6話 料理長の名前がなんかおいしそう
「そういえば、間崎 雅はマミヤの事だったんだな」
「やっと思い出した……姉さんにとって雅は友人の域にはないの?」
「優輝の友人の1人、という認識だな。そもそもあだ名の方で覚えていたしな」
「まあ思い出してくれただけでも嬉しいよ。学園で親友って言える男の子って雅だけだったし」
「ん、そうか。えーとそれで……自由時間の後は、食事の時間だったか?」
「その前に、校内の施設案内だね」
――――――――――
「……ん! そろそろ1時間ですね〜」
『⁉︎』
唐突にガバッと起き上がり自由時間終了を告げるネイ先生。なんの前触れも感じず起きたので、ネイ先生の近くにいた数人がビクッとしていた。
「みなさん自分の席の位置に戻ってくださ〜い」
その声に従ってみんな席に戻る。
「あ、すぐ移動なので座らないでください〜。飯屋峰君は立ち上がってくださ〜い」
「縛られていて立ち上がれないのだが。まったく、未来の王に対して不敬な」
「今現在王族でもなんでもない市民なんですから、変態行動は控えてくださいね〜、先生あんまり怒りたくないんで〜」
「う、うむ、まあ気をつけよう」
ネイ先生の素敵な笑顔に、さっきの教育的指導を思い出したのか、意外に素直に頷く飯屋峰君。
「それはともかく拘束は解いてくれ」
「まあそうですね〜。山本さん、お願いします〜」
「あたしかよ。チッ、しょーがねーなあ」
飯屋峰君のすぐ後ろの席だからか山本さんが指名され、嫌々ながら指示に従う。
「好きだあああああ」「黙ろうか?」バチンッ「ああいたいっ⁉︎」
みんなでそろって教室を出て、学園の見取り図が載せられた学生帳をそれぞれ見ながらネイ先生の後に着いて行く。
教室を出た直後飯屋峰君が僕に速攻ちょっかいかけてきたのを電撃退した以外は、特にない。
「うーむ……我がベーゼを求めて拒む者はいなかったのだが」
「こいつ自意識過剰過ぎんだろ……顔は悪くないのにもったいねーな」
「環境が違えば常識も変わるってことかな。それで済ませていいレベルじゃない気もするけど」
「はー。優輝はお人好しだなあ。うっかり飯屋峰のヤローにほだされんじゃねえぞ?」
「心配ありがと、山本さん。なんにしても、僕は飯屋峰君のお嫁さんにはならないよ」
「今は新入生しか本校舎内にいないはずですが、部活棟には許可を得た生徒がいるので、先程の飯屋峰君のような行動は控えてくださいね〜」
〈1-D案内中〉と書かれた小さな旗(多分ネイ先生の手作り)をフリフリしながら案内するネイ先生。
(えっと、順路は……本校舎を出たら食堂棟。次に部活棟、その先の訓練棟とグラウンド、か……食堂といえば)
前方を歩くアキとヒロの様子を伺う。確か、2人共食べるの大好きとか言ってたけど。
「ヒロっお昼のメニュー当てしよう!」
「アキちゃん気が早すぎだよ〜」
アキはもう食べる気でいるようだ。まあもうちょっとでお昼時間だし気持ちはわからなくはない。
「うっわ〜素敵〜! もう美味しい!」
「アキは食欲旺盛だね。いつもこんな感じ?」
「うん、アキちゃんは昔からこんな感じ。でもアキちゃんが騒ぐのも無理ないと思うの」
「まあね。こんなにも素敵な学食だし……学食、だよね?」
案内された食堂棟は、学食と言うよりはオシャレなカフェテラスのようだった。調理中の音と香りでさらに空腹感が強まってくる。
「ですよね〜ステキですよね〜先生もお気に入りなんです〜」
上機嫌な声でそう言うネイ先生。みんなの雰囲気からも概ね同意っぽい。
「優輝さん達はこういうの好きなのか。オシャレ過ぎて俺はちょっと落ち着かないなあ。まあ飯が美味ければなんでもいいけど」
「優輝がいれば味が良かろうが悪かろうが素敵空間になるから何も問題ない」
こういう意見もあるけど、否定って程のは出ない。
「校内施設をぐるっとしてきたらこちらに戻って食事となるので、みなさん楽しみにしててくださいね〜」
「は〜〜〜いっ‼︎」
「やかましいアキ耳元で怒鳴るなしばくぞ」
「こわっ。むぅ、ごめん瑞希」
「……アキちゃんが二言三言で静かになったの、初めて見た」
「あはは……意外と姉さんと相性良いのかもね」
「ここが部活棟です〜。新入生への勧誘活動は現在地のここ、1階通路で今日の午後から行われるので、解散後に覗いてあげてくださ〜い」
学園の外に出ればそこは学園都市、若者向けの娯楽施設はそれなりにあるらしいけど、学園内ではやはり部活動が、学園公認の唯一の娯楽と言ってもいい。8割の生徒がなんらかの部活に所属しているらしい。
「ここが訓練棟で〜す。訓練棟は大きく3つに分かれています。1年生訓練区画、2・3年生訓練区画、射撃系訓練区画ですね〜」
「ネイ先生、射撃はともかく、1年が分けられてる理由はなんですか?」
「訓練の授業は、全学年同じ時間に行います。なので、授業内容に慣れるまで、可動式の壁で仕切っているんです。慣れ始めたと判断される半年後くらいに、仕切り壁が取られたり取られなかったりします〜」
「取られなかったり?」
「その年の、生徒の実力次第ですねぇ」
「ああ、なるほど」
実力次第、か。自分はそれなりに腕に自信はあるけど、上には上がいるもの。先輩方はまず間違いなく強者が勢ぞろいだろうし、慣れるまで仕切り壁の配慮は、ありがたいかな。個人的には、なくても構わないけれど。
(ふふふ〜。今年は水城ちゃんズをはじめ、今の3年生の上位陣が可哀想なくらいの実力者が数人も……半年後が楽しみですね〜)
その後、更衣室、シャワー室、医務室などの訓練棟付属の施設をざっと巡って、学食前まで戻って来た。
「さてさてみなさんお待ちかね、お」「食事の時間だあああ」
ネイ先生の話を待てずに勢いよく扉を開けて食堂に飛び込むアキ、
『…………』
「あああ〜‼︎ ……れ?」
に集中する食堂中の視線。
「先に校内を回り終えたS〜Cのクラスのみなさんがいるので、騒がず入室してくださいね〜」
「…………」
振り向いたアキは羞恥で顔を真っ赤にし、先に言ってよ〜とでも言いたげな顔で涙ぐんでいた。けど、
「食事の時間どぅわああああ〜‼︎」
半ばヤケクソ気味に開き直って再び叫んだ。そんなアキに姉さんが近付き、手を肩にポンと置く。
「ふっ」
「……なにその人の恥を喜んでるような顔は」
「愉悦顔」
「やんのかコラああっ‼︎」
「もう、姉さんたら悪ノリして……」
「えっとえっと……優輝さん、ど、どうしよ?」
「2人共楽しそうだなあ、止めるべきか迷うぜ」
あー……友人2人は仲裁には向いてなさそうだ。とりあえず、ネイ先生がキレる前に止めないと。
「アキ、空腹と羞恥で気が立ってるのはわかるけど落ち着いて。食事が遅れるよ?」
「んなっ⁉︎ それは嫌だ‼︎」
「それと姉さん……怒るよ?」
ネイ先生と僕が。
「それは嫌だな、死にたくなる」
「じゃあ仲直り。ね?」
「うむ、まあ仲違いしていたわけでないが……すまないアキ」
「うん許す!」
これでよし……というか、ほんと切り替え早いねアキは……ん?
「あれクラスDの先生? 若すぎない?」「……マクラ?」「先生可愛い」「騒がしい娘結構可愛い」「言い合いしてたセミロングの娘もなかなか……いやかなり可愛い」「仲裁に入った娘超可愛い」「というか同じ顔?」「美少女双子か⁉︎」「クラスSのあの3人に負けないくらい可愛いんじゃないか?」「カワイイ!」「今年は美少女率かなり高いぜ」
僕らの話題で食堂がザワザワしていた……こうも好奇の目が集中すると、流石にムズムズする。正直、今すぐ退室したい。
「みなさん、騒ぐ気持ちはわかりますが静粛に。クラスDの生徒が到着したのでこれから食事になります」
パンと手を鳴らし進行させる男性……学園長だ。
「クラスDのみなさ〜ん、こちらの席に座ってください〜」
いつのまにか移動していたネイ先生が促したテーブル席に、出席番号順に5人づつ座る。
全員が席に着いたところで学園長が話を進める。
「さて。クラスSの方から順に食事を取りに来ていただく形式ですが、その前に紹介したい方がいます」
学園長の少し後ろにいた長身の男性が前に出る。
「彼は、この学生食堂の料理長です」
そう言って学園長が一歩下がると、長身の男性が自己紹介を始めた。
「ご紹介に与りましたわたくし、栄陽学園本校の学食で料理長を勤めさせていただいています、ジョナサン・ストゥルガノフと申します」
そう言い、優雅にお辞儀し、眩しい笑顔を振りまく料理長さん。黒髪碧眼の超絶イケメンだった。
『キャー‼︎』
『チッ』
女子の一部から黄色い声が上がり、一部の男子が、舌打ちする。
「おぉう、かなりの美形じゃねーか……優輝的にはどう思う?」
「うん、まあ、カッコイイね。笑顔も、いやらしさのない爽やかなものに感じるし」
「……ほほー」
なにその反応。山本さんの質問に率直に第一印象を言っただけなんだけど……というか、近くの席の男子がこちらに聞き耳立てている気がする。
「守護者候補のみなさんの食事を提供するという、大変光栄な仕事に就けていることはとても栄誉に感じています。心身共に支えることのできる料理を目指して精進して参ります」
んー。誤解を招かないようにもう一言加えよう。
「料理に対して真摯な人のようだし、味は期待していいんじゃないかな」
「……うん? あ〜と……はっりき言っちまうか。彼氏にしたいとは思うか?」
「思わないです」
『……っしゃあ』
そんな喜びの声のようなのがどこからか聞こえた。
そもそも彼氏を作る気自体まったくないんだけど、とか口に出そうとすると姉さんが割り込むから言わない。
「そーか。変なこと聞いてすまなかったな」
「別に気にしてないよ。そういう山本さんは?」
「顔は嫌いじゃねーけどよ、彼氏にすんなら男気があるかどうかだろ」
「ふふっ、そういう山本さんの台詞に僕は男気を感じたけど?」
「気にしてないって言っといて意趣返しかよ。まあ悪い気はしねーけど」
「もちろん悪気はないよ、褒め言葉」
「へへっ、ありがとよ」
「こ、ここにも百合の花を」
「ニック……お前友情として見れないのかよ」
それよりちょっと気になることがある。姉さんが珍しく男の人を熟視してる……料理長のストゥルガノフ氏をだ。
「今日のランチはみなさん同じものになりますが、普段の平日は、AランチとBランチの2種から選択していただく形式になっています」
「姉さん、料理長が気になるの?」
「うむ、まあ少しな」
「ほほー、姉はあーいうのが好みか」
「そんなわけあるか、優輝以外に興味などない」
「お、おう、そーか」
堂々とした宣言にさすがにちょっと引いてる山本さん。なんかすいませんウチの姉が。
「俺はわかるぜ。あの人絶対料理上手だ」
雅がなんか的外れなこと言い出した。
「それはまあ、料理長だしね」
「ふむ、これが天然という奴か。バカと何が違うのかわからぬな。水城 瑞希が言いたいのはそういうことではないだろう」
へぇ……双子の僕でもわからない姉さんの今の思考を、飯屋峰君は理解出来るらしい。
「ほう、面白い。当ててみろ」
「ふん、簡単だ。奴が多くの者の注目を浴びていて気にくわないのだろう?」
えぇ……自信満々な顔だ。本気で言ったらしい。
「はっ。つまらない答えだ」
「それはオメーの感想だろ」
「さすがに姉さんの考えそうなことじゃないかなあ」
「なんだ、違うのか〜」
「くっ……ふんっ」
同席のみんなに反対意見を言われそっぽを向く飯屋峰君。プライド高いなあ。
「それで姉さん、答えは?」
「んー。あの男の生徒を見る目がな。いやらいしとかでは無いんだが……うーむ」
「うーん?」
珍しくハッキリしない姉さんに、僕もストゥルガノフ氏を改めて見てみ
「厨房に戻ります。わたくしの料理、存分に堪能してください」
あ、いっちゃった。姉さんがあの人に何を見ていたのか気になる……
「まあ後で確認してみるか」
「何を?」
「ふふっ、その時まで秘密だ」
登場人物紹介
山本 摩耶
容姿:黒髪セミロング 身長やや高め 美人系
身長:172cm
性格:男気
好物:のり弁
嫌い:甘すぎるもの
趣味:格闘技 格闘技観戦
属性:水
言動・性格共に男勝り系女子。一人称はあたし。
何事もはっきり言いたがり、女々しい言動をする奴が嫌い。
誰かと雑談するのが好きで、嫌いなタイプとでもわりと普通に会話出来る。
ニック・カルパチョフ
容姿:赤髪 地味
身長:163cm
性格:普
好物:なめろう
嫌い:乾パン
趣味:アニメ漫画ゲーム(百合系)
属性:火
オタク系男子。百合系が好き。現実でもいける。
北 礼雄
容姿:青髪 地味
身長:165cm
性格:普
好物:まんじゅう
嫌い:まんじゅう
趣味:アニメ漫画ゲーム(浅く広く)
属性:風
オタク系男子。ジャンルは問わず面白いと思ったものは見る。現実に2次元的嗜好は持ち込まないタイプ。