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67話 帰郷と濡れ透け

予定より早めに書き終えられたので、今日投稿です。

「……次の話に行っていいかな?」


 3人にタラシだジゴロだと言われ、少し不機嫌になってきたので、早々に次の話へ移ることにした。


「優輝さんや。オヤツはまだかのぅ」

「まだ早いでしょ。というか」

「んみゅ?」

「散々イジられてご機嫌ナナメなので、今日は作りません」

『えー』


 3人声を揃えてそう言い、物欲しそうな視線をこちらに向けてくる。ちょっと可愛いけど、反省の色が見られないからちょっとイラっとした。


 とはいえまあ、作らないとは言ったけど、なにも食べさせないとは言っていない。


「はいオヤツ」


 数ヶ月前に買って仕舞ったまま忘れていた、美味うましん棒トマト味25本入の大袋を持ってきて、テーブルに適当にぽんと置く。


「なんといいますか……」

「まぁこれはこれで美味いけど……」

「うむ」

『すみませんでした』


 どうやら本気で機嫌を損ねたと理解したのだろう、今回は反省の色が見られる。まあ姉さんは、2人にノリを合わせただけだろうけど。


「うん、許します。でもオヤツに変更は無しね、これ賞味期限ギリギリで、消費しちゃいたいから。まあ、お茶は用意するね」

「只今ご用意致します」


 僕が動き出す前に、静海がお茶の準備を進めていた。


「ありがと、じゃあ任せるね。というわけで」

「ということで?」

「話の続きをしよう。次は……夏休みの里帰り編、とでも言おうか」





       ――――――――――





 7月末日。予定通り、父さんが迎えに来てくれた。


 今回同乗するのは、僕と姉さん、サチさんとパフィンさん。静海と運転手の父さん含めて、計6人だ。


 それ以外の友達では、天王寺姉妹は、執事と共に車で来ると言っていた。実にお嬢様らしい。

 アキヒロは、今日の午後に一度寮に帰って来てから、雅と一緒に8月初日に、ネイ先生の車で来るらしい。ので、4人だけ1日遅れになる。





 移動中の車内にて。


「ねぇミズ姉さぁん、聞いてよ〜」

「なんだ?」

「最近さっちゃんがぁ、チョイキモカワなんだけど〜」


 パフィンさんがそんなことを言い出した。


「キモ……!? 可愛いはともかく、気持ち悪いってなによ、酷くない!?」

「ふむ。詳しく聞かんとどうキモいのか分からんが」

「えとねぇ。緑色のトリっぽいヌイグルミをこ〜なんてか、ネットリナデェしながらエヘエヘしてるのが、ま可愛んだけど、チョイキモ」


 多分、僕がプレゼントしたケツァールだろう。だから、僕からは色々とツッコミ辛い。ので、しばらく黙って話を聞くことにする。


「ふむ……」


 その場面を想像しているのだろう、姉さんが目を閉じてしばらく瞑想する。

 数秒後、目を開くと、僕に視線を向けながら、


「まあ、サチも思春期という事だろう。生暖かい笑顔で見守りつつ、あまり気にしないことだな」

「あ〜……りょ〜」


 姉さんの台詞に、パフィンさんもこちらを見ながらそう言う。


 どうやら2人とも、話に上がっているヌイグルミが、僕からのプレゼントと気付いてるっぽい。

 僕から直接、プレゼントした時の事を話した事はないはずだけど……なんで気付かれたんだろ?


「な、なんなのよ。人の至福のひとときをキモいとか、ショックなんだけど……」

「別にぃ、悪くはないんよ〜? ただぁ、アタシのまん前でずっとされてっとぉ、どしてもリア充自重シロってカンジがぁ……ねぇ?」

「だそうだ」

「いやいや、2人ともなんで僕を見ながら言うの?」

「ふふ〜、なんでかなぁ〜、なんでだろなぁ〜」

「ふふ、何故だろうな?」


 むうー、2人して僕らを茶化して……下世話な気持ちを感じる笑顔と台詞に、さすがに少しムッとしてきた。


「……どうやら2人とも、昨日焼いておいて持って来た、この抹茶クッキーはいらないらしいね」

「すませんチョーシのりましたゴムタイヤメテ〜!」


 速攻で反省の意を示すパフィンさん。ちょっと可愛い。


「気を悪くしてしまったか。すまない優輝」

「まあ、僕は許します。サチさんは?」

「え、私?」

「えーとその……趣味を馬鹿にされたようなものじゃない?」

「あ〜ユキさん、それは違うよぉ。ほっとくと、さっちゃんずっとエヘ声あげてるからさぁ。ずっと聞いてるとメチャ気になるってかイラついてくるし、同じ日に何回もだとさすがにキモいし。だから自重して欲しいだけ〜」


 あー……そういえば、さっきも「自重しろ」と言ってたし、別に馬鹿にしてはいない、のかな?


 まあなんにしても。ゆるふわなパフィンさんがイラっとくるくらいだから、サチさんかなり頻繁にエヘエヘしてるっぽい……僕がプレゼントしたヌイグルミが気に入りすぎてそうなっているっていうのが、嬉しいような気恥ずかしいような、複雑な気分。


「むぅ……気に障ってたのは、ごめんなさい。でもその、みんなの前でキモいなんて言われたら、さすがに傷付くわ……」


 うん、問題はそこだよね。


「ん〜……なんての? エヘ中さっちゃんに言ってもイマイチだろし、シラフ中にタイマンで言ったらケンカになりそだし……タイミング的にここかなぁ〜て」

「それは……確かにありえるかも」


 どうやらこの場を選んだのは、パフィンさんなりに気を使っての事らしい。


「それとぉ、何度もゆ〜けど、「自重」して欲しいだけだし? シアワセそなさっちゃん、ちょっとの時間ならメチャカワだなぁて思うし? にひひ〜」


 パフィンさんは、少し恥ずかしそうな笑顔でそう締めくくる。可愛い。


 んー。パフィンさんの声色的に、わざわざキモいを付けたのは、面と向かって伝えるのが気恥ずかしかったからな気がする。僕らの前で話したのも同じ理由かな。つまり、一種の照れ隠しだ。


「う……そう言われると、なんだか気恥ずかしいわね……」


 パフィンさんの台詞を聞いてそれが伝わったのだろう。サチさんも、少し頬を赤らめつつそう返した。


 今回の話を要約すると。頻繁に長時間目の前でエヘエヘされるとムカついてくるから、時間と場所を弁えて欲しい、という事らしい。


「言いたいことはだいたい解ったわ。今後は気を付けるから、その……思っても、キモいって付けるのはやめてくれる?」

「さっちゃんはお堅いなぁ。でもま、りょ〜」


 サチさんの台詞に、いつものユルい声色でそう返すパフィンさん。少し波風立ちそうな流れだったから内心ハラハラしたけど、荒れなくてよかったよかった。



 その後は何事もなく、料理の話をしたりパフィンさんがスイーツ食べ歩記の話をしたり姉さんとサチさんが僕へ着せる可愛い服に関して話したり。到着まで終始和やかに、いつもの何でもない雑談をして過ごした。


「……なるほどな。ガールズトークで肩身がせまいとは、こういう感覚か……」


 ……話に混ざれない父さんが何やら呟いていたけど気にしない。





 鷺宮村に到着後。僕は1人、咲さんを訪ねに行っていた。


 今回みんなは咲さんの道場に寝泊まりさせてもらうので、着いたらまず咲さんに挨拶をしに行こう、ということになっていたのだけど。


 最初は、サチさんとパフィンさんが、荷物を一旦水城家(うち)に置いてから、挨拶に行く予定だった。

 ちなみに姉さんは前回と同じく、帰るなり静海と自室に引きこもったので、僕を含めた3人で行こうと話していた。のだけど。


「いらっしゃい、はじめまして。瑞希と優輝の母で、水城 美奈です」

「あ、どもはじめま……んうっスイーツの気配!!」


 奥から出迎えに来た母さんが、マドレーヌか何かを焼いた直後と思われるバターの香気を纏っていたせいで、パフィンさんがスイーツジャンキーと化した。


「焼き立て! 焼き立てありますかぁ!?」

「ん、ありますよ。食べる?」

「食べます食べます超くらさ〜い! ほらさっちゃん行こ〜!」

「ぇえ!? ちょっま、待ちなさい落ち着きなさいって力強っ! あ〜〜……」


 ……側にいたサチさんを捕まえて、あっという間に行ってしまった。


 でまあ。追いかけたら僕もパフィンさんに捕まる気がしたので、とりあえず僕1人で行くことにした……とまあ、事の経緯はこんな感じだ。


 まあパフィンさんも、天王寺姉妹が到着するころには落ち着いてるだろうし。今日のメンバーが揃ったら、改めて一緒に挨拶に行くことにしよう。



コンコン


「ごめんくださーい、優輝でーす」


 玄関の古めかしい木戸をノックし、挨拶する。


 築数百年の咲さんの家には、インターホンが付いていない。というか、咲さんが機械関係に少し疎いせいもあり、この家にある電化製品は、家電話、冷蔵庫、ボイラー、ドライヤーくらいだ。

 まあそれはそれとして、インターホンを設置していないのには別に理由がある。


 咲さんは、守護者関係のお勤めで国内を動き回っているので、家にいない日の方が多いのだ。なので、インターホンの意味があまりない。

 それでも1週間丸々空けている事は滅多にないので、毎日電話をかけ続けていれば、最低でも7日に一度はヒットするので、連絡は取れる。この間みたいに一度目でヒットしたのは、本当に運が良かった。


 でまあ。道場の使用許可を得た時に、今日伺う事を約束していたので、咲さんは家にいる……はずなんだけど。


(返事がないなー……もしかして、いない?)


 うーん。魔獣討伐にでも行ってるのかな?


「こんにちはー!」


 少し大きめの声で呼ぶ……ん、物音がしたような?


『はーい、すこしまってくださーい』


 物音から数秒後、だいぶ遠くからだけど、辛うじてそう声が聞こえた。


 声の通りにしばらく待っていると、パタパタと小走りで駆けてくる足音が聞こえ、


ガタタッ


「おかえりなさい、優輝さん。待たせてしまったわね、ごめんなさいね」


 玄関を開けて出てきた咲さんは、なんかしっとりしていた。


「あー、もしかして、シャワー浴びてました? ……って!」


 肌や髪の毛は生乾き、ではなく水濡れ状態で、シャワー中に急いで出てきたのが窺える……のは、まあ良い。


 今の咲さんは、肌襦袢を羽織っているだけだった。いわゆる、下着にあたる着物である。

 羽織っただけで体を拭いていないのだろう、濡れて張り付いて、肌色が少し透けて見えていた。


「なんて格好で出てきてるんですかっ!!」

「ああ、これはねーー」

「入って下さいっ!」

「あらあら」


 そのままの姿で状況説明を始めたので、肩を掴んで回れ右させ、玄関に押し込み、戸を閉める。


「はあ……肌襦袢って、下着ですよね? 下着姿で外に出ないで下さい」

「あら、言われてみればそうね。慌てていてつい……はしたなかったわね。教えてくれてありがとう、優輝さん」

「どうしてこうなった、と聞きたいところですけど……とりあえず、早く体を拭いて、着替えてきて下さい 」


 出来るだけ咲さんを見ないようにして、そう告げる。


「あら、この程度なら風邪なんて引かないから大丈夫よ。こう見えて、守護者ですからね」

「そうじゃなくてですね」


 下着姿で出てきたのもそうだけど……咲さんって、どこか抜けてるとこあるよねえ。可愛いところではあるのだけど……今回のは大問題だ。特に僕には。


「な、なんといいますか……僕、こう見えてその……なので。今の咲さんの状態は、その、目に毒、なのです、はい」

「目に毒? ……あらあら。ふふっ、確かに、優輝さんには刺激的でしたね。すぐに気付かなくてごめんなさいね」


 視線を下げて、今の自分がどういう姿なのか、ようやく認識したらしい。


「それじゃあ着替えて来ますね。ごめんなさいだけど、ここでもう少し待ってて下さいね」


 そう言って、再びパタパタと小走りで駆けていく咲さん……ふう、ききはさった。


「……。今晩なににしよ……」


 僕は、目に焼き付いてしまった濡れ透け咲さんを頭から振り払うように、ケータイをいじりつつ夕飯の献立について考え始めた。



 戻って来た咲さんは、浴衣姿だった。派手さはないけど、青を基調とした涼やかなデザインで、咲さんの青髪ともマッチしていてよく似合っている。素敵だ。


「お待たせしました。それで、なんだったかしら……そうそう、びしょ濡れで出てきた理由ね」

「そうですね」


 咲さんの話によると、予想通り、僕らの到着予定時刻の少し前に魔獣が発生していたらしい。

 強力そうな個体が複数出現していたらしく、家で僕らを待ってくれていた咲さんに、応援要請が来たらしい。


 約束の時間が迫っていたので、咲さんは急いで出向いて急いで片付けたらしいのだけど、そのせいで返り血やら返り肉片を思い切り被ってしまい、とても人を出迎え出来る状態ではなくなってしまい、大急ぎで帰ってシャワーで洗い落としていたらしい。


 そして、シャワーの途中で僕の声が聞こえて来たので、慌てて出迎えなきゃと飛び出し……現在に至る、とのこと。


 なんというか……やっぱり、ちょっと抜けてるというか、大らか過ぎるというか。まあ昔からこんな感じだし、きっと守護者になる前からそうなのだろう。


「恥ずかしい格好で出て来てしまってごめんなさいね。次はもっと急ぎますね」

「いえいえ、魔獣退治に行っていたんですから仕方ないですよ。またびしょ濡れで出てこられると対応に困るので、今度似たような状況になっても、人前に出られる服装になるまで、身嗜みを整えることを優先して下さい」

「そうね、確かにそれが良いわね」


 ……遥かに年上の人に説教しているようで奇妙な感じだけど。一度指摘すれば今後は守ってくれるので、これは必要な事だ。


「ただいま帰りましたの挨拶がしたかっただけなんですけど、慌ただしくさせてしまって申し訳ないです。みんなが揃ったらまた来ますので、今はこれで失礼しますね」

「あら、そうだったのね」

「というわけで、午後にお邪魔します」

「はい、わかりました。待ってますね」


 そう言って、僕は珠州野守家を退出した。


 はあ〜……ちょっと挨拶したかっただけなのに、妙に疲れた。


 さて、帰ろ……パフィンさん、少しは落ち着いたかな?

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