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79話 蒼月さん主催ファッショショー再び

 蒼月さんの暴走が無事?収まってからは、特に何事もなく採寸は終了した。


「お二人とも、本当にありがとうございました。これでさらに捗ります」

「まあ、役に立てたのなら何よりだよ」

「ふぅ……はい、何よりです」


 採寸を終えたヒロが一息吐いて、服の乱れを直す。


「さて、これで頼み事の1つは終わりだな」

「ええ、次こそがメインディッシュですわ」


 姉さんの台詞に、蒼月さんが相槌を打つ……うん、まあ、だよねえ。知ってた。


「ふぇ? 今度は何が始まるんです?」

「ファッションショーでしょ。僕らがモデルの」

「……ん(こくり)」


 ここまで本を読みつつ静観していた月影ちゃんが、パタリと本を閉じて頷き、立ち上がる。


「なんか月影さん、やる気満々?」

「んー……いや、あの顔は多分、諦めじゃないかなあ」


 率先して立ち上がったから、ヒロはそうとらえたのだろうけど……僕は月影ちゃんの顔から、蒼月さんに着せ替え人形扱いされている現状に、抵抗しても無駄だと悟って受け入れている感情を読み取った。僕もそうだから、なんとなくわかるのだ。


「そうなんですか?」

「…………」


 あえて何も言わない月影ちゃん。でも、いつも通りのクールな表情ながら、どこか煤けているように僕には見える。まあ、ハッキリ口に出しちゃったら、蒼月さん相当悲しむだろうしね、仕方ないね。


「やはり月影は黒白系が一番ですが、今回はあえて緑系にしてみましょうか」

「ふむ、そう来るか。緑系は優輝の一番似合う色だから、3人合わせるのもありではあるが……最初はこちらも趣向を変えて、ゆめかわ系とやらに挑戦させてみよう」

「いいですわね。ではヒロさんも……前回はヒロさんの性格に合わせて、大人しめなデザインのものを用意しましたが。今回は攻めに攻めて、大陸系はどうでしょうか」

「悪くはないな。カラーは……黒赤系で良いか。ついでにメイド風味も付けよう」

「わかりました。ヒロさんに似合いそうなサイズの黒赤、大陸、メイド……前に試作したものが、確か……これにフリルを付けたら、良い感じではないでしょうか?」

「うむ、そうだな」

「手早く仕上げますわ!」


 気が付くと姉さんと蒼月さんはすでに、実際に着る側の僕らを置いて衣装選びに熱中していた。まあ、楽しそうで何よりだけど……あんまり変なの着させられませんように……





「はあ〜……今回もやっぱり疲れたあ……」

「ん……(こくり)」

「ですねー。ちょっと楽しかったですけど」


 ようやく解放されて普段着になって、本日の着せ替え人形仲間の2人と雑談する。


 着せ替え人形と撮影会が終わって、夕方近く。途中お茶休憩をいれたけど、ほぼぶっ通しで着せ替え人形やってたし、心身共に疲れた。

 まあ、着替えて何度もポーズを取って何度も写真を撮られて、また着替えてポーズを取って写真を撮られて……を繰り返したのだ、誰だって疲れる。昔からだから、慣れたものだけど……なんというか、訓練とは違う疲れ方をするんだよね。


「うむ。やはり優輝には緑だな」

「あら、白も似合うと思いますわ。今日のでしたら……」


 そんな、僕らを着せ替えて楽しんでいた2人は今も、デジカメで撮った写真を確認しながら、楽しそうに語り合っている。今日2人は着る側には混ざらず、ディレクター兼カメラマンに徹していたので、精神的に疲れていない、というより充実しているのだろう。


「うん? この音は……」


 雑談しながら、月影ちゃんが淹れてくれた緑茶をいただいていると、遠くから何やら音楽が聞こえてきた。これは……


「優輝さん、どうかしました?」

「外、かな? どこからか、音楽が聞こえてきてね。これは……祭囃子かな?」

「うーん? ……うーん、言われてみれば、なにか聞こえるような?」

「ん……優輝さん、さすがの聴力……」


 ヒロは言われてから気付いたようだけど。月影ちゃんの方は、知っていた、かな?


「優輝さん、正解ですわ。今日の夕刻より、近所で夏祭りが開催される予定だったんです」


 やっぱり、祭囃子で合っていたようだ。


「ふむ。この時期なら、納涼祭か?」

「大和納涼祭……収穫祭と納涼祭が、混ざったようなもの……開催規模は、大きくもなく、小さくもなく……です……」

「ふむ。もとは2つやっていた祭が、歴史の流れで1つに合体した、といったところか」

「ん……(こくり)」

「雨天延期なのですが、予報では怪しかったんですよね。ふふ、晴れて本当に良かったですわ」


 ふむ。嬉しそうに言っているし、蒼月さんが天王寺家に招待した理由のひとつに、夏祭りも含まれてそうだ。


「せっかくですので、みなさんで一緒に行きませんか?」


 思っていた通り、早速誘われた。今思い付いた、という感じではなかったので、やはりあらかじめ誘うつもりだったのだろう。


「いいですねぇ! 当然屋台もたくさんあるんですよね?」

「それ程有名な訳でも、大規模な訳でもないので、ヒロさんのご期待に答えられるかはわかりませんが。それなりの数は出店しているはずですわ」

「少なくはないようでなによりです! ジュルリ」


 嬉しそうにそう言い溢れた涎を啜るヒロ。脳内では、すでに屋台の前のようだ。


「でも、遠くから聞こえるって事は、それなりに歩きますよね……その前に、ちょっと何かつまみたいなー、とか……(ちらっちらっ)」


 いかにも、私お腹すいて力が出ないのでオヤツくださいな、な視線を蒼月さんに送るヒロ。


「ふむ。私も少々疲れているから、外出するにしても休憩を挟んでからにしたいが」

「…………」

「……蒼月?」


 ヒロと姉さんの要望を聞いて、しばし何やら考え込む蒼月さん。


「優輝さんは、すぐに出られますよね?」


 ……何故か確定事項であるかのように僕にそう問う蒼月さん。


「まあ、ヒロよりは燃費は良いし、いつでも良いよ」

「でしたら、瑞希さんとヒロさんは一休みしていただいて、私と優輝さんは、先にお祭りに行かせていただきますね」

「はい、それで良いですよ……お腹すいたぁ」

「私も異論はない」

「決まりですわね!」


 蒼月さんの提案を了承する2人。僕はまだ返事してないんだけど……蒼月さん、何か企んでる?


「月影は、後からお2人と一緒に来て下さい。見知らぬ土地ですから、案内が必要でしょうから」

「…………ん(こくり)」


 僅かに間を置きながらも、月影ちゃんも了承する。まあ、地元の人の案内があれば確実にたどり着けるし、その判断は悪くない。けど……


(うーん……あからさまに僕と2人きりになろうとしてるよね、蒼月さん。ヒロだけ気付いてないみたいだけど)


 悪意とかは感じないけど……真意を読もうと、蒼月さんの表情を伺う。


「……ふふ、ご安心下さい。妙な事は企んでおりませんので」

「まあ、その辺は信頼してるけどね」


 それに気付いて、悪巧みなんてしてませんよと言いたげな柔らかな笑顔を向けて来る。確かに表情からは、変なことは企んでいるようには見えないけど……「妙な事」ではない何かは企んでいるようだ。


「それよりも」

「なによりも?」

「夏祭りといえば、浴衣ですわ!」

「そう来たかー」


 ……企みって、ただ単に早く僕に浴衣を着せたかっただけかもしれない。まあ、浴衣着るくらいなら別に良いけど。



「こちらの中から、ご自由にお選び下さい。サイズは問題ないはずですわ」

「ん、了解……まあ、これかな」


 別室に連れられ、10種ほど並べられた浴衣の中から、緑を基調としたチェック柄のシンプルな物を手に取る。


「浴衣の着付け方はご存知ですか? なんでしたら、私が手取り足取り!」

「咲さんに教わって知ってるから良いです」

「……ですか」


 残念そうに、伸ばした手を引っ込める蒼月さん。企みって、着付けを教えたかったのかな?


「とりあえず着るから、部屋から出てくれると嬉しいな」

「2人一緒に着替えた方が早いかと思いますが」

「着替え見られるの恥ずいからヤダ。まあ僕としては、別に普段着のままでも――」

「了解しました」


 どうしても僕の浴衣姿が見たかったのだろう、即部屋を出て行く蒼月さん……欲望に忠実なその行動に苦笑しつつ、手早く着替えを済ませる。


 ちなみに、浴衣の着付け方は、女性のものだ。まあ、当然だけど……



「あぁ、浴衣姿の優輝さん、とても可愛くてとてもとても素敵です! ポニーテールなのも新鮮で良いです!」


カシャッ


「ふふっありがと」


 部屋に入って来るなりそうまくし立て、いきなり写真を撮られた。まあ、もう慣れたものだ。


 ちなみに、蒼月さんはすでに浴衣に着替え終えていた。部屋の前で待っていたのではなく、別室に行って着替えてきたようだ。紺を基調とした落ち着いた色合いに撫子柄で、大和撫子な見た目の蒼月さんに良く似合っている。

 というか、この部屋にはない柄の浴衣なので、最初からこの部屋で着替える気はなかったようだ……ならなんでさっきは一緒に着替えようって提案したんだろ。そんなに僕と一緒が良かったのだろうか。


「蒼月さんの浴衣姿も、とっても素敵」

「ふふ、ありがとうございます」

「髪型がツインテールなのは、月影ちゃんに合わせたのかな?」

「そうですね、たまにお揃いにしたくなるのです。月影ほど似合わないので、本当にたまに、ですが」

「そんなことないよ。いつもはとっても綺麗って印象だけど、今日はとっても可愛いって印象かな。どっちも違う魅力があって、甲乙つけがたいね」

「そ、そうですか? も、もぅっ相変わらずお上手ですわね……そ、そんなことよりお祭り会場にいきましょう! 今ならそれほど人も多くないでしょうし好都合ですわ!」

「ん、了解」


 照れ笑いを誤魔化すようにそうまくし立て、部屋を出て行く。とても可愛い。


 さて、見失わない内に追いかけよう。


「……うん? 好都合って、何がだろ?」


 何気なく言われたその一言が、妙に気になった。

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