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57話 エリスは元気可愛い

今回は現在パートの方が少し長めです。

「おっはよ〜〜今朝もスガスガだねぇ!!」


 翌朝、リビングに入るなり朝からテンション高めな挨拶を誰にともなくするエリス。


「あらエリスさん、お早うございます。なんかお久しぶりですね」

「おっ蒼月ちゃんおひさ〜。引きこもってるって聞いてたけど、調子はどう?」

「えー…………それなり、ですわ」

「ふーん」


 エリスが、エリスより先に起きて……起きて来たのか寝てないのかは不明だけど。とにかく先にいた蒼月さんと挨拶を交わす。


 二人とも趣味が違うので、二人きりだと会話が長く続かない事が多い。


 別に仲が悪いという事はない。普通の仲良し、普通の友達同士ってとこかな。どっちかが卵料理の話を始めれば、話は弾むしね。


「優輝さんおはよっ! 今朝のメニューは?」

「おはよ、エリス。今日は、フレンチトースト、ソーセージ玉葱プチトマトのコンソメスープ、旬の野菜のピクルスだよ。飲み物はどうする?」

「んー……ジンジャーエールある?」

「即席で良ければ作れるよ」

「じゃそれで」

「はーい。静海、エリスのお願い」

「畏まりました」

「朝から炭酸ですか。目が覚めそうで、ありかもしれませんね」

「蒼月はコーヒー……香り的にエスプレッソ風、をブラックで、かな? よくノンシュガーで飲めるねぇ。まぁあたしも、飲めない事はないけど……」

「特濃が飲みたい気分でして」

「ふみゅ、そっか」


 お砂糖用意したのに、使っていないらしい……眠気覚まし目的かな。パッと見では普段通りだけど、やっぱり蒼月さん、昨日からほとんど寝てないっぽいね。


「ところで瑞希は?」

「多分、昼近くまで起きてこない、かな」

「ほーん」


 聞いておきながら姉さんの事は興味なさげに、フレンチトーストを焼く僕の姿を眺め出すエリス。その視線はとても優しく、とても嬉しそうだ。


「見てるだけで楽しい? エリスも料理しない?」

「優輝さんの料理姿を眺めるのが、あたしの幸せなのよ。だからやらない」

「……ん、わかった」


 たまにこうして料理しないかと誘うけど、エリスの返事はいつも決まってこれだ。僕はエリスとも一緒にお料理したいんだけどな……残念。


「今焼いてるのは蒼月さんと僕の分なんだけど、エリスはいつも通り(2人分)で良い?」

「んみゅ、良きに計らえ」

「静海ー、エリスのフレンチトーストーー」

「すでに仕込み開始しております。エリス様、少々お待ちを」

「ありがと」

「ジンジャーエール、お待たせ致しました」

「おっありがとぅ!」


 元気よくそう言って受け取りつつ、僕を眺めるのはやめない……こう、いつも元気可愛いエリスに黙ってただただじっと見つめられるのは、なんかこそばゆくて、未だに慣れない。嫌ではないんだけど……


「……昨日の話の続き、聞く? あ、姉さんのじゃなくて、日記のほうね」


 気分的に間が持たないので、そう切り出した。昨日話そうとして姉さんに遮られた話なので、日記を見ながらでなくとも話せる。


「うん聞くー」

「私は昨日はお話を聞いてないですが、途中からで問題ない内容ですか?」

「大丈夫だと思うよ。確か……梅雨明け後の、遠足の前の週の事なんだけど――」





       ――――――――――





「おはよう優輝さん、久しぶりの清々しい朝ね!」

「……おはよ、サチさん。朝から元気で何よりだよ」


 アキのような、少しテンション高めな朝の挨拶をサチさんにされた。

 天気予報士による梅雨入り宣言以来、長雨が続いていたし、基本クールビューティーなサチさんも、久しぶりの快晴に思わずテンション上がっちゃったのだろう。


(……という事にしたい。違うんだろうけど……)


 最近、サチさんがアキの様な、ボディタッチ系のスキンシップをしたりしなかったりするようになった。


 しなかったり、というのは、アキがほぼ毎朝HR前に抱き付いてくるのに対し、サチさんはいつ、どう来るのか予測が難しいのだ。


 具体的に言うなら。予備動作や気配がわかりやすいアキや、必ず「ユキさ〜ん」と言いながら抱きついてくるパフィンさんと違い、サチさんは、ダイレクトに真正面からだったり気配を殺してだったりオズオズ許可を得てからだったり気配を発しながらもこなかったり……とにかく動きを読むのが難しく、防御が取りづらいのだ。


 ……何の防御かって? それはその、えーと、あれです……唐突に抱きつかれて倒れこんだりとかしないように、と……秘密がバレないための、です。


(あれだよね……僕がサチさんに「親友同士なら抱き付き・頬擦りはアリ」って感じに答えて、その数日後くらいから、だったよね。サチさん、僕と親友になりたいのかな? だからってアキの真似は、サチさんのキャラじゃない気がする……誰かの入れ知恵かな。でも、直接やめてって言ったら、サチさん生真面目だから物凄く落ち込みそうだなあ……でも、サチさんの迫り方だと、バレる確率が高めな気がするし……)


 うーん、悩める。どうしたものか……というか僕は、サチさんとは親友同士だと思ってたから、ああ答えたわけで……あれ? もしかして、自業自得……?


(……原因の究明は別にして、先に目の前の不安要素の対抗策考えよっと)


 さて、どう対処するか、だけど。僕から伝えると超落ち込むなら、僕からでなければ良い。


 要するに。困った時の姉さんだ。なんとかしてよミズえもーん! ……おふざけはここまでにして。

 多少卑怯なやり方だけど、これはサチさんを極力傷付けないための仕方ない、必要な手段なのだ。


 姉さんなら端的に、簡潔に、確実に伝えてくれる。たとえ気まぐれで変な伝え方をしたとしても、「瑞希なら仕方ない」という便利な修飾語が付く。

 便利なモノは便利に有用に使わないとね! ……たまに愉快犯的行動を取るけど、僕が本気で困っていたら、基本僕の期待通り動いてくれる。姉さん大好き。


 というわけで。静海が完成(仮)したからか、最近はよく朝鍛錬を一緒してくれる姉さんに頼む。


「うむ、了解した」

「一応言っておくけど、サチさんが落ち込まないような表現でね?」

「ふむ……うむ、そうだな」


 ……僅かだけど発生した間が気になる。


「いやなに、サチが優輝との仲を積極的に縮めようとしだしたのに、心当たりがあってな」


 行間を読んで、姉さんがそんな事を言う。


「何かあったの?」

「うむ。サチのプライベートな事を偶然にも知ってしまってな。話そうと思ったが、サチの許可なく話すのはよろしくない……と、優輝なら思うだろうから、とどめた」

「そっか、プライベートな内容なら仕方ないね」


 ……姉さんが「偶然」なんて単語使う時点で、知った経緯が怪しさ満点だけど。

 でもまあ、友達のプライベートを勝手に話さないっていう「僕の好む考え方」をしてくれたので、あえて突っ込まない。


 なんにしても。その気遣いをしてくれたのなら、全部姉さんに任せて問題ないだろう。





       ――――――――――





「――それでまあ、その日から、サチさんの抱き付きは控えめになったんだよ」

「ふーみゅ、どんくらい?」

「抱き付く頻度が低くなったし、必ず一声かけてから来るようになったよ」

「ふみゅ、なるなる」

「……詳しい事情はわかりませんが。もしかして、幸子さんが優輝さんへの恋心を自覚し始めた頃の話ですか?」

「うん、そうだけ……あれ、蒼月さん聞いてたの? いや、事情は知らないって事は、気付いてた?」

「恥ずかしながら、私は自分自身を含め、月影以外の恋愛感情には疎いので……いつだったかパフィンさんから、幸子さんは優輝さんに恋してると聞いたのを、たまたま覚えていたのです」

「へー、パフィンさんからね……」


 まあ、パフィンさんは口が硬くないというか、深く考えずポロっと言ってしまうとこがあったしね。

 となると、他にもサチさんの感情に気付いていた・知っていた人、いたんだろうなー……最後まで気付いてなかったの、僕だけってことはない、よね……?


 ていうか蒼月さん、月影ちゃんのなら恋愛感情までわかるのか……月影ちゃんの事好き過ぎじゃない?

 うーん……つくづく、姉さんと蒼月さんは似た者同士なんだなあ。しみじみ。


「とまあそんな事が、梅雨明け直後にあったんだけど。さっき言った通り、サチさんの抱き付き問題が解消されて、心置きなく遠足へ行く事が出来たんだよ」

「ふみゅ、遠足……遠足ねぇ。単語は聞き覚えあるんだけど……」


 エリスは遠足と聞いても、いまいちピンとこないらしい。


「学校行事の一つですね。一般の学校なら、学校主催の、集団で日帰りな小旅行、と言った所でしょうか」

「ふーん、なるなる……」


 蒼月さんがそう補足する。


「……あっでも栄陽学園だし。単なる小旅行じゃないんっしょ?」

「ご明察。栄陽学園の遠足は、遠足と言う名の課外授業、そして栄陽学園の授業と言えば――」

「守護者候補の育成ね。あーなるなる! つまりはそれが、魔獣討伐体験ね!」

「正解!」


 エリスのテンションに合わせて、少しテンション高めに答える。


「ヤッターイェーイっ!! ほら蒼月ちゃんも!」

「アッハイ? い、いえーい?」


 正解の喜びに、蒼月さんを巻き込んで腕を突き上げるエリス。二人とも可愛い。


「優輝様、ご命令を」

「へ?」


 唐突に、蒼月さんの朝食を運び終え戻って来た静海が、僕の横で跪いて命令を待ち出した……えっと?


(んー……あー。大きめの声で正解せいかいって言ったから、静海せいかいと呼んだと勘違いしちゃったのかな?)


 普段の会話の時は静海しずかと呼んでいるけど、精霊剣の主人あるじとして命令する時は、強めの口調で静海せいかいと呼んでいるから、反射的に跪いてしまったのだろう。


 静海の忠義が厚い事を嬉しく思う、と同時に――


「静海……ワザとでしょ?」

「はい、冗句でございます」


――機械的に動くけれど機械ではなく、精神かんじょうを持っている事を知っているから、正解と静海なまえの違いを聞き分けられている事を知っている。


 それはそれとして。


「……姉さんの仕込み、だよねえ」

「その通りでございます。場を和ませる、または和みの維持のため、流れに乗る場面かと思いましたが……失敗、でしょうか?」


 珍しく、静海が悩んでいるような気配を僅かに表した。それに対して――


「あっはは! 静海ちゃん、ちょいスベったけど気にすんなっ!」


――エリスが、静海の小さな失敗を正直に伝えつつも笑顔で吹き飛ばす。エリス好き。


「コミュニケーションとは難しいものです。一番近くにいたはずなのに、月影の感情に絶対の自信を持っていた私でも、行動を読めなかった事がある程です。何事も日々精進、ですわ」


 エリスに続き、蒼月さんもフォローしてくれる。ほんと、僕の友達はみんな優しい、自慢の親友達だ。


「……。お二人のお気遣いに、心からの感謝を。有難うございます」


 立ち上がり、リビングに行って、カーテシーと共に感謝を述べる静海。律儀可愛い。


「いえいえこちらこそ。静海さん、いつも美味しい卵料理を作って下さり、こちらこそありがとうこざいます、ですわ」

「んふふっあたしも! ありがとうだよ〜!」


 蒼月さんとエリスも、真似してカーテシーで返す。エリスは今スカートじゃないから、なんちゃってだけど。


「みんな、大好きだよ」


 湧き上がった感情のまま言葉が出ていた。言ってから、気恥ずかしさに少し頬が熱くなる。


『えっ?』


 唐突な僕の「大好き」に、二人はすぐには認識出来なかったようだ。


「……有難き幸せ」


静海は認識していたようだけど。


「さっさて! エリスの分のが焼けたよっ遠足の話は食べながらしようっうん!」


 気恥ずかしさにまくし立てるようにそう言い、手早くお皿に盛り付けて粉糖を振り、完成。


「ゆっ優輝さんもっかい! いやエンドレスでっいや録音するからちょい待っ――」

「今リビングを出たらこの朝食はすべて静海の――」

「わーいフレンチトースト! あたし優輝さんのフレンチトースト大好き!」

「ふふっ、エリスさんがいるとさらに華やかですね」


 こうして、エリスのいる日は朝から騒がしくなるのだった。

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