5話 ずっと友達
「海老江さん、そろそろ良いかしら?」
話の切れ目を見計らって、塩谷さんが割り込む。
「えっなになに?」
「いえね……さっきから、鯨井さんが輪の外でオロオロしてるのよ」
「あ〜ごめんヒロっ放置しちゃって! ……ていうか何処に?」
「だからこの輪の外よ。男子が苦手らしくて近寄れなかったらしいわ」
あー、確かに苦手そうな雰囲気してたなぁ。これだけ男子が集まってたら仕方ないね。
というか男子に限らずだけど、僕らの周りに人集まりすぎじゃないかな。んー……
「みんな、今日が初日なわけだし、別の日でも話す機会はあるしさ。今はこのくらいにして、僕たち以外とも交流しよう?」
と提案してみた。
「ええ、正論ね」
塩谷さんの同意の一言に倣うように、
「まあ、そうだな」「急いては事を仕損じるか」「良い百合根だった」「水城さんズ、またね」
思い思いの台詞を残して解散した。
僕らの周りに男子が少なくなったので、鯨井さんが近寄って来た。
「ぅぅ〜アキちゃ〜ん……男の子に声かけられて怖かったよぉ〜」
「お〜よしよし。ごめんね〜、いつもの癖がついでちゃった」
「うん、わかってるけど……」
「癖って?」
「思い立ったらすぐ行動! しない後悔よりする後悔! てねっ!」
「なるほど。でも悪い癖ではないよね」
「確かにそうだな〜」
「うむ、前のめりなくらいの方が面白い」
「あ、水城さん、と……えっとえっと……ぅぅ〜」
僕達に話しかけようとしたけど、会話に加わって来る間崎君を見て一瞬固まり、モジモジし始める鯨井さん。
「えっとね、間崎君。ヒロは男子がちょっと苦手でさ。少しだけ気を使ってくれると嬉しいかな〜って」
「そうなのか、それは難儀だな。でもな〜、俺もっと優輝さん達の話聞きたいんだけど」
「い、いいよアキちゃん、ここ間崎君の席だし……私が離れれば……」
「え、別に鯨井さんが離れることはないんじゃないか? 俺のことは気にせず水城さんズと話せばいいじゃないか」
ああ、男子の誰かが言ってたけど、確かに間崎君天然入ってるね。悪い人じゃないけど……うん、そうだ。悪い人じゃない訳だし。
「鯨井さん、男子が苦手な理由は聞かないけど。話してみた感じ、間崎君は純粋な心を持った良い人だと思うよ?」
「そ、そうなんですか」
「うん。それでね、余計なお節介かもでゴメンだけど。男子に対する耐性付けると思って、間崎君はいた方がいいかなって思う。海老江さ……アキを間に挟むとか、すぐ隣でなければ……どうかな?」
「う、うぅ〜……」
悩ましげな声を出す鯨井さん……数秒後。
「……うん。アキちゃんにも似たような事言われてるし……よ、よろしくお願いします、その……間崎君」
「おう、よろしく鯨井さん」
……よし。とりあえずまとまったかな?
「…………(ぷるぷる)」
「どうした海老江 茜葵?なにやら面白い顔をしているが」
「なんでフルネーム……瑞希もアキって呼んでいいんだよ?」
「ん? ふむ、まあそうだな。それでどうしたアキ、変顔がマイブームなのか?」
「ひどっ⁉︎ そんな変な顔してないもん! じゃなくてっ! 優輝!」
「うん? どうしたのアキ」「ユウジョウ!」ガバッ「ほんとどうしたのアキ⁉︎」
呼ばれたと思ったらアキが抱きついて来た。
「まだ顔合わせたばっかりのヒロに親身になってくれて私の優輝に対する友情度がイキナリMAXになったんだよぅありがとー!」
「えっあっうん、それはどうも……こちらこそ、ありがとう?」
よくわかんないけど、なんかさらに気に入られたらしい。
「こいつチョロいな優輝」
「姉さんもうちょっと言葉選んで、ね?」
「ふむ、まあ善処はする」
「えっとえっと……改めまして。鯨井 大、です。アキちゃんとは、ずっと前からのお友達です。それでその……水城さん! あたしともお友達になってくらひゃいっ! ……ぅぅ〜」
肝心なところで噛んだ。可愛い。
「もうヒロってば、そんなに緊張しないの」
「だ、だって〜」
「ふふっ。じゃあこっちも改めまして。僕は水城 優輝、よろしくね。で、こっちが双子の姉の」
「水城 瑞希だ。ふふ、まあよろしく」
「……ふわあ」
なんかほうけた顔をされてしまった。えーと……これはどういう感情の表情だろう?
「アキちゃんアキちゃん! 美少女姉妹の笑顔って、とっても絵になるねっ!」
なんか恥ずかしい台詞言われた!
「ほう、なかなか良い眼を持っているな……ふむ、面白いかもしれん」
姉さんは姉さんでよくわかんない事言い出した。まあたまにあるけど。
「確かにすごい魅力的だよね〜わかる、ってそうじゃなくて! OK出たんだからヒロも返事しないと!」
「ふえ?」
どうやら上手く伝わってなかったらしい。
「うん、今日から友達。よろしくね、鯨井さん」
「え……ほ、ほんとに、私なんかと友達になってくれるの? ダメ元だったんだけど……」
「アキとはもう友達になってるし、やっぱり鯨井さんとも友達がいいな」
「優輝がこう言っているんだ。お前も友人だ」
「……わあ……!」
僕らの返事を聞いて、鯨井さんの表情がパァっと花咲く。
「うんっうんっお友達! 水城さんたちみたいな素敵な人と友達になれるなんて、本校に入れてよかったよぉ〜……」
「そうだね! 私もだよ〜!」
「良かったな、鯨井さん、海老江さん!」
歓喜の声を上げて抱きつき合う2人と相槌をうつ間崎君……うん、友情って美しい。
「ふむ……こういうのもたまには良いな」
「ふふっ……ありがとね、姉さん」
「何に関しての感謝かわからないが。まあ、優輝の笑顔のためならなんでもするさ」
「ふふふっ」
「ところで優輝、呼び方!」
「うん? あれ、また間違えてた?」
「あたしじゃなくてヒロの方! ヒロも呼び捨てにして欲しいなって」
「ああ……えーと」
アキの気持ちはわかるけど、こればかりは鯨井さんの気持ちの問題だ。友達になれたのにいきなり不快な思いはさせたくないし。
「そういえば、あたしがヒロを呼び捨てにしだしたの、ヒロの提案なんだよね」
「そうなんだ?」
「な、なんとなく、だけど。アキちゃんはその方が好きそうかなって。でも水城さん……優輝さんは、誰にでも敬意を持って話す感じだし、その……無理に言わせたくない、かも」
ああ……さっき姉さんが呟いてたの、なんとなくわかった。鯨井さん、弱気オーラ出してるけど、本質を見抜く観察眼があるようだ。
とはいえ今回は……
「アキは呼び捨てで鯨井さんだけそうじゃないって、なんだか仲間はずれにしてるみたいで僕はイヤかな。鯨井さんが不快に思わないんだったら、僕はヒロって呼びたいな」
「ぜんぜん不快なんかじゃないです! ただその……優輝さんみたいな素敵な人に呼び捨てにされると、その……顔赤くなっちゃいそうで……」
「な、なんかそういう風に言われると、こっちも赤面しちゃいそうだね……まあとにかく。ヒロ、僕の意見はさっき言った通りだから、そこは慣れてもらうしかないかな」
「は、はいっそれでお願いしみゃす! ……ぅぅ〜」
ふむ。ヒロはどうも、テンパると最後ちょっと噛んじゃうらしい。可愛い。
「ヒロ〜、あたしに赤面してないってことは、私は素敵じゃないって言いたいのかなあ〜?」
「そ、そうじゃないよ〜。アキちゃんはその、もう慣れたっていうか……」
「ふふっ、じゃあ僕らもすぐかな?」
「それはその……が、がんばる……」
小さくガッツポーズするヒロ。可愛い。
「うーん。じゃあ俺も、間崎じゃなくて雅って呼んでくれ。名前を呼び慣れれば男にも少しは慣れるんじゃないか?」
「あ、う、それは……じ、じゃあ、雅君で……」
「私は世紀の美少女大天才瑞」「じゃあ僕も、間崎君は雅って呼ぶね」
「イケズ。でも好き」
スルーする。
「あたしは……ん〜、なんか雅って名前の響き、男だか女だかわかんないよね」
「おう、たまに言われる」
「それ言ったら僕の優輝もそうだけどね」
「優輝はどう見ても超可愛い女の子だから気にならない!」
「う、うん。私もそう思う」
「確かに、優輝は可愛いよな」
「うむうむ、みんなよくわかっているじゃあないか。さすがは友だ」
「……そですか」
うん、まあ……予想はしてたけど。なったばかりとはいえ、友達に面と向かって言われるとちょっと悲しい……はぁ。
「ん〜ん〜……よし、決めた。君のあだ名は今日からマミヤだ!」
「何故あだ名⁉︎」
「なんとなく!」
「うむ、よろしくだマミヤ」
「え、それで決定なのか? なんか腑に落ちないぞ」
「あはは……まあ僕は、さっき言った通り雅って呼ぶけどね」
「あ、えっと、私は……どっちがいいのかな」
「……好きに呼んでくれ」
「んっと……じゃあ、さっき言った通り、雅君で」
なぜか僕の方を見ながら決めたヒロ。まねっこかな?
――――――――――
「僕らの友達としての始まりは、こんな感じだったかな……あらためて振り返る機会もなかったけど。なんだか懐かしいなあ」
「そうだな……会いたいか?」
「ん、そうだね。久しぶりに里帰りしようか」
登場人物紹介
鯨井 大
容姿:青黒髪セミロング 左もみあげ三つ編み 可愛い
身長:152cm
性格:弱
好物:食べ物 茜葵の料理
嫌い:食べられないもの
趣味:美味しい食材探し
属性:地
弱気系女子。一人称はあたし、私。自分にあまり自信がなく、引っ込み思案気味。
自信は低いが潜在能力はかなり高く、運動神経抜群の海老江 茜葵についていける程度に動ける。ただ本人は、激しい運動をすると胸が痛くなる(物理的に)ので苦手意識がある。
男子に胸のことでイジられた事があり、男子が苦手。 相手の本質を見抜く目を持っており、ある程度話せればその個人相手には多少平気になるが、身体目当てで近付く男子には敏感で、男子全体を恐怖の対象として無意識に見る癖が出来てしまっており、ついおどおど態度で接してしまう。
食に感心があり、食べることが大好き。食べた栄養は主に胸に行っている模様。
美味しそうな食材を見つけてアキに料理して貰うのが趣味。自分でも料理は作れるが、出来れば食べる係でいたいらしい。
間崎 雅
容姿:黒髪ショート 顔は中の中くらい
身長:170cm
性格:純
好物:肉
嫌い:茸
趣味:読書(守護者関連の本、漫画本)
属性:風
守護者に憧れる純真な、若干天然入ってる系男子。
特別な血筋もよき師との出会いもない、平凡な出自。少しだけ平均より高めの潜在能力を、英雄への憧れと努力で本校合格レベルまで鍛え上げた強い精神を持つ。
珠洲野守 咲をはじめ、守護者への憧れが人一倍強く、いつか咲の住む鷺宮村へ移住したいと思っている。そのため、鷺宮村在住の水城ズとはとにかく仲良くなりたいと思っている。