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73話 1年夏休み時点での、みんなの実力

今回も月影回みたいな感じになりました。

「そうだっせっかくだからお夕飯も一緒に作ろっ?月影ちゃんなら回数重ねるだけですぐに上達するよっ月影ちゃんが黙々と仕込む姿が可愛いで好きなんだよっ月影ちゃんほんっと可愛い可愛いっ!!…………ごめん取り乱した」

「……ん」


 感情のまま思っていた事をまくし立て……急激に思考が冷静になり、気恥ずかしくなって俯く。照れているのか、月影ちゃんも赤くなって一緒に俯く。


 それにしても、この感情はなんだろう? 可愛いが過ぎて嬉しいの感情が昂ぶって我慢出来なくなって……うーん……


「優輝、今の反応は最高に可愛いぞ。この可愛いは……「萌え」というヤツかな」

「うん、それだ」


 姉さんの言に、答えを見出す。まあ姉さんは、僕に対して萌えたのだろうけど。


「優輝さんが可愛いのも月影さんが可愛いのも、大いにわかるけれどね。でも食事中なんだから、あまり騒がないの」

「そうだね、反省してます」

「うん、よろしい。ふふっ」


 サチさんに笑顔でたしなめれれた。怖さは感じない柔らかな笑顔だから、怒ってはいないようだ。良かった。


「もぐもぐもぐもぐ……はぁ〜、美味しいです。おかわり下さーい!」


 ……そして、そんな状況でも、食事中のヒロはやっぱりブレなかった。



 その後は変に騒ぐ事なく、雑談を楽しみながら、和やかに昼食は進んで行った。


 ちなみに、当初は鷺宮村に滞在中のお昼にのみ、月影ちゃんへのお料理指導をする約束になっていたけど。さっきの僕の感情の赴くままの発言を、月影ちゃんは了承し、毎食手伝ってくれる事になった。

 結果、蒼月さんは、いつもはしないおかわりを毎食し、毎食後幸せそうながらちょっと苦しげにしていた。


「うくっ……も、問題ありません、わ……だってこんなに、美味しいのですから!」

「もぐもぐごくんっ。ですよね、美味しいから大丈夫です!」


 ……その時、多分ヒロ以外の友人達全員、蒼月さんに対してこう思っただろう。


(休み明け、絶対ちょっと太ってるだろうな……)





 さて、月影ちゃんと一緒の料理は嬉しい美味しい楽しい……のはともかく。鷺宮村じっかに来たのは、月影ちゃんと料理をするためだけじゃない。


 故郷は格別だ。長期休暇に心身共に骨休めするなら、外せない。

 とはいえ、日々精進、千里の道も一歩から、1日怠ければ取り戻すのに3日はかかる。夏休みだからと言って、本当に休んでいるだけでは、実力は確実に衰える。


 というわけで。本日もかんかん照りの良い天気なので、熱中症に気を付けつつ、僕らは鍛錬に勤しむ。


「は〜い、暑いですし、身体をほぐすのはそのくらいで〜……今日は各自、組手稽古、やっていて下さい〜。組み合わせはぁ……」


 いつもながらの和やかボイスだけど、あれでもネイさんは、母さんも世話になった、恐らく世界一レベルのベテラン訓練教師だ。そして母さんも、今は怪我の後遺症で戦闘は無理らしいけど、かつては栄陽学園本校を首席で卒業した、本物の実力者だったりする。


 そんな2人に鍛錬を見てもらえる。それはつまり、夏休み中も、学園の授業と遜色ない戦闘訓練を行うことが出来るという事だ。室内ではダラけていたパフィンさんも、2人に見てもらえて気合が入っているのか、今は真面目に稽古している。


 さて、みんな頑張って鍛錬を重ねているわけだけど。僕の目から見た、みんなの実力を書いてみようと思う。


 まず、雅。

 これまで、組手稽古したり、部活の様子を見学させてもらったりした上での評価だけど。

 雅は、良くも悪くも純粋で、真っ直ぐだ。強くなるための努力は人一倍しているから、着実に成長しているのは見て取れるけど……想いに実力が追いついていない。正直に言ってしまえば、雅に武のセンスはないと思う。

 雅は実力だけで言えば、本校生徒の中でも後ろから数えた方が早い方だろう。多分、本人もその事に気付いているはず。けれど、その真っ直ぐで決して諦めない精神力は、神話級精霊剣に見初められるに十分だと僕は思う。本校に入学出来たのも、その精神性を認めてもらえたからだろう。

 雅ならいずれきっと、神剣に認められるだけの最低限の実力も身につけられるだろう……だから後は、巡り会えるかどうかだ。雅を気に入る神剣が、いつか現れますように。


「雅君、君の真っ直ぐな太刀筋は悪くないけど。重い一撃に拘らず、二の太刀を意識してみたらどうかな」

「は、はいっす」


 そんな雅は今、主に母さんからの指導を受けている。

 どうやら、怪我で戦えなくなる前に母さんが使っていたのが、雅と同じタイプの大太刀らしく、いろいろと気にかかるらしい。


「幸子さんの太刀筋は、速くて綺麗だね。自身の精霊属性との相性をよく考えられ練られた、真面目な良い戦闘技術を感じるよ。精神面もしっかりしているようだし、私から特に言うことはないかな。そのまま磨き続けると良いよ」

「ありがとうございます、美奈さん。ふふっ」


 雅の組手相手のサチさんが、母さんに褒められて、嬉しそうにはにかんでいる。

 雅とサチさんは、同じ部活でお互い刀使いだからか、授業でも組手相手になる事が多い。よくある組み合わせは、雅アキのツーマンセル対サチパフィのツーマンセルかな。戦績は……パフィンさんのやる気次第でたまに変わるけど、サチパフィ組が勝つ事が多い。

 サチさんの評価は、僕も母さんと一緒だ。入学当初から、クラス内でもかなりの実力者だったけど、最近はさらに磨きがかかっているように感じる。多分、クラスSでも十分通用するんじゃないかな。


 そんなサチさんとツーマンセルを組む事が多いパフィンさんだけど……パフィンさんは姉さんと同じく、比較的新しい精霊剣のタイプである、銃型の使い手だ。

 ただ、姉さんが拳銃使いなのに対し、パフィンさんは、小銃ライフル使いだ。

 とはいえまあ。銃は対人訓練で使うには殺傷力が高すぎるので、組手の時は、最初は2人とも短剣を使用していた。

 姉さんは今でも短剣だけど、現在パフィンさんは、特注のライフル型の模造銃が最近届いたので、それに模擬剣を着剣して使っている。

 僕はライフルにそれほど詳しくないから、実戦時のパフィンさんの実力の程は、正確には把握出来てはいないのだけど。ネイさん曰く、遠足時には、相当数の魔獣をライフルで無力化し、討伐にかなり貢献していたらしい。


「うぇ〜ん、ミズ姉さん強すぎ〜」

「大天才だからな、当然だ」


 系統は違うけど同じ銃使いなためか、1対1の組手の時は、パフィンさんは姉さんと対戦する事が多い。そして毎回、今みたいな似たようなやり取りをしている。まあパフィンさん、銃剣を使うようになってからは、短剣の時よりは動けるようになったけど、基本的に剣の扱いは苦手なようだし、仕方ないね。それに、相手は姉さんだし。


「にしてもぉ……あの2人もマジパないね〜」

「優輝だからな」


 2人は、僕らの方を見ながらそう呟いていた。


 今日の僕は、蒼月さんと組手していた。クラスが違うので、普段の授業ではなかなか巡り合わせがなかった。ので、何気に初手合わせだったりする。


「流石は優輝さん、やりますねぇっ!」

「蒼月さんもねっ」


 上から横から雨のようにビュビュビュビュ飛んでくる矢を避け躱し剣で防ぎ、凌ぎ続ける。ていうか弓で連弩みたいな連射出来るなんて、蒼月さんも大概規格外だなあ。さすがはクラスSのトップレベル。


 ちなみに矢の鏃は、訓練用なのでゴム製らしい。当たったら死ぬほど痛いだろうけど、急所に直撃でもしなければまず即死はしない。要は、当たらなければどうということはない――


(ここ隙!)


――矢継ぎの刹那の間を見て『迅雷』で間合いを一気に詰め大剣を振り抜――


「そこまで!」


――こうとして、ネイ先生の制止の声で寸止めする。

 止められていなければ、蒼月さんの胴を左下から強打していただろう。模擬剣だけど、肋骨粉砕は確実だっただろう。

 けど、目の前の蒼月さんも矢を放つ寸前だった。制止が少しでも遅かったら、僕の心臓辺りに命中していたかも。


 これは……どっちかな。


「……優輝さんの方が早かったです。よって、勝者は水城 優輝さんです」


 勝敗を告げられ剣を引くと、蒼月さんも弓を下ろした。


 ふう……なんとか勝てたー……蒼月さんが精霊術で造った風の矢を使っていたら、もっと苦戦していたかも。


「ふふ、いい試合だったね、蒼月さん」

「はい、本当に」


 お互いの健闘を讃え合いながら握手をする。


(さて……3人はどうかな? 確かあっちで……ん、やってるやってる)


 汗を拭いながら、アキヒロ対月影ちゃんの組手を見学する。ネイ先生の采配で、2対1で組手しているのだけど……


「はぁっ……はぁっ……」

「ふぅ……ふぅ……」

「…………」


 2人は息を切らし始めているけれど、対する月影ちゃんはいつも通りのクールな顔で、2人の攻撃を全て往なし続けている。


(すごいなあ……)


 観察していると、月影ちゃんはアキの攻撃に対し、アキの腕の動きに合わせて剣を滑らせるように動かし、ナイフを受け流しているようだった。


「わっまたっ!?」


 アキは自分が乗せた力を流され、その度に受け流された方向に体が持っていかれてたたらを踏む。結果、持ち味である縦横無尽の連撃に繋げられず、それどころか余分に体力を消耗させられていた。


「く……イヤアッ!」


 アキの攻撃を逸らした事で隙が生まれると予測したのだろう、ヒロが月影ちゃんが止まる予測地点に棍を突き入れる、


「……」

「くっうぅ」


けど月影ちゃんは半歩程下がっただけでそれを避けた、だけでなく、


「うあん!?」


ヒロの突き出した棍に剣をくるりとからませる様に滑らせると、ヒロは引っ張られるようにつんのめる。転びはしなかったけど、無理に踏みとどまったので、その分の体力を削られたように思う。


「あれは……相手の力を利用してるのかな。まるで合気道みたいだね」

「そうですね。あれが、合気道を含めた様々な武術の知識を収集し取り入れた、月影流の防御特化戦法ですわ」


 僕の予想に、蒼月さんが補足してくれる。


「そっか。となると……2人がかりでも、アキヒロの方が不利だね」

「実際、手玉に取られていますね」


 魔獣戦で見せた、アキヒロ、それに雅を含めたスリーマンセルでの戦法は、攻めに攻めて相手に攻撃の機会を与えさせないものだった。自分から攻撃をしかける事を前提とせず、逆に相手に攻撃させ、その攻撃力を利用する月影ちゃんの戦法とは、すこぶる相性が悪いだろう。あそこに雅を足しても、多分負ける。

 それでも、雅を入れれば多少勝率は上がるだろう。ヒロの突きは本来、アキと雅が隙を作って、避けられない強烈な一撃を叩き込むのが前提なとこがあるからね。

 とはいえそれも、月影ちゃんが防御結界を使わなければ、の話だ。ヒロの強烈な突きなら多分、防御特化の月影ちゃんの結界でも破壊出来るだろうけど、本体にダメージを入れられるかどうか。

 なんにしても、アキが隙を作ってあげられていない現状では、うまくタイミングが掴めないでいるヒロの攻撃がクリーンヒットする事はないだろう。それでもなんとか見計らって時折突きを放っていたけど、月影ちゃんには完全に見切られている。


「気力はまだあるようですが……2人の体力的に、ここまでにしましょうか」


 横に来ていたネイ先生がそう告げる。つまり、決着か。


「そこまで! 月影さんの勝ちです!」


 うーん。僕から見ても、クラスSでも通用するだろう実力のある2人を、ここまで手玉に取るとは……さすが、学園史上最有力の守護者候補生と評されているだけある……見た目は、お人形さんみたいなのになあ。可愛くて綺麗で強い。素敵。

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