54話 とある好色男子の話
今回の話は優輝の回想ではないので、いつもと少し違う表現をしています。
「ん〜む、優輝は今も昔もモテモテだねぇ」
「んー……回想で僕自身が言ってたけど、ああいうのって、親友同士のスキンシップとしては普通な方なんじゃ……ないの……?」
改めて考えてみると、なんか不安になって来た。でも、アキは毎日のように――
「アキのヤツが毎日のように頻繁に仕掛けてくるから、感覚が麻痺していたようだな」
――姉さんに考えを読まれていた。
「えー……で、でも――」
漫画やラノベでも、女子の親友同士では割とポピュラーなシーンだと――
「あれだよね、優輝は漫画やラノベの恋愛知識くらいしかないだろし、勘違いしてるかもねぇ」
「うむ」
「え、えー……」
――エリスにも考えを読まれていた。僕、そんなに分かりやすいかなぁ……
「ふふふ〜ん。あたしは優輝の事大好きだから、よく見てるから気付くんだよ♪」
「最愛の片割れだからな」
「もー、さっきから僕の思考読んで先回りで答えるのやめてよー」
「あっは!」
「ふふっ」
思わず棒読みで返答する。まったくもう……
「だがまあ、アキやパフィンは、親友へのスキンシップとしてやっていたからな。恋愛的な意味でのモテるとは違うのだが……ふむ」
「うんまあ、それはわかってるけど。とりあえずその話題はもうやめて、なんか昔の自分の無防備さに少し気恥ずかしくなって来たから……」
「ふーむ……」
僕の返答を聞いているのかいないのか、何やら考え込み出す姉さん……少し嫌な予感がする、妙な話を切り出される前に、別の話題で機先を制そう。
「えっと、この後しばらくは特に印象に残ってる日はないから、次は梅雨明け後の遠足の話かなー」
日記を掲げながら話題を切り出す
「ならば私から、その期間の優輝の日記にはない、少しだけ面白い話をしてやろう」
けど、姉さんは話を切り出してしまった……嫌な予感はするけど、
「へえ……どんな話?」
僕の日記にないって言い方が気になったので、聞くことにした。
「おっ、瑞希から話題振りなんて珍しいじゃん。楽しみ〜」
「まあ正確には、私が見聞きした情報を基に構築した話であって、真実全てではないのだが」
「でも姉さんが話題を切り出すって事は、信憑性は高いんでしょ?」
「そうだな、97%といったところか」
「それほぼノンフィクションじゃん」
「まあ、姉さんは裏の取れてない噂話とかしないからね。それで?」
「うむ。サチと、巨乳大好き好色野郎の話だ」
「なんか二つ名酷くない!?」
エリスが思わずツッコむ……それが誰を指すのかはわかるけど。
「せめて名前で呼んであげなよ、クラスメイトなんだし」
「ふむ、まあ優輝がそう言うなら…………サチと、誰でも彼でも大好き野郎の話だ」
「なんかさらにヒドくなってない!?」
今日のエリスのツッコミは激しいね、面白可愛い。
まあそれはそれとして。さっきの妙な間からして、
「姉さん、彼の名前忘れてるでしょ?」
「む、別にそんな事はないぞ……………………イトウマコトだったかな」
惜しい。
「佐藤 真ね。それとさっきのカタカナを漢字変換しちゃダメだよ絶対に」
「なんか優輝若干メタくない!?」
エリスのツッコミはスルーする。
「ふむ? 元ネタがよくわからんが、わかった」
絶対解ってて言ってるな姉さん……これ以上ツッコんではいけない気がする。話の続きを促そう、うん。
「サチさんと佐藤くんの話って事ね」
「うむ、そうだ。ちょうど、先程の連休明けくらいの時期からの話なのだがーー」
――――――――――
「なあ……塩谷って、あんなに可愛かったっけか?」
「お前……いくら幼馴染とはいえ委員長に失礼じゃね? どう見ても美少女だろ」
《瑞》ちなみに委員長とは、クラスでのサチの通称、つまりあだ名だな。まあ説明せずとも分かるだろうが。
《エ》うんわかる。
「いや、俺だって、わりと美人系だなとは思ってたけど。でも俺としては、口煩い幼馴染の腐れ縁って印象が強かったんだよなー」
「ほほぅ……あれだな、近過ぎると気付かないってヤツだな……勿体ねぇな」
「あん? どういう意味だよ?」
「うーん……塩谷さんに失礼だとは思うが、あえて聞こう。塩谷さん普乳くらいだから、お前の守備範囲外って事か?」
「すげぇ偏見されてるな、俺……別に俺は、巨乳じゃなくても可愛い娘はみんな好きだぞ? ていうか優輝さんとヤリたい」
「……もうちょい歯に絹着せろや脳内◯◯◯野郎が、優輝さんを汚す発言は許さんぶち殺すぞ……」
「怖っ!」
「お前ごときが優輝をヤレると思うな」
「おぅ、まさにそれ……「誰だ今の!?」」
《瑞》ボソッと二人の耳元で呟いて去って行った奴だが、私はその時優輝のすぐ側にいたので、当然私ではないぞ。私の影だ。
《エ》瑞希ったら最上級精霊剣にナニさせてんの!?
《瑞》静海に制服を着せ、気配を消させて情報収集をさせていた。そのついでに、優輝に対する不埒な言動をしたものに気付いた場合、手短に私の言葉として忠告するよう指示している。先程のは、その一例だな。
《優》ああ、時々、制服着た静海を教室とか廊下とかでたまに見かけたけど。そんなことさせてたのね……
《エ》あっは! 精霊剣の無駄遣いだねぇ! まぁ瑞希らしくて面白いから良いけど!
「な、なんだったんだ今の、どっちも怖っ……ていうか、お前そんなに優輝さんの事好きだったのか」
「あ、お前のと一緒にするなよ? 俺らの想いはあくまでピュアだからな」
「男がピュアとか使うなよ、きめぇ」
「脳内ピンク野郎に言われたかねぇよ」
「というか「ら」ってなんだよ。まさか優輝さん、アイドルみたいにファンクラブでも出来てんのか?」
「そうだよ」
「……マジで?」
「そりゃ当然……あー、あの時お前気絶してたから見てないんだったな」
「え、気絶って?」
「最初の戦闘訓練の授業で、組みになった相手と組手試合しただろ? お前鯨井さんに一撃で伸されて授業終わる頃起きたから、優輝さんと瑞希さんの試合見てないもんな」
「あー、そういやそんなこともあったなぁ」
「水城ズのエキシビションマッチ、凄かったぜ? あれはもう1年生の実力絶対超えてる」
「……なんで水城ズは、クラスDなんだろうな? 瑞希さんはともかく、優輝さんは性格かなり良いのに」
「だからお前は脳内ピンクと言われるのだ」
「うっせ。お前には分かるのかよ?」
「当然! 瑞希さんは性格的にDに行かされるだろうから、優輝さんが瑞希さんに合わせてDに来たんだ。瑞希さんが大好きで、離れたくなかったから!」
「本人に聞いたのか?」
「聞いてはいないけど、二人の仲の良さを見れば一目瞭然だろ……あぁ、尊い……」
「どう尊いのかはわかんねぇけど。言われてみればまぁ、確かにかなりの仲良い姉妹だよな。なら、それが理由なのかねぇ」
《エ》優輝さんや、サトウ君達はそう判断してるけど、合ってる?
《瑞》大体合っている。
《優》姉さんが言わないでよ……まあ、半分は合ってるけど。
《エ》もう半分は?
《優》んー。姉さんの抑止のため、かな。同じクラスにいれば、姉さんがオカシナ言動しそうになっても、一声かけるだけで即効で止められるからね。
《エ》あー、なるなる。
「というか、その試合とファンクラブが出来た理由と、なんの関係があるんだ?」
「水城姉妹の圧倒的強さと美しさと可憐さ、そして尊さを実際に見て鑑みれば、二人のファンクラブが出来るのは至極当然なのだ」
「……お前よく意味わかってないで無理矢理難しい表現入れるから、イマイチ伝わってこねぇんだよなぁ」
「美少女双子ってだけでも希少なのに、さらに二人とも文字通り超強いんだから、ファンが出来てもおかしくはない……で伝わるか?」
「うん、その表現ならまだ分かる」
《優》……あのさ。僕らにファン的な人がいるっぽいのは気付いてたけど。クラブは初耳なんだけど。
《瑞》優輝を煩わせないよう、気付かれないように最新の注意を払わせていたからな。
《優》ああ、なるほど……創設者と会長は、姉さんだね?
《瑞》水城ツインズ派はな。
《優》……え?
「というか、その試合観れたの、ウチのクラスだけだろ? ファンクラブって言える程の男の人数は、まださすがにいないんじゃないか?」
「それなんだがな。どうもあの試合、瑞希さんがどうやってか知らんけど、動画として記録していたんだ。それを複製させてもらって他のクラスの奴に見せた奴がいて、その後は大爆発で、あっという間にファンが増えたんだよ。んで、いつの間にかファンクラブが出来ていたんだ。すげぇよ、水城ズ人気は。どうだ、お前も入らないか? あ、ちなみに女子のファンも結構いるぜ?」
「む、それはちょっと惹かれる……うーん、でも俺は、アイドル的な意味で水城ズを見れないしなぁ。純粋な男と女の関係が良いし、やめとくわ。というかそのファンクラブって、水城ズは2人組ユニット扱いなのな」
「いや、優輝さん単体派と瑞希さん単体派もある。俺が所属しているのはツインズ派だが、優輝さん単体派が一番勢いがあるな」
「ふーん」
《優》ふーん……(遠い目)
《エ》ああっ予想外の事実に優輝の意識が宇宙の外側にっ!
《優》いやいや、一応ここにいます……
《エ》あー、まぁなんていうか。人生色々だよね、うん。
《優》そだね……エリスが言うと殊更重みがあるね。
《エ》ところで瑞希。このファンクラブ云々の話、さっちゃんとなんの関係があんの?
《瑞》ファンクラブのツインズ派の発足者兼長は確かに私だが、あくまで私は裏の長だ。私のファンクラブの長が私自身では流石に外聞が悪いからな。ぶっちゃけて言うなら痛い。
《エ》うわー、自分で興しといてコイツ……ほんと、どんだけナルシストなのよ瑞希は。
《瑞》はは、もっと褒めても良いぞ。
《エ》このナルシスト凄いよ、さすがそれが理由で超越者になっただけはあるわー。
《瑞》うむ、ありがとう! ……まあそれはともかくだ。そんな訳で、表の長の名は私ではなく、サチという事にしておいたのだよ。
《エ》さっちゃあああああん!?
《優》姉さん今度サチさんに会った時に謝りなさい。
《瑞》うむ、了解した。
《優》……ていうか、だいぶ話が脱線してる気がするんだけど。姉さんがしようとしてた「少し面白い話」じゃないでしょ、ファンクラブ関係の話って。
《瑞》そうだな、そろそろ流れを戻すか。
「あーちなみに、委員長の幼馴染だって言うお前にだけ話すが。水城ツインズファンクラブの会長、塩谷 幸子って名前らしいぞ?」
「マジで?」
《エ》さっちゃあああああん!? 幼馴染に誤解されてるよおおおおお!!
《瑞》大丈夫だ、問題ない。
「いやでも、あいつ本人ってことはないな。あいつは確かに「可愛い」にこだわりあるけど、アイドルのファンクラブで活動するタイプじゃないし。水城ズと仲良いし意外性があるから、名前だけ使われただけじゃねぇかな。あれだ、ハンドルネームってやつだよ」
「ほう。幼馴染のお前がそう言うって事は、そうなのかもな」
「……そういや、水城ズっていうか。あの友達グループに入ってからだな」
「ん、何がだ?」
「何がってその、なんだ……さっき言ったやつだよ」
「ファンクラブか?」
「ちげぇよっ塩谷ってあんなに可愛かったっけって話だよっ!」
「うーん。つまり、水城さん達と仲良くなる前は、そこまで可愛いとは感じなかったと?」
「あー、まぁ、大体そんな感じ、かな」
「ふーん、なるほど……果たして、間に合ったのか時すでに遅しか。どっちかねぇ」
「なんの話しだ?」
「さぁてね」
「……なんなんだよ」
――――――――――
「――とまあ、静海の情報によるとそんな会話があったようだ。少し面白い話になる予感がしたので、しばらく脳内ピンク野郎と相方、サチの動向を観察させ、情報を統合しまとめたのが、話の続きになる」
「……なんとなく、どういう内容の話なのか気付いたけど。その話、僕らが聞いちゃって良いのかな?」
「ふむ。まあ実は、サチには許可を得ていたりする。優輝になら話しても構わないとな。ファンクラブ云々の話は言っていないが」
「……さっきも言ったけど」
「ああ、わかっている。過ぎた話だから気にしない、と笑って言うと思うがな」
「ふふっ、苦笑いだろうけどね」
「……なーんか二人共訳知り顔で話してるねー。私、続き気になりますー!」
「うむ、話を続けようか……ふむ。せっかくだから、簡単に題名でも付けるか。話の題は――」




