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75話 頑張れ頑張れ出来る出来る絶対出来る

 ……ヒロが、悩んでいる理由を大体話し終えて押し黙る。僕は、ヒロの頭をなでなでしながら、ヒロから聞いた話を頭で思い巡らして要約する。


 ヒロはどうやら、恐れと迷いを紛らわせるために、手足の延長代わりとして棍を選んだらしい。そしてそれが、ヒロの成長の妨げになってしまっていると咲さん寧さんは指摘し、棍を使うのをやめて、もっと至近での格闘に切り替えてみては、とアドバイスする。

 ヒロは、アドバイスは理解出来たし納得もしているけど、やっぱり直接蹴る殴るは怖いから、即答出来なかった……とまあ、だいたいそんな感じかな。


 二人のアドバイスは、ヒロが今まで築き上げて来た戦闘スタイルをガラリと変えさせる、というか、捨てさせるようなものだ。そんなの、誰だって即決出来ないと思う。これまで使って来て、愛着もあるだろうしね。

 けどヒロは、二人のアドバイスが自分にとって有用で、良い結果に繋がる可能性の高い選択肢だと、理解している。けれど、ヒロの内に様々な感情が渦巻いているせいで、前が見えなくなってしまっているようだ。


 なら、僕がするべき事は。


「ヒロは、今より強くなりたい?」

「……それは、勿論です」

「それならヒロは、ヒロが望む、一番強くなれると思う道を選べば良いよ」


 前が見えなくなっているのなら、視界をクリアにしてあげれば良い。ヒロの中で、答えはもう出ているのだろうし。


「それは、そうなんですけど……」

「やっぱり、怖い?」

「……はい」

「ヒロは素直で良い娘だね。よしよし」

「う、うぅ……」


 褒めてから、 再びなでなでぎゅーしてあげる。するとヒロは、顔を赤らめ困ったような嬉しそうな顔をして、小さく呻き声を上げる。可愛い。


「ヒロがしたい事を、僕は応援するよ。怖いなら、怖くなったなら、こうして抱きしめて、怖くなくなるまでよしよししてあげるよ。だから安心して。ね?」

「……はふ……は、はい……」


 僕の励ましの言葉を聞いて、ヒロは耳まで真っ赤にしてから小さく息を吐き出し、小さく頷く。


「……あの」

「うん?」


 しばらくなでなでしてあげていると、ヒロがおずおずとこちらに振り返り、


「優輝さん、もっと……もっと応援、して下さい。私に、勇気を下さい」


 潤んだ瞳でこちらを見つめながら、そう懇願して来た。その熱っぽい瞳にちょっとドキッとして、しばし無言で見つめ合う……


「ぁあっ!? 今のは別に呼び捨てにしたとか優輝さんが欲しいとか、そういうのじゃないですからねっ!」

「えっ? あっうん、わかってるよ。僕じゃなくて、勇敢って意味での勇気ね」


 唐突に我に返ったヒロが、おめめをぐるぐるさせて、慌てて言い訳をする。とても可愛い。


「そうっそれですそれです! ……まぁ優輝さんがっていうのもなきにしもあらずというかありありというかっていえいえにゃんでもにゃいでしゅっ! ……うぅ〜……」


 1人アタフタして噛んで落ち込むヒロ。可愛い。まあ、それはそれとして。


 一度ヒロから離れ、正面に向き直ってヒロの瞳を見つめながら、お望みの言葉を紡ぐ。


「ヒロになら何だって出来るよ。やる前から諦めないで。咲さんにも、才能あるって太鼓判押されていたじゃない。だから、絶対大丈夫。ね?」

「……」


 無言で聞き入るヒロ……嬉しそうにこちらを見ているけど、まだ物欲しそうな顔もしている。ので、もう少し続ける。


「声援だけじゃ足りないなら、美味しいご飯を作ってあげる。僕は、いつもいっぱい食べるヒロが、可愛くて大好きだよ。ヒロが大好きな豚の角煮も、何度でも作ってあげる。美味しいものを沢山食べて、強くなろ? ね?」


 台詞の最後に、頭を優しくなでなでする……これでいいかな。


「は、はふうぅ〜……ありがとう、ございますぅ〜……落ち着くのとドキドキなのとで、とってもフワフワな気分だよぉ〜……」


 どうやらご満悦のようである。安心しきって蕩けたような顔と声でそう返すヒロを見て、こちらも上手く応援出来て、かなり満足。


ぐうぅぅぅ〜〜……


 盛大に、お腹が鳴った。当然、ヒロからだ。ヒロ、今日はお夕飯おかわりしなかったからね。精神が安定したから、体が空腹を思い出したのだろう。


「うぅ〜……大きな音、恥ずかしい〜……」

「ヒロのおかわりの分、取っておいてあるから、食べに行こっか。それで足りないようなら、もう一品くらい作ってあげるよ。まあ、簡単なものになるけどね」

「はいっいただきます!」

「ふふっ、元気な返事だね」


 やっぱり、食べ物の事を考えているヒロは、とっても可愛い。


「そうだ、せっかくだからみんなも呼んで、一緒に夜食として食べようか。みんな、ヒロが元気ないって心配してたし。特に、アキと雅はね」

「あっ……そう、ですね……えっと、でも、その」

「うん?」


 みんなで和やかに食事出来れば、ヒロの食欲もさらに上がると思っての提案なのだけど。意外にもヒロは、即決しなかった。普段だったら、誰よりも真っ先に同意してると思うのだけど。


「で、出来れば今は、優輝さんと二人きりがいいなーなんて、思います。その……今だけでも、優輝さんをひとりじめ、したいんです。ダメ、ですか?」


 先程ドキリとさせられた、熱を感じる潤んだ瞳と声で、そう懇願された。


「う、うん、構わないよ。あ、けど……まずはお礼、言わないとね」

「お礼、ですか? 私は感謝の気持ちでいっぱいですけど、何故に優輝さんが?」


 んー……説明しなくても、お礼を述べるだけで理解してもらえるだろう。


 というわけで。


「……ここに連れて来てくれありがとね」

「ん……(こくり)」

「はきゃっ!?」


 にゅるりと、どこからともなく月影ちゃんが現れた。やっぱり気配を消して、隠れて側にいたか……何故か手には、今朝方見せてもらった、謎言語で記されている月影ちゃん日記を持っている。ヒロと話している間に日記を付けていたのだろうか。


「どどどっどこから!? ていうか、優輝さん月影さんが近くにいたの気付いていたんですか?」

「まあ、今言ったけど、ここに誘導してくれたのは、月影ちゃんだからね」


 まあ、手を伸ばせば届く範囲に出現するとは思っていなかったけど……内心ビクッとしたのは内緒だ。


「親友を心配するのは当たり前、だよね?」

「……(こくり)」


 月影ちゃんにウインクしながらそう言うと、少し頬を染めて視線を逸らしつつ小さく頷く。可愛い。


「あはは……本当に、みんなに心配させちゃてたんですね……えっと、ありがとう、月影さん」

「……ん……」

「えへへー」

「(ぷい)」


 嬉しそうにそう笑い、ヒロが月影ちゃんの両手を持って上下し、月影ちゃんが恥ずかしそうに少し逸らし俯く。2人とも可愛い、そして尊い。


「あ、そうだ月影ちゃん。1つ頼まれてくれないかな」

「……?」

「ヒロに合った格闘術の本を、いくつか見繕ってくれると嬉しいなって」

「ん……任され、ました……」


 僕の頼みを即決してくれる月影ちゃん。やっぱり、ヒロを心配していて全部聞いていたらしい。


 ……となると……改めて考えると。月影ちゃんが隠れて見ている目の前で、僕はヒロに抱きついた訳で…………ま、まあ月影ちゃんは事情を理解しているだろうし、言いふらしたりはまずしないから、問題ないか……今更恥ずかしくなってきたのはとりあえず無視する。


「……あっそうだ。昼間もありがとう、月影さん。励ましてくれてるってすぐに気付けなくて、ごめんです」

「……友達、なので……」

「えへへー。あっそうそう! 優輝さんが私のために、夜食作ってくれるんです! 月影さんも一緒しません?」


 二人きりが良いと言っていたヒロが、自らお誘いしていた。ヒロは月影ちゃん、大好きだよね。


「ん……少食なので……気持ちだけ……」

「うーん、そうですか? まぁ、無理強いはダメですしね」


 少食だから、というのも、理由の一つなのだろうけど……


「……二人きりでは、なくなってしまいます……」

「うん? なんです?」

「……いえ……」


……最後、僕にもやっと聞き取れる程度の小声で呟く月影ちゃん。やっぱり、二人きりが良いと言っていたヒロに気を使って、辞退したらしい。ヒロには聞こえなかったようだけど。


 やっぱり月影ちゃんは、気遣いの出来る良い娘だね。ふふふっ、本当に素敵。





「んふ〜おいひ〜! はくはくはくはくもぐもぐもぐもぐ!」


 お夕飯の余り、というかヒロのおかわり分や、ささっと作った肉豆腐を白米と一緒に掻き込み、幸せそうな顔で咀嚼するヒロ。いつも通り可愛い、見ているとこちらも幸せな気持ちになって、自然と笑顔になる。


「えへへー、美味しくって楽しくて優輝さんがいて、とっても幸せです!」


 そうして、元気良く食事を終えたヒロは――


「みんなおまたせです! そして心配かけてごめんなさい!」

「えっおおぅ。なんかめっっっちゃ元気だね、ヒロ……あれぇ??」

「お、おぅ。まぁ元気なのは何よりだな」


――心配していたアキ雅が戸惑うくらい、元気になっていた。

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