゃあ。いただきます」
『いただきまーす!』
僕の音頭を聞いてから、一斉にかぶり付く。
『美味しい〜!』